第三者から見る婚約破棄
R15は一応です。
「私、アルフォンス・ボーフォートは第一王子の名において、リーシア・キャンベル公爵令嬢との婚約を破棄することをここに宣言する。」
今は王宮で第一王女メアリ・ボーフォートの18歳の誕生パーティの真っ最中にも拘らず、その弟王子であるアルフォンス王子が雰囲気ぶち壊しの宣言をしたのだ。
リーシア・キャンベル公爵令嬢は小柄で眩いウェーブの掛かった金髪を持ち、たれ目がちの大きな目で
美人というよりは誰もが可愛いと思えるような風貌の持ち主だ。
さらにこの国の貴族が通う学園でも上位5位以内の成績を維持しつつ、婚約者であるアルフォンスのために半年前から王妃教育も受けている大変努力家である。そんなリーシアに対して、何が不満があるのかアルフォンス王子が国の有力貴族達が集う王女の誕生日パーティで婚約破棄をしたのだ。
当のリーシアは、ただただ呆然とアルフォンス王子の前に立ち尽くしている。
周りが静寂に包まれる中、アルフォンス王子が声高々に続けて宣言する。
「リーシア嬢は、学園内で自分の派閥を形成し、敵対勢力に属する令嬢に対して、誹謗中傷嫌がらせ等多々の犯罪ともいえる数々の行為を行った。私はそんなリーシア嬢との婚姻は拒否させて頂きたい。そしてサマセット伯爵令嬢・アウレーリアとの婚約を新たに結ぶ事とする。」
すると二人を囲むように群れていた群衆の中から、一人の華奢な女性がアルフォンス王子に笑顔で近づき腕を取った。
「リーシア様、お初にお目にかかりますッ。アウレーリアと申します。この度は、このような事になりましたが、どうぞよしなによろしくお願い致します。」
そう言ってアウレーリアはリーシアに勝ち誇ったような笑顔を向けた。
このアウレーリアという伯爵令嬢は、ピンクのドレスに少しピンクっぽい金髪、ストロベリーブロンドとでもいうのだろうか。少し珍しい髪色をしていて、濃い茶色のまん丸の目で上目遣いうるうるとアルフォンス王子を上目遣いで見ている。まぁ普通に見目は可愛いが少しアホっぽく感じるのは私だけだろうか。
「アウレーリア、そなたに対し数々の嫌がらせを行ってきた相手に対し、仲良くなろうとしなくて良い。学園を中退し王妃教育が始まればどうせ、リーシアとはもう会うことがないであろう?」
「そうですね。私王妃教育がんばりますねッ!」
「というわけで、リーシア嬢。私の婚約者から外れた為にこのパーティに出る資格はない。速やかに退場願おう。またアウレーリアやその他の令嬢に行った数々の嫌がらせに対しそれ相応の処罰を追って行うことになる。自宅にて待機しておくように。」
自信満々でそう言い放ったアルフォンスを正面から悲しげに見ていたリーシアは答えた。
「・・・はい。」
否定も肯定もしないままで俯きながら呟く。
元々このリーシアという公爵令嬢は、自己主張も激しくなく、控えめな性格なのだ。だが決して優柔不断な訳でもなく、嫌がらせをする様な性格でもない。冷静に考えれば、解りきっている事だ。周りの皆もがリーシアに対して同情的な目を向け、アルフォンスの横で勝ち誇った笑みを浮かべているアウレーリア嬢に対して嫌悪感を持った目を向けているではないか。婚約者を取ろうとした女に嵌められて、女に騙されてのぼせ上っているアホな婚約者に糾弾されているのが誰が見てもわかる。ただ、周りが誰も何もいえないのは、その婚約者がこの国の第一王子という身分であるからだ。
いやいやいやいや、ちょっと待って?
