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第十八投「県大会」

 桜橋との練習試合から二ヶ月が経過し、日差しもだいぶ強くなってきていた。……というか暑い! この街は冬すら暖かく、夏はそのまま猛暑になるので堪らないのだ。


 わたしは汗を拭いながら、この二ヶ月のことを思い出していた。


 この二ヶ月、わたしたちはひたすら練習に打ち込んできた。響ちゃんもアタッカーの二人との連携や、アクティブタイム後の練習。わたしも櫻ちゃんの指導で、邪魔にならない程度にはなってきたと思う。


 そして、今日は総合運動場内の体育館前まで来ている。全国枕投げ大会の県予選に参加するためだ。


 ここへは電車を乗り継いできたんだけど、今日こそ顧問の先生と会える! と期待していたら、なぜかバスケ部の顧問の先生が引率になっていた。しかも、近くの体育館で同じように大会があるみたいで、「風祭、こっちは任せたからなっ!」と言ってバスケ部のほうへ行ってしまった。監督責任放棄でPTAに訴えてもいいと思う。


 まぁ気楽と言えば気楽なんだけど、なんだか釈然としない。


 わたしがそんなことを考えていると、見慣れた人を先頭にピンク色のジャージを着た集団が近付いてきていた。


「よぅ、風祭! そっちの……三壁だっけ? 彼女のお陰で、間倉(お前ら)見つけやすいな」

「あぁ真さん。こんにちは、今日はよろしくお願いしますね」


 そう、このピンクの集団は桜橋高等学校 枕投部の面々だ。総勢二十人はいそうだ、さすがは強豪校は違うなぁ。少し部員を分けてくれないかな?


「藤原! 今日こそ、桜橋(うち)が勝つからなっ! 絶対勝ちあがってこいよ!」

「あら……み……三下(さんした)さん? 貴女、試合に出れるの?」

「三浦だっ! もう頭文字もあってないじゃない、絶対わざとでしょ貴女!」


 三浦さんと櫻ちゃんは相変わらずだな~。この大会はトーナメント方式で、組み合わせ的にわたしたち間倉と桜橋はブロックが離れているため、決勝まで行かなければ対戦できない組み合わせだった。


 そんな櫻ちゃんを眺めていたら、わたしと響ちゃんは、いつの間にか見知らぬ先輩たちに囲まれていた。


「本当に大きいね、君。何センチあるの~?」

「わぁ、この子、小さくて可愛い~本当に子安ちゃんより小さいんだねぇ」


 なぜ、わたしの周りには頭を撫でようとしてくる奴らばかりなのか! 伸びてきた手を避けながら引っ掻いてやろうかと思ったけど、試合前に問題を起こすとまずそうなので、大人しく愛想笑いを浮かべていた。


 そんな感じで桜橋の面々と話していたら、同じように集まっていた他校の生徒からはヒソヒソと


「ほら、あれ……桜橋だよ。やっぱり人数多いね」

「一緒にいるオレンジのジャージは?」

「あぁ、あれは間倉じゃないかな? なんか中学MVPの藤原が入ったって聞いたよ」


 などという話が聞こえてくる。さすが前回県大会優勝校だけあって注目の的である。間倉(うち)も櫻ちゃんのせいか、微妙に注目されている気がする。そんな中、子安さんが声をかけてきた。


「小鈴ちゃん、今日はよろしく」

「あっ子安さん、よろしくね」


 そう言いながら握手を交わす。同じ小さい選手同士、彼女とは何か通じるものがある気がする。それから、しばらく桜橋との交流を楽しんだあと、わたしたちは体育館の中へと向かったのだった。



◇◇◆◇◇



 総合運動場 体育館 ──


 さほど広くない通路に選手たちがズラーっと並んでいる。どこのチームも相手チームを値踏みするようにチラチラと見ている。このギラギラとした空気、どのスポーツでも変わらないんだなぁ。


 そして時間がきたのか、プラカードを持った人の先導で一校ずつ体育館に入って行く。わたしたちの番になり、体育館に一歩踏み出すと会場内は拍手に包まれていた。室内競技の大会ははじめてだったけど、こんな感じなんだなぁ。


