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鬼闘神楽  作者: 武神
第1章 その名は鬼闘師
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撥ノ舞 東雲家へ

ようやく調査に乗り出します

「それで?何で態々私を呼んだわけ?くだらない用事だったら承知しないわよ」



 たっぷりと佐奈にいじられた咲良が解放されたのは、喧嘩の勃発からたっぷり30分経ってからだった。まだ少し頬が赤いが、どうやら平常運転に戻ったらしい。

 よくよく考えれば、咲良にはうちに9時に来て欲しいという事しか伝えていなかった。一応仕事なので無下に断る事はしないだろうが、一哉はまた咲良が怒りだすのではないかと、内心ひやひやしながらも隣の結衣を紹介する。



「まあ予想はついているだろうが、悪霊関連で頼みたい事がある。こちら東雲結衣さんといって、俺の大学の同期だ。彼女の家に悪霊居着いているみたいでな。至急対処の必要があると感じて、お前に依頼した次第だ」


「えっと…………。東雲結衣です。よろしくお願いします…………」



 ここにきて一哉は初めて結衣の人見知りする性格を知る。一哉や佐奈に対しては普通に接してきていたため気が付かなかったが、記憶を掘り起こしてみれば、確かに結衣は同期に対しても敬語で会話している事が多かった気がする。

 一方咲良はというと、品定めするかの様にしばらく結衣を睨み付けているかと思いきや、突如怒ったかの様な視線を一哉に向けてきた。



「ふぅーん……。で、一哉兄ぃ、この女は一哉兄ぃの何なの? まさか、貴方の女?」



 一哉を見る咲良の目線は非常に冷たい。

 何も言わず呼び出した事を問い詰められると思いきや、問われたのは依頼内容とは全く関係の無いこと。しかも思考回路が佐奈とほとんど同じであった。一々脱線するので、全く本題に入ることができない。なぜこの年頃の女の子というのは一々色恋沙汰と結びつけないと気が済まないのだろう。

 一哉がうんざりしていると、代わりに結衣が答えようとした。



「あの、私は南条君とは…………」


「アンタには聞いてない――――」



 咲良は結衣に対しても冷たい態度を取った。それもどこか底冷えのする視線を結衣に向けて。

 佐奈にしても咲良にしても、少し結衣に突っかかり過ぎではないだろうか。一哉は本日何度目になるかわからない溜息をついてしまう。



「違う。東雲さんはただの同期で別に何の関係もない。ついでに言えば、まともに喋ったのも今日が初めてだ」


「ふん…………それにしては、仲良さそうに見えたけど?」


「咲良、いい加減にしてくれ。そのネタで夕方も延々と佐奈とやりあってるんだ。とにかく何でもないんだからさっさと本題に入らせろ」



 昔は3人で仲良くやっていたのに、とてもやり辛い。

 どうにかならないものかと一哉も頭を痛めるのだが、既に散々悩んだことだ。最早一日二日の出来事で解決できるわけが無い。

 2年前の再会の時に浴びせられた言葉。それだけ咲良にとっては空白の2年間は許しがたい事だったのだろうが、だからと言って、こういう面倒な話でいつまでも詰問される様な趣味は無いのだ。

 一哉はもうこのネタはたくさんだ、と流れを強制的に断ち切る。

 隣で結衣が「そんなハッキリと否定しなくてもいいのに……」としょんぼりしていたが、一哉は敢えて無視した。もう面倒事はたくさんである。


 一方、どうせ咲良はまた突っかかってくるだろうと一哉は身構えていたのだが、その予想に反して「そう…………。まあ、どうでもいいけど」と意外な事にもスルーしていた。少し顔が綻んで嬉しそうに見えるのは気のせいだろう。

 本題に入るのならば今がチャンス。今しかない。どうせ今から話す話題でまた咲良に罵声を浴びせられるのだ。一哉は、咲良や結衣はもちろん、今日一番のトラブルメーカー・佐奈に口を挟ませてはならないと、咲良を南条家に呼び出した理由を語り始めた。


