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もののけの嫁として売り飛ばされました!  作者: 元々猫舌
もののけの彼女になりました!
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第六話

 翌日、翔が私達を訪ねてやって来た。


「翔、何か用?美子ちゃんは譲らないよ!」


翔が部屋へ入ったと同時に、颯が臨戦態勢に入った……と思ってたら、いきなり翔がガシッ!と腕を掴んできた!


「な、何?」

「……美子さん、昨日私が言った事は忘れてしまいましたか?」

「へ?い、いや……覚えてるけど……」

「では、何故貴女から颯の気配を微かに感じるのか、説明して頂きましょうか。」


颯の気配?そういえば昨夜、左京さんもそんな事を言ってたような……


頭の中に疑問符を浮かべていると、颯が私のもう片方の腕を掴んで、抱き寄せてきた。


「だから!翔にも譲らないって何回言ったらわかるの?僕達はチュ~♪した仲なんだよ!」

「え……?何故そんな事を……」


うわっ!す、凄い不審者扱いの目で見られてるっ!


ドンッ!颯を押し退けて、急いで翔に言い訳を口にする。


「ち、違うの!不可抗力なの!」

「不可抗力?では、口付けまでする不可抗力を、説明して頂けますか?」

「よくわからないけど、蜘蛛に術を掛けられたとかで、それを解いてもらったの!」

「その程度の術を解くのは、口付けでなくても大丈夫な筈ですが……」

「えっと……私が颯の首を絞めて、それで……って、颯!説明してよ!」


颯は諦めたようにみんなを座るよう促して、昨夜の出来事を説明した。


「……という訳なの!せっかく初チュ~♪出来たのに、こんな理由でって説明したく無かったのにな~。」

「いや、しっかりと説明しろ!」

「美子ちゃん!そんなに照れないでよ♪」

「照れてない!むしろ、通りすがりの者全員に説明しろっ!」


颯の説明を聞いて、思案顔だった翔がポツリと呟いた。


「厄介ですね……」

「へ?何が厄介なの?また私、狙われるって事?」

「恐らくですが、また術を掛けてくる可能性もありますね。」

「え~!もうヤダよ!私ってば、右京さんも投げ飛ばすし、颯の首も締めるし、あんな事二度としたくないよ!」

「ふふ、お優しい方ですね。ご自身の心配よりも、他人を傷つける心配をされるのですね。」

「い、いや……私はほら!手の痣だけで済んだしね!」

「今回はそうでしたね……」


やけに含みのある言い方なんですが、もしかしてかなりヤバい状態?だったりして……


「翔、土蜘蛛ってそもそもどんな事するの?」

「土蜘蛛は、人間界へ出向き蜘蛛の巣を張って、そこへかかった人間を喰らいます。ですが、罪を犯した人間しか本来は掛りません。」

「え?私、何も悪い事してないけど……たぶん……」

「まぁ、それだけ人間の匂いをぷんぷんさせながら、もののけの世界を歩けば、罪は関係ないでしょう。」

「そうなんだ……」

「それと……」


へっ?まだ何かあるの?!


「美子さんの場合は、恐らく子孫繁栄の為でしょうね。」

「え?また嫁候補?」

「いいえ、土蜘蛛に嫁という概念はありません。巣に掛った人間のうち、子供を産めそうな人間は生かしておきます。」

「じゃぁ、食べられる為では無いんだ。」

「結局は喰われます。手篭めにされて腹に子が宿れば、その子が産まれる時、腹を食いちぎって出て来ます。そしてそのまま子に喰されて、子の栄養となります。」


翔の話に、背筋が凍りつくくらい、ゾッとした。


こ、怖いじゃん!めっちゃホラーじゃん!!


だけど、翔とは対称的に、颯はにこにこ笑顔だ。


「だから僕が手付けすれば、土蜘蛛には狙われ無くて済むんだって♪今夜にでも初夜をどう?」

「何だ!その気軽に飯でも食おうみたいな、誘い方は!」

「あっ!ごめん!後でロマンチックに誘うね♪」

「そ~ゆ~問題じゃぁ無いっ!」


翔は呆れた溜め息をつきながら、私の味方をしてくれた。


「確かに、他のもののけの気配がする人間には手出ししませんが、強引に事を運ぶのは、あまり良い策とは思いませんね。」

「だよね~!さっすが翔は物解りがいいね♪」

「ふふ、お褒めに預かり光栄です。美子さんは、なるべくこの城から出ないようにして下さいね。」


そう言い残して、翔は窓から飛び立って行った。小さくなっていく翔の後ろ姿に、颯があっかんべ~!ってしている。


「もう来なくていいよ~だ!」

「颯……歳とってても中身は子供だねぇ……」

「だって、美子ちゃんを護るのは僕だもん!その覚悟でこっちに連れて来たんだから!」


ぷっ!

その言葉に、思わず噴き出してしまった!


