第十九投「どうよ、この笑顔!」
県大会 一回戦 旅館ステージ 第一セット ──
こちらは右サイドに櫻ちゃん、左サイドにお姉ちゃんと響ちゃんといったフォーメーション。対する島田西は、櫻ちゃんの前に増田先輩、中央にリベロ、逆サイドにもう一人のアタッカーといったオーソドックススタイルだ。
試合が始まった瞬間、相手校の増田先輩が大声で
「藤原をマーク!」
と宣言する。それに対して、櫻ちゃんは目を細めて増田先輩を見つめる。
枕投げの序盤は、如何に迅速に相手の一人目を倒すかにかかっている。最初の一人が削られたチームが負ける確率は七割を超えており、それだけリカバーが難しい競技だと言える。
そのため序盤の作戦はだいたい二通りあり、エース同士をぶつけてその優劣に試合の行方を託すパターンと、エース同士はマッチアップさせず、チームの総合力で試合を行うパターンがあり、エースに自信があるチームは前者をとる場合が多い。この思惑が両チームでかみ合わなかった場合は、ポジション取り争いが激化して乱戦になる。
相手の宣言を信じるなら、今回は間倉と島田西はエース同士をぶつける作戦でかみ合ったようだった。
両エースは真剣な表情で下げた両手に枕を持ち、腰を落として左右に揺れてタイミングを計っている。最初に動いたのは増田先輩だった。左足を上げ腰を捻る。しかし、その瞬間……彼女の左肩に枕が当たってバランスを崩して倒れた。
「なっ!?」
そして『ヒット』表示が出ると、光の粒子になって場外に移動した。
その枕を投げた櫻ちゃんは、すでに投げ終わりのモーションから枕を拾っている。この数ヶ月の練習で櫻ちゃんのクイックスローの速さも、磨きがかかっているのだ。
よく聞き取れないけど、場外では驚きの声が上がっていた。試合を妨害しないようにBACEで生成されたフィールドには、外からの音が入りにくくなっている。たぶん「あれが中学MVPの藤原櫻子かっ!」とか言われてるんだろうなぁ。なぜかわからないけど、自分が褒められたようでちょっと嬉しかった。
開始十秒でエースを失った島田西は、大きく混乱している。増田先輩のヒットに驚いて止まった相手リベロに対して、お姉ちゃんはその隙を見逃さなかった。
響ちゃんの影から飛び出たお姉ちゃんは、センターラインのギリギリから逆手投げでリベロに向かい投げた。その枕はリベロの横腹に刺さり、光の粒子になって消えていく。そしてSAと壁のリベロを失った敵陣に、お姉ちゃんと櫻ちゃんの二人が一斉に枕を投げ込んだ。その枕が敵大将を見事に捉え、第一セットは間倉が取得したのだった。
あれ……またわたし何もしてないよっ!? 秘密兵器の出番は?
◇◇◆◇◇
あっという間に一セット目を落とした島田西は、そのまま動揺を立て直すことができず雑な攻勢に出てきた。しかし、そのほとんどを響ちゃんの厚い壁と、お姉ちゃんによって防がれてしまい。その隙に櫻ちゃんが敵大将に当ててゲームセット。
初戦は間倉の勝利に終わった。係りの人にセンターラインに呼ばれ、整列して試合終了の挨拶をする。
「ありがとうございましたっ」
わたしと握手をした相手の大将の先輩は泣いていた。わたしたちは一・二年のチームだから、もし負けても次がある。でも三年の彼女たちには、今の試合が最後の試合なんだ……。
ちょっと切ない気分になっていると、響ちゃんに両脇を掴まれて持ち上げられた。
「うわっ! ちょっと響ちゃん!」
これじゃ高い高いじゃんっ! 子供扱いは慣れてるけど、赤ん坊扱いはやめてっ! と、ジタバタと暴れていると響ちゃんは降ろしてくれた。
「寧々、勝ったのにそんな辛気臭い顔しない」
「し……してないよ。どうよ、この笑顔!」
まるでキラーンと効果音でも聞こえてきそうな、愛らしい笑顔を食らわせてあげると、響ちゃんは苦笑いを浮かべ、わたしの頭を撫でながら言う。
「はいはい、寧々は可愛いねぇ」
「ぐぬぬぬ……」
悔しいけど、響ちゃんは何でもお見通しだ。確かに響ちゃんが言うとおり考えても仕方がないことだし、今は次の試合について考えよう。丁度、次の試合が始まるみたいだし……。
◇◇◆◇◇
総合運動場 体育館 ──
わたしたちは、そのまま第五試合を観戦することになった。この試合の勝者が次の対戦相手になるからだ。整列している選手たちを見て、お姉ちゃんが何かに気が付いたように呟いた。
「あら……あれって恵子ちゃんと早苗ちゃんじゃない?」
「そういえば、二人とも菊川北でしたね」
わたしは首を傾げながら尋ねる。
「誰のこと?」
「あの薄い色の浴衣を着てるチームの背の高いのが恵子、その右隣にいる子が早苗よ。中学の頃はチームメイトだったの」
あ~……あの櫻ちゃんをジーっと睨んでる二人ね。当人はシレッとした顔をしているけど、櫻ちゃん何かやったのかなぁ?
