第七十二話
体調もすっかり良くなった頃、颯は用事があるらしく、私は一人、部屋で留守番をしていた。
バタバタ!
その時、鈴ちゃんが部屋へ駆け込んできた。
「鈴ちゃんどうしたの?そんなに慌てて……」
「美子様!一緒にお買い物した魔法のランプですが……」
「へっ?!も、もう不思議グッズは懲り懲りだよ!」
「ふふ!勝手ながら、先程最後の願いを叶えて貰いました!」
い、嫌な予感がするのは、気のせいかな……
身構えていると、鈴ちゃんがにっこりと安心させるような笑顔を浮かべてくる。
「それで、無事に願いが叶ったと報告がありましたので、お知らせにと♪」
「へぇ~!良かったじゃん♪何を願ったの?」
「実は、颯様の人間界の器を20年経たせて欲しいとお願いしました!」
「ほ、ホント?!」
そこへ、颯が部屋へ戻ってきた。
「美子ちゃん!護衛無しで、人間界デートが出来るようになったよ♪」
「今、聞いたよ♪でも妖力は使えるの?」
「うん!さっき試してみた♪」
「……今日、颯は人間界の用事だったの?」
「あっ……う、うん!ちょっとね♪」
今、明らかに動揺したな……まぁ、いっか……それより人間界へ気軽に行けるようになった事が重要だ!
「だから、美子ちゃんが行きたいところへ行こうよ♪」
「わぁっ!嬉しい~♪動物園はこの前行ったから、遊園地に、水族館に……朝食バイキングも行ってみたい♪」
「ふふ!とりあえず一ヶ所に絞ろうか!お泊まりで行こうね♪」
「だったら、豪華で有名な朝食バイキングかな!一度は泊まってみたかったセレブ御用達のロイヤルインフィニティホテルでやってるんだ♪」
「んじゃ、決定だね♪」
って事で、早速人間界へ出掛けたものの、ロイヤルインフィニティホテルを前にして固まってしまった。想像以上にセレブ感満載だ。
「こんな庶民丸出しの私が、入っても大丈夫かな……」
「美子ちゃん、どうしたの?早く行こうよ♪」
「う、うん……」
颯に促されてエントランスを潜った。当然のように、ドアマンが仰々しくドアを開けてくれている。
「ど、どうしよう……来る場所間違えたかも……」
「大丈夫!間違いなく、美子ちゃんが言ってたホテルだよ♪」
いや……そ~ゆ~意味じゃぁ無くて……
心の中で突っ込みを入れながら、フロントまでやってきた。
「いらっしゃいませ。ご予約のお名前は?」
……へっ?や、ヤバいっ!そんなのしてないっ!
「よ、予約はして無いんだけど、無理ですか……ね?」
フロントのスタッフさんは、一瞬、怪訝そうな顔をした。
「……失礼ですが、お客様のご年齢をお聞きしても宜しいですか?」
「な、何で?」
「かなりお若く見えますもので……」
スタッフさんの目線が、チラッと颯に移った。
もしかして、援交に間違えられてる?!
「僕は百十五歳、美子ちゃんは十七歳だよ♪」
「左様ですか……」
馬鹿正直に答えるなっ!余計に不審者扱いの目で見られてるじゃん!ど、どうやって誤解を解こう?!
「美子どの、颯どの!」
あたふたしていると、いきなり声を掛けられた。驚きながら振り向いて、更に驚いた!
「か、かぐやさん?!」
「やはり二人であったか!」
かぐやさんは小走りに私達の所までやってきた。隣には、綺麗な顔立ちのイケメンが立っている。
お、王子様だっ♪
「か、かぐやさんは、どうしてここに?!」
「どうしてと言われても、旦那が働いておるからな。」
かぐやさんはチラッと、隣のイケメンに目線を送った。
「初めまして。妻と妻の従弟がお世話になりました。私、浦和春樹と申します。」
「ゆ、雪沢美子です!」
差し出された手に、おずおずと自分の手を重ねた。
うわっ!間違いなくセレブだ♪しかも嫌味無く、他を圧倒するようなセレブオーラが二人から放たれてるじゃん!
……ん?ちょっと待てよ……浦和春樹って、何処かで聞いた事のある名前……
って、えぇ~~~!?!思い出したっ!
「も、もしかして、浦和グループの御曹司?!」
「ふふ!ただの、かぐやの旦那ですよ。」
そう言えば、超~セレブの浦和グループ御曹司が、更に凄いセレブと結婚したって聞いた事があるっ!
ほ、本物のセレブだ!王子様だっ!
「ところで、そなた達は今日はどうしたのだ?」
驚きで固まってしまった私を、不思議そうに見ながらかぐやさんが尋ねてくる。
「ここの朝食バイキングに憧れて、泊まろうかと思ったんだけど、予約して無くて……」
「予約は無くても大丈夫であるぞ。」
「それが……年齢が……」
フロントスタッフと私を見比べて、春樹さんが納得したように頷いた。
「成る程……お気を悪くしないで下さい。スタッフも仕事を遂行しただけなので……」
「わ、わかってます!」
それから春樹さんがフロントスタッフに、柔らかな笑顔を向けた。
「お二人は、妻がお世話になった方達です。安心して下さい。」
「し、知り合いとは知らず、大変失礼いたしました!」
流石はホテルの御曹司……一声で問題解決……
春樹さんは私達に向き直って、極上の笑顔を向けてくる。
「今日はお詫びに、スイートルームへお泊まり頂けないでしょうか。」
「……へっ?!す、スイートでございましょうか?!」
ちょ、ちょっと!驚きのあまり、私の日本語が可笑しくなってるじゃん!
