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鬼闘神楽  作者: 武神
第1章 その名は鬼闘師
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漆ノ舞 祈祷師

本編に戻ります


3人目のヒロイン・北神咲良登場!

「そう言えば佐奈、お前今日何で家に居たんだ……?」



 夕食後のまったりした空気の中、一哉は突然思い出したかの様に佐奈に問いかけた。

 佐奈は今、夕食の後片付けで食器洗いをしている。流しに流れる水の音でよく聞こえていないようである。



「え?お兄ちゃん、何て?」



 佐奈が大声で聞き返してくる。



「いや、だから、何で家に居たのかって!」


「聞こえないよ!」


「だから!」



 どちらかがワンアクションすれば普通にできる会話なのだが、お互いがめんどくさがってそのままの状態で会話を続けようとする。全く無意味である。

 そんな不毛なやり取りを見かねたのか、結衣が口を挟んできた。



「南条君、ちゃんと佐奈ちゃんのところに行って聞いてあげた方が良いんじゃないかな……?」



 あまり大した用件でもないのだが、結衣の言う事ももっともである。一哉は腰を上げ、台所に向かった。

 佐奈は変わらず食器洗いをしている。佐奈の方は流しの水を止めて話を聞こうという心積もりは微塵も無いらしい。



「佐奈。今日は何で家に居たんだ?今日は部活だったろ」


「んー? 電話で今日学校休むって言ったじゃん」


「……は?」


「お兄ちゃんから電話かかってきた時に言ったでしょ?今から学校行っても仕方ないから休むって。学校行ってないんだから、部活にも行ってるわけないよ」



 佐奈はさも当たり前と言わんばかりに平然と言ってのけた。思わず呆れてしまった一哉は頭を抱えてため息を吐く。



「はぁ……。お前なぁ、寝坊して学校行きづらいのはわかるが、サボってんじゃねぇよ。学校に連絡はしたのか?」


「それは流石にしたよぉ。…………仮病使ったけど」


「バカ! お前、仮病とか何やってんだよ……。まったく、お兄ちゃんは佐奈がそんなサボり魔になって悲しいぞ」


「えー、でも、そもそもお兄ちゃんが私の事起こしてくれればサボらなくて済んだんだよ?だからお兄ちゃんの責任でもあるよね!」



 とんでもない責任転嫁である。内心、誰だ佐奈をこんなのに育てたバカは、と思ったがそもそも自分であったので余計に頭が痛い。



「おい。なんで俺のせいなんだ、このバカ! 俺は昨日早く寝ろって言ったろ?それをお前が寝る前の俺を捕まえていつまでも喋ってたんだろうが!!」


「ひどっ! お兄ちゃんひどっ!! 家族のお話を聞くのは家族の務めだよっ!それに、勝手に電話切ったのはお兄ちゃんだよ!! 勝手に切って聞いてないとか言われても知らないもん!!」


「何バカな事を言ってんだ?! 例え家族でも睡眠妨害は許さんぞ!!!!」



 売り言葉に買い言葉。ついでに論点が盛大にズレてきている。

 だが2人をよく知る者からすれば、これは日常茶飯事である。いつも一哉が佐奈を窘めるところから始まるのだが、一哉が何だかんだと言って佐奈に甘い事もあり、喧嘩するといつも論点が盛大にズレていき、最終的には、うまい事はぐらかされるのである。

 だがそんな事を知る由もない結衣は、不毛な兄妹喧嘩を見かねたのか、口を挟もうと二人の元にやってくる。目に見えて不満そうな顔をしているあたり、自分をほったらかしにして二人で盛り上がっている事にも怒っているのだろう。



