第六十三話
鈴ちゃんが里帰りする日、右京さんが急遽休みを申し出て来た。
「急な事で申し訳ありません……」
「いいって♪うまく行くといいね!」
「ありがとうございます。」
颯の言ってる意味がわからない……
「颯、何がうまく行くの?」
「そっか、美子ちゃんはわからないか!鈴さんから犬神の気配が漂ってるよ♪だから白蛇族の当主に、結婚の許可を貰いに行くんでしょ!」
「へっ?って事は、二人は……」
チラッと鈴ちゃんに目を向けた。
「はい、手付けは終わりました♪」
「そ、そう……」
こっちの世界は人間界よりもオープンだと聞いていたけど、堂々としてるんだね……
ってか、気配で分かるから隠しても無駄なのか……
えっ?!ちょ、ちょっと!私と颯がそ~ゆ~関係になったら、その日のうちにバレバレって事なの?!うわっ!恥ずかし過ぎじゃん!!
「次は美子様の番ですね♪」
「い、いや……それは……」
一大決心が揺らぐなぁ……
「ふふ!美子様は恥ずかしがり屋さんですからね♪」
「たぶん世の中の人間ほとんどが、私と一緒だと……」
それから鈴ちゃんと右京さんは、白蛇族の村へ旅立って行った。
無事に許しが貰えるといいな♪
その日の夜は綺麗な満月だった。先にお風呂を頂いて、寝る前に窓から月を眺めていた。
「美子ちゃん、何してるの?」
颯がお風呂から戻ってきたみたいだ。
「月を見てるの。」
「ふ~ん♪」
颯は私の傍まで来て、月を見上げた。
「美子ちゃん、月が綺麗だね……」
「うん、私もそう思ってた……」
「えっ?い、今のって……?」
ん……?
はっ!もう一つの意味を忘れてた!今のって、愛してるって言われて、私もって答えたようなもんだよね?!
「あ、あの!今のは!」
ど、ど~しよ~!!誤解を解くか、誤解のままがいいのか?!
一人あたふたしていると、颯が諦めたように、ふっと笑った。
「うん……わかってる。そのままの意味だよね……」
「ち、違う意味くらい知ってるもん!」
瞬に教えて貰ったけど……
「……それって、僕に都合がいいように解釈してもいいの?」
「う、うん……」
きゃ~!言っちゃったぁ~!は、恥ずかし~!!
颯は私をふんわり抱き寄せて、顔を覗き込んでくる。
「美子ちゃん……僕、もう我慢しなくてもいい?」
うわっ!これに頷くと、完璧に手付けコースだよね?!今から紐のパンツに履き替えるって、無理だよね?!
チュッ♪
う、うわっ!キスされたっ!
「黙ってるって事は、イエスに捉えちゃうよ……」
美子!黙って頷け!覚悟を決めろっ!って、心臓がバクバクしてきたぁ~~!!
何もイエスと捉えたのか、返事を待たずに颯が強引にキスしてきたっ!
「んっ!んん……」
い、いきなりこんな深い……
でも、壊さないように、傷つけないように優しくて……も、もう……
ガバッ!!
突然、颯が離れて、後ろ向きにしゃがんだ!
「ご、ごめん!本能が反応したっ!」
「……へっ?!」
「い、いや!本能のままだと嫌われるって聞いたから!す、すぐ収めるからっ!」
「それって、誰に言われたの?」
「瞬が……」
エロ狐か……
ってか、本能が反応するって、たぶん普通の事じゃぁ無いかな……アドバイスどころか、邪魔しまくってるじゃん……
「颯……」
そっと颯の背中に凭れて、頭に生えた耳を触った。
「えっ?美子ちゃん?!」
「ふふ!可愛い耳じゃん♪」
本能なんて気にしないで……と言おうとした時、ピカッ!!と空から落ちてきた光に目を奪われた!
「い、今のって……」
「もしかして、かぐやさん?」
二人で勢い良く部屋から飛び出して、中庭へ駆けて行った!
中庭には、既に左京さんと中京さんが立っている。そして金色に輝く牛車が!
「やっぱりかぐやさんだね♪」
「そうみたい!美月は元気かな♪」
牛車の中からかぐやさんと、もう一人、男性が降りてきた。
うわっ!かぐやさんに負けないくらいきらびやかな着物!それを着こなすアンドリュー王子の実写版みたいなイケメン♪
戦隊ヒーロー物に出てきたら、確実に主役じゃん!
