第六十四話
次の日、私達の部屋には、まったりと寛ぐトミーの姿がある。そして、珍しい天界人を見ようと、翔や瞬まで遊びに来ていた。
「トミー!ちょっとこの台詞言ってみて♪」
「ん?これっすか?」
一つ咳払いをして、トミーは佇まいを直す。
「貴女が望むのなら王子の位を捨ててもいい……世界中を敵に回しても構わない……貴女だけを愛しています……」
き、きゃぁ~♪これぞリアルなアンドリュー王子♪
「つ、次の台詞は……」
はっ!
颯がジト目でこっちを見てる!
「美子ちゃん……酷い……」
「そ、颯!ちょっとした余興だってば♪いじけないで!」
「いじけるよ……」
「ごめん、ごめん……次の台詞で終わりだからさ♪」
「まだ続けるの?」
颯と私の間を、トミーが割り込んできた。
「暇ぁ~!美子りん!人間界へ一緒に行かね?」
「トミーは引きこもりだったんだよね?本当は外へ出るのが好きなの?」
「うん。天界で外へ出ると、マジパネェし!」
言ってる意味がわからない……
「えっと……確か見た目で引きこもりってかぐやさんが言ってたけど……何があったの?」
「下界のイケメンは天界では不細工っすよ!かぐや従姉さんもマジ苦労だったんじゃね~?」
「へっ?そうなの?」
「そそ!腹が出てて、糸目で下膨れの奴が人気っすよ!」
「そ、そうなんだ……」
それってたぶん、平安絵巻のような、百人一首の挿絵のような世界なの?ってか、イケメンが不遇の世界って……真逆過ぎてよくわからないや……
「だから~、俺がイケメンって聞いて、下界はパラダイスっつ~事なんっすよ♪」
「なるほどね……」
「実は、かぐや従姉さんには内緒っすけど、嫁を探しに来たんっすよ……」
「へぇ~♪」
「って事で、美子りん、よろ~♪」
「よろ~♪って……馬鹿だろっ!!」
「俺、本気っすよ♪」
はぁ……見た目がアンドリュー王子でも、中身はやっぱもののけなのね……しかも空気以上に軽い……
「まっ!一度接吻してしまえばこっちのモノっすけどね~♪」
「それ、ど~ゆ~事?」
「接吻を交わした男女は、必ず婚約の儀を行わないと駄目なんっすよ!」
トミーの言葉に瞬が反応している。
「婚約の儀は何をする儀式なのだ?」
「俺の口から言わせるつもりっすか?そりゃ、三日三晩、いちゃこらするんっすよ♪」
「三日三晩?」
「そそ!それくらい体力が無い男でないと、娘はまかせられないって事らしいっすよ!」
「なるほど……まっ!我もそのくらい余裕であるがな♪」
瞬とトミーがニヤっと笑って意気投合してる……見なかった事にしよう……
「そういえば、みんなはそれぞれ何か能力があるんっすよね?」
トミーの問いかけに、翔が妖力の説明を始めた。
「私は空を飛ぶ事と風をあやつる事ですね。颯は強大な火を扱い、瞬は火の他に物を変化する事が出来ます。トミーさんは何か力がおありですか?」
「う~ん……天界人の能力について話しては駄目なんっすけど……みんな能力持ってるし、いいっすよね♪天界人は人それぞれ能力が違うんっすよ。かぐや従姉さんは瞬間移動で、俺は物を引き寄せる力だけっす。」
「ほう、ですがかなり便利な能力ですね。」
「まぁね♪例えばこんな使い方っすね~♪」
ふと、トミーが私を見た。
と思ったら、スッ!と私が瞬間移動!トミーの側に移動してるじゃん!!
「え?!え?!ど、ど~ゆ~事?!」
「美子りん!マジヤバ!側に来てくれるなんて、チョ~嬉ぴ~♪」
「ちょ、ちょっと!!」
肩を組もうとするトミーを押しのけようとすると、颯がガバッ!と私を抱きしめてきた!
「トミー!これ以上美子ちゃんに何かするんなら、天界へ帰って貰うよ!」
「残念ながら俺は次の満月まで動けないっすね~♪それまでの間に美子りんを落とすだけっしょ!」
「むむっ!」
あちゃ……颯とトミーが睨み合っちゃった……何だか波乱の予感だ……
次の満月が早く来ますように……
夜になってお風呂から部屋へ戻ると、颯が手鏡とにらめっこしていた。
「何してるの?」
「み、美子ちゃん!早かったね~♪」
私に気付くと、颯はサッ!と手鏡を隠している。
怪しい……
「何をしてたのか、聞いてるの!」
「いや……何も……」
「絶対に何かしてたでしょ!!白状しろっ!!」
「その……美子ちゃん好みの顔になろうかと……」
……はっ?!
