不人気特性と未確認の特性
あれから3日目、ジークとの訓練と言う名の一方的な蹂躙が続き、再びインターバルを迎える。
毎度毎度、死の間際まで連れて行かれロドリゴに治されるという被虐趣味さえ生温い苦痛を味わい続けているが、当の本人はその事を引きずらず日常と訓練で切り分けて考えるようになってきている。
そんな麻生の精神性はこの世界でも極めて異端で少なくともジークの頭を悩ませるくらいに異常性を多分に含んでいた。
結局、小屋での一件以来、ジークの態度はまた初期の頃へと戻っていき、訓練時以外は口を利くこともなくなった。
静観しているのか、仕切りに考え込む仕草が散見している。何を考えているのか非常に気にはなるが、やぶ蛇になりそうな感じがして非常に踏み込みずらい。結局、宙ぶらりんのまま日々を過ごしていた。
そんな煮え切らない12月も終わりに近づき、この世界? に来て早くも1ヶ月が過ぎ去っていた。
こんな状況でも、まだ命があることを嘆くべきか感謝すべきかは今の麻生にはどちらかに振り切れる程、達観してはいなかった。
そんな麻生に出来た唯一の娯楽はインターバル期間を利用した方術の訓練であった。
前回では力の認識と簡単な制御まで到達。
次は制御の精度向上と特性の出力に趣を置いて考える。
精度向上はぜ前回の練習をそのままこなせば良いとして、問題は特性の練習はどうすればいいかだ。
ジークの火の特性はそこそこ見たり触れたりする機会が多いからひとまず、それを参考に考察していく。
本の記述と照らし合わせて、ジークの特性出力のプロセスを考えると、出力の前に高密度の方力を出力される部位に貯めていると推察。
勿論、目には見えないし、オーラじみた気配を感じる訳でもないが、ジークに一回直で焼かれた際は焼かれるほんの手前に掌から高密度の方力を感じた。
【各特性を出力する際に最も重要と考えられる事は、その特性が起こす現象について深い理解と想像である。】
確かに使う特性の理解は重要か……
ブツブツと呟きながら次の行間にを読んでいくが、
【但しこれらの現象には未だに多くの謎が包まれており……】
この辺の物理現象は解明されておらずかーー
次に各特性の説明が記述してあるので掻い摘まみながら読み進めていく。
ふぅ、これで方術基礎の粗方は読み終わったか
短く息を吐き、頭の中で整理していく。
まず、自分の特性だが、まず、雷はこの世界において特に未知の現象とされていて、記述もほぼなく空気みたいな扱いだった。
【使いづらい】
この本から読み取れる、雷の特性に対する印象としてはこれに尽きる。
飛ぶのが速過ぎて制御出来ない、射程距離が短すぎる、威力がない等、ネガティブな意見しかなくこの特性の不人気っぷりが見て取れる。
後もう一つの変という特性だが、こちらは……
【物を変化させる事が出来るらしい】
伝聞系で何とも頼りない記述に先行きが不安になる。
ひとまず、雷…… こいつから試してみるか。
ーー雷ーー
この現象は空気中を電子が移動する事で発生する放電現象の一種だ。
より、細かく分析するなら空間の電位差が空気中の耐電圧数値を超える事により絶縁破壊を起こし電子が空気中を移動、その際に空気が電離されプラズマ化し強い光と音が発生する。
放電の軌跡、つまり電流の通り道は空間の電界の強さに依存し、更にランダム的とも言え、本来ならば制御出来ない部類に含まれる物理現象と言える。
雷についての概要をおさらいし、枷にはめられた両手に方力を集中させる。
ひとまず、右手に正電荷、左手を負電荷を仮定し徐々に電荷の量を増やしていくイメージを試みる。正電荷は+電圧、負電荷は-の電圧になってこの二つの差が電位差になる。
手のひらの間隔を拳一個分離し、徐々に双方の電荷量を上げていくと、
バチッっと静電気の時と比べて大きな音と共に柴電が掌の間で発生。
うわっ
といきなり放電に成功したことに驚く。
冬の静電気も何となく来るのが分かっているのに、いざ来たら驚いてしまう例の感覚によく似てると取り留めのない感傷に浸る。
放電の大きさはそこそこ大きく10㎝くらいの間隔で発生している事を鑑みて3万Vくらいはあるのではーーと推察する。
但し、これは地球での大気中の絶縁破壊電圧 3kV/cm を元に考えいて、この数値自体も大気中の湿度や塵等の環境で幾らでも変わるため、正確な考察ではない。
ただ、参考程度にはなるだろうと考え、このぐらいの方力を込めると大体3万V電圧が発生と大まかな当たりをつけ、放電の練習を繰り返し行い放電の時の感覚を身体に叩き込む。
「放電させたはいいが、これって俺、感電してないよな……」
「これって本当に左手に負電荷なのか? 逆じゃあーーないよな?」
「これってどのくらい効果あるんだろう、3万っていったらスタンガンくらいの容量はあるのかなぁ」
掌を見つめ一心不乱にバチバチと放電させ、その熟考の度に独り言が漏れていく様は極めて異様に映る、自身に自覚はないが、麻生はこの世界に来て初めて″楽しい″と心から感じているのであった。