試合が始まると両チームとも、オーソドックススタイルだった。恵子さんってほうがリベロで、早苗さんがSAみたいだ。パッと見た限りでは、二人ともかなり上手いって印象だった。動きも機敏だけど、お互い連携を取り合って相手の死角をつくのが抜群に上手い。
櫻ちゃんもやっていたけど、どうやらリベロを使ったミュラージュ系の技が得意みたい。アレって正面から見たら、どっちから出てくるかわからないんじゃないかなぁ?
「相変わらず息がピッタリね、あの二人」
「なるほど……リベロの動きが、とっても参考になる」
櫻ちゃんは上から目線で呟き、響ちゃんは頷きながらリベロの様子を観察していた。
そうこうしているうちに試合が動いた。菊川北の動きに翻弄された相手チームのアタッカーが転倒し、そこを狙われて『ヒット』。そのまま一気に一セット目を落としていた。やっぱり一人失うと厳しいんだなぁ。そう考えると練習試合の時の如月先輩は、凄かったんだなっと思う。
一分間のインターバルタイムを経て、始まった第二セットはダブルシューターに切り替えた相手チームが、早苗さんをリベロの後ろに押さえ込みアクティブタイムまで粘る。
そして、アクティブタイムになった途端、大将も含む四人の総攻撃を敢行し強引にセットを奪い取った。
「全員攻撃、怖っ!?」
わたしは、あまりの迫力に驚いて思わず声に出てしまった。総攻撃は大将が枕に当たるリスクは高まるけど、四名でラインを揃えての同時攻撃は、まさに面制圧って感じで正直あれを避けるのは難しいと思う。
「面白い攻撃だね、櫻子ちゃん。今度うちでもやってみようかしら?」
「確かに有効ですが、普通はセットを取ってるチームがやる戦術ですよ、アレ」
お姉ちゃんの提案に、櫻ちゃんは呆れた様子で答えている。しかし、これで一対一になって試合の行方がわからなくなってきた。おそらく相手チームは二セット目と同じ戦術を取るだろうけど、菊川北はどうするんだろ?
再び、一分間のインターバルタイムを経て、ファイナルセットが始まった。試合の流れは第二セットと同じく、二人のアタッカーで早苗さん押さえ込む展開だった。
「リベロの左右を押さえ込まれているあの状態……櫻ちゃんならどうする?」
わたしは櫻ちゃんなら、どんな風にこの攻撃を突破するのか気になったので尋ねてみた。
「左右がダメなら……私なら上かな」
櫻ちゃんが答えた瞬間、試合が動いた。櫻ちゃんが言った通り、早苗さんが恵子さんの肩に捕まって上空に飛んだのだ。アレは確か、前に櫻ちゃんがやっていた……MSOT【ミュラージュ スカイオーバースロー】!
上空に飛んだ早苗さんの攻撃に、相手チームは反応できず、彼女の投げた枕はDAを押さえていた相手リベロを捉えた。相手リベロは光の粒子になって場外に飛ばされる。
リベロを失った驚きに一気に崩れた相手チームは、そのまま大将が『ヒット』して、ゲームオーバーになったのだった。
これで間倉の次の相手は、菊川北! なかなか手ごわそうだけど、頑張るしかないねっ!




