ハーナー宗主国にて
本日二話目。
オリジナル言語注意報。
虚の落とし子。
セグリア帝国からほぼ星の反対側にある無人大陸に上陸しようとした、クリストア国の人間の記述による。
無人大陸はその名の通りに誰一人として人間、あるいはそれに類するものがいないことからつけられた名前である。
逃げ帰ったものは数知れず。そして、クリストア国の首長はその無人大陸に人を派遣した。
彼らがそこで見たのは、真っ黒ないびつな球体に何本もの手足が生えた、生き物とは思えぬ鳴き声を上げる、巨大な物体。
そして、彼らのうち何人もが食われると、徐々にその体は小さくなり、そして収束し、人の形をとった。
それは人を食わなくなったが、殺戮を好むようになり、男とも女ともつかぬ体をしていた。そして、それを止めるのにいくつもの都市が滅んだという。
そして、今回ベーレンが考えた作戦は、それらをほぼ地球の裏側である無人大陸から呼ぶことだった。
地面に仕込んだ火薬を爆発させることで、正確に点を穿ち、その中に贄となる敵国の人間と、そして高純度魔力結晶を投げ入れる。
もともと召喚魔法とは、空間に穴を開けて、ある点からあるものを呼ぶシステムであり、正確さとある程度の大きさ、そして贄を必要とする。
贄は魔力であったり、種族という祝福であったり、そして命であったり、呼び出すものの強さに応じて変化する。
ただ魔術などと違うのは、一度呼び出したものは留まり続けること。
例えば水を召喚すると、水はその場に残存したままになる。だが、世界のどこかで水が減る。
勇者召喚はこの大規模なものであったが、空間に穴を開けることに魔力がほとんど使用されているため、魔力を持った人間や強い人間を呼び出すことは叶わなかった。
実際の陣では人がいるところに開くかも不明だからだ。
「……将軍閣下、よ、よろしいのですか!?あ、あれは、」
「しっ……」
その前に、一人の青年が飛び出していく。隷属させられた人間で、ひたすらその前を砂蜥蜴を使って駆けていく。
虚の落とし子は、それに気づいて手足を動かして追う。遠目から見れば大したスピードではないようにも見えるが、実際のスピードは生半可なものではない。
「さて、しばらくしたら俺たちも向かうぞ。奴らを先に行かせて、その後を追えば、攻め込める」
「そ、そんな」
「あの怪物に気づかれたら……」
「一定の距離を取っていれば大丈夫だ。クリストアの研究結果にもあるんだよ。楽をしようぜ若人よ」
ニカッと笑うと、こめかみをトントン叩いて彼は回れ右をする。
「ようし、運は俺たちに向いている。運命とやらが神の御業なら、俺らは今、神に見守られている。今のうちに大暴れしておけよ、行くぜお前ら!」
おおお、と地鳴りのような音が上がった。
「……将軍閣下」
「テレアン」
ベーレンの顔は、さっきの自信に溢れた顔立ちとはかなり変わっている。
「クリストアの研究結果、ですか。そんなもの、ないでしょう」
「まあな。あれは一種の賭けだった。俺は一度目の賭けには勝ったが、まだ二度目は始まってすらいねえ。——笑いたきゃ、笑ってくれ」
その言葉に、テレアンは笑うことなくつんと澄ましたいつも通りの真顔で言い放った。
「あいにく、そこで笑って上げるほどお人好しでもなく、冷笑できるほど悪人ではありませんので」
「言うと思ったぜ、つれねえ野郎だ」
その言葉とは裏腹にその顔は険が取れてきている。
「だからお前を直属の部下にしたんだよ。よしっ、これで戦局は動いた。俺の読みは恐らく動かねえだろう。あいつの後をつけて、その群を両翼に広げて——叩く」
「その後の、虚の落とし子はどうするんです?」
「知るかよ。そういうのは俺の仕事じゃねえ、『英雄』のオシゴトだ。単騎での力があって初めて大いなる力には対抗できる。姫さんの言いつけ通り、俺は勝てる作戦を遂行しただけだぜ?」
人を食った言い方に、テレアンは眉を顰めてそのまま机の上に書類を叩きつける。
「……おいおいまじかあ。これ全部?」
「マジです」
「……ちょっと書類にハンコ押すだけの簡単なお仕事があるんだけど俺の代わりにやんない?」
「やりません」
********
「ここが、ハーナー宗主国……」
全てが真っ白に固められた建物。その隙間にはたまに金色の文様が覗く。地面は灰白色の石が敷き詰められている。
通りに面した建物には全て明かりを発する魔道具がつけられており、真ん中の一番高い塔においてはこの世界でもなかなかない時を刻む魔道具が据え付けられ、たまに荘厳な音楽がどこからか流れる。
たまにふわふわと横をパム族の人が通り過ぎて行き、ヴェールの金や銀のレースがキラキラとはためいて行く。
「ここは巡礼地ですから、我々はこのエリアまでですけどね。ここから南東に行くと、ラグーンがあります」
「トゥルシャナ様、なんかみんな口を布で覆ってる……どうして?」
「長老から少し聞いたのですが、ハーナー教はその言霊の作用によって誰かが傷つかないように、その口を布で覆っているそうですよ」
トゥルシャナは背負ったエルシャダに解説をすると、ハイルがすかさず補足を入れた。
「ただ、家族に対してはきちんとその素顔を晒しています。他に色々と戒律があります。細かいですが、全てが生活に根ざしていて、とても実用的な宗教でもありますね」
例えば、貞淑であれ、隣人を讃えよ、親や子を大切にしなさい、客人はもてなせ、など。
「生活する上でのマナーが全てここに入っています。とても勉強になりますよ?一度読んでみることもお勧めします」
「そうですね。我々の土地では、先祖の霊を敬うのが主流でしたから……」
「それもまた、世界を歩く醍醐味ですよ。そろそろ街が途切れて、水路が多くなりますよ」
キラキラと光る水面に、その表面には触れずに浮かんでいる、小さな店舗ほどの島。
たまに絨毯などが浮いていて、まさに見たことのない景色だ。貸し船屋が数多並んでいる。
「これは、浮遊の魔道具か?すごい数だな」
「デザアル共和国では、狩を主とした生活を営んでいますので、魔石を使う場所がないんですよ。ですから、その魔石がハーナー宗主国に流れてこういう景色が生み出されるんです」
ヌァザに応えると、ハイルは一つの絨毯の上に船から飛んで、飛び乗った。
「アーロ、エーレ・ンデ・アルキメデス・クロイツフェルト・フォロー?」
「ナー、クライア。サンフォー・イエアー?」
「ソル。ナー」
彼はストンとまた戻ってくると、にっこり笑った。
「アルキメデスさんは、南東で店をしているそうです。行って見ましょう」
ジギシャが漕ぎ出すとなぜか回転してしまい、少しすると漕ぎ手がヌァザに変わった。
ハイル
「すいません、アルキメデス・クロイツフェルトさんのお店知ってます?」
店員
「なんだ客じゃねえのか。南東だと思うぞ?」
ハイル
「ありがとうございます。では」
いい加減にしないと読者減るぞ?
わかってるのか?
……よしこれはもうわかってないな。路線は変更しない!




