表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼闘神楽  作者: 武神
第5章 聖竜に捧ぐ鎮魂歌
123/133

玖ノ舞 拒むもの・抗うもの

ストックが尽きるので、連載お休みは確定的なのですが、せめて12話までは載せたい…………!!

仕事が忙しく、休日も引っ越しその他でバタバタしていて全然書けてません。

『ねぇ、一哉兄ぃ……?』


『どうした、咲良?』



 突然の咲良の呼び掛けに、一哉は咲良の方へ向き直る。



『もし……もしの話よ? 私と貴方が敵同士になってしまったとしたらどうする?』


『は? 何だよいきなり。お前、対策院を裏切る予定でもあるのか?』



 咲良の質問の意図がわからず、一哉は怪訝な顔をする。

 そんな一哉の様子を見て、咲良は取り繕う様に慌てだした。



『だ、だから、もしの話っていってるでしょっ! そんな予定有るわけ無いじゃない!!』


『ん、そうか』


『…………で? 貴方はどうするの?』



 上目遣いにそう尋ねてくる咲良。

 そんな咲良の姿に思わず心臓が跳ね上がりそうになった一哉は、咲良から敢えて目線を逸らせて。



『どうするって言われてもなぁ……。まずお前と俺が敵対する未来が想像できねえよ。今まで喧嘩する事はあっても、決定的な決別の岐路があったわけでも無いし』



 そう言った。



『そ……そうよね……』


『まあ、仮に敵対する事があったとしても……例え対策院に命じられたとしても……やっぱり俺にお前は殺せない…………んだろうなぁ』



 それは一哉の本音だ。

 元々一哉は対策院に所属する人間には珍しく、人を殺める事に強い忌避感がある。

 それは例えが相手がどんな悪辣な人物であったとしてもだ。

 一哉は過去に目の前で母を殺された経験から、極端に人の死を恐れるようになっていたから。


 そんな事は咲良も知っている筈である。

 だが、咲良はどこか嬉しそうにニヨニヨと口許を笑みの形にしている。

 恐らく、平静を保とうとしているのだろうが、まるで隠せていない。



『ふ、ふぅん…………? アレじゃない? 貴方、特級鬼闘師失格なんじゃない?』



 一哉に毒を吐く咲良だが、どう見ても嬉しそうにしている。

 だが、一哉にはそんな咲良にどう接するのが良いのかわからないので、あくまでも気付かない体で話を進める事にした。



『鬼闘師としてはそうだろうな。だけど、人間としては間違ってるつもりはねえよ。殺せば解決するなんてそんな考え、タダの逃げだ』



 少なくとも一哉はそう思っている。

 確かに、殺めるという事は口封じや抑止力という意味では絶大な効果を発揮するだろう。

 だが、それは相手の意見を聞くチャンスや、それ以上の真実を紐解くチャンスを永遠に失う事と同義である。

 そしてそれ以上に、その「個人」という存在が永遠に喪われるのだ。

 人それぞれが、己という「個人」を持っている。

 それを別の誰かがどうこうする権利を持っているなど、どうして言えよう。


 勿論、一哉は死刑制度廃止論者などではないし、そうすることでしか防げない事が、綺麗事では済まされない事が沢山有ることも承知している。

 だが、安易に殺めるという道を選択する事は、どうしても出来ないのだ。


 そしてそれ以上に――



『お前は俺にとって大切…………だからな……』


『………………やっぱり、貴方ってズルい…………』


『は? 何がだよ?』


『煩いわね! ほっときなさいよ、バカッ!! ……………………』




「ここは……」



 一哉が目を覚まして視界に入ったのは、見たことの無い和室の天井だった。

 綺麗にされながらも、まるで何年も使用された形跡が無いその部屋はどこか哀愁すら漂わせていた。



「さっきのは……夢か……」



 そして、ついさっきまで自分が見ていた"映像"を思い返す。

 それが現実の出来事でなかった事はすぐにわかった。

 あの会話はまだ瑠璃が生きていた頃、瑠璃と咲良が初めて、そして唯一顔を合わせたあの日より前、何でもない、特別さの欠片も無いタダの一日の中で交わされた会話なのだから。


