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11話 突入と邂逅

この度、三人称から一人称に視点を変更しました。

今までのも変更済みです。

これからも一人称でやっていくので、よろしくお願いします。


あ、良ければ感想評価レビューお願いします。


 そこから急に洞窟はグニャグニャと曲がり始めた。まるで最後の抵抗とでも言わんばかりだが、結局曲がったところで一本道。特に問題もない。

 それに加え、ナメクジももう出てこなかった。本当にリリアが全て倒してしまったのか、それとも最奥で備えているのか。どちらにせよリリアの精神衛生上よろしかったようで、病人のようだった顔色はみるみるうちに回復している。気がつけば絶対奴を倒すと決め、モチベーションが高まったからか、洞窟に入る前より元気かもしれなかった。


 洞窟に入ってからある程度時間も経ってしまっている。時間を確認できる何かがあるわけじゃないが、多分そうだ。

 体感的にもそうだし、リリアがかけてくれた暗視の魔術の効果も薄れてきていた。緑がかった視界が、徐々に暗闇を取り戻していく。

 切れたらまたかければいいと言われればまさにその通りなのだが、今回はその必要もなかった。

 もう切れてしまって平常通りになるかという頃。目の前にぼんやりとした明かりを伴った曲がり角が二人の前に姿を現した。


「……ここからは、ゆっくり行きましょう」


 片手を上げて俺を一度静止させ、リリアはそう呟いた。異論はない。俺も小さく頷いた。

 明かりがある。ということはそこに何かがいるということだ。

 いや、何かじゃない。こんな洞窟に明かりなんて自然にできるはずもないし、そう考えると明かりがある時点でこの先にいるのは人間なのだ。

 それくらいジリジリと少し前を進むリリアだってわかっているはずだ。それなのに言わないのは、まだ慣れない俺を余計に緊張させたくないからか。それとも自分のためか。

 どちらにしろ俺にとってはいいことだった。


 ――そうだ。あそこにいるのはナメクジを魔物化させ、村人を虐殺したやつ。そんなやつ人間じゃない。化け物だ。


 あの先にいるのは人間じゃなく化け物。だから殺すのに罪悪感を感じる必要はない。

 そう何度も自分に言い聞かせた。

 それでも汗はとめどなく流れるし、手は震え足は鉛のように重い。膝は笑っているし、自分を正当化するので頭は精一杯だった。


 ついに曲がり角の直前まで来た。あと数歩前に歩き、右を向けば何かがいる。

 俺の鼓動は、彼の記憶の中で最も速いスピードで刻んでいる。息も自然と荒くなった。


 ふと、左手にヒヤリとした圧迫感を感じた。なんだと思い見ると、どうやら左にいるリリアが手を握っているらしい。適度に冷えた、サラサラとした感触が手を撫でる。冷たい彼女の体温が、緊張で無駄に熱くなった俺を冷やすようだった。


「大丈夫」


 リリアは優しく、それでいてどこか力強く呟いた。


「あなたが危なくなったら、助けてあげる」


 彼女はこちらを見ていないのに、やけに心に突き刺さる。いつの間にか手の震えも止まっていた。


「悪魔とか半魔をじゃない。――あなたを助けてあげる」


 パチリと、俺とリリアの視線が交わった。俺を見つめるリリアの視線はどこまでも真っ直ぐで。それが嘘じゃないと、なんの根拠もなく信じられるようだった。

 心臓の震えが全て洗い流されるような感覚。不安はすでになくなり、俺の顔にはいつの間にか軽い笑みさえ浮かんでいる。


「……それは助かるな。なら、リリアが危なかったら俺が助けよう」

「あら、そんなことできるの?」

「体は頑丈なんだよ。――半魔だからな」


 リリアは目を丸くした。

 半魔だから。あれだけ半魔であることを否定していた俺がその言葉を使ったことに、驚きを隠し切れていなかった。

 俺自身も少し驚きを感じていた。

 でも今だけは、危険が潜む今だけは、自分が半魔であることを認めてもいいかな、なんてことを思い始めていて。そんな心境の変化が心強かった。


 俺もリリアも前に向き直した。フードをかぶりなおし、何も言うことなく二人同時に一歩を踏み出した。




 曲がり角を曲がれば、そこにあったのは巨大な空間だった。形は歪なドーム状で、かなり大きく、嫌な予感のする横穴もちらほら見受けられる。それに例の白骨死体もかなりあった。道中もいくつか見かけたが、ここにある数は桁違いだ。一定間隔で円形の壁に沿うように何本もの松明が轟々と燃えていた。

 そしてちょうど俺達が入って来たところと反対側に――それはいた。


 結構若めに見える。長い金髪はグシャグシャ担っていて、二人を睨みつける双眸はギラギラと輝く。左目の下にある、目の輪郭に沿うように横たわった三日月に一本の棘が生えたような青色のタトゥーが特徴的だ。



