第六十九話
チュン、チュン……
……ん、眩しい……朝か……
何だか素肌に触れる温もりが……頭を撫でてくれている優しい手が……
……へっ?!
ガバッ!一気に目が覚めて、温もりから身体を離した!そこには朝日を浴びて満面の笑みを浮かべた颯がいる。
「おはよう、美子ちゃん♪」
「お、おはよう……」
う、うわっ!顔が見れない!
「ふふ!美子ちゃん、可愛い♪」
チュッ♪と額にキスが落とされた後、ふんわりと抱き締められた。
「ずっとこうしていたいかも……幸せ過ぎる……」
「う、うん……」
ど、どうしよう……嬉しいやら、恥ずかしいやら……反応に困るんだけどっ!!
少しだけ身体を離して、颯が私の顔を覗き込んでくる。
「美子ちゃん、こっち向いて……」
「む、無理っ!恥ずかし過ぎっ!」
チュッ♪
「ん……」
気づけば両手をシーツに縫い止めるように繋がれ、組み敷いてきた颯から深いキスが落とされてきた。
そっと離された唇が、頬に、首筋に移動していく……
まるで昨夜の幸せな時間を再現して……
って、ちょ、ちょっと待ったぁ~~~!!!
「そ、颯!朝だよ!」
「……駄目?」
ふと颯を見ると、ふわふわの耳にふさふさの尻尾がっ!!
「ちょっと待って!!何で本能がっ?!」
「だって、美子ちゃんが魅力的なんだもん♪」
「だもん♪って……」
「それに、美子ちゃんが全身で僕を好きって言ってくれてるみたいで、幸せな気持ちになるし♪」
「そ、そりゃぁね……」
「ふふ!だから、もっと実感させて♪」
再び颯が首筋に顔を寄せてくる……
って、その手に乗るかぁ~~~!!!
「まだ明るいんだからっ!駄目に決まってるでしょっ!!」
「んじゃ、夜ならいいの?」
うっ……そのくりくりお目々でお願いしてくるのは、反則だって……
トントン……
その時、部屋の入り口から微かにノックする音が聞こえた。
『藍です。朝食の準備に伺いました。』
た、助かったぁ~!救世主だっ♪
「ほら、颯!起きなきゃっ!」
「もっと美子ちゃんとイチャイチャしたかったよぉ……」
「そんな事言わないで、朝食を頂く準備をしよっ♪」
「は~い……」
渋々ながらも、颯はやっと起き上がった。
着替えて居間へ行くと、すでに朝食が整っている。
「美子様、おは……」
私の方を向いた藍さんの言葉が止まった……ってか、私を見て固まってる……?
「……ん?どうかしました?」
「い、いえ……失礼しました……スープをお持ちします……」
藍さんは、そそくさと台所へ駆け込んでいった。
「颯……私の顔に何か付いてる?」
「いいや、何も♪」
「そ、そう……」
スープを持ってきた藍さんに、颯が尋ねている。
「藍さん、雪妖族は馬を持ってる?」
「はい、涼様がお持ちです。」
「今日、貸して貰えるように伝えてくれるかな?帰る前に馬で散歩しようかと思ってね♪」
「かしこまりました。では準備しておきます。」
「よろしくね♪」
それからママの屋敷へ行くと、庭で涼さんが馬に鞍を付けている姿が見えた。
「涼さん!ありがとうございます♪」
「美子さん、二人用の鞍を……」
私の声に振り向いた涼さんの言葉が止まった……ってか、私を見て固まってる……?
「あの……私の顔に何か付いてる?」
「い、いえ……何も……」
スーっと目線を反らされてしまった。
な、何で?!