 あの時はこんな事になるとは夢にも思わなかった。

 もしかすると、咲良は少しだけそんな予想をしていたのだろうか。

 だからあの時、あんな事を聞いてきたのだろうか。


 でも、そんな事を確かめる様な権利は、今の一哉には無い。

 咲良の事を切り捨てたのは、紛れもない一哉自信の意思なのだから。

 だから、都合良くそんな事を尋ねる様な権利など、今の一哉は持ち合わせていない。


 一哉は振り切るように頭を降って、心に宿りそうになる弱気な気持ちを打ち消す。

 そして状況を把握しようと辺りを見渡すと、見覚えの有る仮面が目に入った。



「これは……」



 それは能面。

 かつて対策院に襲撃をかけてきた「アイナ」が使用していた能面だ。

 それがこの場所にあるという事は。



「気分はどうだい、南条一哉?」


「……小倉先輩」



 まるで図っていたかの様なタイミングでその人物は姿を現した。

 小倉莉沙――

 東都大学薬学部4年であり東都大学天文部部長、そしてアイドルグループ「D-princess」センター。その正体は。



「それともこう呼んだ方が良いですか? 西薗一の娘、西薗リーサ」



 あの日、梶尾光太郎から聞かされた小倉莉沙の正体は、西薗一の実の娘。父・南条聖に滅ぼされた筈の西薗本家最後の一人。



「好きにしなよ。確かにボクの本当の名前は西薗リーサだけど、少なくともボクの戸籍上の名前は小倉莉沙だ。もう10年も付き合った名前で愛着もたっぷりあるんでね。『ボクの本当の名前を呼べ』なんてマンガみたいなこと、言わないよ。それで覚醒するわけでもないしね」



 西薗リーサ=小倉莉沙はそんな風におどけた。

 いきなり恨みつらみをぶつけられると思っていた一哉は拍子抜けだ。



「一哉君、気分はどう?」


「結衣……それに、咲良……」



 そして再び図っていたかのようなタイミングで今度は結衣と咲良が現れた。

 さっきの夢の事もある。その姿を認めた一哉は思わず顔を顰めるしかない。



「あはは……これは嫌われちゃった……かな……?」



 寂しそうに苦笑いする結衣と不機嫌そうに睨んでくる咲良。

 二人の反応はあまりにも対照的だった。良くも悪くも二人の性格を色濃く反映している。

 そんな事がわかるぐらいには、一哉は二人との絆を持っていたというのに。



「お前らには言った筈だ。俺の邪魔は決してさせないと……」



 そんなものは一哉自身の悪意で断ち切った。

 あの時あの瞬間に、全てと決別する様に。



「ハッキリ言わしてもらうがな。邪魔なんだよ、お前ら」


「……」


「俺にはもう何も必要ない。鬼闘師という立場も、家族も友も何もかも、もちろんお前達も。いや、俺にはもう何もないのか……だから俺には力があればいい。力だけがあればそれだけで……」



 まるで心に直接穴を空けられたかの様な、耐え難いまでの喪失感。

 信じていた筈の義姉に。そして何よりも大切だった筈の妹に。その虚無を植え付けられたのだ。

 だからやり返す。取られたモノを取り返し、"命"という最後にして絶対の供物を捧げさせる。

 その為には友という存在も、鬼闘師という立場もいらない。

 むしろ邪魔だ。


 ここまで言われて、一哉の事を見限らない人間は余程の物好きだ。

 むしろ一哉自身、そうして二人に嫌われる様に振舞ってきたつもりだった。

 実際、ここまで言われた結衣はとても悲しそうな顔で、一哉の事を見つめている。


 それも全てこの戦い――佐奈と栞那を始末するという不毛な戦いを終わらせる為。

 この戦いから余計な要素を取り除く為。そして――

 それが対策院から追われる身となった自分にできる、そしてやるべき唯一の事。

 そう思っていたのに。



「……言いたい事はそれだけ?」



 それだというのに、咲良は折れない。咲良だけは折れてくれない。

 一哉の知る限り、咲良がこんなにも意固地に反発してきた事は無い。

 いつだって最終的には咲良の方が折れていた。

 なのに、今の咲良は折れない。屋敷に咲良が訪ねてきた時も、そして今も。

 だから一哉も少しだけ意地にならざるを得ない。

 


「あぁ。だからもう二度と俺に関わるな。もし次――」



 パンッ――肌が肌を打つ音が響いた。

 少しだけ目に涙を浮かべる咲良が、一哉の頬を打ったのだ。

 そんな予想もしていない出来事にしばし呆然とする一哉。



「バカな……事…………バカな事言ってんじゃないわよッ!!!!!!」



 咲良の全力で吠える声が部屋中に響き渡る。

 決して一哉から目線を逸らさない強い眼で一哉の事を睨みながら。



「貴方が本心から望むのであれば、私はもう何も言わない……ッ! だけど、貴方の本心はそうではそうではないでしょう?! 前にも言ったけど、そんな辛そうな、泣きそうな顔しながら強がってみせたって説得力無いのよ!!!! 本当は泣きたいくらい苦しいくせに。本当は叫びだしたいぐらい寂しいくせにッ!!」


「何を……っ!」


「貴方に何が起きたのかは、その大体の事はこの二人から聞かせて貰ったわ。確かに、目の前で再び大切な人を失ってしまった悲しみは私にはわからないかもしれない。貴方の気持ちをキチンと理解してあげる事もできないかもしれない」



