第十六投「様々な大将」
試合後の挨拶のあと、両校一緒に軽くストレッチなどをしてクールダウンする。この辺りは、どの運動部でも変わらないみたい。その後、再戦の約束をして桜橋の面々は帰っていった。
間倉高等学校 女子部室棟 シャワー室 ──
わたしたちは部活の汗を流すために、部室棟にあるシャワー室に来ていた。シャワー間は完全な個室にはなっておらず、それぞれの簡単な衝立があるだけのものだった。
わたしはシャワーを浴びながら、試合を思い出していた。あの時、あーしていれば! とか、こーしていれば! とか色々考えてしまって、ついついぼやいてしまう。
「あ~勝ちたかったな~、最後あと一秒あれば、わたしたちの勝ちだったのに」
「まぁデビュー戦だし、強豪相手にドローならそんなに悪くないんじゃない?」
響ちゃんが衝立の上から、顔を覗かせながら言ってきた。それに返事をしたのは、逆の衝立から顔を出した櫻ちゃんだった。
「今日の桜橋は一年生ばかりで、ベストメンバーじゃないから自慢にはならないよ、響子」
「そう言えば、そうだったか」
二人に挟まれたわたしは、響ちゃんと櫻ちゃんの顔を見比べながら尋ねる。
「そうだ! そう言えば、二人ともいつそんなに仲良くなったの? いつの間にか名前で呼び合ってるしっ!」
二人は顔を見合わせると、ニヤニヤと笑い出した。
「別に……同じチームで、一緒に練習している仲間なら普通でしょ?」
「そうそう、普通だって! なぁに、寧々? ひょっとしてヤキモチ~?」
一瞬ドキッとしたけど、なんとか取り繕って
「ち……違うもん!」
と首を振って否定する。しかし響ちゃんはニヤニヤと笑いながら、衝立越しに手を伸ばして頭を撫でてきた。
「本当に可愛いな~寧々は~」
「うわっ……や……やめろぉ~」
わたしは何とか逃れようとしてみたけど、狭いシャワー室では響ちゃんの長い腕からは逃れられなかった。仕方ないので矛先を櫻ちゃんに変える。
「うぅ~……じゃ、櫻ちゃんは何でわたしのことは、名前で呼んでくれないの!? 響ちゃんより、わたしと一緒に練習してた時間の方が長いじゃん!」
「試合中に胸を揉んでくるような人は、仲間ではありませんから」
ま……真顔で言われた! 根に持ってたよ、このお嬢様。ちょっと元気付けようとしたお茶目な悪戯なのに! ちょっと悔しかったので、したり顔で言い返してみる。
「うん、あれは大変良いものでした」
次の瞬間、顔を赤くした櫻ちゃんにシャワーを浴びせかけられた。
「うわっぷ!?」
「あはは、何してるのよ、二人とも!」
三人とも笑っていたけど、ふと櫻ちゃんが真顔に戻ってマジマジとわたしを見てくる。そして、クスッと笑うと
「ふっ……子供っぽいと思ってたけど、本当に子供なのね?」
と馬鹿にしたような顔で言ってきた。わたしは両手で慌てて身体を隠すと、顔を真っ赤にしながら聞き返す。
「ちょっ! いま、どこ見て言ったのっ!」
「さぁ、どこかし……うぷっ、冷たっ!」
わたしは、先ほどの仕返しにシャワーを冷水に変えて櫻ちゃんに向ける。そんな感じで三人で騒いでいたら、シャワーを浴び終わったお姉ちゃんが、通り抜けざまに
「みんな……ほどほどにね」
と言ってシャワー室から出て行った。普段が穏やかな分、怒るとお姉ちゃんはとても怖い。暖かいはずのシャワー室なのに少し寒気を感じた気がする。わたしは少し震えながら、二人の顔を見合わせて呟いた。
「そ……そろそろ、出ようか?」
二人とも同じ気分だったのか、頷いて同意するのだった。
◇◇◆◇◇
間倉高等学校 第六練習所 ──
それから三日間は部活の練習がなかったので、今日は久しぶりの練習日だ! 響ちゃんは少し遅れると言うので、よ~し、頑張るぞぉ! と気合を入れて早めに練習場に来たら、そこにいた櫻ちゃんに「丁度良かった」と言われて座らされた。
「寧々、今日はまず大将の役目について説明するわ」
あのシャワー室の一件以来、ついに櫻ちゃんが名前で読んでくれるようになったのだ。わたしが嬉しくてニヤニヤしていると、櫻ちゃんはリングギアを操作しながら注意してくる。
「ちゃんと聞きなさい!」
「は……はいっ!」
わたしが慌てて姿勢を正すと目の前に画面が現れた。どうやら、櫻ちゃんが映像再生アプリを起動したようだ。
「一口に大将と言っても、いくつかタイプがいるの。それを選手を見ながら説明していくね」
ピッ!
