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鬼闘神楽  作者: 武神
第5章 聖竜に捧ぐ鎮魂歌
125/133

拾壱ノ舞 刃と牙、重ね合わせる刻

本編が進まない……

大スランプでストックが貯まらない……

「悪く思うな、咲良、結衣」



 それは草木も眠る丑三つ時。

 一何故か強硬に同じ部屋で寝ることを主張した咲良と結衣を起こさぬ様、それこそ人の目を盗むかの様に部屋を抜け出した一哉は、そう静かに呟いた。

 振り返りもしない。

 疲れ果てて泥の様に眠る二人に視線もやる事は無く、静かに立ち去る。


 莉沙の話を聞いて最後には気を失ってしまった一哉だったが、収穫が無かったわけではない。

 陰霊剣。目の前で瑠璃を喪ったあの時、突如遣えるようになったあの力の事を、何となくではあるが理解することが出来た。

 なぜか陰霊剣の事を知っていた莉沙だが、彼女も陰霊剣の全てをわかっている訳ではなかった様だった。それでも改めて口にする事で理解が深まる事が有る様に、彼女の推論を聞き、発言することは、一哉にほとんど確信に近いモノを抱かせるには十分すぎる出来事だったのだ。


 一哉が確信に至った、陰霊剣の正体。

 その内容はあまりにも荒唐無稽と言えたのだが、それでも一哉はそれが真実だと直感的に感じている。



「陰霊剣は……魂を削る刃……」



 莉沙は陰霊剣を魂の陰の側面を魂そのものの具現と予測した。

 それは正解であり、間違いでもある。陰霊剣の使用者である一哉にはそれがわかるのだ。

 なぜなら。


 ――陰霊剣は自らの魂を削り取って初めて創り出せる。


 陰霊剣とは自らの魂の在り方をこの世に具現する――そんな生温い存在ではない。自らの魂を引き裂き、削り、研ぎ澄まして初めて扱える代物だ。悲哀や憤怒、絶望や殺意。そういった悲しみと悪意等の負の感情に埋め尽くされた魂を、より純粋な"陰の存在"へと貶め、染め上げてこそ至れる境地なのだ。

 だから、陰霊剣の素材は己の魂そのものでなくてはならない。

 だから、普通の人間では陰霊剣に至る事が出来ない。

 誰も彼も、魂を削り出す事に忌避感があるから。

 その瞬間に、戦う為の力を己の存在全て賭けて請い願うことなどしないから。


 ただの悲哀ではダメだ。ただの憎悪ではダメだ。必ず力を、敵を滅ぼすための力を願わなくてはならない。

 その心の中に、欠片でも雑念が在ってはならない。素質の有る人間が、強い霊力を持つに人間がただ純粋に敵を滅し破壊する為の力を、己の心を負の感情に染め上げたままに掴まなくてはならない。ただひたすらに魂が引き裂かれた瞬間に強く力を求める事が出来なければ、この領域には至ることができない。