 咲良の眼は鋭く、語気も決して穏やかではない。身から発する雰囲気も明らかに怒気だ。それも、かなり容赦のないレベルの。

 だが、それでもその声はどこか優しい。

 咲良自身の思うところも大いにあるだろうが、それでもなお、一哉の事を想っている事が、その言葉の端々から、その態度から、その表情から見て取れる。



「それでも私は……私は、貴方が悲しんでいる事、苦しんでいる事がわかる。そうとなれば、貴方を放っておける道理など有る筈が無いわ。例え貴方が本当に私の事を疎ましく思っていたのだとしても、私は……私は……」



 そこで咲良はその強気な表情浮かぶ美貌を突如赤くして俯かせた。

 咲良自身、口を滑らせたという自覚はあったのだろう。羞恥心からか、咲良の怒気が急激に収まっていく。

 その様子は誰がどう見ても、恋をする少女が意中の相手を目の前にした様な反応で――


 だからこそ、それは今の一哉の最も触れられたくない傷へと塩を塗り込む行為でしかなかった。



「黙れ…………ッ! お前に何が――ッ!!」



 咲良の言葉に、態度に思わず激高して右手を振り上げる一哉。

 これが一哉の調子が普段通りだったとしても、この突発的な衝動を抑えられたかは確かではない。

 元々一哉はトラウマを突かれた時に突発的に怒りが抑えられなくなる事が幾度もあった。

 だが信じていたモノに裏切られ、仮初の恋人を目の前で奪われた今、一哉にそんな衝動を抑える様な気も、抑えられる道理もあるわけも無く。

 咲良に向かって容赦なく右腕が振り下ろされようとしていた。


 だが結局、その手が振り下ろされることは無かった。

 なぜなら。



「そこまでだよ、南条一哉」



 莉紗が一哉の腕を掴んで離さなかったから。



「ぐ……っ?! 小倉先輩?! は、離せっ!!」



 一哉は自らの右腕を掴む莉紗の腕を振り払おうとするが、女性とは思えない程の圧倒的な握力が、一哉が逃げる事を赦さない。それでも一哉は脱出を試みるが。



「く……くそ……っ! なんていう力だ!!」



 一哉はまるで壁に縫い付けられたかの様に、少しも腕を動かす事が出来ない。

 しかもどんな握力をしているのか、掴まれた右腕は万力で締め付けられたかの様に激しく痛む。



「やれやれ、失礼だなキミも。こんないたいけな女性を捕まえて怪力暴力女だなんて。デリカシーがないんじゃないかい?」


「誰もそんな事言ってねえよ?!」



 それでもしばらく暴れ続けるのだが。



「ちっ……わかったから離してもらえますか、小倉先輩」



 結局は振り払える気配すら無く、一哉は莉紗に降伏の意思を示すしかない。

 そんな一哉の様子を見て、莉紗はようやく一哉の腕を静かに離した。



「悪いけど、キミ達を仲間割れさせる為にボクはキミを助けたわけじゃないんだ」


「……だったら、何が目的なんですか」


「陰霊剣」



 莉紗の口から出てきたその言葉。

 栞那や佐奈が知らない内に手にしていて、そして自らもある切っ掛けで使用可能となった絶対的な能力(ちから)

 だが、その代償がロクなものでない事は一哉自身もわかっていて――



「……」


「ボクも知識として、陰霊剣がどんなものかは知っている。それに、何度か戦った事もあるから、それがどれ程異常で禍々しく、悍ましいものかもよくわかってるつもりだ」



 口を噤めど、莉紗が諦める訳も無い。

 そういった非常識なところは、己の正体を隠していた頃から何一つ変わっておらず――結局のところ、それが"小倉莉紗"という女の本質なのだろう、と一哉は勝手に結論付ける。



「それなら俺に何を聞きたいんです。ハッキリ言いますけど、俺だって陰霊剣が遣えるからって陰霊剣の事を何でも知ってるわけじゃない。いや、むしろアンタより知らない可能性が高い。俺にわかってるのは、この力がどこから来ていて、俺に何をもたらしてくれるのか――それだけです」



 それは隠しようもない事実だった。

 自分にとって突如沸いて出た力。

 その正体が何なのか、力の本質がどういったものなのか。理解する事は至難の業だ。


 だが、そんな事は莉紗も織り込み済みだったのだろう。

 一哉がどこか苛立つような不敵な笑みを浮かべると。



「そんな事は重々承知なんだよね。ボクが聞きたいのは、陰霊剣を実際に遣っている者の率直な意見だ。だから、キミに問題はなーんにもないさ」



 そう言って一哉の胸に静かに左手を当てた。

今第1章を読み返してるのですが、酷いなコレ。

文体とか無茶苦茶だし、書き方も変だし……

というわけで、新規ストーリーを更新しつつ、過去の話も修正していきたいと思います。


それでは、今回も最後まで読んでいただきましてありがとうございました。

よろしければ評価、ブクマ、感想お願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