第六十五話
トミーの暇潰しに、領地の見回りや他の村へ行く日が続いた。
でも、そろそろネタ切れになって来たなぁ……
そんな中、トミーが人間界へ行きたいと言い出した。
「なぁ美子りん、俺プリやりたい!」
「プリクラの事?」
「それそれ♪洋服ってのも買いたい!ねぇ……人間界に行かね?」
「そうだねぇ……確かにずっとこっちに居るのも暇だよね……」
元々それが目的だもんね……
って事で、颯と私とトミーと、ママからの手紙を持ってきた翔も一緒に人間界へ出掛けた。
「うわっ!これが人間界っすね!アゲアゲ~♪」
はは……その言葉、何処で勉強したんだか……
まずは洋服を見る為に、ショッピングモールへ向かった。
「わっ!チョ~いけてる!このスカル、マジぱねぇ!」
トミーの言葉を聞いた翔は、首をひねっている。
「美子さん……トミーが話す言葉の半分も理解不能なのですが……」
「翔、大丈夫だよ……私でも理解不能な事は多いし……」
そんな私達を気にも止めずに、トミーは買い物に夢中だ。
「そこの兄さん!この棚を全部と、そこに掛けてあるもの全部買いっす!」
はぁ?!ま、まさかの大人買い?いや、セレブ買い?!
急いで止めに入った!
「ちょ、ちょっと!トミー、ヤバいって!」
「美子りんも洋服いるよね~!おなご用を全部貰っとく?」
お、おなごって……ギャル言葉になりきれて無いじゃん……
って、そんな場合じゃぁ無い!
「トミー、ちゃんとサイズを見た?全部買っても意味無いじゃん!」
「サイズ?着丈は後で直すっしょ?」
「あのね……着物と違ってお直しなんて、洋服には無いから……」
「流石は美子りん!よく知ってるぅ~♪」
一応、人間界の住人でしたから……ってか、服を何処で着るんだろう……天界では、着物だよね……しかもゴージャスな……
それからサイズを確認して、トミーは数枚の服を買った。
「次はプリだ!美子りん、チュ~プリ撮らね?」
「撮らね~よ……」
一歳児の颯がくりくりお目々で私の服の裾を引っ張ってくる。
「美子ちゃん、チュ~プリってなぁに?」
「ん~♪颯ちゃん、子供は知らなくていいのよ~♪」
「だから、子供じゃぁ無いし……」
ゲームセンターに移動して、プリクラ機の中に入る。
「ここで撮るんだ~♪うわっ!機械がしゃべってる!」
トミーは初めてのプリクラに大興奮だ。
「ふふ!トミーが好きなのを選んでもいいよ♪」
「あざ~っす!」
画面の選択が終わって撮る時、颯が画面に入っていない事に気付いた。
「颯ちゃん、抱っこしてあげまちゅね~♪」
「不本意だけど、よろしく……」
「ふふ!子供が遠慮しないの♪」
「成人してるし……」
『はい!3、2、1、カシャッ!』
アナウンスに従ってポーズを決めていき、最後の一枚になった時だった。
チュッ♪カシャッ!
えっ?!い、今、頬に当たったのって……
振り向くと、トミーが満面の笑みを浮かべている。
「へへっ!チュ~プリ、頂きっす♪」
や、やっぱり……頬にキスされた……
うわっ!気持ち悪いっ!イケメンにキスされたのに、ちっとも嬉しく感じないっ!
「俺と美子りんの、一生の宝物っすね~♪」
呑気なトミーの声に、ブチッ!とキレた!
バシン!
思いっきりトミーの頬に平手打ちっ!
「痛って~!そこまで怒らなくてもいいっしょ!」
「馬鹿だろ!怒るに決まってるじゃん!」
「頬だし、減るもんじゃぁ無いしっ!」
「こ、こんな……」
颯が見てる前で……こんな事……
「もう、トミーなんて大っ嫌い!早く月に帰れ!」
ダッ!とプリクラ機から駆け出して、神社への道を走った!
もうっ!まだ頬に感覚が残ってるっ!ってか、颯以外にキスされるのって、こんなに気持ち悪いんだ!
服の袖でゴシゴシ頬を擦りながら神社の手洗い場までダッシュして、速攻で蛇口を捻った。
「もう……洗っても洗っても、感覚が消えない……」
ジャー、ゴシゴシ……ジャー、ゴシゴシ……
水を出しっぱなしにしたまま、しゃがんで何度も頬を擦った。
「取れない……取れないよ……どうしよう……」
何だか泣きそう……
パシッ!