 理性という箍を無くした【魔人】にしか――死人にしか扱えないと莉沙が言ったのはそのせいだろう。


 だが、そんな事は今の一哉にとって、些細なことでしかなかった。

 自分を裏切った佐奈と栞那は陰霊剣を遣える。そして自らもその力を手に入れた。その一点だけで十分なのである。

 だから何もいらない。仲間もいらない。仲間などいても足手纏いにしかならない――



「やっぱりキミはそうするわけだね。何も告げずに彼女たちの前から再び姿を消す。予想通りだ」



 だが、誰にも告げずに旧西薗邸を離れようとしていた一哉の思惑は部屋を出て僅か数歩で頓挫してしまう。



「なんのつもりですか」



 目の前に居たのは、かつて自分を仇だと言って襲いかかってきた、漆黒の外套に全身を包み、それと相反する純白の能面を闇夜に浮かばせた対策院襲撃の下手人、『アイナ』。

 その正体は言わずもがな。



「今更そんな格好で俺の前に現れて、一体何を企んでいるんですか」



 一哉はアイナ――莉紗の能面を剥ぎ取って吐き捨てるように言葉をぶつける。大方、自分の行動を咎める為にやってきたのだろう、そんな相手に敵意を叩きつけるように。

 そもそもこの女が自分を倒す為だけにあの天体観測会を企画などしなければ、こんな事にはならなかった筈だ。

 あれさえなければ、瑠璃が死ぬことは無かった。佐奈が狂ってしまう事も無かった。だから、この目の前の女だけは正体やその背景を知ったとしても、どうしても遠ざけたくなる存在だった。


 だが、当の莉紗はそんな一哉の剣幕にも全く動じる事も無い。

 仮面の下から出てきた表情はただ余裕の一言だ。まるでこうなった責任が自分には一切無いと思っているかのように一哉に差し向けられる敵意に眉の一つすら動くかす事無く、微笑すら浮かべている。

 そして莉紗の元々持っている美貌のせいで、その微笑すら嘲笑う様なモノにすら思えてくる。



「なに。重傷を負ってるくせに夜のお散歩に出かけようとしている後輩に、お灸を据えようかと思ってね」


「……」


「ボクがキミの行動を予想していないとでも思っていたのかい? まったくおめでたい男だね、キミも。ボクは元々キミを仇として追っていたんだ。キミの性格も思考パターンも、ある程度はわかっているつもりだよ」


「…………仇として追っていたという割には、アンタと戦う機会は結局あの一度しか無かったけどな」


「それを言われるとボクも耳が痛いけど……ボクがキミを一度しか襲えなかったのは、ボクのパトロンに止められていたからで……まあ、その話は今はいいじゃないか。今重要なのは、ボクの目があるうちはキミに勝手な行動はさせないって事だよ」



 そんな勝手な事を言いす莉紗に対し、一哉は苛立ちを募らせていく。

 莉紗が企画したあの会のせいで瑠璃は殺されたのに。瑠璃には殺される理由など何一つ無かったというのに。そもそも、莉紗にとっても瑠璃は大切な存在なはずなのに。

 それだというのに、なぜこの女はこれ程までに平然としていられるのか。



「わかったら部屋に戻りたまえよ、南条一哉。この屋敷に居る限り、キミに選択権は無い」



 そう言いながら一哉が寝かされていた部屋の方向を指差す莉紗の腕を反射的に掴むのは、むしろ当然とも言えて。いや、反射的に取った行動だったからこそ感情が伝わるのか。

 莉紗の表情が驚きと少しの怯えを含んだものへと変化する。



「黙れ、このクソ女。誰のせいでこんな事に……瑠璃ちゃんが死ぬような事になっていると思っているんだ……ッ!!」


「……!」



 そうして一哉から出てきた声は自分でも驚く程に冷え切った、底冷えのするような低い声だった。

 一哉は自分の魂の奥底から湧き上がる様に燃え始めた憎悪と言う名の炎を滾らせて、目の前の憎き女に言葉を叩きつける。



「俺は誰の指図も受けない。特にアンタの指図だけは絶対に受けない。俺は例えこの身が滅びようともアイツらに……姉さんと佐奈にこの落とし前を付けさせる。仲間を殺されても平然としてられるアンタとは違うんだよ!!」


「ち、違……ッ!」


「それとも、アンタ、瑠璃ちゃんや結衣に気をかけていた様子は全部演技か? 俺を油断させるための。そうまでして俺に復讐したかったのか? アンタに何があったのか俺は知らない。知ろうとも思わない。そして俺はアンタの復讐自体は否定しない。かつて対策院側についていた筈の西薗彩乃にすら恨まれている俺達だ。本家の出のアンタが俺達を仇として追っていたとしても不思議ではないからな。だが、瑠璃ちゃんを巻き込んだ事だけは許せない!!」