私達に気付いたかぐやさんが、駆け寄ってきた。
「美子どのに颯どの!元気にしておったか!」
「かぐやさん、久しぶり♪美月は元気にしてる?」
「元気に跳び跳ねておるぞ!いつも脱走して家族を困らせておる。」
「ふふ!何となく想像出来るかも♪」
それからかぐやさんは男性を手招きし、男性はイケメン独特の爽やかな微笑みと共に、自己紹介を始めた。
「おはつ~!かぐや従姉さんの従弟で、富左衛門っす!トミーって呼んでちょ!よろぴく~♪」
……はっ?!な、何でギャル語?ってか、見た目がアンドリュー王子なのに、ギャル男?!しかも名前が富左衛門?!ミスマッチにも程があるだろっ!!
「は、はじめまして……美子と言います。とてもオカネモチそうなお名前で……」
パシン!
富左衛門さんの後頭部に、かぐやさんの突っ込みがヒット!
「いってぇ……」
「いつも言っておるであろう!その話し方は止めぬか!」
「っつ~か、おこ?」
バコッ!
更に強烈な突っ込みが入ったな……
「美子どのに颯どの、富はこのように少し変わっておるが、根は良い奴なのだ。」
「はは……とても楽しそうな人で……」
「富はこの見た目から引きこもりであったが、下界では美男子だと聞いてから下界大好きになってな。済まぬが次の満月までほ~むすていとやらをお願いできぬか?」
チラッと颯と顔を見合わせて、颯が答えた。
「構わないけど、人間界の方が富左衛門さんは楽しいと思うよ。」
「人間界に富を野放しするのは、心配でならぬ。ある程度、天界の事情を知っておるそなた達が最適なのだ。」
「なるほど……そ~ゆ~事ならいいですよ♪」
「急を言って申し訳ないが、よろしく頼む。」
かぐやさんは天界の使者に合図をすると、金の延べ棒が十本縁側へ置かれた。
「富の世話は、このくらいで足りるであろうか……」
金……の、延べ棒が……月兎の十倍だ……
驚き過ぎて固まっていると、延べ棒を見た富富左衛門さんが不満を口にした。
「かぐや従姉さん、このくらいなんて少なくね?」
ドカッ!
今日一番の突っ込みが入ったな……
「美子どの達は好意で受けてくれておる。多くても失礼に当たるのだ。富も覚えておくが良い。」
「ちぃ~っす……」
この量でも多すぎっしょ……宇宙人の感覚も理解不能だな……
それからかぐやさんは天界の使者と一緒に月へ戻って行った。残された富左衛門さんが、私に話し掛けてくる。
「ねぇねぇ、美子りん!」
はぁ?!
い、いつから私は美子りんになったの?
「富左衛門さん、何でしょう……」
「っつ~か、トミーね♪」
「はい、はい、トミーさん……」
「さんも要らないっしょ♪ところで、俺ってやっぱイケメン?!」
「かなりね。」
中身は別人みたいだけど……
それを聞いたトミーが、ガバッ!と抱きついてきた!
「嬉ぴ~♪美子りん、俺と結婚しね?!」
バキッ!
トミーの腹に鉄拳制裁!
「うぉ……メガヒット……かぐや従姉さんより鬼ヤバ……」
「トミー、私、知らない人と結婚する趣味は無いから♪」
「流石は美子様…お見事です……」
左京さんと中京さんが、感心しながらトミーの両肩を支えて客間へ連れて行った。
「ったく……いきなり嫁って、何なのよ!もののけでもあるまいしっ!」
「桂男だからね……もしかしたら雪女の妖艶な雰囲気を察する事が出来るかも……」
桂男?
「颯、桂男って?確かイケメンの事をそう呼ぶってのは知ってるけど……」
「人間界ではそう言われてるけど、元々桂男は、月に住むもののけの事を言うんだ。」
「だから、雪女の雰囲気もわかるんだね……」
また厄介な奴が現れたな……
まっ!でもここにいる間に、アンドリュー王子の台詞を一度でいいから言って貰おうかな♪
色々な意味で、ちょっとだけ楽しみを見つけた♪