という起動音と共に、画面では枕投げの試合風景が映し出された。選手一人ずつの動きは、間倉より鈍い気がするけど、比較的小柄な大将が全体を把握しながら的確に指示を出して、上手く連携を取りながら試合を運んでいた。
「彼女は、山梨県の丹波大付属高等学校の二年で『名将』武田 渚よ。丹波付属は県大会で初戦敗退ばかりだったけど、彼女が二年のキャプテンになった去年は、全国ベストエイトまで勝ち進んだの。全体を把握しつつ指揮をする典型的な司令官タイプね」
ピッ!
次の映像に変わった。このチームでは響ちゃんほどではないけど、長身の選手が大将を務めていた。針に糸を通すような正確なスローで、相手を圧倒している。チーム的もダブルシューターのようで三人攻撃の迫力が凄い。
「この人は、広島の備北高等学校の三年、『スナイパー』大番 妙よ。渾名のとおり、後方から的確な攻撃をしてくるタイプの大将ね。彼女のようなタイプは、アクティブタイムになっても前には出て来ないわ」
ふむふむ……こんな風にピュンピュン投げられたらカッコいいだろうなぁ。そんなことを考えていたら、次の映像に変わっていた、今度はアクティブタイムになった瞬間、前に出て避けまくっている子の映像だった。
「このタイプが、今の寧々に一番近いスタイルかも? 彼女は新潟の村上第二高等学校の二年、『バタフライ』木ノ瀬 直美さんね。通常支援もしつつアクティブタイムでは囮役として駆け回り、敵の攻撃を引き付けるタイプよ」
確かに……この前の練習試合じゃ、こんな感じだったかな~?
「う~ん、他にはどんなタイプがあるの?」
「ここからはあんまり参考にならないけど……」
ピッ!
櫻ちゃんがリングギアを操作すると、また映像が切り替わった。今までの試合より歓声が激しいから大きな試合なのかな? アクティブタイムで四対一、大将が一人で絶望的な状況だけど何故か笑ってる。あれ? この子、どこかで見たことあるような?
「あー! 愛理ちゃん! 祢寝 愛理じゃん、この子!」
そこに映ってたのは、アイドルの愛理ちゃんだった。
「さすがに有名よね。愛知県の愛美女子学院二年『エース』祢寝 愛理先輩、渾名の『エース』は……観ていればわかるわ」
愛理ちゃんは無数に飛んでくる全ての枕を回避しつつ、次々と敵を撃破して試合をひっくり返してしまった。なにこの動き!? わたしより瞬発力があって、響ちゃんと同じぐらいのパワフルで、櫻ちゃんみたいにコントロールが良くて、お姉ちゃん並みの見切り!?
正直勝てる気がまったくしない……何なの、この強さ。わたしが青くなっていると、櫻ちゃんが頭にポンッと手を置いた。
「わかるわ……私も中学時代に一度だけ戦ったことがあるけど、手も足もでなかったもの」
「あっ、ひょっとして前に言ってた、マッチアップで勝てなかった人って?」
櫻ちゃんは、黙ったまま頷いた。そっか~愛理ちゃんが、櫻ちゃんにとってのライバルなんだね。全国には、こんな化け物がたくさんいるんだ……わたしがちょっとだけワクワクしていると、櫻ちゃんがリングギアを操作して次の映像に切り替えた。
画面には櫻ちゃんと同じぐらいの背丈で黒髪の女性が映し出されていた。
「残念だけど、愛理先輩がいる愛美女学院は去年の全国二位。優勝したのは兵庫の粟津高等学校、この人はその学校を率いている三年生で大将『絶対王者』慶雲 天音先輩よ」
「絶対王者って凄い渾名だね」
「これは去年の決勝戦、粟津高と愛美女子の試合になるわ」
櫻ちゃんの真剣な声色に、わたしも息を飲んで映像を観はじめた。
しばらく後、わたしは思わず呟いた。
「何なの……これ?」




