第七十話
翌日、噂を聞き付けた瞬が、早速お城へ遊びに来た。
颯はというと、正座する私を足で挟むようにベッタリと抱きついている。
「瞬!美子ちゃんを見るな!妊娠するだろっ!」
「颯……今までも普通に見ておっただろ……」
「今までとは違うの!だって美子ちゃんは完全に僕のものになったんだもん♪」
「だもんって……」
瞬は苦笑いを私に向けてくる。
「美子……今更だが、本当に颯で良いのか?どう見ても暑苦しいが……」
ピトッ♪
颯は手足総動員で私に抱きついている。まるで腕につける人形状態だ。
「ま、まぁ……今に始まった事では無いような……」
「しかし、鬱陶しさが増してるような……」
「だよね……」
思わず私も苦笑いだ。
そんな私を見て、瞬は颯に顔を向ける。
「颯、ちゃんと手加減しておるか?」
「手加減?」
「人間はもののけよりもか弱い故、求め過ぎたら美子が壊れるぞ。」
も、求めっ?!
「そ、そうなの?」
「ああ、だから手加減しつつ、こう満足させるよう……」
瞬のいやらしい手つきに、思わず止めに入った。
「ば、馬鹿だろ!エロ狐は黙ってろ!」
「何だよ美子、我は二人の事を考えてだな……」
「エロ狐は何も考えるなっ!」
「ふ~ん♪って事は、ちゃんと満足しておるという事であるな♪」
「て、てめぇ!マジで……」
拳を握り締めた時、ブツブツと颯が考え込み始めた。
「美子ちゃんが……壊れる……」
エロ狐のせいで、颯がまた難しく考え始めてんじゃん!
「瞬が余計な事を言うから、颯がおかしくなっただろっ!」
「はは!人間の嫁を貰うんだから、そのくらい考えた方が良いだろう!本当は人間の嫁を貰った事がある翔に、助言を貰えれば良いのだがな。」
「そう言えば翔は来なかったね。まだ噂を聞いて無いのかな?」
し~ん……
二人が私の顔を見て、固まっている。瞬は哀れむような顔を向けてきた。
「美子……もしかして鈍いのか?翔は今頃失恋で泣いていると思うぞ。」
「そうなの?誰かにフラれたの?」
し~ん……
また二人が私の顔を見て固まった。
「な、何よっ!!」
颯は妙に納得したように頷いた。
「うん、やっぱ美子ちゃんは最高だね♪」
「颯……誉められてる気がしないんだけど……」
それから二週間、颯は抱き締める以上の事をして来なかった。触れるどころか、キスさえも無い……
「美子ちゃん、おやすみ~♪」
相変わらず同じ布団で寝ているけど、抱き枕状態のままだ。
「おやすみ……」
おやすみのキスくらいしてくれても……って、な、何考えてるのよっ!!
ここは沢山の人がいるお城だし、何処で誰が聞き耳を立ててるかもわからないし……
って、そ~では無くてっ!!
やっぱ一晩でポイッ?!いや……相変わらず颯は私を大事にしてくれてるし、それは無いよね……
はぁ……考え過ぎだよね……寝よ、寝よ……
その時、キュッ!と抱き締める腕に力が入った。
「ん?颯、どうかした?」
顔を上げようとしたら、颯が焦ったように止めてくる。
「な、何でも無い!ごめん!苦しかった?」
「いや、大丈夫だけど……」
「そ、そう……おやすみ♪」
颯も眠れないのかな……
背中をトントンしてあげようと、手を伸ばした時だ。
「えっ?!」
こ、この手に当たるふさふさの毛並みって、もしかして尻尾?!
ガバッ!と颯から身体を離して頭を見た!
「やっぱり……」
颯の頭にはふわふわの耳が……
「み、美子ちゃん!ごめん!」
「何で謝るの?」
「だって、美子ちゃんを壊さないようにって、我慢しないといけないのは分かってるんだけどっ!」
やっぱ、エロ狐の助言が枷になってるじゃん……
「見なかった事にするよ……」
颯の努力を無駄にしないよう再び颯の胸に顔を埋めて、目を閉じた。
「……」
し~ん……
ね、眠れない……たぶん颯も寝てないよね……
「……美子ちゃん、寝た?」
「ううん……まだ……」
「そ、その……」
「……ん?」
「ちょっとだけ……」
「何?」
「……ちゅ~♪してもいい?」
「う、うん……」
少し身体を離すと、すぐに触れるだけのキスが落とされてくる。
あ……久しぶりのキスだ……
そっと唇が離れていくと、颯と目が合った。
「み、美子ちゃん……やっぱ無理っ!今ので灯がついたっ!」
「な、何の灯だよっ?!」
「もう、美子ちゃん不足で死んじゃいそう!壊さないように優しくするから……いい?」
「い、いや……ここお城だしっ!誰かに聞こえたら恥ずかしいからっ!」
パチン!
