エピローグ
おしまい。
「メイスト、何か不足はないか?」
「エディ様……なんでもよろしいの?」
「ああ、そうだよメイスト。君が望むなら、世界だって手に入れてみせよう」
「なら……わたくし、セグリア帝国が欲しいわ」
艶やかな唇が、その耳元に寄せられる。
しなやかにすらりと伸びた肢体。形の良い胸。腰のくびれ。その艶やかな黒髪には異国情緒があり、自国の美人とは違う趣がある。
褐色の肌と、白い柔らかな布のコントラストも美しい。
垂れた布の内側から、ひそやかな甘い声が漏れ出る。
肩口から脇腹へと傷跡が残った吸い付くような肌をエディムは撫で摩り、それから口付ける。わずかな嬌声にも体が震えるようだ。
国王であるエディムが、公務があった時に供を連れて海浜を歩いていた時に発見した彼女は、ひどく憔悴して傷もあった。
彼女を癒すために、心を砕いてきた。治療には金を惜しまず、そしてその心を得るためには色々と根回しをし、彼女を無理やり養子に取らせるなどして自分の結婚相手とした。
初めはその傷をひどく憎んだこともあった、なぜならそれは自分以外の者につけられたからだ。
けれど、今はその傷の縫い痕すら愛おしい。
何か辛いことがあったんだろう。
目覚めた時にはその体が震えていた。恐ろしすぎて、語ることはできなかったのだろう。
真綿のような優しさで包み、今は休ませるべきだ。
部下たちはなぜか彼女を嫌がるが、自分にとっては何がおかしいのかさっぱりだ。
美しく、優しい彼女が、そんなことをできるほど歪んでいるとは思えない。
ただ、この傷を作った者を恨んで、憎んでいるだけで、今は不安定になっているだけだ。
彼女はセグリア帝国を欲しがっている。異国の地では安心できないのは当然だ。そして、そこには仇もいると言う。
彼女が望むままにあそこを攻め落し、仇を殺して、そこに住んでしまおう。
「メイスト……あぁ、美しいよメイスト」
「うふふ、ありがとうございます。恥ずかしいですわ」
妖艶な笑みに、体の奥の熱がかっと全身を駆け巡るのを感じた。
「全ては君の望むままにしよう。今はベーレン・ノーザに刺客を差し向けたよ」
「まぁ!」
華やいだ声に、彼は上機嫌になった。
「……そろそろ、我慢の限界だ。良いであろう?」
「あらまあ、いかめしい言葉遣いね」
「少々格好をつけたくなるのだよ、好きな女の前くらいはね」
「ん、ふっ……」
覆いかぶさるようにキスをすると、彼女を抱きしめた。
セグリアを手に入れよう。
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彼女は眠る青年の髪をさらりと撫でた。
「ふふ、馬鹿な男」
アルトハの民。
お父様の仇よ、覚悟しなさい。
そう唇の形だけで言って、シィダーナは陶然とした表情で笑った。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
完結となりました。
最後はなんとなく急ぎ足感が否めませんでしたが、なんとか完結までこぎつけました。読んでくださった方々、厚く御礼申し上げます。
関連するものは載せるかどうかわかりませんが、今度はもっと気分が上昇するようなものを書きたいですね。
でもやはり、主人公は足掻いてこそと思うので、チーレムは書けませんね。
お気に入りつけてくれた方、とても嬉しかったです。
また別の作品でも出会えたら幸いです。




