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鬼闘神楽  作者: 武神
第1章 その名は鬼闘師
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弐ノ舞 南条一哉

今回は主人公 一哉の説明回です

 南条一哉――――

 日本の闇に潜む様々な怪異と人知れず戦う技能集団「鬼闘師(きとうし)」の名門・南条家の長男である。年齢は21。名門国立大学の東都大学理学部の3年生でもある。

 家族構成は父と妹が一人。その他の家族は全て「鬼闘師」としての戦いの中で命を落としている。父によれば、京都には比較的近い血縁がいるとの事だが、一哉は生まれてこの方、親戚なる者に会った事が無い。そんな父も京都に居を構えており、今一哉が暮らす家は一哉と5つ年下の妹――佐奈の二人だけである。


 外見は170cm程の決して高くない身長に、少し長い黒髪。切れ長の目と、普段は殆ど変わらない無表情が特徴だ。

 周囲の人間に言わせれば、一哉は基本的に冷たいが、実は思いやりのできる隠れイケメンといったところである。評価は高いとも低いとも言えないだろう。ただし男子にだけだが。

 ついでに、女性関係の話は入学以来欠片も流れた事が無い。基本的に周りに溶け込むつもりが本人に無いので、話題にも上がらないのだ。


 普段部活やアルバイトはしていない。当然、実家の財力があるからアルバイトをする必要性が特にないというのもあるが、一番大きな理由は彼の本業である「鬼闘師」の仕事になるべく支障が出ないように取り計らっているからである。

 周囲には「鬼闘師」の仕事を深夜バイトと言ってごまかしている。



 そんな彼だから、大学生としては相当人付き合いが悪い。

 同学年の人間で開催される飲み会なんかには一切顔を出さないし、果ては1年生の時の大学祭の準備は全てうまく逃げだし、何もしなかったとか何とか。


 付き合いの悪い性分という意味では理学部生の中では有名なエピソードが存在する。

 ちょうど1年前の事だが、智一が企画した合コンにおいて、とある女子学生が智一の事を「一哉と仲が良い人物」として選定して、ある事を相談をしたらしい。

 南条一哉をぜひその会に呼んでほしい、と。

 こういった色恋沙汰の大好きな智一は早速一哉を呼び出し、参加するように3時間かけてみっちり説教。「わかった、参加するからとりあえず帰らせろ」と言う一哉を逃したが最後、しばらく音信不通となり完全にすっぽかした。それでも一同は一哉を待ったのだが、最終的に一哉は合コンには一度も現れなかった。

 この後、智一は件の女学生にしばらく口もきいて貰えなかったらしい。



 さて、この南条一哉という男、平然とこのような事をやってのけ、その度に総スカンを喰らうのだが、本人はどこ吹く風といった様子である。最終的には周囲の方が諦めてしまい、今に至る。

 普通の人間であればこの様な事を繰り返していれば、あっという間に良くしてくれる人は周りからいなくなってしまうのだが、付き合いの悪さを除けば基本的には思いやりのできるいい人というのが皆の共通見解であり、現在に至るまでハブられるというような事には至っていない。

 周りも大学生となって、大人の付き合い方というものを学び始めたというのもあるのかもしれない。



 そして一哉がこんなにも人付き合いの悪い理由が、妹の佐奈の存在である。

 南条家は代々優秀な鬼闘師を輩出してきた家系であるが、周りの鬼闘師から見てもかなり特殊な家である。


 まず、父である南条聖、妹の南条佐奈、そして一哉自身のたった3人しか一族本家が残っていないにも関わらず、父である聖は息子と娘の成長のためと言って――本当かどうかは知らないが――3年前のある日に一人で引っ越し。最低限の家財道具と生活費を残して、総本家たる屋敷に息子と娘を2人残し、大阪のタワーマンションに一人で住んでいる。

 これについては、一哉自身は父に新たな恋人でもできたのではないかと考えているのだが、ここでは置いておく。

 普通であれば、一族を継ぐ者は常に自らの側に置き、一家の長たる者の教育を施すのが鬼闘師の常である。


 次に、将来的に鬼闘師として全面的に活動していく事になるにもかかわらず、しっかりと子供たちに教育を施している事である。一般的に鬼闘師の家系は高卒が多い。中には中卒まで存在する。もちろん大卒の人間もわずかながらも存在するのだが、勉学に励んでいたかというと甚だ疑問である。戦闘続きの生活となるのに、勉学などいらぬというのが業界の標準的な考え方である。

 その一方で、父・聖は決して勉学を疎かにする事を許さず、息子・娘共に名門校へと入学させた。勉学と鬼闘師としての生活を両立するように口酸っぱく言ってきたおかげか、二人共に学業では優秀な成績を修めている。


 この様な、鬼闘師としてはかなり特殊な環境に置かれた一哉は、ある理由も相まって佐奈の事をとても大切に思っている。基本的に家の中の家事の担当は一哉であるし、妹の我儘も可能な範囲で聞いている。

 父が突然家を飛び出した時、一哉は大学に、佐奈は中学に入学したばかりであった。その頃の佐奈は今と違ってかなり泣き虫であったし、自らも大学受験と鬼闘師の活動の両立が終了し、新たな環境に慣れようともがいていた時期であったので、「とにかく何でも自分でやれるようになろう」と意気込んでやりすぎてしまった結果が今である。