その状況を見て、私は口を挟んだ。
「リーシア、待ちなさい。」
出口のほうへ涙溜めた目で俯きがちに歩いていくリーシアは足を止め、こちらに目を向ける。アルフォンス王子とその隣で腕を組んでるアウレーリア嬢はすぐさま振り返り、王子が問いかける。
「姉上?」
そう私はメアリ、今日この宮殿で誕生日パーティの主役である王女だ。今日はこの国での成人を向かえ人生で一番盛大に祝わってもらえる日なのだ。
「アルフォンス、私の誕生パーティで一体なんの茶番をしているのかしら?」
「姉上、リーシア嬢との婚約破棄をこの場でした事は…申し訳ございません。だが、しかし来週から学園の新学期が始まります。それ故、それまでにリーシア嬢を糾弾しなけ」
「お黙りなさい。」
少しばつの悪そうな顔しながら釈明をするアルフォンスに対し、最後まで発言を許す気はない。
「メアリ王女様!アルフォンス様は私のために今日この場で宣言してくださったのです。。どうぞ叱るなら私をッ・・・」
「アウレーリア・・・」
見つめあうアルフォンスとアウレーリアの愛の劇場?を見せ付けられイライラする気持ちがヒートアップしていく。その向こうで一人肩を落とし、うつ向きがちにたたずんでいるリーシアを見てぐっと怒気を押さえつける。
「解りました。ところで、アルフォンス。この伯爵令嬢?という子ですが、一体どこの伯爵令嬢なのでしょうか?」
「お初にお目にかかりますッ。私、隣国サナトリアから留学して参りましたサマセット伯爵家アウレーリアと申しますッ。アルフォンス様とは・・・先ほど婚約のお約束をさせて頂きましたッ」
すかさず、上目遣いでニコニコと挨拶を述べてきたアウレーリアだが、私が彼女に問いかけもせず勝手に発言する時点で不敬罪である。うちの弟は女に簡単に騙されるタイプだったか。
「アルフォンス、貴方に聞いているのですが・・・、まぁ隣国からの留学生ということで王族に対する敬意というか、礼儀が少し違うのかも知れませんね。まぁ良いでしょう。とりあえずはリーシアとの婚約破棄とそのアウレーリアとの婚約を認めます。」
「姉上!!寛大なお心に誠に感謝致します。」
アウレーリアの不敬もあり少しバツが悪いが浮かれ気味で弟が笑顔で答えた。
「お姉さま!ご安心してくださいませ!私はアルフォンス様と結婚し、王妃になってこの国をしっかり支えていきますッ」
「アウレーリア・・・ありがとう。」
周りの目も気にならず、世界の中心は二人だとばかりにイチャイチャしてる。私の怒りのバロメータがどんどん溜まっていくが、とりあえず場を収める為にも、このまま話し合いを続けなければ。
「しかし、先ほどリーシアに対して処分があると言っていましたね?まず貴方に彼女を裁く権利はありません。そして、わざわざ彼女に王妃教育して頂くことはありません。」
「「はっ?」」
私のきっぱりとした物言いに、目の前の二人は声を揃えた。
「順を追って説明が必要かしら?まず、今日で私は18歳になりました。この国の成人です。この国の王位は長子相続つまり、私が次の王になります。」
「「えっ?」」
「ちょっと待ってください姉上!私の婚約者であったリーシアはずっと王妃教育を受けてきました。それはつまり、私が時期国王であるということではないですか!何をおっしゃっているのですか!」
「そうです!第一王子が国を継ぐのは当たり前です!私の国ではそうですよ?王子が継ぐのが一般的ですよね!私は王妃教育を頑張りますッ!」
再び、アホ二人は声を上げたが、気にせず続ける。
「長子が18歳になり、王位を継ぐことが決まり次第、他の王位継承者・・・つまり私の弟であるアルフォンスは今日付けで臣籍降下となり公爵となることが決まっています。あ、第二王子もですね。その為リーシアと同じ公爵地位となるアルフォンスにはリーシアを裁く権利はありません。」
「「はっ?」」
私は確信を持ってリーシアに尋ねる。
「そして、リーシア。アウレーリアに犯罪行為等と行ったという事ですが、それは一切の冤罪ですね?」
俯いていた顔を持ち上げ、しっかりと私の目を見て答える。
「いいえ。メアリ王女様。アウレーリア嬢やアルフォンス様に対し一度友人に不満を漏らしたことが在ります。なので・・・すべてが冤罪という訳ではありません。」
「何を言ってるんだ!?アウレーリアに対し、怪我を負わすようなことまでしていただろう!」
「そうですッ!私はリーシアさんに階段から突き落とされて痣ができたんですよッ!」
「あのね。アルフォンス。私が自分の弟に近づいてくる訳の解らない虫に対して・・・じゃなくて令嬢に対して調べてないとお思い?何度もアウレーリアが怪我をしたと保健室を訪ねた日はリーシアは王宮で王妃教育を行っています。リーシアには不可能です。」
アルフォンスは少し怪訝な顔で、アウレーリアの方へ顔を向け、尋ねる。
「・・・そうなのか?」
