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鬼闘神楽  作者: 武神
第2章 炎獄の亡霊
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零ノ舞 プロローグ2~胎動する闇~

お待たせしました!

第2章開幕です!

 ――――それは東京某所での出来事。

 日本は光に溢れていると言われる。人工衛星画像を見れば一目瞭然だが、日本列島はまるでデコレーションでもしているかのように明るく光り輝いている。昼夜を問わず光が照らし、星空も真面に見えない国。それが日本。

 世界レベルで見れば治安もダントツで良く、平和ボケしているとすら言われる日本人。謙虚でおもてなしの精神に溢れていると言われる日本人。


 しかし、光が濃ければ濃いほど闇もまた濃い――――――――

 陳腐な言い回しとなるが、それもまた真なる事である。光ある所に闇がある。

 この目も眩むような明るさの東京でも、深い深い闇は根付いており、人々を狂気に誘う。人知れず闇は蠢き、光の中に住まうものを喰らおうと虎視眈々とその目を光らせているのだ。それが闇。

 少なくとも今、東京某所のとある廃ビルに集う二人は正気ではない類いの人間だろう。


 片方はサングラスをかけて、左頬に裂傷の傷跡の残る、身長190cm程の長躯のマッシブな男だ。黒いスーツに黒いネクタイ、黒い革靴と、その出で立ちは秘密組織の諜報員そのものといったもの。サングラスの奥に光る鋭い視線は幾つもの死線を潜り抜けてきた猛者の物である。

 男は対面に立つもう一人を睨み付けながらも、イギリスの高級煙草「トレジャラー」を燻らせる。よくよく見れば、時計もスイスの高級時計ブランド「オメガ」。とても闇の仕事を請け負う人間とは思えぬ、成金の様な身形である。


 対して、対面に立つのは身長165cm程の、腰まで届く長さの美しく輝く白髪を毛先の方で緩く纏めた若い女だ。大きな目に高い鼻と整った外見をしているが、全身を黒い外套で隠し、その黒真珠の様な漆黒の瞳で全てを見下すように男を睨む姿は、退廃的な空気さえ纏う。

 男の吸う煙草の煙にあからさまに嫌そうな顔をし、苛立たしげに、組んだ腕をトントンと叩いている。



「依頼人とはいえその態度はどうかと思うぜ、お姉さんよ。」


「あら。貴方のような墓荒しに言われたって何も感じないし、どちらにしよ私は貴方が嫌いよ。取引してやってるだけ有り難く思いなさい。」



 女は、相手の男には全く興味が無いとばかりに手を振る。闇の世界に情けも容赦も無い。有るのはただ、取引相手としての信用と金、そしていつ敵になっても良いという覚悟だけ。少なくとも、女にとって相手の男とはその程度の人間でしかない。



「ったく、相変わらず愛想のねぇお姉さんだことよ。んで、金は?」


「あるわ。丁度1000万円。確認しなさい。」



 女は足元のアタッシェケースを男に向かって投げて寄越す。

 うまい具合にキャッチした男はその場でアタッシェケースを広げ、中の札束を数え始める。



「で?頼んだものはどこにあるわけ?」


「ちょっと待てよ。金を数えて過不足無い事を確認しねぇと納品はできねぇ。」


「まったく、変なところで真面目な男ね。普通、現場で額まで数える人間なんていないわ。数えてる間にジ・エンドよ。貴方、やっぱりこの仕事、向いてないんじゃない?」


「バカ言うな。俺がこの仕事始めて5年。今じゃ前職のクソ会社の何百倍も稼ぎがある。この仕事以外に向いている仕事なんか無いね。」



 男はそう言いながら、札束を数えていく。



「……98……99……100。よし、確かに1000万だ。受け取ったぜ。」


「ふん。だから言ったでしょう。丁度あるって。」


「悪いな。金を数えるのは前職からのクセだ。あんなクソ企業さっさと滅べなんて思ってても中々クセは直らないもんだ。」



 自嘲気味に語る男。

 女はそんな男を、特に興味もないと見ることもしない。



「で、約束のブツだったな。東京駅八重洲口地下駐車場、B-28に停めてあるハイエースを探してくれ。今回は車ごと持って行ってくれて構わない。用事が済んだら、どっかのコインパーキングにでも停めておいてくれ。」


