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鬼闘神楽  作者: 武神
第4章 滅亡の氷姫
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終ノ舞 エピローグ4~ラスト・ヴェンデッタ~

第4章最終話です。

「西薗リーサ…………それが本当の小倉莉紗の名だ……」



 まさか傷つき、瀕死となった莉紗をそのままにしておく訳にもいかず、一哉は何とか結衣に協力してもらって、秘密裏に莉紗を松本市内の病院に送った。

 もはや夜は開け、既に午前8時。


 そして一哉は莉紗が搬送された病院で梶尾に連絡を取っていた。

 一哉の謹慎処分はまだ今日一日残っている。

 故に使った回線は個人的なスマホのナンバーだったが、梶尾はまるでわかっていたかの様に、たった2コールで通話に応答したのだ。


 一哉は全てを話した。

 自分が全てを思い出した事。

 義姉・南条栞那が生きていたという事。

 「アイナ」の正体が小倉莉紗であったという事。

 そして――――佐奈が裏切ったという事。


 全てを話した一哉に返ってきたのは、そんな衝撃的な言葉だった。



「は? ちょっと待てよ、梶尾さん。なんでそんな事知ってるんだよ」



 西薗の一族は西薗彩乃が当主を務める、鞍馬西薗家の他、2家しか残っていない。

 だがその3家はいずれも10年前の西薗家殲滅作戦の際に対策院の側に付いた者達で、彩乃の様に南条家に不満を持つ者が居たとしても、行動に移す様な事はしない筈だ。

 今更そんな事をして、わざわざ一家断絶の未来を選択する意味も無いからである。


 だが、莉紗は明確に南条家に敵意を示していた。

 南条家の全ての人間を殺すと宣言して見せた。

 だとすれば、10年前に粛清された西薗家のどこかの家の生き残りとなる訳で――――



「…………アイナの正体はどこで調べられたのかはわからないが…………2日前に対策院で判明していた。そして現在の彼女の姿を見て…………すぐにわかったよ…………」


「まさかそれ…………この前アンタが言ってた、西薗一の娘って奴じゃ――――」


「その通りだ…………リーサは西薗一の唯一の実の娘…………。10年前に死んだと思われていた、西薗本家正真正銘最後の一人だ」



 その言葉を聞いて、一哉は思わず座り込んだ。

 莉紗が西薗本家最後の一人なのだとしたら。

 そして、莉紗の行動が全て黒鉄に唆された結果起こしたものだとすれば、今までの彼女の行動には合点がいく。

 あれだけ復讐を掲げておきながら襲撃自体には消極的だった理由も、黒鉄が裏で操っていたからだと考えれば、不自然ではない。



「……そして全て思い出したというのなら……もう一人の義理の娘の事も…………わかるだろう」


「姉さん…………南条栞那か……」


「その通りだ……。栞那は西薗一の弟の娘…………つまり、西薗リーサにとっての従姉妹にあたる。つまり…………」


「小倉理沙は俺の従姉妹って事になるのか……」



 一哉の母・南条澪の旧姓は西薗。西薗澪。

 そして澪は西薗一の姉。

 それはずっと知っていた事だった。

 だが、自分の命を狙っていた人間が存在すら認知していなかった従姉弟だったという事には、多少なりともショックを隠せない。

 もっとも、その従姉弟だけでなく義理の姉――――こちらも実は従姉弟だが――――と実の妹にも命を狙われるとは思ってもみなかった事だが。


 

