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獣達の世界  作者: ペリック
獣人達の領域
6/28

予想外な提案と軍の施策


 「信じられん……」


粗方ジークの報告を聞き、意図せずクーロンの本音が漏れる。


「非常に奇妙な事態だが、お前はこの事をどこまで確信している? いやどこまで信じられる? と言った方がいいのか……」


遠回しににお前の特性はどうなってんだ? と告げているのだが、ジークの報告を粗方聞いたクーロンの内心はそんなの有り得るか! と突っぱねたい心情に駆られる。


ジークは信頼出来る部下の一人であるし、彼の特性を利用した尋問の信頼度は非常に高い。伊達にあいつは()()()と呼ばれているわけではない。


だが、それを差し引いてもこの報告で聞いたこの人間の奇妙さはそれを上回っている。


端的に言えばこのような人間は存在しない。と言い切ってもいいくらい有り得ない話だ。


「さあな、今の所は何とも言えねぇよ。感情は特性のおかげで鮮明に読めるし、その応用で嘘も見抜けるが、それにしてもおかしな事だらけだが」


「人間が()()()()()()()()()()()()()()……」


クーロンはまるで解けない難題でも復唱して確認するような、そんなニュアンスで呟く。


ジークからの報告を纏めると奇妙な服装で、そこそこの教養と頭も持ちながら、()に対する悪感情が殆どない。さらに方術の知識も無く、自衛の為の力も皆無。


さらに、何らかの事故に巻き込まれたのか知らんが部分的に記憶が飛んでると。


恐らく欠落した記憶に人間と、人の関係性等の常識も含まれると考えられるが、記憶の欠落自体到底信じられる話ではないし、自衛の手段がなくあの森を一人でさ迷っていただと? どの項目も到底信じられんし理解不能だ。


だが、ジークの特性がそれらに嘘はないと判断している。そこが一番厄介であるのだが……


「確かに、直ぐに処分していい話でなない。特に最近の人間達の動きは目を見張るものがある、先月は北方警備基地が人間達に局地戦を挑まれ、多少の被害が出た。その原因は内部に人間側の内通者がいたらしいが……この人間にも何か意味があるのかも知れない」


クーロンは処遇の提案を考えるジークに同意しつつ近年、高度にゲリラ化し局地的に内乱を起こす人間達とこの奇妙な人間に何か繋がりがある可能性を示唆する。



「間者の可能性はねぇと思うがな、記憶や常識云々は不確定要素だからこの際おいて、根本的に間者に必要な能力が足りてねぇ。特に戦闘能力は皆無だ。あの年で人間という弱い立場でありながらあの貧弱さだ。あの森にいた事もさることながら、ここまで生きてこれた事自体が奇跡だと言い切っていい」


麻生に対する散々な評価を述べながら、


「だが、これからは別だ。あいつを逆にこちらからの間者として利用できる可能性はおおいにある」


ジークの常軌を逸した処遇の提案はクーロンにとっては予想外であった。


「正気か?」


余りに常識から外れており、一瞬目を丸くするクーロンに小気味よく、


「ああ、結構芽はあると思うがね?」


どこからその自信が沸くのかと問いただしたいくらいに確信を持って答えるジーク。


「具体的な根拠を聞かせて貰おうか」


先程とは打って変わって神妙な表情になるクーロンに対して、あくまでジークの様子は変化もなくいつもどうりであった。


「んな、怖い顔しねぇで気軽に聞いてくれや」


普段と変わらず、鷹揚に続けるジーク。


「まず一つ目はあいつが人に対する悪感情がほぼない事だ。どういう訳か連行の際に腹に剣を突き刺して連行したが尋問の際はそれらに関する憎み、怒りを殆ど感じなかった。腹を刺された相手にあそこまで図太く会話出来るのは中々骨がありそうじゃねぇか。


二つ目は記憶の欠落だ。一つ目と被るが、かなりの常識を欠落していると見られる。ならばこっちの良いように印象を操作し易い。


三つ目だが、あいつは人間にしてはかなりの思考力を持っている点だ。置かれた立場と状況の理解がまぁ正確だ。しかし、常識を知らねぇのにこういう所が優れている辺りかなり歪で面白いとは思わねぇか?」