 一哉はもはや部屋の中に咲良と結衣が居る事も忘れて大声で莉紗を詰る。



「何でアンタの自分勝手な復讐に関係ないやつを……瑠璃ちゃんや結衣を巻き込んだ?! 対策院に襲撃してきた時みたいに、最初から真正面からぶつかってくれば良かっただろうが!!アンタが俺への復讐の為だけにあんな会を開かなければ……」



 だが、絞り出すように出した声は尻すぼみに小さくなっていく。

 一哉自身もそれがただの八つ当たりである事はわかっているのだ。だが、制御できない狂おしい程の感情が生み出す憎悪の念を叩きつける事ができなければ、今すぐにでも発狂してしまいそうなのだ。荒れ狂う感情の渦に呑みこまれて我を失ってしまいそうなのだ。



「ともかく、アンタにも俺の邪魔はさせない。咲良にも結衣にも、俺の邪魔は絶対にさせない。瑠璃ちゃんを殺し、あろうことかその罪を俺に擦り付けようとすらした奴らに裁きを与えるまでは何人たりとも俺の邪魔はさせない」



 一哉は自らの前に立つ莉紗の横をすり抜けて歩を進める。

 断ち切る未練など無い。隣に立つべき友など居る筈もない。瑠璃の仇だけ取れれば、自分の命すら――

 だから一哉は莉紗を振り返る事も無くその場から立ち去ろうとして。



「なんですか、小倉先輩。助けてくれた事は素直に感謝する。もうアンタに用は無いんだ」



 それでも俯きながら一哉の腕を掴んだ莉紗の事を心底疎ましく思った。

 莉紗が一哉を止めようとする思惑は全くわからない。そもそもあれだけ仇と追っていた筈の一哉に襲い掛からないのか――佐奈に斬られた影響でいまだ本調子でない一哉を一気に倒してしまわないのか、まるで理解ができない。

 そんな莉紗は俯いて顔が見えないままにポツリと何かを呟いた。



「――――わけない……」


「は?」


「そんなわけないだろ!!!!」



 聞き取れなかった一哉が思わず聞き返したその時。一哉に負けじと大声で叫んだ莉紗は勢いよく顔を上げて一哉の胸倉を掴んだ。

 そんな莉紗に一哉は思わずたじろぐ。

 胸倉を掴まれてだけなら振り払って突き放そうとしただろう。だが、その顔に滂沱の涙を流すその様を見て、さすがの一哉も口を噤んでしまったのだ。

 そして莉紗の叫びは更に続く。



「ボクだって目の前でモモを殺したアイツを……栞那を赦せないに決まってるだろ?! モモは……モモはボクの大切な後輩で、ボクの大切な妹分だったんだ!!!!」



 莉紗のその眼に宿るのは紛れも無い憤怒の炎。

 かつて対策院の地下通路で対峙した際に能面越しに見たあの眼と同じ目だ。憎悪にその身を委ねた復讐鬼の顔だ。



「ボクだって今すぐアイツらをぶっ殺してやりたいさ!! アイツらの顔を誰だかわからない位に殴りつぶして、この世の物とは思えない程の苦痛を与えて殺してやりたいさ!!」



 その顔を見て、一哉の方にも昏い熱が灯る。

 燃え上がった昏い炎は、憎しみを燃料として燃え盛り、やがて燃え移り、そしてより大きな炎となる――



「そう! そうさ!! 奴らには最低の死を与えてやらなければならない! だというのに、なぜアンタは動かない?! なぜ俺の邪魔をする?! 俺への復讐が目的で俺を邪魔してるんだとしたら、なぜこんな回りくどい真似をする! なぜこれまでの時間で俺を殺さなかった!! アンタは心の中に強い憎悪の感情を抱いているにも関わらず、やる事為す事が全部中途半端なんだよ!!」