「はい、お世話になったお礼も兼ねております。夕食のご予定が決まって無ければ部屋に届けさせますが、いかがですか?」
へ、部屋にって……それってセレブ御用達の、ルームサービスって事でしょうか?!
きゃ~~!!マジで?!
雪沢美子、十七歳。貧乏神と呼ばれた私が、ついにセレブの仲間入り?!今日この場で、一生分の幸運を使い果たしたかもっ♪
そして、ベルボーイではなく、わざわざ支配人らしき人に部屋へ案内された。
「では、後程お食事をお持ち致します。ごゆるりとお寛ぎ下さいませ。」
スイートルームに入って、更に固まった。
広すぎだろ……調度品も高級そうな臭いがプンプンしてるし、怖くて触れないじゃん……逆に落ち着かないんだけど……
やっぱ私は庶民だな……
パタン……
支配人が部屋から出ていき、ドアが閉まると同時にガバッ!と颯に抱き締められて荒々しいキスで唇を塞がれた!
「んんっ!」
ちょっ!いきなり?!……この強引なキスって、怒ってた時と同じだ……
唇が離され、息を整えながら颯を見た。
「そ、颯……」
「美子ちゃん……僕、怒ってるんだけど……」
やっぱり……
「でも何で?」
「だって、あの春樹って人に見惚れてたでしょ?」
うっ!一瞬だったけど、バレたか……
「そ、そんな事無いよ~!例えば憧れの芸能人に会ったって感じかな♪あはは……」
「本当に~?」
「本当だって♪それに、かぐやさんの旦那さんじゃん!」
「うん……でも、許さないっ!」
プクッと頬を膨らまして、颯はプイッ!と横を向いてしまった。
ふふ!仕草が可愛いって言ったら、更に怒るかな♪
ってか、もう本気で怒ってなさそうだし、これは何かあるな……
「颯、どうしたら許してくれる?」
顔を覗き込みながら、颯に尋ねてみる。すると、口元を押さえながら真っ赤になって、後ろを向いてしまった。
「み、美子ちゃん……その顔は反則だって……」
颯のツボがわからない…
今の私の何処に萌えポイントがあっただろうか……颯って相当重症だよね……
そのまま、じぃ~っと颯の顔を見てると、諦めたように口を開いた。
「その……」
「なぁに?」
「……一緒にお風呂に入ってくれたら許しちゃおうかなぁ~なんて思ったりして♪」
……はっ?!
「ば、馬鹿だろっ!そんなもん恥ずかし過ぎだってば!」
「だって、お城のお風呂は絶対に入ってくれないでしょ?」
「当たり前だっ!みんながいるのにバレバレじゃん!」
「だから、人間界で二人だけならいいかな♪って!」
「む、無理だって!」
今度は颯が、うるうるお目々で私の顔を覗き込んでくる。
颯こそ、その目は反則だろ……
「美子ちゃん……駄目……?」
うっ……死ぬ間際に後悔した事その二、もっと颯の望みを聞いてあげれば良かった……の、克服ミッション!になるかなぁ……
よく考えれば、いつ命を落とすかわからない世界だから、明日二人とも死んじゃう事だってあるかもしれない……
もしかしたら一緒にお風呂に入るのも、最後の可能性だってある訳だし……
でも、お風呂って、ハードル高過ぎじゃぁない?!
えぇいっ!女に二言は無い!頑張れ、美子!
「そ、その……」
「なぁに?」
「ぜ、絶対にお城では入らないからねっ!」
「それって……ここでは大丈夫って事?」
「そう言ってるじゃん!」
颯はふんわりと抱きついてくる。
「ふふ!美子ちゃん、わかりにく過ぎっ♪」
「……だ、だよね……自覚はしてます……」
ふぅ……これでミッションも残り1つ!
「まずは部屋の中を散策しようか♪」
「うん!」
手を引かれながら、色々な部屋を覗いていく。
「美子ちゃん、見て~!お風呂が広い!って、このボタン何だろう……」
颯がお風呂の脇にあるボタンをポチッと押した。
ボコボコッ!
「うわっ!泡じゃん!びっくりした~!」
こ、これは!セレブ御用達の、お風呂でシャンパンってモノっすか?!テレビの海外ドラマで見た事があるっ!
「美子ちゃん!こんな広いベッド初めて見たよ♪」
「本当だ!」
縦よりも横が広いベッドって、初めて見た♪
「美子ちゃん!小さいけど、部屋にシャワーもついてるよ!お城の部屋にも作って貰おうかな♪」
「そ、それは止めようよ!」
絶対、一緒に入る前提の思い付きだろ……
「それっ♪」
颯がベッドにダイブ!
「ふかふかで気持ちいい~♪美子ちゃんもおいでよ!」
「きゃぁ♪」
続いてベッドにダイブ!
すると颯が、ゴロゴロと私の傍まで転がってくる。
「どうしたの?」
「だって、美子ちゃんが遠いんだもん……」
「ふふ!結局くっついてたら、広いベッドの意味が無いじゃん♪」
チュッ♪
「僕達に広いベッドは必要無いかもね♪」
「ふふ!それはどうかな~♪」
「そんな意地悪言うと……」
ガバッ!
颯が覆い被さってきて、私の両手をシーツに縫い付けるよう押さえてきた!
「ちょ、ちょっと!颯!食事が運ばれてくるじゃん!駄目だって!」
「大丈夫!ちゅ~♪だけで我慢するから!」
「耳と尻尾が出たらヤバいじゃん!」
「人間の器だから、心配無いよ~♪」
颯はふわっと笑いながら顔を近づけてくる。
あ……指に絡められたゴツゴツとした大きな手にさえ、颯の色気を感じてしまう……私も、相当重症だな……
食事が運ばれてくるまでの間、絶え間無い甘いキスを受け入れ続けた。




