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奏でよ怨者  作者: あじふらい
3 夜明け
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予想外

反復横跳びしたら足がガクガクよ……。

あれから三日で、なけなしのプライドの何もかもが崩れたらしい。シハーナはすべての質問に従順に答えて、それからいきなり笑い出したかと思えば舌を噛み切り、死んだようだ。


「……見ていてひどく胸糞悪い光景だったぞ」

「おや。我々に好きにせよと言ったのは、あなたでしょう?それにほら……色々とあなたも得るものはあったみたいじゃないですか?」

よかったですねと言わんばかりのトゥルシャナの口調に、ベーレンは眉間を揉み込む。


「そりゃあ国家の最高形態は民主主義ですー、とか変な知識まとめられたもの渡されたりしたら、頭痛も起きるわ」

「幸せな頭痛ですね」

「殺す気か!!」

ああもうやだとベーレンが頭を抱えると、その肩をポンとトゥルシャナは叩いた。


「同じことをまだやらねばならないので、我々はこれにて」

「まだまだ!?」

「正確には、22とそこのクソ一人……ですね。あ、でもベーレンさんは死にそうになったら黒歴史を国中で歌にして広めて差し上げますよ」

「やめろ!!恥ずかしくて俺ぁ死ぬ!!」

「やですねえ、殺すためにやってるんじゃないですか。——私、あなたのこと案外高く買っているんです。ここで死なれたら、損じゃないですか?」

「……よく言うぜ、化け物」


トゥルシャナは曖昧な笑みを浮かべると、ふっと振り返った。背後にはエルシャダが走ってきていた。

「トゥルシャナ様!何か太い木材とかない!?」

「ベーレンさん」

「……そこのやつ使っていいぞ」

「ありがとう!」

外にそれを持って駆け出し、そして木の軋む音と二つの思い音が響く。


「私に手を出すなら、上半身の一つや二つ覚悟してね!」

天幕の外から響いてきた声に、ベーレンが机に沈み込む。トゥルシャナは唇に酷薄な微笑を浮かべた。


「大事な人員、殺すなよ。殺すなと言っても五体満足できっちり働けるくらいにしとけ」

「ベーレンさん、申し訳ありません。例の体になってから、かなり手加減が怪しくなっていますので保証はしかねます」

「……好きにしてくれ」


この二日間で、命令系統の指示はきっちりと出せるようになった。進軍にしても、どこからどう行くのか。

昨日門の前に手紙を一通放置してきたが、それはどうやら読まれたらしい。

封蝋が開けられている手紙が、丸めて門の前に捨ててあった。


内部ではだいぶ混乱が起きているらしく、傭兵は旗色が悪そうだと逃げた者もいるらしい。しかし、実際にその数が多いかといえば決してそうではない。油断が、すべての崩壊につながる。そう思うから、ベーレンは頭を無理やり落とした。


幸い(レーデ)の血族の死体が出たので、それを門の前に配置させているところだ。もちろんわからないとつまらないので、元の服を着せて、だ。

「反応があれば、いいんだがな」

「きっとあの人たちも馬鹿ではないですから。それに、ほら。口うるさい小娘より、逃げられず、しかもすぐに殺せる糞爺の方が、人質には都合いいでしょう?」

「若い方が手荒に扱っても死ににくいがな」


やっぱり、赤子が一番使いやすいのだと愚痴をこぼす。だが、内部の混乱は、ある意味必要なことだった。門の部分に目が向いている今、ノルダナ・ペンダーの部下の一人が、中に直通する細い通路を壁の外から掘っている。


「内部の方に仕掛けたものも、まあだいたいは起動している。問題はねえよ」

「このままうまく攻め落とせれば、楽なのですけどね。直でぶつかったら、結構兵士、死ぬんじゃあないですか?」

「まあな。んだから困ってんだよおお、俺もうやだぁ」

「まあまあ。私はまだ二十二人残してますし、私のためにも頑張ってくださいね」


と、そこにテレアンが大急ぎで入ってきた。

「し、失礼します!!例の通路の件で、至急報告がっ……」

「どうした!?」

「それが……通路のすぐそばに、どうも地下水脈があったようで、そこに、水魔が現れておりまして……侵入してしまったようです!!」

「ウッソだろ!?もうふざけんなアホか!!」


水魔はなぜか砂漠以外の場所では大きくなりにくい。それの理由が、地盤が湿っていて水魔が地面に入って行くのが難しいこと。

しかし、水脈を辿るだけであるなら、彼らもたまに遡上することもある。つまり、こういうことがあってもおかしくない。


「ベーレンさん、とりあえず水魔はどうしますか?軍はすでに侵攻を進めます?」

「……ちょっと待て!ちょっとだけだ」

ベーレンは親指の爪を齧りながら、前を睨みつけて思考を回転させる。


「……全員突撃。ただし、水魔は突撃のすぐあとに殺すこと。あと十分後に進軍して到着する時刻は?」

「およそ8バリィアルだと」

三十分ほどの時間を提示されて、ベーレンは頷く。


「トゥルシャナ、あんたアレを倒せるか?」

「え、ええ。エルは……置いて行った方がいいですね。即刻侵入してきます」

トゥルシャナの姿がそこから掻き消えた。

ほんとは城壁ってこんなポンポン侵入できるはずじゃあないんだけどな……。


お絵描きしてたら遅れました。

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