「黙れ! キミにボクの何がわかる?!」


「わかる訳がないだろう!! アンタの過去も事情も俺には興味が無いんだ!」


「だったら黙ってボクに従えよ!!」


「ふざけるな! 何度言わせれば気が済む?! 俺はアンタの指図を受ける気は毛頭無い!!」



 二人の怒鳴り声は完全に制御を失って、声を潜めるという事を忘れている。

 だから、咲良と結衣が今の応酬で起きてしまったのだろう。部屋の中で動く気配がした。

 そんな気配を察したからだろうか。最初に激しい剣幕をおさめたのは莉紗の方だった。



「……本当はボクだってすぐに動きたいさ……。だけど……」



 言葉を吐き出す莉紗は悔し気に顔を歪めながら、どこか苦しそうな表情をしていて。

 そんな莉紗の態度が意外で、矛を収めた莉紗に合わせて一哉の方も声のトーンを落とした。



「なんだよ」


「……いや、何でもない……。だけど、今はボクに従ってくれないか? ボクだって奴らは憎いさ。今すぐにでも殺してやりたい。でもボクだけじゃそれは成し得ない。キミが居なければ……全力のキミが居なければ、不可能なんだ……」



 莉紗の口から飛び出してきた意外な言葉に眉を顰める一哉。



「だから頼む、南条一哉。今は少し抑えてほしい。そして傷を癒す事に専念するんだ。そしたらボクもキミに力を貸す。キミの復讐に……」



 それでも一哉の心には何も響きはしない。

 そもそも一哉にはここに残るという選択肢は存在しないのだ。ここに咲良と結衣が居る限り、存在しえないのだ。



「悪いが、その頼みは聞けない」


「なぜだ……!! キミだってその傷で栞那や佐奈と戦えばたちまち殺されてしまう事ぐらいわかっている筈だ! なのになぜ……!!」


「なぜ? そんなもの決まっている。一分一秒でも早く奴らには報いを受けさせなければ俺の気が済まない。それに…………」



 一哉は一度言葉を切って、後ろの気配へと気を向ける。

 別に目を向けている訳ではないので見ている訳ではない。だが、咲良と結衣の二人が聞き耳を立てているのは何となく察する事が出来た。

 だから二人にも聞こえる様に少しだけ声を大きくしてハッキリと言う。



「アイツらが居る場所で腰を落ち着けるつもりは無い。ハッキリ言って足手纏いなんだよ。俺達の今の状況を忘れたわけじゃない筈だ。俺達は瑠璃ちゃんを殺した殺人犯――そういう事になってる。身を隠して行動するとき、必要最低限の人数で動くのがセオリーだという事はアンタだってわかってる筈だ。アイツらは俺にとってその必要最低限の人員じゃない。必要最低限の人員は俺一人で十分なんだよ」



 二度と一哉を追ってこぬ様に。

 一哉は莉紗と相対しながらも、敢えて二人へと忠告する様にそう吐き捨てる。

 そしてその対象は、もちろん咲良と結衣だけではない。当然の目の前の莉紗もその対象で。

 だから一哉は――元々遠慮したいと思う程良い感情を持ち合わせていない事もあるが――思いつく限り傷つける言葉で莉紗を遠ざけようとした。

 だが、その言葉を吐き出そうと一哉が口を開く前に、莉紗の方が先に口を開いたのだった。



「なら仕方がない。ボクも同行させてもらうよ」



 その口から出てきたのは、先程とは言っている事が真逆の、そして到底信じがたいセリフだった。

 一哉には、莉紗が何かを企んでいる様にしか思えない。だから思わず疑いの視線を莉沙へと向けるが。



「安心したまえよ。ボクがキミをまだ殺す気でいるのなら、キミはこの数日の間に何百回と死んでるさ」



 そう言うと、一哉から能面を奪い取って再び自分の顔につけた。

 一哉としてはそんな事を心配している訳では無いのだが、莉紗は勝手に盛り上がっている。



「今のキミは目を離しているとあっという間に敵陣に突っ込んで、アッサリと死んでしまいそうだからね。ボクにとってもキミは必要な戦力なんだ。無駄死にだけはさせるわけにはいかない」


