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奏でよ怨者  作者: あじふらい
2 虚の落とし子
33/49

合流ののちに

ようやく合流できたよ。

長かった。あと少し短いです。

「エル!エルシャダ!」

トゥルシャナが門のところで立っている少女を見つけて叫ぶと、彼女の顔がぱあっと華やいだ。


「シャナ様!見て、私、すっごく戦えるようになったよ!」

「エル、……じゃあ、歩けるどころか?」

「はい。もう戦えますっ!」

片方の目をばちんと閉じると、トゥルシャナははああ、とため息をつく。

「エルならばできると信じていましたが、ここまでできるとは思いもしませんでした。よく頑張りました」


髪を撫でられて、エルシャダの頰がむくれる。

「もう!子供みたいに扱わないでくださいよ、立派な大人の女性です!」

ポカポカというよりドスドスという音でエルシャダはトゥルシャナの胸を殴りつけるが、彼の笑顔は変わらない。


「んぐぅ……」

「エル、近くまでセグリアの軍が来ています。その帝も、姫もね」

「えっ……じゃあ!」

「そうです。いい機会です」

二人の顔に、隠しきれない喜悦が浮かび上がった。


「すいませーん、そこの人、帝国から?」

「え、あ、はい。もしかして、向こうから来ている群のことですか?」

「おぉう、話が早いね。君何者?」

「あぁ、これは失礼」

ハイルからの書状を差し出すと、相手はそれを読み始めた。


彼、いや彼女かもしれないが、隣に耳の垂れた巨大な四足歩行の獣がいる。そして、横に立っているのは、女性型の魔道具。

ウェレア・フィーズというその魔道具は、獣が動かしているが、巧妙に関節のつなぎ目を毛皮で隠してある。そして頭には大きな動物の頭蓋骨が被っている。


「申し遅れた。私はヌェーファン。自国の言葉だとンフフンフという意味を持っている」

そういえば、と夜の見張り番の時にハイルと一緒になった時のことを彼は思い出した。

会話内容が全てンフだけで成り立っている種族がいる、と。


とても「しゅーる」だと言っていた。意味を尋ねると、前世の言葉だと言われて、しばらく迷った挙句に「理解不能な現実のことかな」と呟かれた。

言いたいことはギリギリ伝わった。


「あ、あの……ンフ族の方ですか?」

「よく知ってたね!そうなんだよ。ただ体の器用に喋ったり構造的に細かいことはできないから、みいんなこうしてウェレア・フィーズを持っているというわけさ」

得意げにその尻尾を揺らす。


「で、彼奴等は我々を攻めて来た。攻められたからには殺さなきゃなんないわけだが、建前、つまり虚の落し子への対抗として、やってくるわけだ。ただこの都市には、それはいらないのだよ。わかるね?」

「……死を受け入れるのですか?」

「違うね。答えは君だ」


淀みのない回答に、トゥルシャナは片眉を上げてみせる。

「私が?」

「ああ。君が魔素として、その魔力を使い切って仕舞えばいいんだよ。できないことは、ないだろう?」

トゥルシャナには確かにそれができる。しかし、彼は困惑した。目の前に、走って一日ほどの、ほんのすぐそばに殺す対象がいるのに、どうしてそうしなければならないのだ。


「……ですが、私は」

「できないとは言わせないよ。ここに書かれてる通りに、復讐がそんなにも大事かい?……甘いね。そんなにしたいのであれば、虚の落し子を殺してから、正攻法で殺すのが最も楽だ。批判もないし」


あえて待つ。それを今更、しろというのか?

トゥルシャナは、ギリギリとくいしばる歯を緩めて、はっと短く息を吐く。

「……私は、もう一度待てと」

「そうだよ。そっちのお嬢さんも、拳は納めなさい。……何もね、死ねとか言っているわけではないんだ。君がそれ相応の覚悟を決めて相手に向かっているなら、殺すことへの対価はいくらか必要なんだよ。わかるだろ?」


物事には等価交換がある。だから、トゥルシャナはゆるゆるとため息を吐き出して、相手に渋面を向けた。

「エル。……私はそれを倒しに行きます。セグリアは砂蜥蜴を潰したので、そう早くは到着できないでしょうが……」

「トゥルシャナ様。——じゃあ、寝ましょう」


ぽかんとしたトゥルシャナは、首をかしげる。

「……は?」

「トゥルシャナ様、寝てないですよね。わかります。二日前に寝たからいいやとか思ってますよね。しかもその足の傷。水魔に出会ったんですよね。布巻いてても薬の匂いですぐにわかりますよ」

「エル……」


トゥルシャナはがっくりうなだれる。

「わかりました。私も旅路で疲れています。少しだけ休ませてもらって、そこで出発します。エルも、ここ連日寝ていないでしょう?」

「……はい」

「じゃ、思い切って何も心配せずに寝てしまいましょう」


ニッコリとトゥルシャナが微笑んで、エルシャダがこっくりと頷いてその右手を取った。

壁の内側でヌァザたちと合流し、ゆっくりと食事をとって、お湯に浸かるという考え難い贅沢をさせてもらい、そして初めてのぼせるという体験をした。


その晩は、まるで何事も起こらなかったように静かで、二人はゆっくりと眠りにつくことができた。


しかし、無慈悲に夜は明ける。

だいたい二十人くらいが私の固定客なんだろうか……?

PVから推測するにたぶん。


いつも読んでくれてありがとう!

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