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鬼闘神楽  作者: 武神
第5章 聖竜に捧ぐ鎮魂歌
122/133

撥ノ舞 創り出された叛逆者

リアルの方で引っ越しました。

通勤時間が3倍になりました。


眠い!!

「それでもう一度聞くよ? キミは今のこの状況をどれ程把握している?」



 再度莉沙にそう聞かれる咲良は少し不機嫌になってそっぽを向き。



「知らないわよ、何にも。私が京都から帰ってきてから、ワケわからない事ばっかり起きて、私だって混乱してるんだもの」



 そう呟いた。

 それは紛れもない咲良の本心だ。

 実際、ある日突然咲良を取り巻く状況は大きく変わってしまったし、誰に説明を求めても、誰一人として納得できる答えを返してくれる者は居なかった。


 そもそも咲良は莉沙の正体が西薗本家の唯一の生き残り・西薗リーサであると認めただけで、心を許しているわけではない。

 元々気に食わない人物だとは思っていたが、先の出来事で、更に苦手意識を募らせてしまった。


 そんな咲良に、莉沙は苦笑しながら話を続ける。



「そう拗ねないでくれたまえよ。じゃあ聞き方を変えるけど、キミはあの時、どうして彼の家に居たんだい?」


「別に拗ねてないわよッ! それに、私が一哉兄ぃの家で何してようが勝手でしょ?!」


「やれやれ。話が進まないな。じゃあ、こっちで勝手に予想させてもらうけど…………キミ、南条一哉を保護するか逃がそうと思ったんだろ?」


「……! なんで、それを……ッ!」


「簡単な話だよ。コレを見てごらん」



 そう言うと、莉紗は自分のスマホを取り出して何やら操作した後、咲良の方に向かって投げて寄越した。



「なによ、コレ……!」



 そこには。


 ――『アイドルグループ「D-princess」リーダー・小倉莉紗容疑者(21)を殺人の容疑で全国指名手配』

 ――8月××日未明、長野県松本市安曇の乗鞍高原にて、小倉容疑者と同グループに所属する百瀬瑠璃さん(15)の胸を鋭利な刃物で刺し殺害した疑い

 ――現在小倉容疑者は東都大学3年南条一哉容疑者と共に逃亡している模様

 ――南条容疑者には共犯の疑いが……



「ちょっとどういう事よ、コレ!! アンタと一哉兄ぃが百瀬瑠璃を殺して逃亡?! そんな事あり得るわけがない!! ふざけんのも大概にしなさいよ!!」



 あまりにも荒唐無稽なネットニュースの記事に咲良は声を荒げる。

 


「じゃあ何? 一哉兄ぃに対策院から粛清の命令が出てるのも、コレが原因だって言うの?!」


「……恐らくはね」



 莉紗は疲れたように首を振る。



「南条一哉は対策院から謹慎処分を受けていたにも関わらず霊術を使用した。その事実はボクもこの目で確かめている。そして、確かにそれは彼を処分する妥当な理由にはなるだろう。だが、粛清というのは明らかにやりすぎだ。彼の事が邪魔な誰かもそれはわかっていたんだろう。だからこうしてメディアに嘘の情報を横流しする事で南条一哉があたかも一般人に手をかけたかの様に見せかけて、対策院に粛清指令を出させたんだろう。」


「ふっざけんじゃないわよ!! なんで一哉兄ぃがそんな!!」


「さあね。彼の事を対策院から追い出したかった誰かは、よっぽど彼の事を追い詰めたいらしい」


「誰かって、誰よ……っ!!」


「ボクは別に対策院所属ってわけじゃないんだ。知るわけないだろう? まあ、凡その予想はついてるけど、正直ボクの想像の域を出ないよ。むしろキミの方がわかるんじゃないのか?」


「わかるわけないでしょう、そんなこと!!」



 咲良は莉紗に詰め寄る。



「アンタさっき、一哉兄ぃが霊術遣うところを見たって言ったわよね? 一哉兄ぃが霊術遣っちゃったのだって、アンタのせいじゃないの?! アンタが一哉兄ぃを戦いに巻き込んだから……ッ」



 咲良が居なかった間、莉紗と一哉の間に何があったのかはわからない。

 だが、慎重な一哉が謹慎処分下で霊術を遣うなど、何か重大な戦闘が発生しない限りあり得ない。

 そして咲良が関東を空けている間、強大な怪魔の出現は報告されていない。

 そうとなれば、目の前の莉紗が一哉に戦いを仕掛けたからに違いない。

 今は敵意が無いと言ってはいるが、そんな事わかったモノではない。

 そんな風に取り乱す咲良に対し、莉紗はあくまでも冷静だった。



「確かに、ボクは彼が対策院から謹慎処分を食らっている事を承知の上で彼を呼び出し、決着を付けようとした。だけど、結局ボクは彼とは戦っていないんだ」


「……?! 嘘よ!!」


「本当だ。彼はボクが指定した場所には現れなかった。そして代わりに現れた別の奴と戦っていたんだ。それが【神流】……秘密結社『陰陽寮』の幹部、四天邪将・青龍位の【神流】。ボクは奴との戦いに敗れ……それ以降意識も半分以上飛んだ状態で状況を見ていただけだよ」


