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獣達の世界  作者: ペリック
獣人達の領域
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尋問


 身体が重い、鉛のようだ。


目覚めは最悪で、木造の建物の床に転がされていた。


古臭く、日本の建物と言うよりも、よく知りもしないが外国の田舎で使っている倉庫のような印象を受ける。感覚的な話になるが日本の建築物とは思えない雰囲気をこの建物からは感じる。


床に埃が溜まっているところをみる限り、余り生活感も感じない。


思考がクリアになっていくにつれて意識を手放す前の映像がフラッシュバックし、思わず腹を押さえるが傷が消えてて痛みがない。


おまけに結構な出血量だと思ったが血の跡まで消えている。


何が起こった? 確かに刺されたはずだけど……


服には剣の切れ目らしき跡はあるものの、血の跡が全く無いため、刺された実感が薄れてしまう。


一連の出来事を思い返すが、見事に何一つ理解し難く、途方に暮れていく。


「はぁ、勘弁してくれ」


溜め息と共に泣き言が思わず漏れる。何がどうなってんだかとその後、続いていくが独り言の様な疑問に応える者など誰一人とていない。


孤独と焦燥感に駆られ、無意識にスマホを取り出そうとポケットをまさぐるが電池が無いことを思い出し、手をポケットから引き抜くと小さいメモ帳が床に落ちる。


メモ帳に貼ってある付箋に『電磁気、レポート再提出』の記述を見つけ感慨に耽る。


「人生と勉強は足掻くものですよ。足掻いてもがいて、ようやく道が見えてくる。だから皆さんも諦めずに目の前の問題に食らいついて下さい。その積み重ねが未来の自分を形作ってくのです」


不意に唐突に何気ない授業の1コマが脳裏に浮かぶ。


授業の合間にたまに間延びした声で雑談を挟みがらニコニコ顔の好々爺の講師の顔を思い浮かべる。まだ、懐かしいと言うには余りに短すぎる感傷ではあるが、状況が状況だけに仕方ない。


様々な感情が入り乱れている自身をどことなく諭されたような感覚になり、バラバラに過熱した思考が冷えて指向性を帯び始める。


結構、単純な性格なんだなとこの時ばかりは自身の性格に感謝し、静かに息を吐き、思考を切り替える。


よく分からないが、認識を改めるべきだ。


これは撮影でもフィックションでもなくれっきとした現実であり、非常に逼迫した状況であると。


数えるほどしかない情報をまとめると、恐らく人間達とあの獣人達? は敵対関係にあるんじゃないかと推察可能だ。


森での尋問染みた質問に加えて最期の基地、連行というキーワード、恐らく軍隊の様な組織に所属しているとみて間違いないかも知れない。


ここまでの状況を振り返り、熊の尋問態度に少し違和感を感じた。


何だ、不可解と言うか? 何だろうか?


煮え切らない思考はともかく、どうやったかは分からないが、腹を刺されて治療された所を鑑みるにこれから起こるであろう事は尋問若しくは拷問の類だと思う。


どちらにしろ明るい未来なんて一片たりとも想像出来ないが。


だか、部屋には最低限のテーブルと椅子2つのみ。窓も無く周囲の把握は困難だが、身体を拘束されていないところを踏まえると前者の可能性が濃厚か?


「お、やっと目を覚ましたか」


ガチャリを目の前のドアが開き、トラウマ並みの出来事を起こしてくれた熊が部屋に入って来る。


黒よりの茶色の毛並みに金色の瞳。毛皮が茶色に近いからヒグマの近似種なのか?


体格は二足歩行で、人間に近しい体格であるが、風貌は野生の熊そのものであり、熊の基準は分からないが人間単位で見るならかなり大柄な体格で身長は190センチくらいはありそうだ。


