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獣達の世界  作者: ペリック
獣人達の領域
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熊の思案


 未開拓の森で捕らえたこの麻生という人間にジークは今まで人間には抱いた事のない感情を抱いていた。


『こいつ面白い、最高だ』


森で会ってからと言うものこいつの感情、言動には強烈な違和感がつきまとっていた。


それなのにこいつの言動には嘘が一切ない。いや、正確には返して来た回答には嘘がないと言うべきか?


僅かにだか、質問に対し回答を選んでいるような素振りが一部見受けられた。


公用語をそれなり話せ、態度や言動は明らかにそれなりの教養を受けた者のそれだ。


人間でここまのレベルの奴はそうはいない。人間の大半は奴隷か、反逆者だってのに。


なのに致命的に常識が足りてねぇ。それこそ奴隷や反逆者以下だ。


そして弱い、方術の知識は恐らくゼロ、肉の付き方なんて最低限のレベルすらなく今まで敵として殺してきた人間達と比べるまでもねぇ。


端的まとめるなら、能力と教養が非常にアンバランスだ。それに獣人に対する態度が人間のそれとは思えねぇ。


見た目では、二十歳くらいの年だと思うが今までどういう人生を歩んで来たのか一片たりとも想像出来ん。


敵地で記憶がないとのたまうような、ふざけきった言動。

状況証拠等で見るならどう考えてもこいつは黒だ。


それなのに、言動と常識のなさ、戦闘能力の低さそして読み取れる感情が全てをひっくり返していく。


異端者だ。常識では考えられない。


絶対何かある。こいつの背景には想像もつかねぇようなトンデモな理由が眠ってる。断言してもいい。


このまま上に常識的な報告をすれば、こいつは100%速やかに処刑されて終わりだ。


そんな勿体ない真似は絶対させねぇ、少なくともこいつの真実を暴き出すまでは必ず生かしてやる。





「なぁアソー、とりあえずこれで今回の尋問は終わりだが、最後に一つ聞きてぇ」


最後に尋問口調ではなく、静かに確かめるような口調に突如変化し、思わず身構える。


「んな、構えんなよ。別に何もしねぇよ」


前置きから一拍を間をおき


「最初、森で会ったときの事だが、二回目の質問の時てめぇ、少し安心したろ? あれ、何でだ?」


こいつに対する最大級の違和感の一つだ。


こいつが人間で有り続ける限り、そして、俺が()である限り互いに対して抱く事のない感情だ。


幾つも人間を見てきたが、今の今までこいつ以外にその感情を抱かれた事なかった。


少し驚いたような感情に、何かを確信したような感情を含ませながら少し考えてポツリとアソーは呟く。


「言葉が通じる……と思った。だからかな?」


今まで伏せ目がちだった目を一転させしっかりと俺の目を捉えて応えるアソーに。


「理解できねぇ」


ジークは笑いをかみ殺しながら呟く。俄然面白くなってきやがった。


「アソー、お前の処遇は追って伝える」


その言葉にアソーの頬は強張る。その反応と共に不安の感情が強く出る。


こういった時は納得できる素直な反応を示すのに、何故か読み切れねぇ。


今度はジークがため息をつく。


「んなビビんなよ、そんなに悪い結果じゃねぇかもしれねぇだろ?」


イスから立ち上がりドアに手をかけ、釘を差す。


「それまで待機だ。逃げんじゃねぇぞ。すぐ捕まって処刑されるのがオチだからな」


出て行き外から鍵を掛ける。





上への報告か


外へ出て基地本棟へ向かいながら頭の中で報告内容を組み立てていく。


この基地には建物が7つ、司令部と隊舎棟に別れていて一際大きな建物が司令部、あとは隊舎棟及び倉庫であり、ジークが向かっているのは直属の上司が在室してるであろう分隊長室がある司令部。


報告相手は直属の上司であり、竜人であるクーロン分隊長。竜人である故、隊内での発言権は高い。


上手く話を進めれば人間根絶やし派の右寄りな連中を抑えるストッパーになるとジークは一考。


ブツブツと呟きながら、司令部2階の分隊長室に着く。


粗方草案をまとめ、コンコンと2回ノック後、


「ジークか? 入れ」


扉の奥から声が聞こえる。


「失礼、分隊長」


ドアの向こうには黒色で大柄な体格も持つ我が上司が、書類を見ながら思案気が面持ちで頭を掻いていた。


大方人間を基地内に入れた際に事前に提出した速報を読んでいるのだろう。


「例の人間についての報告だ。それと……今後の処遇に関する提案も同時にしたい」


「処遇に関する提案……ねぇ? 愉快な事を考えているな。顔に書いてあるぞ、ジーク」


こっちの魂胆を見透かそうと目を細め、小さく笑う竜人は書類を机に置きこちらに視線を少しだけ移し、次は椅子に目を向ける。


「かけてくれ。報告と提案か、まずは報告から訊こうか。果たしてどんな話が飛び出してくることやら」


鷹揚に応じるクーロンにジークは凶悪に笑う。












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