「じゃあ……じゃあ、どうして!」


「理由は二つある。一つ目は【神流】がモモ――百瀬瑠璃を殺したから。そして二つ目が、それまでボロボロになっても、どれだけ圧倒されても必死に抵抗していた彼の妹が――南条佐奈が突如裏切って【神流】についたからだ」



 莉紗の言葉に、咲良は思わず肩を震わせる。

 佐奈が今や敵になってしまった――それは咲良自身の目で見た、確かな事実だ。

 だが、それを第3者の口から聞かされるのはまた違う事なのだ。

 認めたくない現実を突きつけられる様なものなのだ。


 本当に幼馴染が――親友が自らの敵になった。

 その事実を冷静に受け止め切れる事など、17歳の少女には難しい話だった。



「佐奈は……どうして一哉兄ぃを裏切ったの……?」


「それはわからないね。【魔人】共の思考回路など、ボクにわかるわけがないだろう? 凡そ、キミが見たとおりだよ。ボクらには彼らの理屈は全く理解できない」


「ちょっと待って……佐奈が【魔人】ってどういう事よ……。確かに佐奈も、百瀬瑠璃も……一哉兄ぃだって【魔人】と似た気を放ってたけど。そもそも【魔人】って何なのよ……もう、わけわかんない……」


「やれやれ、キミらはそんな事すら知らないのか。案外対策院ってのは何も知らないんだね」



 莉紗はそうやって肩をすくめると、一枚の写真を投げて寄越して来る。



「これが【魔人】だ」



 咲良は力無く写真へと視線をやって――そして目を見開いた。

 そこに映っていたのは。



「嶋……寛二……ッ!」



 忘れもしない、つい最近まで世間を賑わせていた「連続通り魔の犯人」だ。

 そして一哉と特級鬼闘師・神坂美麻が倒した相手でもある。

 神坂美麻の補佐として結衣に近づき、結衣を殺そうとした殺人鬼。

 咲良も少しだけ戦った相手なのだから、印象はバッチリ残っていた。



「そう、嶋寛二だ。またの名を【壬翔】。彼は紛れも無い【魔人】だ」


「……わかんない。確かにコイツは異常だったし、放つ気は怪魔みたいな気だったけど……私には異常な人間にしか見えなかった……」



 嶋寛二――【壬翔】の異常性を思い出す咲良。

 人を――女性を殺す事に異様に執着する真の変態。

 確かに【壬翔】は人間とは思えない精神構造をしていた。

 獣ですら近い生物とは言えないかもしれない。

 それが【魔人】だと言われても、何一つわかる事が無いのだ。


 そう悩む咲良の様子を察したのか、莉紗は急に率直な言い回しに切り替え始めた。



「この件について回りくどく言っても仕方がないだろう。だから簡潔に言おう。【魔人】とは怪魔の一種だよ。ただし、人工的に作られた、という但し書きが付くけれどもね」


「つまり……人造怪魔って事……?」


「広義では同一の存在だろうけどね、似て非なる存在だよ。人造怪魔は人間の堕ちた魂と生物の死骸を都合のいいように弄繰り回して作った、玩具みたいなものだよ。無理矢理作りだしたから、コントローラーが居なけりゃ自律行動もマトモにできない木偶の坊だ」



 咲良も何度か人造怪魔と対峙した事が有る。

 そこまで詳しく見れた訳ではないが、確かに【三頭餓鬼狼(ケルベロス)】なる人造怪魔は、なるほど、常に使役者が近くに居て操っていた。



「対して【魔人】は魂も死体も人間の物を使う。それも本人の死体だ」



 苦々しげに語る莉紗。

 咲良もこの冒頭の話だけで、【魔人】がいかに忌むべきの存在なのか察してしまえる程だ。



「生きたまま人間を追い詰め――その手段は監禁や拷問など様々だけどね、そして限界まで魂が陰の側に堕ちた状態でその人間を殺す。そうすると、一度肉体から離れた魂は完全に陰の気の塊となって再びその人間の肉体に戻るんだ」


「……ッ!!」


「成功率は決して高くない。そもそも、人間が死んでしまう直前の状態で魂を陰の側に限界まで堕とさなければならないんだ。素体となる人間の精神が相当強くないと、その状態に持っていく前にショック死するか発狂してしまう。だけど、その状況さえクリアしてしまえば、人造怪魔など目じゃない程に強力な怪魔が出来上がる。まあ、当然だよね」