「カズ坊…………これから……どうするつもりだ?」


「決まってる。姉さんと佐奈を探す」


「…………。まあ、そうだろうな……。家族を……何より大切にするお前なら……」


「…………」


「だがカズ坊…………お前の立場は最悪に近い……この謹慎中での霊術使用……必ず内閣情報調査室の須藤が嗅ぎつけるはずだ……」


「それは問題無い。俺はもう、対策院に戻るつもりは無い」


「は……っ?! 何を……言っている!!」



 一哉の言葉に、電話の向こう側の梶尾が激しく反応する。

 当然の事だろう。

 対策院は秘密裏の極秘国家組織であるがゆえに、自分の意志で辞めた者にはあらゆる制約が設けられる。

 ゆえに、自由意思で対策院を抜ける人間など極めて稀。

 それだけでも十分驚嘆に値する。



「局長も総議長も……お前の復帰を待っている…………それをお前は放り出すのか……」



 しかも、対策院の執行局実務処理班頂点9人の内の一人が、自らの意思で抜けようと言うのである。

 ただでさえも人手不足だというのに、その中でもNo.3の実力と目される一哉が抜けるのは、対策院にとても大きな痛手。

 そう思っているからこそ、梶尾もそう言うのだろう。

 そして恐らく、局長の八重樫重蔵も総議長の神坂仁十郎も一哉の復帰を強く望んでいる。

 そんな事は一哉もよくわかっている。

 だが。



「悪いが梶尾さん、対策院はアンタに任せる。今の俺に、義務だの大義だのは重過ぎる」



 今の南条一哉はただの復讐者だった。

 自分を裏切った義姉と妹に対する復讐の事しか頭に無い。

 だから、今の一哉に対策院の上に立つ資格など無い。



「カズ坊…………!!」


「悪いな梶尾さん、さようなら。もう会う事も無いだろう」



 一哉は梶尾の声を聞く事も無く通話を切った。

 そして梶尾を着信拒否にして。

 莉紗の眠る病室へと戻る。



● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇



「本当に…………どうしてこんな事になっちゃったんだろう…………」



 銀縁眼鏡の奥に大粒の涙を浮かべた結衣が、眠り続ける莉紗の顔を見つめながらそう呟く。

 確かに結衣としてはたまったものではないだろう。

 楽しみにしていた天体観測会で、瑠璃が死に、そして莉紗も重傷を負った。

 楽しかった筈の夏のイベントは、一気に悲しみが渦巻く事件へと変わり果ててしまったのだ。

 しかし。



「今回の天体観測会、そもそも俺を殺す為だけに企画されたものらしいからな。例え姉さんの襲撃が無かったとしても、どちらにせよロクな事にならなかっただろうよ」


「そんな……っ! 莉紗さんは――――っ!!」


「結衣には信じられない事だろうが、これは事実だ。この女は俺の親父・南条聖が滅ぼした西薗本家最後の生き残り。そう考えれば、この女が俺に復讐する動機は充分にある。それにそもそも、これは、あの黒鉄って男が仕組ませた事だって言ってたんだからな」



 事実を淡々と述べる一哉を、結衣は信じられない物を見る様な目で見る。

 ずっと仲良くしていた先輩が実は自分の友人を殺そうとしていたなど、本来であれば到底受け入れられないだろう。

 だが、心当たりは結衣にもあったようで。



「じゃあ、あの時私を助けてくれた仮面の人…………やっぱり莉紗さんだったんだ…………」



 そう呟いて、眠り続ける莉紗の手を握る。

 そうして沈黙がしばらく続く。

 痛々しく、悲痛な空気が病室を支配していて、今の一哉でなければ早々に病室から出ていただろう。

 それでも中々目覚めない莉紗に痺れを切らして、一哉がそろそろ帰ろうかと思い、席を立つ。

 そのまま病室を去ろうとする一哉に対し、結衣が再び問いかけてくる。



「一哉君はこれからどうするの?」


「決まってるだろう。姉さんと佐奈を探し出す。そしてこの落とし前はキッチリつける…………瑠璃ちゃんの為にも」


「落とし前って…………一哉君何をするつもりなの?」


「…………」


「佐奈ちゃん、ちゃんと連れ戻すんだよね?」


「…………」


「ちゃんとこっちを見てよ!!」



 結衣の叫び声に、一哉は振り返らない。

 一哉の心は決まっていた。

 あるいは8年前に栞那に裏切られた時から、全ては決まっていたのかもしれない。


 『裏切り者には死を』――――



「小倉莉紗が目を覚ましたら連絡をくれ。俺は東京に戻る」


「ちょっと一哉君?!」



 一哉は結衣の叫びに耳を貸す事は無い。

 もう結衣と道を共にしない為。

 これ以上犠牲を増やさない為。

 そして修羅となる己の道を邪魔させない為。



「俺の邪魔は絶対にさせない。例え結衣、君であっても」



 一哉は病院から出るとスマホを取り出し、ある番号へと電話をかける。

 今までストッパーがかかったかのように連絡を取る事を忌避していた人物に。



「どうした、一哉。お前から連絡をしてくるなんて、何年ぶりだ」


「そんな事は今どうでもいいだろ…………親父、今ちょっといいか?」



~~~ 第4章 滅亡の氷姫 完 ~~~

いや、ほんとに長かった!!

まさか1年もダラダラと4章やるとは、この章の書き始めは思っていなかったというのに……

会社でそれなりの立場になった事も相まって、執筆時間が取れない中、本当に書く気が失せて半年失踪。

その状態から何とか4章完結迄持っていけたのも、読んでくださる方々のおかげでございます。

無駄に長い駄文の塊ですが、なにとぞこれからもよろしくお願いします。



それでは第5章「聖竜に捧ぐ鎮魂歌」でまた会いましょう。

(投稿日は現状未定です)



今回も最後まで読んでいただきましてありがとうございました。

少しでも興味を持っていただけたなら、ブックマーク・評価・感想などお願いいたします。

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