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鬼闘神楽  作者: 武神
第1章 その名は鬼闘師
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零ノ舞 プロローグ

諸事情により「それでも運命は残酷で」の連載は一時中断し、こちらの連載を始めます。


よろしくお願いいたします。


※現在第1章改稿中です(2020/9/末追記)

 ストーリーは変わりませんが、表現や文体、言い回しやセリフなど変えています。

 改稿前よりは読める作品になっていると信じています……!

 それは桜舞う夜の事――――



「そっちに行ったぞ、佐奈!」



 闇夜に男の声が響く。

 満月の月が照らす夜とはいえ、夜半を過ぎれば、首都圏郊外の夜は暗い。

 首都圏の夜空は大変明るく、例えば埼玉県から見ても、東京方面の夜空が光に照らされている事がはっきりとわかる程である。人によってはどこの道にも街灯があるというイメージがあるかもしれない。しかし、夜の道に必ず街灯があるとは限らない。

 少なくともこの場では街灯などなく、人を寄せ付けない程の薄気味悪い闇が立ち込めている。


 そんな街の闇に溶け込むかの様に、ある男が駆けている。その男は黒のパンツと黒のライダーブーツを履き、黒のトレンチコートを着込んでおり、髪も闇に紛れる様な黒と、全身ほぼ全てが黒。

 あまりにも闇に溶け込みすぎている出で立ちである。

 一応その男のトレンチコートの下は白いワイシャツなのだが、みっちりと着込んだトレンチコートはその要素を完全に排除し、男を一層闇の中に紛らわせている。

 まあ早い話が、『完全見た目不審者』だ。

 そしてその顔を見れば、切れ長の目と無表情が少し冷たい雰囲気を与える青年であった。



「任せて、お兄ちゃん!」



 対して答えるのは少女。

 ボブカットの茶髪に、セーラー服という出で立ち。黒を基調としたセーラー服である事を差し引いても、少女はどこにでもいそうな格好で、男とは対照的だ。

 こんな夜中に出歩いているのだ。人によっては不良少女と思うかもしれないが、少女は清楚な印象を与える優し気な顔をした、いかにも美少女といった出で立ちであり、その様な印象も抱きづらいだろう。

 どちらかというと、家出の方を疑うかもしれない。

 それでも、こんな真夜中にセーラー服を着た少女が笑みを浮かべながら全力疾走で走っているというのは少々異様だ。

 そしてその異様さは、右手に握られた薙刀の存在によってさらに強められている。


 そんな二人組の視線の先にいるのは、犬。

 いや、犬と言ってしまっては少々語弊があるかもしれない。その目は赤く光り輝いているし、牙は犬にしては巨大すぎる。そして毛並みは荒れ果てて毛羽立ち、一部は血に塗れて赤く染まっている。さらに四肢には妖しい輝きを放つ巨爪が備わっており、かなり凶悪で醜悪な外見である。

 見方によれば、狂暴化したサーベルタイガーと言った方が納得するかもしれない。



 そんな醜悪な怪物が、その巨大な牙を少女に向けながら疾走してくる。醜く開いた牙だらけの口から汚らしく涎をまき散らし、一心不乱に向かってくる様は飢えたハイエナそのもの。人間の嫌悪感を煽る、見るに堪えない光景である。

 対する少女は、右手の薙刀を下段に構え突撃――真っ向勝負する気だ。

 そのままどんどん少女と怪物の距離が縮まっていき、真っ向から相まみえるその直前――



「『黄閃断』――――――!」



 少女は何かを唱えた直後、薙刀を下から勢いよく振り上げた。

 一閃を描く薙刀は、少女の言葉に反応するかのようにそれ自身が淡い黄色の光に包まれる。そしてその軌跡を追うかのように黄色の閃光が走り、光は刃の様な石となって射出され、怪物に襲い掛かった。


 しかしその斬撃が怪物に触れることはなかった。

 怪物は野生の勘とでも言うべき恐ろしい反射神経で横へ跳躍。自らを切り裂かんと迫る刃を回避し、そのまま道脇の標識のポールへと脚をかけると、聞くに堪えないおどろおどろしい遠吠えを上げながら勢いそのままに再び少女に向けて大きく跳躍する。

 三角跳びの要領だ。

 怪物は一瞬で少女の攻撃を回避し、さらに反撃まで実行してみせたのだ。

 このままでは呆気なく少女の喉笛は噛み千切られ、瞬時に物言わぬ屍と化すだろう。

 しかし――――



「さっきのはブラフ!!こっちが本命だよっ!!!『刺突岩針』――――!」



 少女は空振りした薙刀を即座に返すと、そのまま袈裟斬り――――

 三角跳びをした事で動きが直線的になった怪物には、その斬撃を避ける事が出来ない。少女の喉笛を噛み千切るどころか、逆に肩口から深々と切り裂かれた。


 闇に怪物の叫びが響く。常人が聞けば、あまりの悍ましさに失神しかねない様な悍ましい苦悶の声。

 だがその様な状況となっても、怪物の相貌から狂気的な光は消えはしなかった。


 少女の思惑では、怪物自身の突進の勢いを利用し、先程の一撃で怪物を両断する筈であった。

 しかし怪物はその恐ろしいまでの身体能力により、空中で僅かに体を捻ったことで両断を紙一重で回避したのだ。


 深手は負ったが、動けない程の傷でもない。故に、怪物にも反撃のチャンスが生まれる。

 実際問題この手の怪物にはmこの程度の傷を与えただけでは足止めはできても、致命傷にはなりえない。例え普通であれば深手と言われる傷であっても、そんな己の肉体の損傷など気にする事無く、本能の赴くままに行動する――それがこの怪物達の特徴であった。


