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鬼闘神楽  作者: 武神
第2章 炎獄の亡霊
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肆ノ舞 初デートは甘く甘く

第2章4話。

まだラブコメパートは続きます。


第2章は甘々で行きます。

甘々だよな……?

「待たせちゃったかしら、一哉兄ぃ?」


「いや、大丈夫だ。俺もさっき来たところだからな。」



 4月最終週の日曜日。気持ちの良い晴れた日である。

 時刻は11時。日もだいぶ高く登り、暖かな陽気が満たす心地よい春の休日だ。

 隣町のモールにて柱を背に立っていた一哉に、咲良が小走りで近づきながら話しかけてくる。二人は隣町でデートすべく、現地集合で待ち合わせていたのだった。


 スマホで予定を確認していた一哉だったが、咲良の声に顔をあげ――――――少し驚いて目を見開く。



「――――――俺はファッションには疎い方だが…………、いつよりも綺麗だな、咲良。」


「な、何よ。当然じゃない。ほ、褒めても何も出ないわよ……?」



 全ての事の始まりは先日の【鵺】との戦い。

 戦いの後に、約束した事があった。



『わ、私は、別にあの時の事を許したわけじゃないっ! だ、だからっ! 今度私と二人っきりでデ、デッ、デ、デートしなさい! それで許してあげるんだから――――――――!』



 あの日、咲良がなぜデートなどと言い出したかはわからないが、それが咲良への償いとなるのであれば喜んで行くべきだろう。もっとも、約束を取り付けようとした本人は忘れかけていたようだったが――――――

 自分でデートしろと言っておいて、いざ日程を調整しようと連絡したら明らかに忘れていたような反応をしたのだ。行きたくないなら別に行かなくても構わないとする一哉に対し、やたらと焦った様子で引き留めてきた咲良を見る限り、楽しみにはしてくれているようだが……

 ともかく一哉は約束を果たすべく、咲良とのデートに赴いている。


 咲良の今日の服装は、淡い青のチュニックブラウスに白のフレアーのロングスカート。茶色の革ブーツを合わせ、半分トレードマークとも言えるサイドテールを今日は下ろして、緩いパーマをかけている。いつも見ている咲良に比べると、幾分か柔らかな大人の印象だ。



「いや、何というか――――――とても大人っぽくていいと思うぞ。」


「そ、そう?あ、ありがとぅ…………」



 咲良は思わぬストレートな誉め言葉に照れてしまったのか、返答は尻窄みに小さくなってしまった。少し頬を赤く染めて俯く咲良は、見た目の印象の違いも相まって、いつもの辛辣な態度を取る咲良と違ってとても新鮮である。


 ただ――――――

 こうも気合いを入れて来られると困ってしまうのが一哉だった。デートと言っても精々二人で出掛けて、買い物と食事をする程度だろうと高を括っていた一哉は正直何も考えていなかった。服装も普段通りだし、「これから取り敢えず飯でも行くか」位にしか予定を立てていない。

 スタートの時点で、このデートにかける気合いが二人の間で天と地程も差があるのだ。一哉としては、精々年下の幼馴染みで、良いとこ血の繋がらない妹位にしか思っていなかった少女が、その殻を破り、一人の女性としてこの場にやって来ている事が衝撃であった。内心は冷や汗で一杯だ。

 そもそも、ある特殊な一件を除いて一哉はデートをした事がない。こういう場合の対処マニュアルが頭に無いのだ。

 唯一の救いは、咲良自身もいっぱいいっぱいらしく、一哉の動揺を悟られていない事だろうか。


 だから――――――



「咲良、と、取り敢えず行こうか……」


「う、うん……」



 そう言って、気まずい雰囲気になる前に状況をとにかく動かす事しか一哉には思い付かなかったのである。 



● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇



「何か食いたいもの、あるか……?」


「何よ。自分でここに誘ったくせに何も考えてないの?」


「――――――」



 開幕早々、苦情が入る南条デートプランナー。完全な図星である。

 しかし、一哉もここで「はい、何も考えていません」とは言えない。

 一哉は虚勢を張るしかなかった。



 「――――――。もちろんそんなことはない。」


 「なんでそんな棒読みなのよっ!」


 「だいじょうぶだ、ちゃんとかんがえてある」



 全く誤魔化しきれていない。

 どこの誰が聞いてもわかり易いほどの棒読みだった。

 そんな一哉を見て、咲良は深い溜息を吐く。



「もう……。私が一人で盛り上がってて恥ずかしいだけじゃない……。そりゃ、一哉お兄ちゃんにしてみればただ私に言われたから約束してくれただけかもしれないけど……、私今日のデート凄く楽しみにしてたのに――――――」



