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獣達の世界  作者: ペリック
獣人達の領域
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異端児の考察、観測者の仮説


 あの尋問から2日経過し、ジークから今後の処遇が伝えられた。


拘留期間は約1週間、後に警備隊・第三分隊ジーク班所属。


普通に処刑も有り得た状況下で命を拾ったとも言えるこの結果には安堵感がこみ上げ、肩の緊張が解れる。


とりあえず一山超えたと、胸をなで下ろし今ジークに渡された本を読んでいる。


「てめぇは常識という言葉がねぇからな、これで多少は身に着けろ。1週間後もこの調子だったら速攻処分してやるから安心しとけ。あと、これも返してやるよ。方術を使った道具でもねぇし使い方が分かるお前が持ってろ」


通学用のリュックを投げ渡してきた。


「一応、聞いとくがこの道具は武器やそれに類するものか?」


「いや、ただの筆記用具と電気の計測器だ」


「また、理解出来ねぇ単語が混じってんな。まぁ、その内単語やその道具の使用用途は聞いてやるから、覚悟しとけよ」


物騒な事言いながら渡してきた本にはアントリオ王国の簡単な歴史、方術の基礎知識、後は日常生活で必要な知識をまとめられたいわゆる一般常識のテキスト。


こういうテキストの存在は非常に有り難い。ひとまず粗方読んでみて、疑問点を抜き出しに掛かる。



「ふぅ、分かっていたつもりだがきちんと現状をまとめるとかなり無茶苦茶な事になってんな」


本を読み終わり、要点を抜き出す。


現在の知識、疑問点をそれぞれ、実習で使うレポート用紙に記入していく。


まず第一何故、俺はこの世界にいるのか?


この別世界とも言える転移現象? この現象が偶発的なのか、人為的なのかで俺の立場が大きく変わる。


最も転移先であるこの地が地球であるかどうかも怪しい。


渡された本の巻末資料にこの世界の地図があったが、確認された大陸は一つのみ。


以前の世界の大陸とは形も数も違う。横長楕円形な大陸一つのみとなっている。似ている大陸で言えばユーラシアとかか?


ただ太陽と月は存在している。更にこうやって生きていられると言うことは多分大気の成分も似たり寄ったりするんだろう。


中途半端に地球との共通点があり、余計に混乱してしまう。


転移の原理、理由も不明だが、この辺がハッキリして来ると元の世界に帰れる可能性も出てくるため、早急に詳細が知りたい。


その他には方術の存在や、人間が迫害される理由、獣人達の進化の過程等気になる所は山ほどあるが、一番目に付く疑問点が、日本語の存在及び、その文化の一部がこの世界で当たり前のように使われてる点。


食文化に関しても同様で、米を主食とし、主菜、副菜等日本と酷似していて、箸を使っているところまで同じだ。


ジークが運んで来る食事は日に二回で朝と夜。


味や品質は俺のこの立場を鑑みるとそこまで悪くなく、と言うか食堂の配膳をそのまま持ってきたような印象を受け、この世界の文明は結構高めな印象を受ける。


これら文化の酷似に関しては今の所全くの謎だが、考えられる可能性が無いわけでは無い。


ジーク達は日本語の事を公用語と呼び、この大陸に存在する3ヶ国での共通の言語となっているようだ。


時間に関する概念も24時間、365日=1年と各季節に対しての事も大陸内で地域差があれど大体日本と同じ。つまりこの地球? 大陸の公転周期、自転周期、緯度は日本と大差ないと思われる。