「あの……。南条君、佐奈ちゃん?」


「何だ?!」

「何っ?!」


「えと……喧嘩も程ほどにね?二人が仲良いのはわかるけど、そろそろこっちにも構ってほしいなぁー、なんて……」



 少し上目遣いで一哉に話しかける結衣。結衣自身は狙っているわけではないが、普段の一哉はこういう物の頼まれ方に弱い。

 しかし、ヒートアップする二人――――特に佐奈には逆効果だった。



「東雲さんは口を出さないでくれ!」

「東雲さんは口を出さないでっ!私のお兄ちゃんを取るつもりなら、消えてよこの泥棒猫!」


「――――なっ……?!」



 ここにきて佐奈の結衣に対する暴言の復活である。

 それに釣られ、微塵も言う事を聞こうとしない妹に一哉も爆発を開始。

 さらに手が付けられなくなる。



「佐奈っ! 東雲さんに失礼だろ! 謝れ!」


「お兄ちゃんはどっちの味方なの!」


「今はどう考えても東雲さんの味方だ!」


「なんで私じゃなくて、この女の味方なの?! お兄ちゃんなら妹の味方してよっ! お兄ちゃんのバカ! アホ! マヌケ!」



 完全に子供の喧嘩である。

 もはや限界までヒートアップして、論点がむしろ遥か彼方に去ってしまった兄妹喧嘩に、さすがの結衣も呆れ果ててしまう。



「もう、二人ともっ……!! これ私、怒っても良いよね……?」



 内心では一哉の肩を持ちつつも、結衣も流石に我慢ならないと参戦を決意。

 もはや泥沼の3者間戦争の開戦が高々と宣言され――――

 しかし声高々に宣言された3者間戦争は、突然の来訪者によって瞬く間に終戦を迎えた。



「まったく、アンタら兄妹は相変わらずね…………屋敷の外にまで響いてうるさいから、ちょっと黙ってくれる?」



一斉に声の主の方を向く3人。

 一哉達3人の視線の先には、長い黒髪をサイドテールにした少女が居た。身長は160cm程で、少しつり目の目と、高い鼻、薄い唇の美少女。佐奈と同じ黒のセーラー服を着ており、()()()()()()()()()()()()胸部を頑張って強調するかのように腕組みをしながら食堂の入り口に威風堂々と立っている。

 そしてその少女は、一哉と佐奈にとってはよく知る人物であった。



「咲良――――」



 一哉が少女の名前を呼ぶ。

 それは、一哉が今回の事態の対抗策として最も適任と選定し、そしてできれば会いたくなかった人物。



「お久しぶりね、一哉兄ぃ。大体5か月ぶり位かしら?」


「…………そうだな。ところで咲良、お前いつ来たんだよ?」


「何が『いつ来たんだ?』よ。貴方が9時に来いって言うから態々来てあげたっていうのに。もっと感謝の言葉とか無いわけ?」


「あ、あぁ、すまない……。悪いな、来てもらって。感謝してるよ」


「ふん……! 最初からそう素直に感謝してれば良いのよっ! まったく、これだから一哉兄ぃは女の子にモテないのよ」



 少女――咲良と呼ばれた少女は頬を少し赤く染めつつも、刺々しく一哉に返す。

 咲良は基本的に人に刺々しい態度で接する事が多い。そして、一哉相手だとそれが顕著である。

 なので、一哉は咲良に対してはなるべくイエスマンな態度で接する様に心がけている。触らぬ神に祟り無しだ。

 しかし、色々気を遣っている一哉の思惑を外し状況を引っ掻き回すのは、やはり咲良の元に駆け寄って行った佐奈だった。



「まったく、咲良ちゃんは素直じゃないなぁ。お兄ちゃんにお礼言われて嬉しいんだったらそう言えば良いのに!」


「なっ…………!!!! 佐奈、適当な事言わないで! 誰が一哉兄ぃに感謝なんかしてるっていうのよっ!」



 佐奈の言葉に劇的に反応する咲良はまるで瞬間湯沸し器。顔を真っ赤にして佐奈に食って掛かる。一哉は新たに始まった喧嘩に頭が痛くなり、結衣は知らない人間の乱入と突如の喧嘩の勃発に全く状況が飲み込めず、二人して呆然と立ち尽くすのだった。



● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇



 一哉達が「咲良」と呼ぶ少女。

 祈祷師の名門・北神家の一人娘で名前は北神咲良という。17歳の高校三年生である。

 鬼闘師と祈祷師。分業であるその性質より、北神家と南条家はその昔から幾度となく手を組んで様々な怪異に対処してきた。具体的には、北神家の祈祷師が表だって活動し、南条家の鬼闘師が秘密裏に怪魔を葬るといった具合だ。

 そういった家族ぐるみの付き合いがある以上、一哉、佐奈、咲良は昔からの顔馴染みであり――――一哉にとっても佐奈にとっても、所謂幼馴染みという存在であった。


 そんな南条兄妹と咲良の関係は、かつての咲良にとっては、昔馴染みの兄と可愛い妹という関係性であった。それこそ佐奈と咲良がまだ小学生の頃は、よく3人で遊んでいた。

 咲良は特に一哉になついており、「一哉お兄ちゃん」と呼んでよくその後を追いかけていた。この頃の咲良は天真爛漫そのもの。今の刺々しい態度からは想像もできない、素直な子供だったと一哉は記憶している。

 幼馴染であり、妹の様な存在。そんな関係が崩れ始めたのは、一哉が高校に進学してすぐ位の事であった。


 その時一哉は、16歳で異例の上級鬼闘師への昇進を果たしていた。現在の組織体系では、特級・上級の計二階級の鬼闘師は、それ以下の階級の鬼闘師に対して所謂管理職的な権限を持つとされている。

 今でこそ特級に昇進し、自分である程度の時間のコントロールが出来るが、上級鬼闘師時代の一哉は激増した任務に振り回され、一時期はほとんど家に居ない事すらもあった。それまでは入り浸るように南条家に遊びに来ていた咲良であったが、それをきっかけに咲良はあまり南条家を訪れなくなり、しばらく疎遠になってしまったのである。



 そんな一哉が咲良に再会したのは、3年前。咲良の祈祷師任官式であった。その前日に特級鬼闘師に昇進していた一哉は任官式に出席を求められており、そこで2年ぶりの再会を果たしたのである。

 当時咲良は祈祷師としては10年に一人の逸材と噂されており、その任官式は注目の的であった。一哉自身も、疎遠になってしまった咲良に久々に声をかけたかったのと、個人的に祝いの言葉を述べようと思っており、会場にたたずむ咲良の姿を見るなり話しかけに行った。

 またかつての様な純真な笑顔で応えてくれると思っていた一哉。

 しかし、帰ってきたのは予想だにしない冷たい辛辣な言葉だった。



『2年間も私の事を放っておいて、今さら何よ?』



 そう言い放った咲良は、一哉に目もくれずに去っていってしまった。

 これには流石の一哉も珍しくショックを隠しきれず、2日程は完全に上の空。最終的に佐奈が何かしたらしく、普通に会話位はできるようになったが、辛辣な言葉だけは最後まで治らなかった。


 一哉としては、昔のように純粋に慕って欲しいという思いもある。何度か昔の様に戻りたいと、昔の様に接してみようとした一哉だったが、その度に咲良は不機嫌になって一哉の前から去ってしまった。

 それゆえに一哉自身も今では半分諦めており、触らぬ神に祟り無しの精神であまり余計な事は言わない様にしているのだ。


 佐奈曰く、咲良のこの態度は『お兄ちゃんが全面的に悪いし、咲良ちゃんがああなったのもお兄ちゃんのせい』との事である。

 だが、一哉自身には咲良があの様な態度を取る理由が皆目見当がつかない。

 だから、どうすれば良いのか、何をすれば良いのかを未だに測りかねている。



 以来、一哉にとって咲良はとても優秀だがパートナーとして組みづらい存在になってしまっている。

 それでも一哉が、咲良を態々呼び出した訳。

 それは最早特別な関係性となってしまった東雲結衣の家に棲みつく悪霊への対処に、咲良以外の信頼できる人間が思い付かなかったからでしかなかった。

ヒロインは後一人出ます(第3章で登場します)。

何やらハーレムっぽい様相が醸し出されてますが、ハーレムエンドにはなりません。

エンディングだけは明確に考えてあるのです……


それでは、次回からもよろしくお願いいたします。

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