 怪物は自らの身体を切り裂いた憎き敵を討つべく、その本能により、今度こそ少女の喉を噛み千切らんと再び襲い掛かった。

 完全に不意を打った一撃だ。

 瞬きの間に少女の首は噛み千切られて落ちるだろう。

 獣の今生の間際というのはそれ位しぶとい。その無念・怨念は少女の体へ残酷にもその痕跡を深々と残し、命という儚い花を散らせる――――

 それが普通であったならば。



 少女の斬撃の後には、先ほどと同じく黄色の閃光が走る。

 閃光は斬撃の延長線上の地面に黄色の輝線を描くと、その地面を一気に隆起させた。そして瞬きの間に隆起は成長し、黄色の輝線のライン上に沿って無数の岩の針を形成する。

 結果、無数の鋭い針は的確に怪物の急所を刺し貫き、怪物の突進の勢いを完全に殺して地面に縫いつける事となった。



『ギャァァァァァ?!?!』



 夜の闇に断末魔が響きわたる。

 無数の岩の針は怪物の残り僅かな生も刈り取り、結果、怪物の牙は少女に届くことなく、虚空へと置き去りにされたままその猛威を収束させたのだった。



● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇 ● 〇



「随分と手こずったじゃないか、佐奈?」



 黒ずくめの青年が少女に近づきながら話しかける。



「いやいや、全部計算通りだからね、お兄ちゃん?」


「何が計算通りだ! 最初の打合せ通りだと、出現場所の公園で確実に仕留める筈だったろ。完全に公園出てんじゃねえか! この格好で街の中散々走り周る俺の身にもなれ……!! 大体お前は、霊力の消費をケチろうとギリギリまで術を発動しないから咄嗟の行動が……」


「はいはい、わかったわかった。お兄ちゃん、そのお説教週に3回も聞いてればいい加減飽きるからね? それに目立ちたくないのはわかるけど、むしろ大声出して目立ってるのお兄ちゃんだからね。」


「お前なぁ……っ!!」



 妹の口答えに思わず青筋を立てる青年だったが、そこで自分の懐に入っているスマホが振動していることに気がついた。

 取り出したスマホの画面上には「局長」の二文字。

 どうもスマホの通知欄を見る限り何度かこの人物から電話がかかってきていた様だった。動き回っていたせいで全く気付かなかったらしい。

 ちなみに、青年は自らの格好に合わせてスマホの色も黒にしている。

 姿格好から全てを闇に溶け込む事に気をかけているため、当然スマホは常時バイブレーターのみだ。

 だから着信に気が付かなくても仕方がない――とは流石に言い訳出来ない。何しろ相手は自分の上司なのだから。

 慌てて青年は「局長」からの通話に応答する。



「はい、南条です」


『ようやく出たか一哉。何回もかけたんだぞ』


「申し訳ございません。当初の殲滅ポイントからかなり動く事態となりまして気がつきませんでした」


『何、そうなのか? しかし、今回のターゲットは……』


「ええ、汚染重度B+。本来の南条佐奈の実力であれば楽に殲滅できる対象でした。しかし、ターゲットに変異を確認。俺がこの目で見た限り、実際の汚染重度はA~A+が妥当、といったところでしょう」


『なるほど。状況は把握した。それで、南条佐奈の試験の方はどうだ?』


「道中多少のトラブルはありましたが、無事【餓鬼狼(がきろう)】は南条佐奈一人で殲滅完了。資質・実力ともに申し分なしと判断しました。結果として、鬼闘師(きとうし)任官試験は合格であると特級として判断いたします」


『わかった。取り急ぎの報告ご苦労、南条特級鬼闘師。それでは対策院にて承認確認後、南条佐奈の任官式へと取り掛かろう――――――試験は合格だと、早く妹に伝えてやれ』


「承知いたしました。ありがとうござます。それでは失礼いたします」



 青年――南条一哉――が電話を切ると、横からやたらとキラキラした視線が自らにに注がれている事に気が付いた。

 一哉はスマホを再び懐にしまうと、その視線の主の少女――南条佐奈――へと向き直り、今まで無表情だった顔を僅かに綻ばせて、少女の肩へと手を延ばす。



「佐奈。聞いていたとは思うが、今回の鬼闘師任官試験は合格だ。対策院での承認後、お前は正式に鬼闘師として活動する事が認められる。――――――よく頑張ったな、佐奈。」


「やった……! お兄ちゃんっ!!」



 佐奈は満面の笑みを浮かべ、一哉の胸に飛び込む。

 一哉はそんな佐奈の髪を優しく撫で、月を見上げた。月明かりに、舞い散る桜の花びらが浮かび上がっている。



「帰ったらお祝いだね、お兄ちゃん?」


「何を言ってんだ。寝るに決まってんだろ。俺は明日も大学だ」


「それは私も同じだよ? 私も、明日も学校あるもん」


「だったら尚更早く寝ろ、バカ」



 甘えてくる妹に少しだけ辛口な言葉を返しながらも、一哉は偶然――舞い散る桜が妹の門出を祝福してくれるのを嬉しく思い、帰路につくのだった。



 この物語はある兄妹の物語。

 兄――南条一哉と、妹――南条佐奈の物語。

 闇の中で人知れず怪異と戦い続ける者達の物語である。

これより新作「鬼闘神楽」、どうぞよろしくお願いいたします。

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