 所定の位置まで移動して、全十五校が入って来るまで待つ。そして全校が集まると、その場で座るようアナウンスが流れたので一斉に体育座りで座る。


「大会実行委員長 ご挨拶」


 大会実行委員長と紹介された女性が、簡単な挨拶のあと開会の宣言があり、続いて優勝旗を返還に移った。


「優勝旗返還 前大会優勝 桜橋高等学校から如月真選手」


 アナウンスがかかると、如月先輩が旗を持って大会実行委員長の前まで歩み出る。そして、お辞儀をして旗を委員長に手渡した。代わりにレプリカを手渡された如月先輩は、もう一度お辞儀をして元の位置に戻っていく。


 その後はどこかのお偉いさんが現れて、「健やかな」とか「素晴らしいプレイを」とか、よく聞く定型文の挨拶を始めたけど、正直興味がなかった。……というか、早く終らないかな? この手のおじさんって、いつも同じようなこと言ってるよね。


 そして、最後のプログラムである選手宣誓が始まった。


「選手宣誓 選手代表 桜橋高等学校 如月真選手」

「はいっ!」


 如月先輩はそう元気よく返事をすると、わたしたちが並んでいる列の前まで歩み出て、手を上げながら選手宣誓をした。こうして開会式は無事に終ったのだった。




 開会式が終わると、それぞれのチームに分かれて、この後について話し始めた。


 試合のスケジュールとしては、わたしたちの間倉は第四試合で、対戦相手は島田西高等学校。去年の成績は県大会三回戦敗退。つまり県ベストフォーの一校だ。ちらっと島田西の方を見てみると、緑色のジャージを着た選手達が、今から始まる第一試合を観戦しようとしていた。


「櫻ちゃん、島田西って強いの?」

「そうね……SAの増田先輩は対戦したことがあるけど、攻守ともにバランスが取れた良い選手よ。後の選手は三年生ばかりみたいだけど、見たことはないかな?」


 櫻ちゃんはそう言いつつ首を傾げながら、お姉ちゃんに視線を送るけど、お姉ちゃんは首を傾げるだけだった。


 あっ……お姉ちゃん、絶対対戦相手とか調べてないよ。そもそも気にもしてなさそう……。


 でも、あの櫻ちゃんが褒めてるってことは、桜橋の三浦さんよりはいい選手かも? 一応気を付けないと!


 今日のために色々と練習してきたんだ。とにかく頑張るしかない!




 その後、他校の試合は順調に進み。わりとすぐに第四試合、わたしたちの公式デビュー戦が始まろうとしていた。係りの人に呼ばれて地面に書かれたセンターライン上に、わたしたちと島田西の選手が整列をしている。


 係の人が両チームとリングギアの同期を確認すると、試合前の確認と挨拶の号令をした。


「それでは、一回戦第四試合 島田西 対 間倉の対戦を始めます。一同……礼!」

「よろしくお願いしますっ!」


 一斉にお辞儀をする選手たちは自陣に引き返していく。係の人が両チームが分かれたのを確認したあと、リングギアを操作しながら開始の合図をする。


「それでは試合開始します。GTB!」


 その瞬間、いつもの眩い光に包まれて目を瞑る。



◇◇◆◇◇



 県大会 一回戦 旅館ステージ セットアップタイム ──


 目をゆっくり開くと、いつもの旅館ステージではなく、窓側には風光明媚な眺めが広がっていた。どこかの高級旅館から見た景色なのかな?


「綺麗だなぁ……」


 思わず呟いてしまったけど、響ちゃんはポンッとわたしの頭に手を置いて諭すように言う。


「寧々、今は試合に集中!」

「うっ……うん!」


 櫻ちゃんとお姉ちゃんは島田西の陣地を見ながら、マッチアップの組み合わせの話し合いを始めた。


「やっぱり、櫻ちゃんが増田さんとマッチアップがいいかな?」

「任せてください、紫音先輩!」


 お姉ちゃんの提案に、櫻ちゃんは力強く頷いた。どうやら気合い十分のようだ。


「それじゃ、わたしと響子ちゃんで残り二人を何とかしましょう」

「はいっ、わかりました」


 わたしは小さく手を上げて、お姉ちゃんに尋ねる。


「紫音姉ちゃん、わたしは~?」

「寧々ちゃんは、秘密兵器だから温存かな。この試合ではあまり無茶せずほどほどにね」

「うん、わかった!」


 わたしは秘密兵器と言われて、ちょっと有頂天になる。仕方ない出番が来るまで大人しくしてるか~。




 そして、それぞれのポジションに付くと、第一セット開始のカウントダウンが始まった。


 3……2……1……GAMESTART!

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