「ふ、二人用の鞍を付けておいたから、美子さんも大丈夫でしょう……昼食は一緒にと玲が言ってたので、それまでに戻って下さい……」
ってか涼さん、私を見てくれないんだけど……
「私の顔って、何か変?」
馬に二人で乗っている時、颯に再び尋ねてみた。
「ん……何も無いよ!美子ちゃんは気にしなくていいんじゃぁない♪」
「そう?何だかみんなの反応がおかしい気が……」
「ふふ!考え過ぎだよ♪」
「ならいいけど……」
私は颯の前に乗り、颯は片手で手綱を持ち、片手で私の腰を抱き寄せている。
「こんなに美子ちゃんにくっついてお散歩出来るなんて、幸せ~♪」
「颯は本当に馬に乗れたんだね!」
「びっくりした?急ぐ時は妖犬に変化した方が速いから、犬神は馬を持って無いんだ!でも、小さい時に父上に教えて貰ってね♪」
馬はゆっくりとした歩みで、湖畔までやってきた。馬から下りて、草むらにゴロンと横になってみる。
「ん~!気持ちいい♪昨日の寒さが嘘みたい♪」
「玲さんと涼さんの喧嘩も凄いもんだね!」
「本当だよ……ママ達ったら、人騒がせなんだから……」
私の横にゴロンとしてきた颯が、ボソッと呟いた。
「美子ちゃん、ありがと……」
「ん?何が?」
「そ、その……覚悟を決めてくれて……」
「か、覚悟っていうか……付き合ってたら、自然な事かなぁ……なんて……」
片肘をついて、颯は私の顔を覗き込んでくる。
「手付け出来る喜びっていうよりも、やっと美子ちゃんと心が繋がった気がして、本当に嬉しかった……最高に幸せを感じたよ……」
「そ、そう……」
そっと頬に手を添えられる。
「二人で、もっと幸せになろうね♪」
「うん♪」
颯がふわっと微笑むと、愛しむような優しいキスが落とされた。
心が繋がるっていうか、心が幸せで満たされていく気がする……
昼食までの間、微笑み合いながら何度もキスを重ねた。
ママの屋敷へ戻り、リビングに足を踏み入れた。
「美子!涼と藍が言ってたとおりね♪」
いきなりママは満面の笑みを浮かべている。
「ん?ママ、何の事?」
「とぼけなくてもいいわよ♪やっと手付けが終わったのね~♪」
「……はっ……?!」
し、しまった!!すっかり忘れてたっ!!この世界では、バレバレなんだった!!
だから、涼さんも藍さんも、私を見て固まってたんだ!!
「颯、末長く美子をよろしくね♪」
「勿論です!お義母さん♪」
お、お義母さん?!
「結婚式も近いかしら♪」
「僕は今すぐでもいいですけどね!」
「ふふ!今すぐなんて支度が忙しくなるわ♪」
「また決まったら、連絡しますね♪」
ま、ママと颯が意気投合してる……
ん?バレバレって事は、私は颯とエッチしましたって、看板背負って歩くようなもんじゃん!!
う、うわっ!は、恥ずかし過ぎっ!!
完全に晒し者にされた昼食を終えて、帰城の途についた。
「颯……」
「美子ちゃん、なぁに♪」
「涼さんと藍さんの様子がおかしい理由、わかってたでしょ!」
「そりゃぁね~♪」
「何で教えてくれなかったの!」
「だって美子ちゃん、知ってたよね?」
「ま、まぁ……すっかり忘れてたけど……」
はぁ……
思わず盛大な溜め息をついた。
「昨夜の事、無かった事に出来ないよね……」
「美子ちゃん……僕に手付けされるの、そんなに嫌だった?」
颯はうるうる目で、訴え掛けてくる。
「そ、そ~ゆ~訳じゃぁ無いけど……みんなにバレバレって……」
「ふふ!美子ちゃん、諦めようよ♪」
「お城へ帰るのが怖いよ……どんな反応されるのか……」
戦々恐々としながらお城に戻ると、右京さんと左京さん、鈴ちゃんが出迎えてくれた。
「颯様、美子様おかえ……」
右京さんの言葉が、私の顔を見て止まった。
ですよね……そうなりますよね……
「皆の者!颯様と美子様が手付けを終えられたぞ!宴の準備だ!いや、祝言か!」
左京さんが興奮気味に使用人に指示している。
ってか、完全に城内放送状態じゃん!
「ちょ、ちょっと、左京さん!止めて!」
左京さんを止めようとしたら、鈴ちゃんに、ガシッ!と手を握られた。
「美子様、思いが伝わって良かったですね♪」
「い、いや……」
右京さんに至っては、薄っすらと涙を浮かべている。
「颯様……おめでとうございます……グスッ……」
「右京にも、心配かけたね♪」
「そんな……私は颯様と美子様の幸せをいつでも……グスッ……」
な、何?!何なのよっ!このカオス状態はっ!
もう……目眩がしてきた……
「美子ちゃん、どうしたの?」
目頭を押さえていると、颯が気遣うように尋ねてきた。
「い、いや……ちょっと目眩が……」
それを聞いた左京さんが、ピクリと反応する。
「ま、まさか……」
「……へっ?」
「皆の者!美子様はご懐妊であらせられるぞ!」
「そ、それは無いからっ!」
「女中頭はおるか!美子様のお食事の変更を!」
も、もう……
「お願いだから、これ以上騒がないで~~~!!!」
私の叫び声だけが、虚しく城内に響いた……




