第六十六話
鈴ちゃんと右京さんがお城へ戻ってきた。
「鈴ちゃん♪おかえり~!」
「美子様!やっと戻れました♪」
「やっぱ結婚の許しを貰うのって、大変だったの?」
「……結局、条件付きです。」
「条件って?」
颯が二人を座るように促して、右京さんが颯に報告を始める。
「結婚するに当たり、二種類の条件を出されました。」
「二種類?」
「はい。一種類目は、倭様が結婚して子を儲け、鈴の跡継ぎ順位が下がるまで結婚は禁止、という内容です。」
「成る程……ちょっと先の話になりそうだね。もう一つは?」
「鈴に白蛇族の男妾を取らせ、男妾の子を先に儲けるという内容です。こちらならすぐにでも結婚を許すと……」
お、お、お……?!
「お、男妾?!」
驚きのあまり、口を挟んでしまった。
「ご、ごめん……びっくりしちゃって……」
「人間界では無いのですか?」
右京さんが当然のように尋ねてくる。
「うん……聞いた事は無いかな……こっちではよくあるの?」
「そうですね。例えば子が女性ばかりの場合や、女性が当主の条件を満たした場合は、選ばれた優秀な男妾達が用意されます。やはり一族が滅びない事が、一番重要ですから……」
「当主の条件って?」
「妖力や必要な知識の修得など種族によって異なります。男女問わず優れた才能の持ち主が当主となるのです。」
「成る程ね……」
跡継ぎの女の子って、自由な恋愛は許されないんだね……
気遣うように鈴ちゃんへ目を向けると、微笑みが返ってきた。
「美子様、大丈夫ですよ。倭に子が出来なければ、どちらにしろ男妾を取らなければなりませんから、それまでは右京様だけと過ごしたいと、父には伝えて来ました。」
「そうなんだ……」
こっちの世界ではすぐに結婚するって聞いてたけど、出来なかったとしても右京さんだけと過ごす事を選んだのか……よしっ!全力で鈴ちゃんを応援するぞ~♪
「鈴ちゃん!倭が早く結婚したら問題無いんだよね!倭の好みって、どんな人なの?探してみようよ♪」
し~ん……
あれ?みんなが無言で私を見てる……
暫くの沈黙の後、颯が私を伺うように口を開いた。
「……美子ちゃんって、結構鈍い方?」
「な、何でよっ!颯!」
「だって……美子ちゃんに誰かを紹介されたら、倭は傷つくと思うよ……」
「どうしてそうなるの?」
「うん……まぁ、気にしないで!僕にとって、やっぱ美子ちゃんは最高だよ♪」
「誉められてるのか貶されてるのかが、わからないんだけど……」
そのうちなるようになるさっ♪って事で、倭のお嫁さん探しは静観する事で決まった。
そして、私の誕生日になった。颯に朝から城外へ連れ出されている。お城のみんなが私の誕生日会を開いてくれるので、みんなが準備する間、城の外で過ごすように言われたのだ。
「ふふ!思いがけずに、美子ちゃんとデートが出来ちゃった♪」
「颯は、私が会場へ入らない為の引き留め役じゃん……」
「それでもいいもん!おにぎり持って来たから、景色がいい所で食べようね♪」
外でおにぎり……トラウマが……
今日は悪戯小人さんに出会いませんよ~に……
少し山を登って着いた所は、広くて気持ちいい草原だった!しかも、大きな垂れ桜が満開になってる!
「うわぁ~!綺麗な桜♪」
「丁度満開かな?って思ってたんだ!」
「そうなんだ!連れてきてくれて、ありがとね♪」
「どういたしまして♪」
とりあえず草原に座って、おにぎりを頬張った。悪戯小人さんの姿も見えないし、風は気持ちいいし、最高~♪
「ピクニックにはいい季節になったね♪今日は小人になってないし、満喫出来るよ~!」
「うん!風も気持ちいいしね♪」
「ごちそうさま!お腹いっぱいになったら、横になりたくなっちゃった♪」
「ちょっと昼寝する?」
「でも、食べてすぐに横になると、太るしな……」
「ぷぷ!美子ちゃん、一日くらい平気だって♪」
颯はゴロンと横になって、腕を伸ばした。
「はい!ど~ぞ♪枕もあるよ!」
「……それって腕枕の事?」
「もちろん♪」
にこにこしながら私を待つ颯の腕に、おずおずと頭を乗せてみる。
「失礼しま~す……」
「ふふ!美子ちゃん、そんなに硬くならないで♪」
「だって、ここ、外だし……」
「大丈夫!ここは、父上と僕だけの秘密の場所なんだ♪だから、誰も来ないよ!」
「そうなの?」
「もしかしたら魁も知ってるかもしれないけど、今日は美子ちゃんのお誕生日会の準備中だしね♪」
「そういえばこの世界に来て、丁度一年かぁ……」
颯は身体を動かし、軽く抱き締めてくる。
「17歳おめでとう……一年前よりも、もっと美子ちゃんの事を好きになってる気がするよ……」
「一年前から嫁にする気満々だったくせに……」
「そりゃぁね!ちょっと強引だったけど、やっぱ連れてきて正解だったな♪」
「まぁ、一年前は腕枕なんて考えれなかったしね……」
「こんな事もね♪」
チュッ♪
急に視界が颯の顔で遮られたかと思ったら、小鳥のようなついばむキスが落とされた。
「も、もうっ!不意打ちは止めてって言ったじゃん……」
「ごめん、ごめん♪」
チュッ♪
そう言いながらも、キスを止めない。
「そ、颯!ここ、外だよ!」
「誰も居ないじゃん♪理性は無くさないから……」
「もう……」
私の制止なんて気にも留めずに重なる唇が、深いキスで絡み合う…
「ん……」
「美子ちゃん……」
漏れる吐息に反応するように颯が組敷いて、更に深く颯の熱が伝わる。
何だろう……ドキドキするけど、幸せに満たされていくこの感じ……
「はっ!」
や、ヤバいっ!!こんないい雰囲気の時に、乙女として大失態かも~~!!
