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第十四投「また違う弾力」

 旅館ステージ インターバルタイム ──


 セット間のインターバルタイムになったので、再びハーフエリアに集まったわたしたち、わたしは開口一番で謝った。


「ごめんなさいっ」


 一番遠いジェネラルエリアにいる大将が、サーチに当たるなんて恥かしい失敗だと思ったのだ。それに対して、響ちゃんとお姉ちゃんは慰めてくれる。


「どんまい、どんまい!」

「あれは最後に投げた相手の子が上手かった、気にしちゃだめよ」


 だけど、櫻ちゃんは黙ったままだった。……と言うより、わたしより櫻ちゃんのほうが責任を感じているのか、気を落としている様子だ。


「櫻子ちゃん、大丈夫? 当てられたぐらいで気にしちゃだめよ」

「でも、あの一投で崩れたから……」


 だいぶ落ち込んでいる様子の櫻ちゃんに、わたしは忍び足で近付くと正面から


 むにゅ!


 と櫻ちゃんの胸を持ち上げるように鷲づかみしてみた。櫻ちゃんは、突然のことに完全にフリーズしている。


「うむ、響ちゃんとは、また違う弾力の……」


 次の瞬間、絹を裂くような乙女の叫び声と、響ちゃんのアイアンクローがわたしの頭蓋骨を締め上げていた。


「きゃぁぁぁ、な……なにをするのっ!?」

「いたたたたた……痛い、響ちゃん、痛いよ!」


 響ちゃんは冷たい視線を送りながら、わたしを問い詰める。


「本当に……なにしてるのかな、寧々~?」

「響ちゃん、顔が笑ってないよ? ちょっと元気付けようと……いたたたた」


 このままじゃ頭蓋骨が割れるっ! と思ったけど、お姉ちゃんが響ちゃんを止めてくれて、わたしの頭蓋骨はなんとか無事に済んだ。お姉ちゃんは心配そうな表情で櫻ちゃんに尋ねる。


「そろそろ時間だけど、櫻子ちゃん大丈夫?」

「大丈夫です! 落ち込むたびに、胸を揉まれたら堪りませんからっ!」


 櫻ちゃんはキッ! と、わたしを睨みつけてくる。どうやら、もう大丈夫みたい! また好感度が下がった気がするけど、ちょっとツンツンしてるぐらいが櫻ちゃんらしい。


 そんなことをしている間に時間は経過し、三セット目が始まるカウントダウンが始まった。



◇◇◆◇◇



 旅館ステージ ファイナルセット ──


 泣いても笑っても、これが最終セット! 覚悟を決めて頑張るしかない。


 相手側を見てみると、如月先輩を除いてメンバーが変わっていた。SAの佐藤さんに代わって、先程外された三浦さんが戻ってきていた。リベロと大将もさっきまでとは違う子が入っている。


 そういえば、一年生の経験のためって言っていたなぁ~。部員って何人ぐらいいるんだろ?


 そんなことを考えていたけど、パァンッ! という音と共に現実に戻される。このセットの第一投を放ったのは櫻ちゃんだ。初っ端から如月先輩を狙った速攻だったが、やはり枕によって防がれてしまっていた。


 舞い散る羽毛の奥で、三浦さんが何かを喚いている。


「藤原っ! お前の相手は私だって言ってるだろっ!」

「まったく……うるさい人ね」


 如月先輩は、櫻ちゃんに向かって反撃しようとしたけど、投げた枕はお姉ちゃんの枕で打ち落とされていた。


「真さん、可愛い後輩をいじめるのはやめてくださいな」

「へっ、だったら……本気でやれよ、風祭」


 今度は三浦さんが、櫻ちゃんを狙って枕を投げた。しかし、櫻ちゃんは舞うように回転しながら避けると、逆手で三浦さんの方に投げる。


 あの回避と攻撃が一体になっている動きは、S・RBH!


 S・RBH【スタンディング・ローリングバックハンド】とは、立った状態で行うRBHのことで、飛んできた枕を回転して避けながら、逆手で投げる手法である。見た目は格好良さに比べて、命中精度と回避性能がそこまで高くないため、ある意味魅せ技と言われている。


 それでも放たれた枕は的確に三浦さんの方に飛んでいった。しかし、相手のリベロが横に移動してそれを阻止、枕はそのまま布団に当たって止められてしまった。


 その瞬間、櫻ちゃんは中央から左サイドに走り、響ちゃんの影に隠れた。敵リベロの後ろから出てきた三浦さんは、櫻ちゃんを完全に見失っていた。わたしも援護のために、三浦さんとリベロが固まっている付近に枕を山なりに放り込んだ。