 ――結衣の家の悪霊に対処したいが、自分では管轄外の為手が出せない事。

 ――結衣に自分の鬼闘師としての活動を見られてしまった事。

 ――自分の直接の保護対象者扱いで結衣を監視下に置くことになった事。

 ――咲良に調査と対処をお願いしたいという事。


 一哉は全てを話し終わった。重い沈黙が南条家を支配する。

 その中で最初に口を開いた咲良が放った言葉は、やはり罵声であった。



「貴方やっぱりバカじゃないの?! 特級鬼闘師にもなって一般人に戦闘を目撃されるとかありえないでしょ!!」



 一々突っかからないと気が済まないのだろうかと思うが、実際問題として咲良の言う通りであるので何も言い返せない。

 特級という最上級階級は戦闘能力だけではなく、判断力、統率力、隠密行動力といったありとあらゆる能力があって初めて上り詰める、いわばプロ中のプロの階級。人数は一哉を含めても8人しかいないが、過去を含めても特級の活動露見というのは前例が無い。そもそも鬼闘師が活動を目撃されてしまう事例事態が月に1回も無いのに、それが特級ともなると、大失態も良いところである。



「それで何? 南条特級鬼闘師様は降格人事でも喰らったわけ?」



 ここぞとばかりに楽しそうに問いかけてくる咲良。

 何が楽しいかはわからないが、一哉としてはそろそろいい加減にして欲しい。やっと本題に入ったと思ったら、すぐに全く違う方向に脱線である。

 しかも咲良に対しては、向こうが正論を言っている以上、何も言い返せない。ついでに言えば、何か言い返そうものなら、また理不尽な暴言を投げかけられる事は想像に難くないのだ。


 このまま甘んじて暴言を受け続けるか、我慢の限界だとバトるか真剣に考え始めていた一哉だったが、そんな一哉に味方したのは今日一日完全なトラブルメーカーと化していた佐奈であった。



「咲良ちゃん、そんなわけないでしょ? お兄ちゃんは確かに特級の中では下から数えた方が早い新参者かもしれないけど、それは一番若いからであって実力は間違いなく上位3人に入る。だから処理班はただでさえ万年人手不足の環境なのに、お兄ちゃんに簡単に降格とか言えるわけが無い。それは咲良ちゃんもよく知ってるはずだよね?」


「それは……ッ! でもっ!実際に見られた事は問題じゃない! それをこんな風に態々助けようとして…………一体どうすんのよ?!」


「そんな事、お兄ちゃんなら幾らでもやりようはあるよ。私としては、別にここで始末しちゃっても構わないと思ってるし――――」



 物騒な事を口にしながら、意味ありげに結衣の方に視線を向ける佐奈。

 咲良も佐奈の視線を追うように結衣の方に視線を向ける。



「でも、一哉兄ぃは……」


「そうだね。お兄ちゃんは優しいからこの女を殺すという選択肢は今回も最後まで選ばなかったよ。それに、この事に関しては局長も認めてる」


「…………ッ!」


「だから、こんな事でお兄ちゃんが何か不利益を被る事なんかあり得ない。あんまり変な事言ってると私も怒るよ?」



 咲良に対して強く出る佐奈は少しムッとした表情をしていた。いくら仲の良い咲良相手とはいえ、流石に兄に対する暴言が過ぎると思っているのだろう。

 いつもは過剰なブラコン具合に困る事が多いが、こういう時は単純にありがたい。一哉は密かに、この件が落ち着いたら、お礼として佐奈の好きなカフェに連れて行ってやろうと決めた。何だかんだと妹に激甘の兄であった。



● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇



 佐奈の暴走から始まり、咲良の来訪によって長引いた南条家の喧騒がようやく収まった頃には、既に時刻は夜の10時を回っていた。

 何事も対処は早い方が良い。そろそろ怪魔共が動き出す時間――――すなわち鬼闘師が最も活動する確率が高い時間という事もあり、さっそく結衣の家に行って対処を始めようという話になった。