「そんなの怪我をしたのが何時だったか覚えてませんわッ!私のこと愛していますよね?王妃にしてくださるんですよねッ?アルフォンス様!信じてくださいッ!ねッ?」
アルフォンスに対し、すがる様な目を向け腕を絡ませ顔を近づけ愛をささやく令嬢。
「それに、アウレーリアはリーシアに怪我をさせられたり、嫌がらせを受けたと言っていましたが、貴女先ほど、リーシアに対してなんと挨拶されていました?『お初にお目にかかりますッ』でしたっけ?」
証拠がなくとも、王妃になりたかっただけのアウレーリアはアルフォンスからの婚約を取り付けた時点で舞い上がって自分でボロを出しているのに気がついていない。
流石に色々気づき始めたアルフォンスは、アウレーリアの絡みついた腕を放し少し距離を取ってアウレーリアを見つめる。ちらりとリーシアを見ればただ悲しそうに伏し目がちに俯いている。
「アウレーリア・・・君の言葉を信じていたんだが、解らなくなって来た。王子じゃなくても俺を愛していると、支えになりたいと、リーリアに文句を言われたり、怪我をさせられたと・・・何が一体本当なんだ!」
「アルフォンス様・・・!全て本当ですわ。メアリ王女様はリーシア様に騙されているのですわッ!愛しています!あんなに二人で愛し合ったではありませんかッ!」
瞳をうるうるさせ手を伸ばしすがり付こうとするアウレーリアに、焦りを隠せないアルフォンスが伸びてきた手を制止し、アウレーリアの口を塞ごうとする。その間もリーシアは俯きながらひたすら肩を震わせ耐えている。
「アルフォンス、よく聞きなさい。リーシアはその娘が学園に編入してきた半年前より王妃教育を王宮で受けています。共に学園に在籍したは初日だけです。そしてその日、これから王妃教育で王宮にこもる為、学園生活最終日にも拘らず、婚約者であるリーシアに一言も声をかけず転入生と遊びほうけていた貴方に対しまわりの友人に少しぐらい不満は言うでしょう。そして、何らかの理由で長子の私が国王にならなかった場合、隣国の王子へと嫁ぐことが決まっていました。その為、半年前より毎日リーシアは私と一緒に王妃より王妃教育を受けていました。しかし私は本日王位を継ぐことになり、隣国の王子へ嫁ぐ事はありませんが、隣国の内情も教育を受けています。そこのアウレーリア嬢、貴女は中途半端な時期にわが国へ留学してまいりましたね。どうして急にこちらへ来たのか、私もリーシアも存じていますわよ。」
王女の冷たい言い方に対し、アウレーリアは顔とカッと赤くして王女とリーシアを順々に睨み唇を振るわせ俯く。
一体何をしたんだ?いえないことなのか?と問答しているアルフォンスに対し、王妃になれないなんて聞いてないッ!と二人で小声で押し問答している。
「とにかく、アルフォンスはその娘と婚約したのだから責任もって婚姻を。女に誑かされ騙されたとは言え、公爵家令嬢に冤罪をなすりつけた罪、場を弁えない発言諸共含めて、臣籍降下を公爵ではなく子爵とします。そしてリーシア、貴女は馬鹿な王子に振り回されて何の罪もありません。愚弟が迷惑をかけ後日、王家より心よりお詫び申し上げます。そして、兼ねてより、打診しておりました、愚弟との婚約破棄...これは先ほど決定した事項でしたわね。隣国第一王子との婚約についてどうぞ再考してくださいませ。」
アルフォンス王子が信じられないとアウレーリアが小声で言い合いをしている中、リーシアは周りで動向を見守っていた貴族達に笑顔で一礼をし、紺の銀糸を纏った光沢のあるドレスの裾を持ち上げ、とびっきりの笑顔を向けて王女に返事した。
「メアリ王女様、私へのお言葉有難うございます。そのお話お受けいたします。そして王女様お誕生日おめでとうございます。」
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「いやー、まさか自分の誕生日兼王位継承者発表パーティで婚約破棄を見れるとは思いませんでしたわ。」
「メアリ様、折角のめでたき日でしたのに、申し訳ありませんでした。それにメアリ様が余りにもセリフ臭くて笑いをこらえるのが大変でした。」
「リーシア、貴女こそ泣いてないのバレバレだったわよ。女にあそこまで騙される愚弟が悪いのよ。それより、やっとね!!これで私は女王になることができるし、あなたはやっと隣国の王子へ嫁ぐことが決まったのね!」
「隣国への旅行の際、メアリ様が私の兄が好きだから国内に留まりたいと告白して下さってから、1年ですが結構すんなりいきましたね。」
「私だって焦ったのよ!?王子と顔合わせのときに、エルヴィス王子と貴女もお互い一目惚れしてるし、お互い利害が一致してよかったですわ。それに思いのほか弟があほでしたし。今日は朝までパーティよ!」
「はい!あとはメアリ様がお兄様を落とすだけです!」
「落とすまで嫁がせないわよ。」
「そんな・・・・・!」
後日談記載予定