「そ……そっか……!! 魂の器たる肉体が、入り込む魂の元々の所有物なんだとしたら、その親和性は他のどんな魂が入り込むよりも高くなる……!」


「そういう事。魂も肉体も自分の物。そんな最高の親和性を持った怪魔が生まれるんだ。その力がどんな怪魔よりも強力無比だなんて事は、誰が考えたって当たり前だろう?」



 莉紗は【壬翔】の写真を懐にしまう。

 そして改めて咲良の目を見ながら口を開いた。



「ボクの知る限り、四天邪将の【神流】、そして南条佐奈と一緒にキミと南条一哉を襲撃した今の百瀬瑠璃の二人は【魔人】の完成品だ。特にモモに関しては、ボクの目の前で【神流】に殺されたんだからね。今の彼女が【魔人】じゃないんだとしたら、ボクは悪夢だと思ってすぐに崖から飛び降りてやるよ」


「…………【魔人】についてはわかったわ。でも、【神流】って一体何者なの? どうして佐奈は一哉兄ぃを裏切ってその【神流】って奴に……。それに、一哉兄ぃと佐奈は? まさか、一哉兄ぃも佐奈も……一度死んでるって言うの?」



 あの時。

 【魔人】である百瀬瑠璃だけでなく、一哉も佐奈も【魔人】と同質の気を放っていた。

 だとすれば、二人とも一度死んで【魔人】となってしまった。

 そう考えるのは自然な事である。


 そして【神流】という存在。

 その名前の響きが。

 一哉と佐奈という名前が連なる中で何度も連呼されるその名前が。

 そして、二人が何度か口にした「姉さん」という言葉が。

 咲良に一種の確信を持たせた。

 【神流】の正体を。



「南条一哉と南条佐奈に関しては別だ。少なくともボクの知る限り、二人は死んでなどいない」


「そっか……よかったぁ……」



 幼馴染は少なくとも死んでいない。

 その事実に、咲良は思わず安堵の息を吐く。

 だが、莉紗の表情は相変わらず厳しいものだった。



「安心するのはまだ早い。ボクも目の前で彼らが豹変するところを見たけれど、彼らがこうなってしまった事は実際問題、奇跡みたいなものなんだ。陰霊剣を生きたまま発現する人間なんてあり得ない。だけど彼らは事実、陰霊剣を生きたまま使用している。いや、してしまっていると言った方が適切だろうか。何はともあれ、おそらく彼らの豹変はその代償だろうね。本来死者たる【魔人】にしか扱えない筈の陰霊剣を遣ってるんだ。タダで済むわけがない。ゆえに、ボクは彼らが怪魔と極めて近い存在――言わば、半怪魔とでも言うべき存在になっていると考えるべきだと思っている。そして彼らは……………」


「な、何よ……」



 莉紗の言葉に咲良は息を呑む。

 その続きの言葉があまり聞きたくない類の言葉である事は簡単に予想が付くが。

 それでも咲良は確かめなければならない。

 一哉も佐奈も元に戻ってくれるのであれば、咲良はそう願わずにはいられないのだから。


 ゆえに次に莉紗から告げられた言葉は咲良にとってはあまりにも残酷で。



「彼らはそう遠くない未来、きっと死んでしまうだろう。例え死ななかったとしても、人としては死んでしまう。本来、悪霊や怪魔といった存在は絶対的な"死"という存在を受け入れられずにこの世を彷徨うモノ達なのだから」



 そしてあまりにも救いが無い。



「…………」



 そして、今の咲良には何も言う事などできなかった。

 一哉を、佐奈を、二人を救いたいと想う気持ちはあっても、その方法が全く思い浮かばないのだから。

 だから、話題を変えざるを得ない。



「ねぇ、そもそも陰霊剣って一体何なのよ? 一哉兄ぃも佐奈もアンタも何回も口にしてるけど、私、それ知らないんだけど」


「…………陰霊剣に関しては、彼が起きてからにしよう。正直、ボクも陰霊剣について詳しく知っている訳じゃない。彼の話を聞きながら理解を深める方が、ボクにとっても助かる」


「……わかったわ」


「そして最後に、【神流】の正体だが……キミももうわかってる筈だ。『陰陽寮』幹部・四天邪将・青龍位の【神流】は西薗――いや、キミにはこう言った方がいいな。アイツは……キミ達に【焼鬼】や【砕火】、そして【壬翔】をけしかけた張本人は、【魔人】化した南条兄妹の義理の姉、南条栞那だよ」



 咲良の中で何かが繋がった。

今回も最後まで読んでいただきましてありがとうございました。

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