 咲良は独り言のつもりで呟いていたようなのだが、その内容はバッチリと一哉に聞こえていた。

 やはり一哉と咲良とでは今日にかける意気込みが全然違ったらしい。この少女は、一哉の事を許すためと名目をつけてはいたが、それは別として、今日はしっかりと楽しもうと考えて色々と準備していたのだろう。そうなると、この温度差は相手に対して残酷である。

 その事を認識してしまうと、途端に咲良に対して罪悪感が芽生えてくる。



「咲良、すまない。本当の事を言えば何も考えてない。」


「今更改めて言わなくてもわかってるわよっ……!まったくもう…………。」



 そう返してくる咲良にはいつもの覇気が見られないうえに、涙目だ。



「本当にすまない。昼はお前の行きたい場所に行く。それで、晩御飯にはちょっと良い店に行こう。ちょうど大学の友人から教えてもらった店が近くにあってな。」



 もちろんその友人というのは智一だ。

 智一の色恋沙汰談義は殆ど聞いていない一哉であるが、いつだったか彼が講釈垂れていた店がこの近くにあった事を思い出したのだ。

 普段面倒くさいと思っている話題ではあるが、たまには耳を傾けるのも悪くは無いかもしれないとこの時ばかりは思う。



「だから、今のところは勘弁してくれると助かる……。」



 その言葉は一哉にとって、せめてもの謝罪だった。

 せめてこのデートに水を差したその謝罪として。

 咲良は少し間を開けて答える。



「まったく、仕方ないわね一哉兄ぃは。お昼は私のお気に入りの店があるからそこに行きましょう?」



 お気に入りがあるなら、最初からそこに行けばいいのではないかと疑問に思ったが、それを口に出すと確実に顰蹙を買う事は流石の一哉にもわかったので、内心に留めておくことにした。



 その後、一哉は咲良と一緒に咲良のお気に入りだというオムライス専門店に入り昼食を取り、しばらくモール内を歩いてウィンドウショッピングをした。


 意外だったのは、咲良は意外とファッションには興味が無いという事。本人は女子なんだから当然ファッションにも気を遣っていると言ってはいるが、アパレルショップでもさして興味無さそうにうっすら見るだけで、次の店に行くのだった。


 途中ではアクセサリーショップにも寄った。

 咲良は案外服よりも装飾品の方が興味があるのかもしれない。

 一哉はいつだったか、咲良が法具に用いる洋扇子にこだわりがあって、お気に入りのデザインの物を特注すると言っていたのをふと思い出した。聞いた時は仕事に使う物だからしっかりと選んでいるんだな位にしか思っていなかったが、今思えば、持つ物・身に着ける物をこだわる質なのだろう。


 変わったところをあげるとすれば、一哉自身が希望した刃物専門店。

 丁度家で使用している包丁に追加のラインナップが欲しくなったと、寄ってみたのだが、訪れた専門店はモールの中にあるとは思えない高級刃物専門店だった。何でも、江戸時代の刀匠が趣味で作っていた包丁をルーツとする包丁工房で、このモールに出張店舗として出店していたらしい。

 一哉はここの店主と意気投合。普段から自身の得物である三振りの日本刀を手入れしている事もあり、熱く刃物談義を交わした挙句、最後には店主に気に入られ中々の業物を大特価で販売してもらった。

 咲良を完全にほっぽり出して話し込んでしまったため、その後咲良の機嫌が大層悪くなったのは言うまでも無い。


 そうこうしているうちに時間は過ぎていく。

 時刻は既に15時前。集合から4時間経ち、一つのモールで遊び尽くした感すらあるが、まだ晩御飯には早い時間帯だ。折角なので、モール内に併設されている映画館で時間を潰すことにした。

