表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もののけの嫁として売り飛ばされました!  作者: 元々猫舌
もののけの嫁になりました!
62/75

第六十一話

 赤ちゃんが居なくなり、部屋では右京さんと左京さん、鈴ちゃん、私と颯が集まって、まったりとしている。


「何だか赤ちゃんが居ないだけで、部屋が広く感じるね……」

「そうだね……一気に静かになった気がするよ。元に戻っただけなのにね……」


颯としみじみ語ってしまった。

気がつけば梅がきれいに咲く季節だ。


「そう言えば美子ちゃん、もう少しでホワイトデーだね♪何か欲しい物ある?」

「う~ん……久しぶりにママに会いに行きたいな♪」

「それじゃぁ、お返しにならないよ~!他に無い?」

「そうだなぁ……」


何気無く颯に目を向けてびっくりした!


頭からピョン!とふわふわの耳、お尻からふさふさの尻尾が出てるじゃん!!


「そ、颯!その格好!」

「え?あっ!な、何で?!」


颯は焦って頭を押さえている。


「こっちが聞きて~よ!みんなの前で盛ってんじゃね~よ!」

「ちょっ、ちょっと待って!美子ちゃん、誤解だよ!」


立ち上がって拳を握ると、左京さんに止められた。


「美子様!本当に誤解です!犬神特有の時期的なものですから!」

「時期的なの?」

「はい!恐らく発情期に入ったかと……」

「やっぱ盛ってんじゃん!」

「独り身で想い人がいれば、仕方が無い事なんです!お見逃し下さい!」

「お見逃しって……」


えっ?!左京さんに目を向けた時、右京が視界に入った!


ってか、右京さんまで!


「えっ?えっ?う、右京さん!耳と尻尾が!」

「はっ!な、何故私まで!」


右京さんも焦って頭を押さえている!


「右京!まさか美子ちゃんを!絶対に譲らないぞ!」

「そ、颯様!誤解です!慕ってはおりますが、想い人ではありません!」


颯に睨まれた右京さんが必死に否定している。そんな右京さんの肩に、ポン!と左京さんが手を置いた。


「いやぁ、堅物なお前にも春が来たか……結婚式は盛大に祝ってやるからな。」

「ち、違う!何かの間違いだ!」

「右京、本能は嘘をつかないぞ。潔く認めろ。」

「ほ、本当に覚えが無いんだ!」

「お前、自分で気がついて無いのか?本当に誰も思い当たらないのか?」

「だ、誰も……」


ふふ!右京さんにも春かな♪


と、ここで鈴ちゃんが立ち上がった。


「鈴ちゃん、何処へ行くの?」

「ふふ!もちろん颯様の発情期をお邪魔しないようにですよ♪」

「へっ?!ちょっ、ちょっと!」


鈴ちゃんに続いて右京さんと左京さんも立ち上がった。


「それもそうだな。」

「我々も席を外しましょう。」


ちょ、ちょっとそれはマズいっ!


「ま、待ってよ!二人になったら、私が危険じゃん!」

「美子様、そろそろ諦めて下さい。」


意味深に笑ってみんなが部屋を出ていった。


そ、そりゃ、下着まで用意したし、一大決心はしたけど……

でも……でも……


「発情期は、嫌だぁ~~~!!!」



 

 その夜、久しぶりにもう一組布団を出して敷いた。


「美子ちゃん……一緒に寝ようよぉ……」

「嫌ぃ~やっ!」


しょぼん……と颯の尻尾が垂れ下がっている。


「せめて一緒に寝るだけでも……」

「じゃぁ、絶対に手出ししない?本能に勝てる?」

「う……それは…」

「やっぱ駄目じゃん……」


今度は耳まで垂れ下がっている。


「僕も発情期に身を任すのは嫌だよ……み、美子ちゃんと初めては、ロマンチックに過ごすって決めてるし……」


って、一人で言って勝手に盛り上がるなよ……尻尾が思いっきりフリフリしてるじゃん……


「とにかく!その本能が収まるまで、手を繋ぐのも禁止っ!」

「そ、そんなぁ……」


ふふ!途端に尻尾が垂れ下がってきた!わかりやすいな♪


「一晩経てば治ってるかもしれないしね♪」

「だといいんだけど……」




 こうして一夜が明けた。


「美子ちゃん、おはよう♪」

「……ん。颯?」

「ゆっくり寝れた?」


眠たい目をゴシゴシ擦りながら、ぼぉ~っと目を開けた。

すると、そこにいたのは颯じゃぁ無い!顔が毛だらけの獣姿の狼男がっ!!


「き、きゃ~~!!」


急いで後ずさって、狼男から距離を取る!


「ど、どうしたの?美子ちゃん!」

「嫌っ!来ないで!誰か~~!!」


廊下をバタバタ走りながら、右京さんと左京さんが部屋へなだれ込んで来た!


「美子様!いかがされましたか!」

「お、狼男がっ!」


獣姿の狼男を震えながら指さすと、二人がサッ!と狼男を羽交い締めにした!


「貴様!何処から……」

「颯様をどうされた……」


二人がトーンダウンしてきた。


「えっ?気配が……ま、まさか颯様ですか?」

「うん……悪いけど、鏡を見せてくれるかな……」

「し、失礼しました!」


左京さんが一歩下がって、右京さんが手鏡を差し出している。

そして手鏡を覗いた狼男が、ワナワナと震えだした。


「な、何で~~?!何で僕が擬獣化してんの~~~!?!」


えっ?えっ?この狼男は、本当に颯なの?!