つらつらを根拠とメリットを混ぜて述べる。


「確かにメリットが多いとは思うが、上手くかは微妙だろうな。大体、教育と言っても誰も人間の相手をしたがらんだろう」


ジークの提案にある一定の理解を示し、懸案事項を提示していく。


「そこは心配しないでいい、俺の班に加えてくれればこっちで全て面倒は見る」


「万が一記憶が戻り、こちらに対して悪感情を抱いた場合は?」


「それこそ俺の特性で察知出来る。邪魔になるようならさっさと処分すればいい」


「容赦ないな」


バッサリと切り捨てる策を言い切るジークに苦笑する。

しかしこうなると中々可能性がある提案だ。


この目の前の熊は享楽主義で己第一で動く印象が強いが、仕事に関しては筋は通すし、驚く程ストイックであったりする。


この提案も恐らくジーク自身の何かしらの思惑も多分に含まれているだろうが、その思惑も組織として見るなら軽微なものだろう。


「良かろう、司令には俺から報告しておく。ただし時間は少し掛かるぞ。人間を警備隊に所属させるなんて前例がないからな。理由付けと周囲の説得、その他の雑務で、最短でも1週間程は倉庫に拘束しておけ。

それと軍への所属が正式に決まるまでは不用意に周囲の連中に姿を見られると何かと面倒事になる、その辺の配慮はしておけよ。


それと、司令への報告が恐らく一番の山場だが、お前の名を借りれば何とかなるだろう。その際、詳細な説明を求められた場合はお前に司令への説明をしてもらうが、問題ないな?」


「ああ、問題ねぇよ」


かなり場当たり的ではあったが、これであいつを手元に置けそうだ。


ジークは笑みを深くし今後面倒を見るであろう人間、麻生 誠司の顔を思い浮かべ、笑みを深くする。


必ず化けの皮を剥いでやるよ。アソー。


しばらくは退屈せずに済みそうだ。



**************************************************



 『人間を奴隷として軍に所属させ、近年過激化している人間達の反乱行動に対する対抗策を下記から施策する。


尚、施策日は334年、12月3日~とし、奴隷である人間の山岳警備隊入隊日もこれと同日とする。


所属は第三分隊ジーク班配属予定である。


隊員各位にあってはこの施策の理解と協力を期待する。



アントニオ山岳警備隊司令 一等佐官 グレゴリー・マクレーン』


隊内の各掲示板には同様の掲示物が多数貼られており、隊内での持ちきりの話題として賑わっていた。


特に件の奴隷が所属するであろうジーク班の班長ジークには様々な噂、憶測が流れ始める。


元々自分勝手で享楽主義に見えるジークの隊内での振る舞いにより、これは何かしらのジークの思惑が絡んでると睨む派と、逆にここ最近隊内で有望視されるジーク動きを制限するためであろうと邪推する派。


更には完全にジークは無関係でさらに上から何らかの思惑が何かあるのか、もしくは上もジークも関係なく、人間の間者が堂々と潜り込んだのかなどと話題性が膨れ上がってゆくばかりである。


獣人から見た人間の立場というのはこのアントニオ王国建国後、多少の変化はあれど基本は奴隷、つまり下位の存在であり、その価値は資源として扱われるという冷遇っぷりである。


無意味に殺さなければ何をしてもいい。と無法に近い暗黙により徹底的に虐げられてられてきた歴史を持つ。


しかし、その過剰とも言える隷属化に人間達の精神が限界を擦り切れてしまい人間による集団自殺が横行するようになり、生産性ががた落ちしてしまう。


下がった生産性を暴力的に解決しようと更に人間達を追い込むが、それが負の連鎖を生み、致命的な損害を叩き出してしまう。


この事を重く見た先代の国王が基本的に変わらなかった人間達の立場をここ直近60年程で緩やかに緩和していき人間達は少しずつ持ち直していく。


結果的には生産性がだか落ち以前の水準まで、回復し近年に至った。


だか、歴史は繰り返す。近年、先代国王が退位し現国王が即位した際、王位継承式の際に発した公約がこの人間達の反乱行動の火種となる。


「先代国王である父は非常に愚かな男であった」


開口一番に発した言葉に会場が大きくどよめく。


「人間達に手を差しのべ、立場を改善するなどこの国の長として最もやっていけない事をした、従ってこれから私は先代国王が人間達に施して来た施策を全て撤廃し、本来の人と人間の有るべき姿、関係を取り戻していく」


この発言により、今まで虐げられてられて来た人間の反応は感情の爆発であった。


文字通り積年の鬱憤、怒りが現王の発言により爆発。燃え上がる反乱の火は急速に広まっていった。


だが、獣人達はこれを警備隊を主とする武力で鎮圧。反乱分子を拷問の末、晒し首にした。


ここまで来ると恐怖による抑圧も全く効果がなく寧ろ逆効果でしかなかった。


長い間蓄積され、淀みに淀んだ恨み、憎しみを獣人達にぶつけるかの様により徹底的にまた組織的に反乱を繰り返す。


頼りない武器や未成熟な方術ではあるが息を潜めゲリラ的に、更に死を畏れずに狂信的に続けられる反乱は獣人達に無視出来ない損失を生み出していった。


獣人達により支配されてきたこの世の天秤が少しずつ遂に傾いていく……









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