「……」


「おや、信じてないのかい? 信用無いねぇ。ボクは嘘を吐かないのを信条にしているんだよ。少なくとも栞那と佐奈を倒すまでは協力する、そう約束しよう」



 変声機が能面に仕込まれているのだろうか。

 あの聞き覚えのある機械処理音声で意気揚々とそんな事を宣う莉紗に対し、一哉はため息を吐くしかない。



「そんな事言って、俺の寝首掻くつもりですか? それとも戦闘中に後ろから刺す? 俺には小倉先輩を信用する要素が一切無いです」


「その心配は一切無いと、ここでボクは断言するよ。西薗の名に誓って絶対だ」


「はぁ……その西薗が信用できないって言ってるんですよ、小倉先輩。…………それにしても、どういう心境の変化ですか。先輩はあんなにも俺や親父の事を殺したがっていたというのに」


「全部説明するには事情が複雑過ぎるから、大幅に省かせてもらうけどね。簡単に言えばボクは騙されていたんだよ。あの黒鉄晶――【黒晶】にね」


「【黒晶】?」



 黒鉄晶が裏切者だったという事は一哉も記憶している事実だ。

 だが、【黒晶】という言葉には聞き覚えが無い。



「ボクも詳しくはわからない。ただわかってるのは、黒鉄がボクの中に存在する白き竜の力を狙ってボクに接触したって事、そしてボクに嘘の情報を流して、ボクが南条家と敵対する様に仕向けたって事だけだ」


「…………騙されていたで許されるとでも思っているんですか」


「別に許してもらおうとはハナから思っていないさ。ボクはもう、復讐に生きるしかない。家族の仇を討つか、このボクが朽ち果てる迄はずっと。だから、ボクには許しなんかいらないんだ」



 そう言い切った莉沙は驚く程吹っ切った様な顔をしていた。

 まるで憑き物が落ちたかの様なその顔は、どこか開き直ったかの様にも思える。

 そしてその顔が一哉は許せなかった。



「…………そうですか。でも、俺は『はい、そうですか』ってアンタの事を許すわけにはいかないんだよ」


「……」


「アンタが家族の仇を討つために俺達に喧嘩を仕掛けたというのなら、俺にだってその権利がある。何しろ、俺の母さんはアンタの父親に殺されたんだからな……!!」



 再び剥き出しにした敵意を莉紗にぶつける一哉だったが、莉紗はそんな反応が予想通りだったとでも言いたげに首を振った。



「それはお互い様だろ? ボクだってパパをキミの父親に殺されてるんだ。ボクは君自身に対する恨みに関しては訂正するけど、その事まで赦した覚えはないんだ」



 そう言う莉紗の能面に隠された目を見た一哉はすぐに理解する。莉紗は決して南条家への恨みを忘れている訳ではない。一哉個人を付け狙うのをやめた、ただそれだけに過ぎないのだと。



「……」


「だからこれは、極めて合理的な判断に基づく業務提携契約さ。ボクはキミの為に、キミはボクの為に力を貸す。全ては栞那と佐奈を滅ぼす為に。契約期間は両者を殺すか、どちらかが死ぬまで。実にシンプルだろ? ちょっと変なところがあるとすれば、お互いが仇の子の手を借りながら目的を達成する。それだけの事さ」



 その憎しみの宿った瞳で一哉の事を見ながら、事も無げに、聞きようによっては実に楽しそうにそんな事を言い出した莉紗に対して。



「わかった、契約成立だ。ただ、俺の邪魔だけは絶対にするな。それだけは譲らない」



 一哉が取った選択は莉紗の手を掴むことだった。

 最愛の母を奪った男の娘である小倉莉紗――いや、西薗リーサの手を。



「ふふふ。これからよろしく頼むよ、相棒?」



 能面に隠されている筈の莉紗の表情が、愉しそうに、そして嗜虐的に歪められた気がした。

莉紗と瑠璃の関係をいつか描けたらいいんですが……


最後まで読んでいただきましてありがとうございました。

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