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奏でよ怨者  作者: あじふらい
3 夜明け
44/49

嫌な目覚め

相変わらず警備はガバガバ。

シハーナが眠りについた時点で、中にいた図書館の職員が城壁内部へとトゥルシャナ、エルシャダ、ハイルを招き入れる。

図書館の内部にあった稀覯本、あるいは年老いた、戦闘能力のない知識人は都市外部に避難をさせてあったという。


トゥルシャナが遅らせた進軍のおかげであったようで、感謝の言葉を小さい声で言われた。

三人は図書館員の印である四角い紋章がついている鎖を身につけると、服を脱ぎ、別の民族の服に着替えた。ハイルは目立ちすぎるため、闇に紛れられるように上に羽織っていた大きなカラフルな布を脱ぎ、下の黒い袍のみで行動するという。


「……夜分遅くに申し訳ありません。少し不審な物音が門の外から聞こえてきまして……」

滞在場所の門番に言うと、その場所から彼が離れて行く。そう警備は厳重ではない。


トゥルシャナの目が、きっちりといくつかの魔力を捉え、そしてその唇が喜悦に歪む。

「……エル、二階の左から三番目の部屋にこれを仕掛けておいで」

導火線と、火薬の入った箱、そして火を起こす魔道具。誰もいないため、騒ぎを起こすには十分である。


爆発だけでなく、燃え盛る火が中から出れば、幾ら何でも慌てる人間は出るだろう。

「そして、私は——上に向かいますね」

「了解っ!」

にっこりした顔をするりと撫でて、二人は走り始めた。エルシャダは脚からガラスを切る道具をがきん、と出す。

「はえー、アルキメデスさんすごいなあ」

ガリガリと指が入るだけ切ると、掛け金を指を入れて外す。


もう一度下へと降りると、箱の近くに人がいた。エルシャダはびくりとその頭上で息をひそめる。

「なんだぁこのはこ?んあぁ」

べっしんべっしんと叩く男に、ビクビクしながらエルシャダは壁をそうっと蹴ってゆらりと揺れる。と、男の首に絡みついて、ナイフを抜き取り喉笛を掻き切った。


どくどくと血を流しながら、ひゅうひゅうと息をさせる男を無視して、箱は上へと運ぶ。そして、油紙に包んでいた導火線と魔道具を置いて、そのスイッチを入れる。ジリジリと焼けて行くその導火線の先を箱の一部空いた穴に突っ込んで、エルシャダは窓から飛び降りた。


トゥルシャナは、即刻前に目に焼き付けていた帝、それからシハーナの下へと向かった。陶然とした笑みを浮かべながら、眠り続ける帝の口に猿轡、そして体に縄をかけて、シハーナは布団ごと巻き取って持ち出した。

何やらうめき声が上がったが、周囲にいた人物はさっくりと頭を手刀で刎ねてしまったので問題ない。


そして、二人が裏の門のところまで来て合流すると、その屋敷から爆発音が響いた。そして、パチパチと木が焼ける音。

「ふふっ、今からでもこれを投げ入れて蒸し焼きにするのも面白そうですよねえ」

「ダメですよ、トゥルシャナ様。作戦に乗れば、どう始末してくれても構わないって言ってましたし、一応従いましょ?」


ちなみにハイルは、門近くで人員を引きつけている。ここで屋敷が燃え上がったのだから、おそらくは来るはず。

「そうですね。強くはなりましたが、慢心はいけませんよね」

二人もの人を抱えた状態で走って、門の隠し扉を決められたリズムで叩くと、そこがぎいい、と開いた。


「相手が完璧に油断してくれて、助かりました。見張りは人間の領域で精強だったようですね」

「……まあ、俺は確かに指示した。殺してもらっても構わなかったが……なあお前ら。どうして、この御姫様(おひいさま)までさらって来てんのよ」

「え?指示は『セグリアの頭を持ってこい』でしたよね?」

苦虫を噛み潰したようなベーレンの表情に、指示されたことを復唱してみれば、彼はがっくりと肩を落とした。


「……指示の内容をきっちり伝えなかった俺が悪かった。今度からはそれを考慮して伝えるわ」

「申し訳ありません。でもほら……片方はどうしてもいいんですよね?」

「…片方はな」

「じゃ、こっちの若い方をお借りしますよ」


布団に巻かれたままのそれを手に軽々と取ると、天幕の一つへと入っていった。エルシャダはその後を楽しそうについていく。

転がされた老爺に、ベーレンは視線を注いだ。


「どんな気分で?帝様よ」

「ん、ぐぁ、」

「ああそれじゃあ喋れねえよな。俺ぁ今から国を喰う。お前らの腐った政治にはうんざりなんだ」

ニコニコしながら毒を吐き続けると、帝の顔が怒りからか赤くなった。


「んぐぅ!」

「悪ィなァ。お前さんの身柄がこうなった時点で、生死はこっちの手のうちなんだ。すまんね」

「……ベーレン様。その、すまないというときはもっとすまなそうな顔をしたほうがいいと思いますよ?バカにしているのでなければ」


テレアンが突っ込むが、意味のなさない突っ込みであるのに気づいてベーレンは片頬を上げた。

「んー、じゃ、このままでいいんじゃん。そういうわけだから、手枷と足枷かけて、適度に飯を食わせて生かしといてくれる?」

「はい。了解致しました」

「ん゛んっ!!」


叫び声がベーレンの天幕から遠ざかっていく。しばらくして、テレアンが一人の人間を引き連れて戻って来た。

デバヴィ族の女性で、ディートリッヒ式の礼を取っている。緑銀の肌がてらてらと蝋燭の灯にぬめった。


「ノルダナ・ペンダーと申します。此度は、我々の保護及び服属をお願いしに参上した次第であります」

結構穴だらけな話でごめんなさい……。

主人公空気すぎ。


次はちゃんとごうも……働きますよ。次話はかなーり抉りに行きます。

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