「何言ってんの?」
「だって美子ちゃん、トミーみたいな顔が好きなんでしょ?」
「な~んだ、そんな事か……」
「何だって言わなくてもいいじゃん!僕、真剣なんだからっ!」
「ごめん、ごめん!」
もしかして、アンドリュー王子の台詞をトミーに言わせたのが、気になっちゃったかな……
颯の向かい側に座って、颯の顔を見つめた。
「颯は、そのままの颯だからいいんだよ♪」
「えっ?そ、そうなの?」
「前にも言ったでしょ?どんな格好でも颯は颯だって!」
「美子ちゃん……ありがとう……」
「こっちこそごめんね!トミーに映画の台詞を言わせたのが気になったんでしょ?」
「う、うん……」
「ふふ!今更、颯の事を嫌いになる事なんてないから、安心してね♪」
「美子ちゃん……」
颯が嬉しそうな笑顔を浮かべて、ふんわりと抱き締めてくる。
「美子ちゃん……絶対に僕の傍からいなくならないでね……」
「うん……」
微かに颯の顔が傾き、ふわっと笑った。
あ……もうちょっとで触れる……いい雰囲気かも……
そっと目を閉じる……
ヒュン!!
目を閉じる瞬間、いきなり目の前の景色が変わった!
ってか、また瞬間移動してんじゃん!!
目の前には、満面の笑みのトミーがいる!って事は、ここは客間か!!
「美子りんだ♪やっぱ俺達って気が合うくね?」
ピキッ!
久しぶりに青筋が立つ音がしたな……
「合わね~よ!!いいところを邪魔しやがって!!」
バキッ!ドカッ!
蹴りも加えて、鉄拳制裁!!
「今度私を移動させたら、次の満月まで簀巻きにするからな!!」
「っしゃ~せん……」
「まったくもう!!」
ドカドカと足音を立てながら部屋へ戻る廊下を歩いていると、向かい側からもドタドタと足音が聞こえてくる。
『本当に!急に美子ちゃんが消えちゃったんだ!!』
『とにかく客間へ急ぎましょう!!』
曲がり角を曲がったところで、颯と左京さんの二人と鉢合わせになった。颯は私の顔を見た瞬間、ガシッ!と両肩を掴んできた。
「み、美子ちゃん!無事だったんだね!」
「大丈夫だよ♪トミーにはちょっとだけ制裁を加えておいたから、もう私を瞬間移動させないと思うよ!」
「そ、そう……流石は美子ちゃんだね……」
左京さんの顔にも、ホッとした笑顔が戻っている。
「とにかく、私からもキツく言っておきますので、お二人は部屋へお戻り下さい。」
「左京、よろしくね~!美子ちゃん、行こうか♪」
颯は離れないように、キュッ!と私の手を握って、二人で部屋へ戻った。
ガバッ!
部屋へ入ったと同時に、後ろから颯が力強く抱きしめてくる。
「もう、びっくりしたよ……急にいなくなるから心臓が止まるかと思った……」
「私もびっくりしたよ……」
颯の腕の中でくるっと向きをかえて、向き合った。
「美子ちゃんがお風呂に入る時は、必ず誰かがトミーの監視をするようにするよ。」
「そ、そうだね……それは恥ずかし過ぎるから、お願いしたいところだわ……」
はっ!
って事は、いい雰囲気になっても、手付けは止めておいた方がいいって事なの?!
い、いや…別に手付けして欲しいって事じゃぁないけど、流れってものがあるし……で、でもその時に瞬間移動されたら、たまったもんじゃぁ無いよね……
「極力着替えとかもパパッ!と済ましてね♪」
「うん……」
「で、さっきの続きをしてもいい?」
「さっきの続きって?」
ふわっと笑って、颯は顔を傾けてくる。
あ……キスだ……
そっと目を閉じると、触れるだけの優しいキスが落とされた。
「もう今日は遅いから寝ようか♪」
「そうだね。」
「美子ちゃんが何処ヘも行かないように、僕がギュッ!と抱き締めておくね♪」
「ふふ♪もう大丈夫だと思うけど、念の為よろしくね!」
二人で布団に潜り込んで、颯は宣言どおりギュッ!と抱き締めてきた。
「颯、おやすみ……」
「美子ちゃん、おやすみ♪」
やっぱ颯の腕の中は温かいな……
心地よい温かさに誘われて、深い眠りについた。