誰かに腕を掴まれた。見ると、小さな颯が私の腕にしがみついている。
「美子ちゃん!頬が真っ赤だよ!」
「もっと洗わないと……離して……」
「駄目!傷になっちゃうよ!」
「お願い!感覚が消えないの!」
「もういいから……」
「良くないっ!」
その時、チュッ♪と、頬に小さな颯がキスをしてきた。
「これで、僕の感覚になった?」
「……颯……」
「もう洗わなくてもいいよね?」
頬に残る感覚は、小さくて可愛い、だけど優しさいっぱいの感覚に変わっていく。
「ふふ!もう、颯ちゃん可愛い~♪」
「だから……」
「ありがとう♪」
ふわっと小さな颯を抱き締めた。小さな颯は、一所懸命私の背中に腕を伸ばそうとしている。
ん~!一歳児が一所懸命なぐさめようとしてる♪可愛い~♪癒される~♪
暫くして、神社に翔とトミーが戻ってきた。
心なしか、トミーが怯えてるような……
「美子さん、もう大丈夫ですよ。美子さんに今度何かしたら、私が許さないと言い聞かせておきましたから。」
「あ、ありがとう、翔……」
翔からブラックオーラだだ漏れだ……絶対、言い聞かせただけでは済んで無いよね……何があったかは聞かないでおこう……
それからお城へ帰った時、左京さんから私の誕生日の話を聞かされた。
「犬神だけでお祝いするつもりでしたが、城下町の人達から盛大にという話がありまして……」
「へっ?そ、それは断ってよ~!私ごときで大袈裟だってば!」
「ですが鬼神族の大王を倒した時に何もしてないと、そのような話が出たらしく……」
「そっかぁ……でも、もう少し規模を小さくして欲しいな……」
結局、鬼神族の人達の解放記念日として、二月十四日に何かするって方向が決まった。
誕生日と分けて貰えて良かったけど、恋人達のイベントである二月十四日のバレンタインデーは、人間界とはまったく意味が変わりそうだ……
左京さんが部屋から出て行き、再び颯がにこにこ笑顔を向けてきた。
「美子ちゃん、誕生日プレゼントに欲しい物はある?」
「う~ん……欲しいっていうか、行きたいところならあるかな……」
「何処?」
「全部人間界なんだけど、動物園にも行きたいし、遊園地にも行ってみたいし、ホテルバイキングにも行ってみたいな♪」
ピクッ!
私の要望に、颯が反応している。
「それって、僕とデートしたいって事だよね♪」
「で、デートっていうか……ちゃんと彼氏と彼女になったけど、二人でちゃんと出掛けた事が無いなって思って……」
「うん……出掛けても、領地の見回りがほとんどだもんね……ごめんね……」
「い、いや、颯が当主として忙しいのは知ってるし、人間界の器も小さな子供だし、気軽に出掛けられない事もわかってるからね!」
「美子ちゃん……」
颯はふんわり抱き締めてきた。
「今すぐは叶えてあげられないけど、器が二十年越えたら人間界でデートしようね♪」
「十九年後かよ……」
「こっちの世界でも、デートに行けそうな場所を探しておくからね♪」
「うん!」
チュッ♪
ふと思い出したように、颯が私の頬にキスをしてきた。
「上書き完了♪」
「ふふ!さっき、小さな颯にもして貰ったよ!」
「こっちも上書き♪」
チュッ♪
今度は唇にキスが落とされる。
「そ、そこは大丈夫だよ!」
「ふふ!美子ちゃんのその顔、好きだな♪」
「……ん?どんな顔?」
「チュ~♪した後って、美子ちゃんの顔がふにゃっ!ってなるんだ♪」
「そ、そんな間の抜けた顔なんて、してないもん!」
「だったらもう一回試してもいい?」
「……それってキスしたいだけじゃぁ無いの?」
「正解……」
颯は、ふわっと笑って顔を傾けてくる……それに答えるように、そっと目を閉じた。
「ん……」
だって、仕方ないじゃん……
颯のキスが優しくて、幸せな気分になるんだもん……顔がふにゃっとするくらいに……
「美子ちゃん……好きだよ……」
キスの合間に、颯の甘く囁く声が漏れる……
それから夕食の時間になるまでキスを重ね、甘く幸せなひとときを過ごした。