「響子、肩借りるよっ!」

「来いっ、櫻子!」


 助走を付けた櫻ちゃんは、響ちゃんの右肩に左手で引っ掻けるように捕まり、そのまま乗るように跳躍した。そして、響ちゃんの上から相手のリベロを越えて、三浦さんの顔面に枕を叩きこんだ。


 その大技を見た、桜橋の外野からは


「アレは……MSOT!」


 と驚きの声が上がった。


 MSOT【ミュラージュ スカイオーバースロー】とは、リベロの背中からリベロの身体を使って頭越しに叩きこむ技。かなりの身体能力が必要なうえリベロにも負担をかける。そして滞空時間も長いため外した場合、カウンターを食らう危険性がある技でもある。


 そんな大技を、中学から上がったばかりの櫻ちゃんが使えたのに驚いた様子だった。そんなことより、あの二人いつの間にあんなに仲良くなってたの!? わたしなんて未だに名字に「さん付け」なんだけど!?


 しかし、櫻ちゃんスロットル全開だなぁ。




「リベロ、風祭をカバー!」

「は……はいっ!」


 人数が減ったことにより、桜橋は作戦を変更したようで如月先輩の指示が飛ぶ。やっぱりDAのお姉ちゃんにリベロを当てるんだ? 何か理由があるのかな?


 そして、入れ替わるように逆サイドに走った如月先輩は、櫻ちゃんに向かって指差しながら


「来いよ、一年……遊んでやるぜ」


 と挑発する。


「響子は下がってて……胸をお借りします、先輩!」

「へっ、いい度胸だ」


 セオリー通りなら、ここは響ちゃんに相手のSAを押さえてもらって大将を狙うか、協力してSAを先に落とすかだったはずだけど、完全に一対一で戦う流れだ。響ちゃんが戸惑い気味にお姉ちゃんの方をみると、お姉ちゃんは苦笑いを浮かべながら頷いた。


 響ちゃんは納得したのか、Lラインギリギリまで下がると、わたしを守る盾になってくれている。


 セットが始まってから約四十秒、三浦さんが戻ってくるまで約二十秒強、ポイントはこちらが一点リードの状況で、両チームのエースSA同士がマッチアップ(激突)した。


 両者とも腰を落として、お腹の前辺りで枕を両手で持って、左右に揺れてタイミングを測っている。


 先に動いたのは如月先輩だった、小さく振りかぶって櫻ちゃんに向かって枕を投げる。対する櫻ちゃんは、それを一歩左に避けながら、大きく振りかぶって投げた。かなりの速度の枕だったけど如月先輩はクイックスローで投げていたため、余裕で避けながら次の枕を拾う。


 お互い次弾勝負!


 如月先輩は先ほどより大きく振りかぶっている。櫻ちゃんは先ほど振り下ろした手で枕を掴んで、すでにフォームに入っている。あれは櫻ちゃんお得意の速射投げだ。



 パンッ!



 両者の枕はセンターラインの付近でぶつかり、盛大に羽毛を撒き散らした。


 そして、相手のジェネラルエリアに三浦さんが復活して


「すみません、三浦戻りましたっ!」


 と言って前に出てくる。如月先輩はニヤリと笑うと、櫻ちゃんに向かって


「勝負はまただな、藤原」


 と言い残して、元のポジションに戻るとリベロと交替していく。対する櫻ちゃんは、如月先輩を倒せなかったのが悔しかったのか、背中から闘志の炎が見えるようだった。




 三浦さんが戻ってきてから三十秒が経過していた。


 戻ってきてからは頭を冷やしたのか、三浦さんも無理なプレイはしなくなり、リベロを上手く使って隠れている。対する櫻ちゃんは闘志に火がついてしまったのか、数々のフェイントを入れながら相手リベロのマークを振り切ろうとしていた。




 一方、如月先輩とお姉ちゃんのマッチアップでは……


 二セット目の頭から全力で投げ続けている如月先輩と、反撃は出来ていないけど飄々と避け続けているお姉ちゃんの戦いだった。両者互角のように見えるけど、実質的には如月先輩の目的である「お姉ちゃんに当てる!」に対して、「相手エースを抑える」という目的を達している、お姉ちゃんの勝ちだと言える。




 そんな中、センターラインの辺りに、アクティブタイムの開始を報せる10カウントが表示された。もう少しでエリア制限が外れて自由に動くことができるっ! わたしは枕を握り締めながら今か今かとワクワクしていた。


「早く! 早く!」




 3……2……1……アクティブタイム!

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