熊は乱雑にドア側のイス座る、盛大に椅子と床が軋み比較的大きな音を立て、その音に身体が強張る。


熊人間は座るはいなや、ビクついていた俺に目を向ける。


「まぁ、色々と互いに言いたい事があるだろうが、ひとまずテーブルにつこうか人間」


流暢な日本語で指示されるままに、テーブルにつく。


「話の前に腹の傷はどうだ? まだ、痛ぇか?」


気安く話を掛ける熊を訝しげに眺める。尋問にしてはやけに温そうな雰囲気に拍子が抜ける。


「痛みはない。と言うかあの傷は現実のものなのか?」


言葉を選ぶ余裕などなく、素のままで応じてしまう。


事実確認の様な事を聞いてしまうが傷があまりに綺麗に消えているため、刺されたという現実感がどうにも乏しいの事実。


しかし、向こうもこの返答は予想外らしくキョトンとしていた。


「現実ねぇ、おかしな事を聞くな? 人間」


首を傾げ、まるで何を言っているだ? と言外に問われているような口調と態度。


「おかしな事? おかしな事なら腹の傷以外にも山ほどあるんだけど」


おかしい事はここ半日以内の出来事の全てだと叫びたくなる衝動を抑え努めて平静を装う。


「何を言いてぇか理解しかねるが、腹の傷、てめぇは信じらんねぇか?」


腹の傷について更に念を押すような問いかけに意図が掴めない。


「どうやって治したか分からん内は素直に信じろってほうが無理な話だと思うがね」


熊は俺のその言葉に困惑、手を顎に当てしばし何かを考えているが、


「方術って知ってるか?」 


やけにあっさりと傷の回答を得るが、どうやら正体不明の謎の技術により治療されたらしい。


「方術? 悪いが知らない。何らかの技術、見たいな物か?」


そう聞き返すと、熊ははおもむろに右手を目線の高さまで上げると途端に火の玉を掌に出現させた。


「これが方術だが・・・本当に知らねぇのな。ちなみにテメェの傷を塞いだのは俺じゃねぇぞ、特性が違うからな」


麻生を観察するような目つきに一拍の間をおき、確信じみた口調で告げる。


そんな熊の言葉を尻目に俺は食い入るようにソフトボールぐらいの大きさの火の玉を見ていた。玉の内側で膨大な熱量が圧縮されている様で、爛々と輝くそれはまるで小さな太陽を思わせる。


CG顔負けなその非日常的な光景に絶句する麻生。


目の前の熊はそんな麻生を注意深く観察しているようで、顎に手を当て何か思案気な様子。


しばらく何かを悩んでいたようだが、ふぅとため息を吐き。


「今更だが、自己紹介といこうか。人間。互いに名無しは不便だろう? 俺はジーク、種族は見りゃ分かるだろうが熊だ。アントリオ山岳警備隊第三分隊ジーク班班長だ」


「俺は 麻生 誠司(あそう せいじ) 種族は人間、職業は学生だ」


「ほう、学生ね。色々と言いてぇ事はあるが、学生の割には世間知らずもいいとろじゃねぇか」


揶揄するような物言い。()()()()()その言葉の意味合いはこのやりとりで何となく察しがつく。


ある程度情報が集まってきたので、改めて置かれた状況を整理。


ジークの肩書き、この現状、森でのやりとり、方術と言う謎の技術。そしてやはり度々引っかかるジークの態度。


おぼろげではあるが、現状は把握しつつあると思う。


そして一番認めたくない部分だが、恐らくいや、断言してもいいくらいだがこの世の中は自身が半日前にいた平和な世の中ではない。


ここ半日の理解不能な出来事は乱暴だがこの結論である程度話がつく。


「はぁ……」


思わず現状の見通しの悪さにため息を吐く。


「随分な態度だな、世間知らずのてめぇでも多少は現状が分かってきたんじゃねぇか?」


まるで内心を()()()()()()()()口調に


「多少はね、()()()()()()()()()()()()()()()()。分かるのは言葉と一部の常識くらいじゃないかな」


大味とも取れる言葉選びにほんの少しだけジークの表情が変化した。その意図は計りかねるが言葉を慎重に選ばなければと自省。


「随分とふざけた発言だが、その言葉は嘘じゃねぇよな?」


急に恫喝するような声色になる。途端に周りの雰囲気が鉄火場染みてきた。


「ああ」


身体の震えを唇を、噛み堪える。


「それじゃあの森いた理由も説明出来ねぇのか?」


「出来ない、むしろ俺が知りたいくらいだ」


「出会い頭に言った事故にあったってのは何だ?」


「周りの状況を鑑みた上で言った仮説、みたいなものかな。それに関しても憶測であり、何の根拠もない」


「てめぇは人間側の間者か?」


矢継ぎ早に質問が飛ぶ。ジークは目から目が離せない。金色に輝く相貌は獲物を狙う肉食獣そのものだ。目を離したら喉元に食らいつかれそうな感覚になり、より鮮明な恐怖感に煽られる。


「間者?なんの事だ?」


「今後の人間共の反乱はいつ、どこで行われる?」


「分からない」



敵対関係であると予想してたが、えらく物騒な質問が飛んできた。これは警戒もする訳だと納得。


これで現状も把握出来、尚且つ、ジークに対する違和感もある程度確信に変わった。













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