「えっと……昨夜、満月を見たとか……」

「美子ちゃん、昨日は上弦の月だったよ……」

「だよね……」


って事は、狼男の物語とも違う……


「い、医師を呼んで来ます!」


バタバタと右京さんが部屋から出ていった。


う~ん……何が起こっても不思議じゃぁ無いこの世界でも、珍しい事なんだ……


暫くして、右京さんが戻ってきた。


「颯様、申し訳ございません……医師が人間界へ行ってるようで、帰りは明日になるそうです……」

「えぇ~~?!じ、じゃぁ、明日までこのままなの?!」

「恐らく……」

「そんな……こんな格好じゃぁ美子ちゃんに、ちゅ~♪も出来ないじゃん!」


そ~ゆ~問題かよ……




 領地の見回りは、右京さんと左京さん、鈴ちゃんと私の四人で行く事となった。颯はお城で留守番だ。


「ふぅ……それにしても、驚く事ばかりだね……」

「そうですね……私も初めて見ました。」


左京さんにも原因がわからないらしい。


「右京さんもわからないの?」

「申し訳ございません……」


そうた!白蛇族は薬専門じゃん!


「鈴ちゃん、颯が元に戻る薬って作れない?」

「原因がわかれば可能ですが……」

「そっか……かなり落ち込んでたし、颯が好きなお団子でも買って帰ろうかな……」


そんな事を考えながら城下町まで戻ってきた時、鈴ちゃんの下駄の鼻緒が切れてしまった。

すかさず右京さんが、手を貸している。


はは~ん!もしかして右京さんの想い人って、鈴ちゃん?!


「鈴ちゃん!私、下駄を買ってくるね!」

「そ、そんな!美子様にそのような事!」

「いいの!鈴ちゃんに似合う下駄を買って来るから♪左京さん、一緒にお願い!」

「かしこまりました。」


右京さんと鈴ちゃんを残して、そそくさと買い物へ行った。




 それからみんなでお城へ戻り、颯が待つ部屋へ入った。


「美子ちゃん!寂しかったよぉ~♪」

「うわっ!」


狼男が突進してくるっ!

思わず、サッ!と避けると、颯はドン!と障子に激突した。


「も、もう避けるなんて酷い……」

「ごめん、ごめん……つい見慣れなくて……はは……」


それからお団子を取り出して、二人でお茶にした。


「美子ちゃん……こんな顔の僕なんて嫌だよね……」

「嫌っていうかさ、見慣れないだけだよ。明日、医師が来るまでの我慢じゃん!そんなに落ち込まないで♪」

「でも…美子ちゃんに避けられるし……」

「目を閉じてたら、いつもの颯なんだけどね……」

「じゃ、じゃぁ、目を閉じてみて……」

「うん……」


そっと目を閉じると、手に温もりを感じた。


「ふふ!いつもの颯だ♪声もそのままだし!」

「じゃぁ、これは?」


背中に手が回され、温かい颯に包まれた。


「顔の毛が当たってくすぐったいよ♪」

「いつもと違う?」

「ふふ!そうだね!」

「じゃぁ、これは?」


唇にくすぐったい毛が当たった。


「だからくすぐったいってば♪」

「やっぱ、ちゅ~♪も無理か……」

「そんなに心配しなくても、大丈夫だよ!どんな格好でも、颯は颯だからさっ♪」

「……美子ちゃん、ありがとう……」


再び背中に手が回された。


あれっ?毛が当たらない……


ガバッ!と颯から離れて、顔を見た!


顔が元に戻ってるじゃん!


「ん?美子ちゃん、どうしたの?」

「どうしたもこうしたも無いって!鏡を見てよ!」

「えっ?鏡?」


手鏡を差し出すと、颯はすぐに覗き込んだ。


「えっ?えっ?嘘!元に戻ったぁ~♪」

「良かったね♪」


頭から出た耳とお尻の尻尾は発情期のままだけど、よっぽど嬉しいのか、尻尾がフリフリ全開だ!


「それにしても何だったんだろうね……」

「さぁ、でもさっき、どんな格好でも僕は僕って言ってくれて嬉しかったな♪」

「そ、そんな事、言ったかなぁ……」

「ふふ!照れてる美子ちゃんも可愛いよ♪」

「べ、別に照れて無いっ!」


みんなに元に戻った事を報告したけど、原因が分からないので、予定どおり翌日には医師に診て貰った。


「ふぉ!ふぉ!元に戻ったのなら解決じゃろ!ワシから言う事は何も無いの!」

「先生!原因を教えて!」


颯が帰ろうとする医師の引き留めに必死だ。


「颯様、今、発情期じゃろ?」

「うん……」

「だからじゃよ。想いが強すぎて、耳と尻尾以外にも擬獣化しただけじゃ。心配せんでもええ。」


……はい?!って事は、ただの大袈裟な発情期なの?!


「んじゃ、何で僕は元に戻ったの?」

「それは美子様の愛じゃろう。颯様に触れた覚えは?」


う~ん……目を閉じてたから、何って言われても……


はっ!確か唇にふさふさの毛が当たったよね?!もしかしてそれって……


う、うわっ!狼男とキスしたって事?!


「ほほ!思い当たるようじゃな!ではワシは帰るとするか!」


医師が帰った後、颯がにこにこと笑顔を向けてきた。


「やっぱ美子ちゃんの愛は偉大だね♪」

「はぁ?勝手にキスしておいて何が偉大な愛よっ!」

「元に戻ったからいいじゃん♪美子ちゃん、大好き~♪」


ガバッ!と抱きつこうとする颯を、サッ!と避ける!


「発情期中はお触り禁止っつ~たろ!」

「み、美子ちゃん酷い……せっかく擬獣化が解けたのに……」

「ったく……人騒がせな発情期だな…」


キスして擬獣化が解けるとか、まるで美女と野獣じゃん……



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