颯が障子に向かって指を鳴らし、また私に向き直った。
「これで大丈夫!誰も最上階に上がれないよう、結界を張っておいたよ♪」
「結界?!って……」
「まだ駄目?それとも僕に触れられるの、嫌?」
うっ……
またうるうるお目々で、おねだり攻撃……その目は卑怯だろ……
「だって、また城内中バレバレになるじゃん!ほら!お、音とかさっ!」
それを聞いた颯は、ガバッ!と私を横抱きにして、部屋の片隅に追いやられていたウォーターベッドまで運んだ。
「こ、これって……」
「……初めて使うね…」
「そ、そうだけど……」
「大好きだからもっと触れたい……美子ちゃんをもっと愛したい……本気で嫌なら全力で拒んで……頑張って本能を抑えるから……」
「全力っ……んんっ!」
性急に熱が入り込んできた!何も反論出来ない久しぶりの深いキスに、自然と身体の力が抜けていく……
颯はズルい……強引なクセに甘やかすような優しいキスを、拒める訳無いじゃん……
「愛してる……もっと……美子ちゃんが欲しい……」
とろけるような囁きと身体中に優しく落とされるキスに身を委ね、胸が甘く疼く度に颯の背中を全力で抱き締めた……
颯の誕生日も間近に迫った頃だった。一緒に領地の見回りへ行った帰り、城下町の一軒の店に目が止まった。
「颯、あの店をちょっと見てもいい?」
「いいよ!何だか珍しい物が沢山だね♪」
色々と手に取って見ていると、店主が店の奥から出てきた。
「いらっしゃい!こちらの棚は全ては舶来品ですよ!」
「そうなんだ!見たことの無いアンティークだらけ♪」
店主は手に取った品物を自慢するように、説明を始めている。
「このランプは擦ると、願いを三回叶えてくれるそうです。」
「へぇ~!」
アラジンの魔法のランプかな?
「但し、くしゃみをしてはいけないそうです。」
……違う意味で魔法のランプだ……
「この開く手鏡は、呪文を唱えると人間でも変化出来るらしいです。女性限定のようですが、試してみますか?」
「い、いや!結構です!」
これも昔懐かしいアニメ特集で見た記憶が……
「この飾りが付いている棒は、星に替わって悪者を退治出来る……あれ?お天道様だったかな?」
……たぶん、月じゃぁ無いかな……
「とにかく楽しい道具達なのですが、みんな怪しんで買ってくれなくて……」
でしょうね……
ふと、棚の端にある手鏡に目がいった。貝を埋め込んだような、虹色に光る、綺麗な細工が施されている。
「店主さん、この鏡は……」
何気無く手に取ると、店主に勢いよく止められた!
「駄目です!美子様!」
「へっ?!ご、ごめん!触ったら駄目だった?!」
急いで元の棚に戻す!
「美子様、申し訳ありません……女性が覗くと鏡の精がヤキモチを妬いてしまうそうです。」
「じゃぁ、男性用なの?」
「はい、男性が見ると、一番逢いたい人が見れるようです。颯様、如何ですか?」
店主は颯に売り込みを始めた。
「僕が一番逢いたいのは美子ちゃんだから、必要無いかな♪」
「例えば亡くなった方でも構いませんよ!誰かいらっしゃいませんか?」
「それって、顔を見た事が無い人でも可能なの?僕の母上とか……」
「はい、大丈夫ですよ♪」
「う~ん……」
珍しく颯が悩んでいる。
「やっぱいいや!美子ちゃんさえ居れば、僕は充分だからね♪」
結局、何も買わないで店を後にした。
翌日、鈴ちゃんと城下町へ出掛けた。珍しく颯が買うか悩んでいた手鏡を買う為だ。
颯は私が居れば充分だって言ってくれてたけど、やっぱお母さんの顔を見てみたいだろうし、丁度誕生日プレゼントにもなるしね♪
店に着いて、鈴ちゃんは魔法のランプを買った。倭に好きな人が出来て、すぐに子供が出来るようお願いするそうだ。
「ふふ!倭にいい人が現れたらいいね♪」
「願いは三回叶えられるそうなので、楽しみです♪」
「願いが叶ったら、右京さんと結婚出来るもんね!」
そして、颯の誕生日になった。朝から台所を借りて、大きなケーキも作った。
「颯様、お誕生日、おめでとうございます!」
お城のみんなの掛け声で乾杯した後は、みんなでプレゼントを渡す事になった。
まずは魁くんがトップバッターだ。
「颯兄さん!お誕生日、おめでとうございます♪」
「魁、ありがとう♪」
それから私も手鏡の入った袋を手に持って、颯に差し出した。
「颯、私からもプレゼントだよ♪」
「プレゼントは先に貰ってたのに……美子ちゃん、ありがと~♪」
魁くんが不思議そうに尋ねている。
「颯兄さん、先に何を貰っていたのですか?」
「僕が一番欲しかった美子ちゃ……むぐっ!」
急いで颯の口を塞ぐ!
「魁くん!何でも無いよ~♪」
「そ、そうですか……」
ったくもう……この世界は開けっ広げ過ぎだってば……
改めてプレゼントを手渡し、颯はゴソゴソと袋の中から手鏡を取り出した。
「これって、あの店の!」
「ふふ!お母さんの顔が見れるといいね♪」
颯はじぃ~っと手鏡を見始めている。
「あっ!父上だ!隣にお腹の大きな女の人がいる!もしかして、僕の母上?!」
左京さんも手鏡を覗いて、確認している。
「間違いなく前奥方様です……恐らくお腹の中には、颯様が……」
「そうなんだ……これが僕の母上……」
「前奥方様は、いつも笑顔を絶やさない方でした。颯様は前奥方様に容姿だけでなく、性格も似ていらっしゃいます……」
へぇ~、颯ってお母さん似なんだ♪
「父上と母上、何だか幸せそう……」
颯の顔が優しく緩んでいる。
「私も見たいな♪」
「美子ちゃんも見る?」
「うん!見せて♪」
二人で手鏡を覗き込んだ。
「本当だ!幸せそうに笑ってるね♪」
「うん♪」
はっ!し、しまった!
「あっ!」
「見ちゃった!」
二人が気付いた時には、既に手遅れだった!
ヒュン!
急に、大きな力に体が引っ張られていく!
「きゃ~~!!」
「美子ちゃん!!」
あっ!という間に、手鏡の中へ引きずり込まれてしまった!




