表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奏でよ怨者  作者: あじふらい
2 虚の落とし子
39/49

虚との邂逅

これにて、虚編終了。

ちょっと短かったけど、ごめんなさい。

「……う、」

『気がついたか』

トゥルシャナの頭の中でガンガンと鳴り響く声に、また頭を抑える。

『す、すまぬ!加減を失敗した。——これくらいでどうだ』

「……だ、大丈夫……です」


改めて周囲を見渡す。自身の体だけがただ薄ぼんやりと光って視認できるが、あとは何もないような、暗闇。

「ここは……」

『私の内側だ』

「私?……あなたは一体……」

『申し遅れた。私は虚。お前たちの言う、モォラ・デゲンラの母である』


虚そのものか、と改めて問うと、肯定が返ってくる。

『私は、人の意思の負の側面を持たされた。実際は私の性格には負の側面は影響していないが』

「確かに、あなた自身を虚と呼ぶにはいささか語弊がありますね。その役割を与えられただけの者と?」

『肯定である』


トゥルシャナは考え込んだ。

「……では、なぜ私はこんな場所にいるのですか?出ることは叶うのですか?」

『それには答える術を持たない。今の其方は精神体であり、それが我の根源と一時的に触れ合い、飲まれたに過ぎぬ。こちらとしても想定外の事態である』

「……そう、ですか」


『ただ、現状其方の肉体の方が私の気に当てられて、暴走を起こしている。侵食率はおよそ三割。五割を越えれば、其方も我が息子となろう』

トゥルシャナはその言葉を頭で噛み砕いて、それからあんぐりと口を開けた。

「嘘……でしょう」

『嘘ではない。ただ、其方の憎しみは、あまりに私の気には心地よい』


虚が悪いわけではないものの、トゥルシャナの心には焦りが生じた。

「私は……」

『其方は魔素を浄化した。だが、体がその澱を、我の根源を全て飲み込んだ。他の誰かと分け合うならば其方は助かるが、完全に私と分離することはできない』

「——助からなくても良いですから……私を止めることは」

『外の人間が、分かつことを思いつくか、そのまま素直に死ぬかすれば、問題はない』


要するに、それにとってトゥルシャナの周囲にいる人は、そう大事ではないのだ。根源に到達したトゥルシャナは、めずらしいからともてなしていたのかもしれない。

「……らだ……私、私の、私の体だろう!?動け、動いてくれよ!!」


トゥルシャナの体との繋がりが、ひくりと動く。しかし、それだけだ。

「嘘でしょう……嫌だ……エル……」

瞬間、エルシャダの叫びが聞こえたような気がした。


『其方は運がいいな。私は光と袂を分かったが……そうか。其方は、見つけたのだな』

帰るがいい。その言葉を皮切りに、意識はぐんぐんと浮上していく。




——息が、苦しい。

目が覚めて思ったのは、それだった。

口の中に何かがある。ふと身じろぎをすれば、覆いかぶさっていた人間が体を起こした。


トゥルシャナは混乱した頭のまま、手を地面に押し付けて、体を起こそうとした。

「トゥルシャナ様……よかった……」

「え……る?」

「はい。エルシャダですっ……ふぐっ……んぐぅ……」

みっともない泣き顔を晒すまいと泣くのを堪えているのだが、こらえかねてむしろ変な声が出ている。


トゥルシャナは思わず笑みを浮かべた。

そこで気づいた。体が妙に軽く、そして妙にあの虚の気配が体にあることに。

エルシャダを見ると、その脚が変質して、心の臓にその気配があるのがわかる。


「エルシャダ……あなたには、また背負わせてしまいました。申し訳、」

そこで指を当てられて、唇を塞がれる。

「それは言いっこなしですよ。私はしたくてやったんです。そして、トゥルシャナ様の側で頑張るって、私が決めたんです」


眩しいほどの笑みに、やはり自分はエルシャダの存在に救われているのだな、と思う。そうでないと、きっと後先考えずに復讐に走り、自滅へとまっしぐらに走り続けていただろう。


「二人とも……」

「……あ、ハイルさん」

ヌァザの遺体が、そこに残されていた。エルシャダは、残された黒髪の少年を剣ごと担ぐと、トゥルシャナに手渡した。


「っ、これは……」

見間違えようもない。


あの襲撃の際に、一際目立っていた魔力の持ち主が、そこにいた。ハイルもよく彼を見て、驚愕した。

「に、日本、人……」

「ヌィホゥ?」

「い、いえ、私が転生したことは、お話ししましたよね。そこの……その世界の、同郷の者です」


死体の虚ろな瞳が、あの虚の暗闇と被って見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