現在、この世界の暦は334年の11月27日。

前の世界と年を除けば10日以上ずれているが、腕時計の時刻自体は正確だ。


この世界にも日本と同じ時間概念がある以上、時計もある。

たまに様子を見にくるジークに時間も確認すると腕時計の時間と殆ど合致する。


さっきも思ったが中途半端に同じなのが、余計状況を複雑にしている気がしてならない。


ここまで考えて思うが、流石に都合が良すぎる。


実はこの世界は仮想世界であり、日本で作られていて、あなたはそのテスターとして記憶と感情のみを抜き出してここにぶち込まれてます。とか言われた方がまだ理解できる。


少なくとも全く別の世界で日本とほぼ全く同じ言語や、時間その他同じ文化やそのたもろもろが全て偶然の一致です。よりも遥かに納得出来る。



**************************************************



 山岳警備隊の構成には司令を筆頭とし各分隊長、その下に各班長と各班員となっている。


分隊は役割毎に別れており、山岳及び付近の森に発生する原生物の駆除、近隣の治安維持等、所謂実働部隊は1~7分隊で担当し、基地警備、施設、給食、その他基地運営の雑務は8~10分隊で担当している。


1~7分隊は各分隊長を長とし15名の班長が部下にいる。班長の下には班員が3~5名在籍ため、各分隊60名前後で構成されている。


8~10分隊に関しては、基地警備を担当している10分隊を除く8、9分隊は8名の班長、班員5名で、10分隊は10名の班長8~10名の班員で構成。


基地総員合計は600名程である。実働隊と基地隊で班の編成が異なるのは、実働部隊の主な任務は原生物の駆除がメインとなっているからである。


広範囲に分布し、少数単位でしか群れを作らない各原生物には、班の編成を出来るだけ細かくし、駆除にあたらせた方が効率がいいと考えられてきたためである。


実働隊隊舎の部屋も各班単位で編成されており、そのまま各班の待機室として機能する。


隊舎棟は全部で5棟あるが、2階建てなため各分隊で1フロア所有。ジーク班の隊舎は第二隊舎1階の角部屋であった。



**************************************************



「なぁ、ジーク。何で人間を俺らの班に入れるのさ」


班部屋で滲み出る不機嫌を隠そうともせず、狼種族のカイツは上司に詰問する。


「掲示板の施策読んだろ? 概ねその通りだが」


「詭弁だろ! 大体、奴隷とか言っときながら本当はたまたま原生物駆除の巡回中に拾った人間だろ?

あの施策も胡散臭いんだよ! 俺から見れば軍にあの人間を所属させるために精一杯考えた言い訳にしか聞こえねぇよ!」


「詭弁に、言い訳か……なる程散々な言い草じゃねぇか」


カイツに目論見を概ね見抜かれ思わず顔がニヤついてしまう。


「俺も同感だ、少なくとも最低限の理由が欲しい所だな。何故あんな面倒な事までしてあの人間を班に入れた?」


班員二人に噛みつかれるが、当の本人は全く意に介している様子が見られない。


このくらいは見抜いてくれねぇとなぁ。木偶の坊な部下より百倍ましだ。少なくともロドリゴは最低限の理由と言ったが、恐らくこれは本音の部分、根本的な部分を話せといったところか。


班員達に思惑や思考を見抜かれて上機嫌にジークは笑う。


「はは、出来のいい良い下を持つと俺が楽出来ていいなぁ、その調子で今後も頼むぜ」


調子良く適当な軽口で前置して、


「んじゃ、話すがこれは誰にも言うな。勿論、分隊長にもだ」


のっけから反乱分子とも取られかねない発言に部下2人の頬が僅かに強張る。


多少の怯えに大部分は困惑の感情が見て取れる。


「おいおい、ビビってんのか? この調子じゃあこの先が思いやられるじゃねぇか」


感情を読み揶揄するジークはすこぶる楽しそうな表情。


「ふざけろ、観測者。目の前に反乱分子候補がいたら誰だってこうなるわ!」


カイツの感情に多少怒りが追加。頭は悪くないが、多少直情径行が目立つ。数が多いタイプではあるがカイツは例外的で頭も結構回るタイプだ。


直感力が高い故に話の核心を無自覚に突く事も多く、やりづらく面白い部下と言える。


「反乱分子候補ねぇ……そんだけ吠えれれば十分だ。心して聞きな」


後半には暗に脅すかのような含みに二人の緊張が高まっていく。


ジークはあの人間に対する本音の考察を部下2人に話し始める。分隊長には、一部分ごまかした所を一切誤魔化さずに……











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