 ――ん? あのタトゥー、どこかで……


「……君たちか? 俺のーーこのゲルガ・ゴージル様の魔物どもを殺したのは」


 腰に長剣を携えながら青白いブヨブヨとした大きい椅子に王様のようにに腰掛け、頬杖をつきながらゲルガ・ゴージルと名乗る金髪の男はそういった。


「そうよ」


 リリアはキツイ男の目線に気圧されることなく、一歩前に出てそういった。


「そうか、君たちが……聖教者風情が」


 ゲルガ目線がさらに厳しいものになり、表情も醜く歪む。彼が椅子の肘を腹立たしげに叩き、ブヨンとそこが小さく波打った。

 彼が自分たちのことを聖教者と呼んだということは、一応この変装のようなものもうまくいっているのだろう。


「聖教者風情とかいうけど、あなたの首のペンダント。あなたも聖教者でしょ」

「えっ」


 驚きから小さく声を漏らした。

 よくよく彼の首元を見てみれば、確かにペンダントがある。真っ黒な何かの石に折りたたまれた翼が付いたような形をしていた。


「そのペンダントは聖教者の証よ? なぜあなたみたいなやつがそれをつけてるのかしら」


 冷静だったリリアの声色に、ほんの少しだけ怒気がこもった。

 だがゲルガは何がおかしいのか、ニヤニヤと醜く口角を釣り上げた。

 反応からして本当らしい。

 だけど俺には分からなかった。彼は全くそれらしくない。

 というのも、彼らはあくまで人々の味方だ。なるべく悪印象を持たれないため、身だしなみにも気を使うよう定めているはず。

 それにしては彼のそれはあまりにも杜撰で、正直いって汚い。


「ま、確かに俺は"元"聖教者だな。あんなクソみたいな組織抜けてやったよ」

「抜けてやった? 破門されたの間違いでしょ?」


 今度はリリアの番だった。鼻で笑い、ゲルガを馬鹿にするようにそういった。

 図星なのだろう。彼の表情から余裕が消え失せ、みるみるうちに顔が怒りで火のようにほてる。歯を食いしばって、リリアを睨みつけていた。


「ペンダントのその石、本来なら透き通るような純白なんだけどね。それみたいに黒く濁るのは破門された時だけ。だからあなたはーー」

「うるっせぇんだよ! どいつもこいつもよぉ!」


 突然、ゲルガはリリアの言葉を遮って喉が張り裂けんばかりに叫びだした。椅子の肘を何度も殴りつけ、その度にブヨブヨと揺れる。


「あら、ついに本性を現した?」

「本性っていうか、本音じゃないか?」

「俺は力があるはずなのにどいつもこいつも弱い弱いって笑いやがって! 大きい仕事を要求したって天使がどうこう言ってゴミみたいな仕事しか寄越さねえ!」


 ゲルガは怒りに身を任せ、髪をかきむしった。

 あまりにも醜い。元とはいえ、聖教者とは思えなかった。


「弱いっていうなら納得かもな」

「あ!?」

「その様子なら天使を信仰なんてしてなかったんだろ? なら、奇跡が弱くて当たり前だ。奇跡の強さは信仰心に比例するから」


 グッとゲルガは顔をしかめた。図星らしい。

 大方この男は天使とかじゃなく、もっと不純な理由で教会に入ったのだろう。他の組織なら理由は不純でも実力さえあればなんとかなるかもしれない。だが教会は別だ。あそこは信仰心が全てだから。


「そうね。だからこそ、悪魔と契約なんてできたんでしょ? その左目の下のタトゥー。悪魔と契約した印よ」


 これはアレンにとって初耳だった。

 ということは彼は『魔付き』ということになる。


「悪魔は契約者の願いを叶える代わりに、共死の呪いをかける。その契約で魔物化させる能力を手に入れた……ちがう?」

「………へっ。聖教者様には全てお見通しってか?」


 ゲルガは、カラカラと愉快そうに笑った。


「そうだよ。俺は力を手に入れたんだ。これで教会に復讐しようと力を溜めてたら近くの村のやつらがきやがってよ。それでーー」

「それで、全部殺したっていうのか……!」


 フード越しにゲルガを睨みつけた。彼からは俺の険しい表情は見えないはずだ。だが気配で感じ取ったのか、それをあざ笑うかのように醜い笑みを深くした。


「俺は殺してねぇぜ? 勝手に殺したんだよ。こいつらがなぁ!」


 そう言ってゲルガは椅子から飛び降りた。すると椅子がぐにゃぐにゃと形を変え、ズルズルと二つに分かれて横にヌルヌル動いていく。


 ――いや、あれは椅子じゃない。ナメクジだ。


 俺はそう確信した。洞窟で見た奴らより椅子用だから少し小さい。

 だがそれだけじゃなかった。ゲルガの近くの横穴から、例のナメクジが次々と這い出てくる。だいたい六匹くらい。やはり全て倒したわけではなかったのだ。


「おや? おやおや? そちらの聖教者様はナメクジが苦手なのですかな?」


 バカにしたような口調で、ニヤニヤしながらゲルガはそう言った。

 俺はハッとして、隣のリリアを見た。案の定固まってしまっている。表情こそ見えないが、ピンと不自然なほどに背筋を伸ばし、様子がおかしいのは誰でもわかる。近くにいるアレンは、彼女が細かく震えているのにも気がついていた。


「怖くて動けないってか? ならそのまま死ね!」


 もう彼に最初の時のような丁寧な言葉遣いはない。

 彼は号令を出すように手を前に突き出した。それを合図に、全てのナメクジがこちらに近寄ってくる。

 ウゾウゾと雪崩のように押しかけてくる大きなナメクジの大群は、まるで一つの巨大な生き物のようだ。


 ゲルガは勝利を確信したのか、ニヤニヤと口元を釣り上げたままだ。

 確かにナメクジが苦手だったらあんなものを見て動けるはずもない。動けず為すすべもなく殺される。

 そんな予想をあの男はしているのだろう。


 だがそれは今回は外れる。


 リリアが体の力が抜けたように俯いたかと思うと、両手をマントから出した。その手に握られるのは大量の魔源。


 リリアはは確かにナメクジが苦手だ。

 だが彼女はそれに出会った時動けなかったり逃げたりするタイプではなくーー


「《オ・フラム・タラッサ》」


 自ら殲滅しにいくタイプなのだ。



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