 ほとんど妹のお世話係の様であり、オブラートに包む事なく言うのであれば、ただのシスコンである。しかも自他共に認める、だ。


 つまり、一哉の生活の中心は佐奈と鬼闘師としての活動の2本に絞られている。一哉にとってその他の要素は入り込む隙間もない。

 そんな複雑な事情を一部でも理解しているのが、一哉の数少ない友人である鈴木智一なのである。




「でだ。今日一日眠りこけていらっしゃった南条君。一体どうしたんだ?」



 講義終了後一哉が講義室から出ようとすると、智一から声がかかる。



「まぁちょっとな…………」


「おいおい、なんだよ! 親友の俺にも隠し事か?!」



 当然ながら複雑な家庭事情についてある程度智一に教えていても、鬼闘師の事に関しては何も教えていない。

 鬼闘師と学生の二重生活はこういった場面で大変苦労する。



「とりあえず、いつものバイトだよ。大した事はない。あと、帰宅後に妹に捕まっただけだ。」



 憮然と返す一哉。一応、嘘は言っていない。



「相変わらずお前の事大好きだな、佐奈ちゃんは。俺の妹なんか帰省の度に『死ねっ!! クソアニキ!!!!』だぜ? こちとら貴重な金を使ってはるばる帰省してるってのに、腹立つったらありゃしねぇぜ。」


「それはお前の日頃の態度の問題じゃないか? きっとグレた兄貴に愛想を尽かしてるんだろ。」


「おいおい、酷いなぁ親友君。俺ほど素晴らしい人間もそうそう居ないぞ? お前の目は節穴なのか??」


「そう言っている奴に限って大体ロクでもない奴が多いんだよ。…………ったく、そういう所、気をつけろよな」



 傍から聞けば一生懸命話しかける智一を一哉が軽くあしらっているような構図であるが、本人達はこれでも楽しんでいるらしい。そんな変わった性格の男が南条一哉であるし、そんな一哉と仲良くしている鈴木智一も相当変わった人間である。

 とはいえ、流石にあしらい過ぎたと思ったのか、一哉も口調を軟化させる。



「…………。まあ、今日は迷惑をかけてすまなかった。実際問題今日は全く寝ていなくてな。正直今すぐベッドに入りたいレベルで眠い」


「で? なんでそんな完徹するぐらい佐奈ちゃんと起きてたんだ?」



 鋭い男である。あまり突かれたくない話題なので、徐々に話を逸らそうとしていた一哉のは努力が水泡へと帰し、思わずため息をつく。

 この男にごまかしは通用しないらしい。

 本当の事を全て喋るわけにはいかずとも、ある程度は教えておく必要があるだろう。でなければ、智一は必ず執拗に探りを入れてくる。親友の為だとかなんだとか理由を付けて。



「佐奈も俺と同じバイトを始めたんだよ。で、昨日はその付き添いだったわけだ。帰宅後に少し話が弾んでな。気が付いたら夜が明けてた」


「なるほどなー。でもよぉ、佐奈ちゃんまだ高校1年生だろ?そんな夜中にバイトしてていいのかよ」


「そこは家庭の事情ってことにしておいてくれ。俺一人分の収入じゃ実際、あの馬鹿でかい家を維持していくのはキツイんだよ」


「お前の親父さんもつくづくわかんねぇ人だよな。なんで大学生の息子と高校生の娘をほったらかしにして大阪で一人暮らししてるんだろな」


「知らん。あんなクソ親父の事はどうでもいい」



 ちなみにこの会話は半分嘘である。

 二人の父親の聖はしっかりと生活費を送ってきているし、自身の鬼闘師としての報酬だけで充分生活は回せる。あくまでも鬼闘師という存在を隠すために苦学生を演じているに過ぎないのだ。



「まぁ、人様の家庭環境に首を突っ込んでもしょうがないか。おい一哉、食堂にアイス食いに行こうぜ?」


 あらかた会話に満足したのだろう。

 まったくもって勝手な男だが、智一は、アイスを食べる事を一哉に提案してきた。そんな智一に、一哉も思うところが無い訳ではないが、襲い来る眠気には勝てはしない。

 少しでも目を覚ましたい一哉は、その提案に即座に賛成する事にした。

 そうして二人で食堂への道を歩き出す。


 それから他愛も無い雑談を繰り広げつつも食堂に着いた一哉達は、早速アイスを購入。

 あまりこの大学という環境に愛着を持っていない一哉ではあるが、この智一と共に過ごす時間だけは嫌いではなかった。

 勿論、そんな事を本人に言えば、即座に調子に乗り出すので決して口にすることは無いが。


 それから一哉は暫くの間、アイスを立ち食いしながら何となく智一と駄弁っていた。

 そうしてそろそろお開きにする、といった雰囲気が流れ始めた頃、突如後ろから肩を叩かれた。



「ん?」



 一哉が振り向いた先には、眼鏡をかけた小柄な女子学生の姿があった。



「南条君、ちょっと相談に乗ってもらいたい事があるんだけど少しだけ時間貰えないかな…………?」

次回は鬼闘師について書きます

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