 なお、鑑賞するのは今CM等でも話題の恋愛映画「1%未満の夏」だ。

 人気俳優の城戸琢磨と、人気アイドルの神崎朱里がメインキャストを務めるという事でも話題になっている。

 一哉自身は恋愛映画には微塵も興味が無いのだが、咲良のたっての希望という事で見る事に決めた。

 映画館の定番とも言えるポップコーンとソフトドリンクを二人分購入し、劇場に入場する。

 モール内の劇場という事もあり、それほど大きくはない。今話題という事もあり、劇場内は人で溢れかえっていた。



「そういえば、貴方とこうやって映画見るのは初めてね?」


「まあ、そうだな。俺自身映画はあまり見ない方だし、お前がうちによく来てた頃はどこかに出かけても、親父の趣味に付き合わされてただけだしな。」


「ふふふ、そうだったわね。聖さん結構強引だから、みんなから反対されても強硬に滝行に連れて行こうとしてたものね。」



 この4時間程、咲良は一部時間を除けば終始機嫌が良い。

 今も、自然に昔話に華が咲く。

 こんな感じで穏やかに咲良と過ごすのは実に5年ぶりであろうか。

 そんな風に考えていると、劇場全体が暗くなり、ブザーが鳴る。

 映画の始まりだ。



 映画のストーリーはどちらかと言えば平凡と言えた。

 大学生の主人公・裕翔と仲の悪い幼馴染・詩織の2人が冒頭で大規模な強盗事件に巻き込まれる。詩織が持ち前の正義感を発揮するが、犯人に余計な刺激を与えてしまい殺されそうになるところを裕翔に救われた事で、詩織は裕翔に恋をする。

 二人は前述の事件もあり急速に距離を縮めていき、最初のデートの場所の満開の向日葵畑で恋人となって、最終的に男女の仲になるまでになるが、ある夏の日、詩織が突然倒れてしまう。

 搬送先の病院で判明したのは、詩織が死亡率の非常に高い難病であるという事。手術で治る可能性もあるが、確率は1%にも満たないという事、失敗すれば高い確率で死亡してしまうという事だった。



『詩織ダメだ! どんな名医が執刀したって成功率は1%以下……。そんな低い可能性にかけないでくれ!!!』


『嫌よ!! 例え可能性が1%も無かったとしても0%じゃない! それなら私はどんなに可能性が低くても、あなたと一緒に居られる未来を掴み取るっ!!』 



 劇中の台詞である。


 裕翔は詩織がほぼ確実に死んでしまうのであれば、ごく僅かな時間でも一緒に居られる道を選ぶと詩織を説得するが、詩織は手術を受けると言って憚らない。

 結局詩織は手術する事を選択するが、同時に裕翔に何も告げずにその前から姿を消してしまう。

 10年後の夏、思い出の向日葵畑で待っているという置手紙だけを残して。

 裕翔は手紙を握りしめて崩れ落ちる。


 そして10年後。

 何の便りも無く、99%の確立に負けたと確信していた裕翔だったが、何となく思い出の向日葵畑に立ち寄る。実際、手紙には10年後としか書かれておらず、日付も時間も書いていなかったため、本当に生きていたとしても会える筈は無かった。

 だが、そこで裕翔は見つける。少しやせ細ってはいるが、紛れもない詩織の姿を。

 二人は10年ぶりの再会に号泣し、最後にキスを一つ交わす。

 その日は二人が初めて付き合い始めた日から丁度10年後の事だった。



 映画もエンディングに差し掛かり、一哉はふぅと息を吐く。

 見るのに疲れる映画だった。

 実際の所、一哉はこの映画に共感できなかったのだ。


 だが、隣の席で一哉の手を握りながら滂沱の如く涙を流す咲良を見て、連れてきたのはとりあえず正解だったなと思う一哉ではあった。

咲良のお気に入りのお店を何にするか。

実は謎に悩みまくりました。

結果、作者の好きなオムライスの専門店にしました(笑)


主人公の一哉は過去のあるトラウマが原因となって、恋愛に対して非常にシビアな考え方を持っています。

その辺りは中盤の章で明らかにしていく予定です。


次回も咲良編です。

よろしくお願いします。

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