急にピクン!と身体を離した私の顔を、颯が覗き込んできた。
「美子ちゃん、どうしたの?」
「い、いや……」
「何か悩み事?」
「そ~ゆ~訳でも無いような、あるような……」
「僕じゃぁ、頼りにならない?」
颯はうるうるした目を向けてくる。
っていうか……も、もう駄目……
「トイレに行きた~~いっ!!」
「ご、ごめん!女の子は外って訳にはいかないもんね!考えて無かった!」
「今すぐ考えて~~!!」
「確か、ここへ来る時の道から小屋が見えた気がする!そこまで我慢出来る?」
「我慢するから案内してっ!」
いい雰囲気をぶち壊して、一軒の山小屋まで無事に辿り着いた。
トン、トン……
「すみませ~ん!」
……反応無し?
「すみません!どなたかいらっしゃいませんか?」
「……はい。何でしょう?」
二回目の呼び掛けで、山小屋の中から声が聞こえてきた。
「厠をお借りしたいのですが……」
ガチャ……
扉が開いてびっくりだ!
こ、小人じゃん!私の腰くらいの身長だから悪戯小人よりは大きいけど、小人のオッサンだ!しかも七人だ!ま、まさか白雪姫とは違うよね?!
ってか、それよりトイレだっ!
「あの……厠を……」
「どうぞ!」
「中にあるよ!」
「入って左側ね!」
親切だけど、七人同時に話すなよ……
「ありがとうございます!お借りします!」
「美子ちゃん、僕は外で待ってるね♪」
「わかった!すぐに戻るね!」
颯と一言だけ交わし、ピュ~ン!と山小屋の中の厠へ駆け込んで、やっと落ち着きを取り戻した。
「ありがとうございました!助かりました!」
お礼を言って山小屋の外へ出ようとすると、七人の小さなオッサン達に囲まれた。
「せっかくだから、ゆっくりしてよ!」
「お茶をどうぞ!」
「お菓子もあるよ!」
だから七人同時に喋るなよ……こっちは聖徳太子とは違うんだって……それに、リンゴじゃぁ無いけど、白雪姫の話みたいに毒が入ってたら嫌だもんね……
「せっかくだけど、そろそろ帰らないといけないの。外で連れが待ってるし。」
「そんな事言わないでさ!」
「連れなんてど~でもいいじゃん!」
「僕達と暮らそうよ!」
だから七人同時に……
……って、もしかして今、暮らすって言った?!や、ヤバいっ!こいつらも、もののけだ!
一歩後ずさったけど、時すでに遅し……
何だかクラクラする……た、倒れる……
「颯……助けて……」
そのまま目の前が真っ暗になっていった……
……ん……
意識が浮上し、徐々に感覚が戻ってくる。
何だか唇に軟らかいものが……
はっ!もしかして、き、キス?!
「きゃぁ~~!!」
バシン!
思いっきり目の前にあった顔を平手打ちっ!!
「い、痛い……美子ちゃん酷い……」
「へっ?そ、颯!!」
「僕、術を解いてだけだから……」
「ご、ごめん!つい!」
山小屋を見渡すと、小さなオッサン達がロープで縛られて、私は小さなベッドで寝かされている状態だ。
「えっと……私は一体……」
「戻ってくるのが遅かったんで山小屋を覗いてみたら、美子ちゃんを嫁にするって話が聞こえてきたんだ。術を掛けられて気を失ってたみたいだったし……」
「そうだったんだ……」
キッ!と、小さなオッサン達を睨んだ。
「恐いっ!」
「殴られるっ!」
「嫌だよ~!」
ったく、七人同時に泣き言かよ……
「あのね!元はと言えば、あんた達が原因でしょ!」
「だって、殴るなんて……」
「こんなに恐い人なんて……」
「嫁にしなくて良かった……」
はぁ?!何で七人揃って私に怯えてんのよっ!
颯が七人の小さなオッサンに腕組をして向き直った。
「もう二度とこんな事しないって、約束出来る?」
「します!します!」
「こんな恐い嫁は嫌だぁ~!」
「鬼嫁だ!」
何だか凄く理不尽な気がするんだけど……
釈然としないまま、颯に促されて山小屋を出た。
「七人童子にも困ったもんだね……」
ん……?七人童子?
「颯、それってさっきのオッサン達?」
「そそ!普段はあまり見掛けないと思ってたけど、こんな所に住んでいたんだね。」
「やっぱ七人童子も、もののけなの?」
「うん、そうだよ。」
色んなもののけが居るんだね……
ってか、私って、小人との相性悪過ぎだよ……