 しかし、いざ結衣の家へ向かおうという時、実際に今起きている現象の詳しい話をしっかりと聞いていなかった事を思い出すのだった。

 正直な話、忘れていたのだ。

 だから誰にも悟られぬ様、一哉は結衣にそれとなく聞くことにした。



「東雲さん。これから君の家に行って、早速対処を始めようかと思う。それでだ。今一度君の家で起きている事について詳しく聞かせてほしい」



 だが、ここでいきなり空気の読めない発言が間に差し込まれる。



「…………お兄ちゃん、もしかして忘れてた?」


「え…………。もしかして一哉兄ぃ、詳しい事もわかんないのに私呼んだわけ? ふざけてるのかしら?」



 せっかく上手く誤魔化そうとしたというのに、女子高生2人組が余計な事を言いだしたのだ。無粋にもほどがあるだろう。



「――――うるさいぞ二人とも」



 そう言いながら軽く二人を睨むのだが。



「あ、ごまかした」

「ええ、ごまかしたわね」



 咲良と佐奈の二人は、ただニヤニヤと一哉を見つめて揶揄うだけだった。

 この2人はいつまで話を蒸し返す気だろうか。2人揃うと姦しいのはいつもの通りだが、このままでは本当に話が進まない。このまま二人の態度に反応すれば、話は間違いなく再脱線する。

 だから一哉は2人を完全に無視する事にした。


 一方、結衣の方は咲良の来訪以来とてもおとなしい。結衣自身が人見知りな所があるのに加えて、どうやら咲良に少し苦手意識を持っているようでもあった。

 この場で結衣に話しかけるような人間は、一哉を置いて他に居ない。

 やはり先程までの空気は気まずかったようで、一哉に話しかけられた結衣は心なしか嬉しそうに微笑んだ。



「それで東雲さん、改めて聞きたい。君の家で何が起こっているのかを」


「うん。また話が長引いちゃうから手短に話すね――――」



 その後の結衣の話を要約すると、概ね次のようになる。

 ――――自分の部屋の気温が異常に下がる。

 ――――風もないのに窓がひとりでに揺れる。

 ――――暗い人影の様なものが部屋の中にいる事がある。顔は見えないが、とても恐ろしい顔をしている気がする。

 ――――唸り声がする事があり、その時必ず家の庭が荒らされている。


 それを聞いた一哉達は一様に顔を見合わせた。



「お兄ちゃん、これって…………」


「そこまで影響出てて良く死んでないわね。普通、とっくに呪い殺されてるレベルよ。とにかく、すぐに行った方が良いわね。まったく、調査局の連中は何やってるのよ…………!」



 その症状は、最近出始めたというにはかなり大きい規模の話だった。

 通常、現実世界に影響を及ぼせる悪霊と言えど、その影響はせいぜい1つか2つ。

 だが結衣の家で起きている出来事は、そんな規模を超えてしまっている。霊魂そのものを相手取る事が無い一哉でも、即座に対処が必要だと判断するレベルの話なのである。



「あぁ…………恐らく、事態はそう静観していられるモノじゃない。このまま放置していたら、【呪い持ち】が街中に解き放たれる事態にもなりかねない。そして最終的には怪魔への変異だ。下手をすれば、汚染重度の低い怪魔位は既に発生しているかもしれない」



 一哉はそう言うと、すぐに腰を下ろしていた椅子から立ち上がった。



「二人ともすぐに準備しろ。準備出来次第出発する」



 そう示し合わせると、一哉と佐奈はそれぞれ自分の部屋に帰り、そしてすぐに戻ってきた。

 仕事モードに入った二人の顔つきは真剣そのもの。そしてその手には、それぞれの得物――――一哉は三振の日本刀、佐奈は薙刀が握られていた。



「さぁ、仕事の時間だ。行くぞ、東雲さんの家へ」



 今、鬼闘師・南条一哉の仕事が始まった。

鬼闘師の周辺の設定がどことなく東京〇種っぽくなってるのはわざとじゃないです……

書いてたら、そうっぽくなってしまった……


次話あたりから日常パート感が息をひそめます。

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