「あら、やたら気前が良いわね。で、車にGPSは?」


「有るに決まってんだろ。どうやって回収しろって言うんだよ。」


「これは機密事項よ。位置情報をログ取ってどうするのよ。まったく、これだから素人は…………。」



 溜め息をつく女。

 この女の中では、男は仕事は出来るが、どこか抜けているため、危なっかしくて仕方ないという評価である。内心、何かミスしたら即座に始末しても良いとさえ思っている。



「良いわ。適当な場所で積み替えるから。」


「そうしてくれ。それにしても毎回毎回、自殺者の死体なんか集めてどうするってんだ?金を貰ってるからしっかりやるけどよ、正直気味悪いぜ、アンタ。」


「………………。」


「ま、教えてくれる訳ねぇか。この世界じゃ余計な詮索は無用だしな。」



 男はアタッシェケースを拾い上げると、廃ビルから出ていこうとするが、突如思い出したかのように振り返る。



神流(かんな)さんよぉ、こんな血生臭い事ばっかやってて疲れねえか?たまには息抜きした方が良いぜ?どうよ、今度一緒に上野のホテルでも。こう見えても俺、そっちの方はかなり自信ある…………」



 だが、男の無粋な提案は高速で飛んできた氷の槍によって止められる。氷の槍は男の頬を掠めるとそのまま背後の壁に当たり、粉々に砕け散った。

 女はいつの間にか青黒い刀身の長刀を手にしており、氷槍はその切っ先から放たれた霊術だった。



「貴方、よっぽどその下品な一物を斬り落とされたいらしいわね?そんなに一族断絶をお望みかしら?良いわよやってあげても。命ごと奪ってあげるから。」



 女の目は赤く怪しく輝いている。

 その表情からは憤怒の感情しか読み取れない。

 先程までの、人を見下しながらも美しい宝石のようだった瞳は今何処にも見当たらない。

 おおよそ人の瞳の色に見えず、身も凍るような殺気を放ち、この世の者ではない雰囲気すら漂わせる女に、男はただただ脂汗を浮かべるしかなかった。



「おっと、こいつは逆鱗に触れちまったらしいな…………!」


「黙りなさい。」


「はいはいっと。悪いが俺も流石に命は惜しいんでね。今日のところはここら辺でおさらばさせてもらうぜ。」



 男は少々大袈裟な身ぶりで礼をすると、ニヒルな表情を作る。



「それでは、この度もお買い上げ有り難うございました。次回もどうぞご贔屓に。じゃあな、神那さんよっ!」



 男はそう言い残すと、早足で廃ビルから出ていく。



「あの男、今度会ったら殺そうかしら……。まあ、ボスの許可が降りないから無理ね。」



 女―――神流と呼ばれた女は手にした長刀を虚空へと消し去ると、自分の長い髪を外套の中にしまい、深々とフードを被るとポケットから赤黒い金属製のプレートを取り出す。



「まったく、お使いなんて大概にして欲しいわ。『砕火』が人前に出れない――――――というか私達の中じゃ、私か『霧幻』しか人前に出れないわけだけど、何で私がこんな事しなきゃいけないのかしらね。そこら辺の末端でも使えば良いでしょうに。」



 神流は余計な仕事を増やされたと不満げだ。

 辺りに誰もいないのを良いことに不満をぶちまけていると、彼女のスマホに着信が入ってきた。



「誰かしら……?――――――ボス……?仕方ないわね……。」



 神流は渋々といった様子で電話に応答する。



「はい、神流です。」


『神流よ。例の仕入れはどうなった?』



 電話の主は中年男性の声で、尊大に言い放つ。



「問題ありません。『黒帝』様のご要望通り、若い女の死体15体確かに集めました。」


『それは重畳。それでは、仕入品は「研究室」へと運び、貴様は『砕火』に代わり、南条の屋敷へと向かえ。』



 さっき愚痴っていた話題を向こうからふってきた。

 ボス――――――――『黒帝』の言葉に、神流は目に見えて嫌そうな顔をする。



「『黒帝』様。お言葉ですが、この案件、わざわざこの私が行く程のものでしょうか?」


『『砕火』を表に出せぬのは当然として、場所が問題だ。まさか、特級鬼闘師の本拠地に有象無象を向かわせるわけにもいくまい。』


「―――――――しかし、南条家は……」


『貴様の言いたい事もわかる。だが、だからこそであろう?貴様以上に南条を知る者もいまい。』


「―――――――。」



 『黒帝』の言葉に黙るしかない神流。

 噛んだ唇が切れ、血が滲む。



『励めよ、神流。』



 『黒帝』はそう言い残すと、一方的に電話を切った。

 神流は通話の切断音のみが流れるスマホを外套のポケットに戻すと、廃ビルから出ていく。



「あのクソオヤジ…………!」



 その暴言は誰の耳に聞き届けられる事もなく、闇の中へと消えていった。

第2章は日常パートも戦闘パートも大幅増量予定です。

次回からもよろしくお願いいたします。

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