「な、何が可笑しいの!」

「だって小さい頃、あんなに護ってあげてたのは、私なのになぁ~って思ってね♪」

「あ、あれは、人間界の器が子供だったからだよ!100歳にならないと器って作れないんだから、仕方無いじゃん!」

「はい、はい。そ~ゆ~事にしとくね♪」


いつもの調子で軽く颯をあしらいながら、こっそりため息をついてしまった。


はぁ……今日は城下町へ人間界の扉を探しに行けないのか……本当にこんなもののけだらけの世界で、生きていかないといけないのかなぁ……




 夜、お風呂から上がって部屋へ戻ろうとすると、部屋の中から声が聞こえてきた。


  『痛っ!』

  『颯様、もう宜しいかと……』

  『駄目!自然に抜け落ちた毛は、妖力が少ないじゃん!我慢するから、あともうちょっと!』

  『しかし、これ以上抜くと禿げが出来てしまいますよ……』


ん?禿げ?颯って将来、頭が禿げるタイプ?


ちょっと好奇心も手伝って、こそっと部屋を覗いてみる。すると、左京さんの膝の上に、可愛いわんちゃん発見♪


「うわっ!可愛い~♪どこの仔?」


思わず左京さんに駆け寄って、わんちゃんを抱き上げ、顔をすりすりする。


「毛がふさふさ~♪癒される~♪」

「奥方様、その……」

「ん?何?っていうか、さっき颯の声も聞こえた気がしたけど、どっか行っちゃった?」

「そ、その……非常に言い難いのですが……その仔犬……」

「わんちゃんがどうかした?」


ふとわんちゃんの顔を見た。


「うわっ!わんちゃんが鼻血出してるっ!」


と思った瞬間、ポン!と煙が上がって、可愛いわんちゃんが颯に変身!


「颯……まさか騙して……」

「ち、違うよ!誤解だよ!」

「鼻血を出しておいて、何が誤解だ!」

「これは美子ちゃんの胸が柔ら……」

「問答無用!」


ドカッ!

蹴りで制裁!


「マジでふざけるなよ!」

「奥方様、これには訳が……」


左京さんが何か言いかけたけど、颯が立ちあがって遮った。


「美子ちゃん、ちょっとだけ用事があるから、部屋を開けるね!先に寝ててね♪」


颯は左京さんの背中を押して、そそくさと部屋を出ていった。




 次の日の朝、颯からプレゼントを貰った。ふわふわファーのバレッタだ。


「美子ちゃん!この髪留め、肌身離さず使ってね♪」

「あ、ありがとう……って、颯の毛に似てるね。」

「よくわかったね!僕の毛で作ったんだよ!これを付けておけば、ちょっとは人間の匂いが誤魔化されるんだ♪」

「そうなんだ!これで心置きなく人間界の扉を探せるよ♪」

「え?そ、それは駄目だって!その髪留めだって完璧じゃぁ無いからね!」

「ふふ!冗談だよ♪」


ふと、昨夜の会話が蘇ってきた。


颯は痛いって言ってたよな。んで、自然に抜け落ちた毛は妖力が少ないって……って事は、痛いのを我慢して毛を抜いて作ってくれたって事?


もう一度だけ、心の中で“ありがとう”って呟いた。




 その後、颯から一緒に城下町へ行って欲しいと頼まれた。


「え?いいの?ラッキ~♪」

「……美子ちゃん、人間界へ帰る扉は無いからね……」

「え~?!だったら留守番しとく……」

「でも傍に居る方が護れるから、出来れば一緒に来て欲しいんだよね!領地の見周りだけだからさ♪」

「まぁ、退屈だからいいよ……」

「やったぁ~!ありがとう美子ちゃん!愛してるよ~♪」

「はい、はい……」


ってことで、退屈凌ぎに外へ出掛ける事にした。もちろん颯から貰ったバレッタを付けての外出だ。

城下町を抜けると、のどかな田園風景が広がってくる。


「へぇ~。畑があるんだね!」

「そそ!そろそろきゅうりが美味しく育つ頃かな♪」

「きゅうり?犬ってきゅうり食べたっけ?」

「美子ちゃん……僕達は人間と同じモノ食べれるから……その他には、水妖族が採ってくる海の幸と交換するんだ。」

「水妖族?」

「水に住むもののけね!元々はバラバラだったんだけど、今の当主の水龍が河童や海坊主や人魚を統一して、水妖族として一つの族になったんだよ!」

「へぇ~。じゃぁ、このきゅうりはもしかして河童用?」

「たぶんね♪」


って、奇妙なものが目に飛び込んできた!あの畑を耕す農具を引っ張ってる牛って、三つ目じゃん!見なかった事にしておこう……


そのまま暫く歩いていると、荒れ果てた田畑が見えてきた。人の手が加えられていないと言うよりは、誰かに荒らされて、作物が食いちぎられたって感じだ。


「颯、ここは?」

「あ……たぶんだけど、鉄鼠族にやられたんだと思う……」

「前に颯の両親が亡くなったっていう原因の鼠?」

「そうそう。元々は手を組んでいたんだけど、急に襲って来るようになったんだ……」


もののけの世界にも色々とあるんだな……でも、どうして急に襲って来るようになったんだろう……まっ!私が考えても仕方ないか♪




 帰り道、何処か茶店に行こうって事になって、城下町へ寄り道した。初日にはあまり気にしなかったけど、何となく通りすがりの人が、私を見ているような気がする。


人間が珍しいのかなぁ……


若干、居心地の悪さを覚えながら一件の茶店に入って、お団子を頼んだ。


  『人間だ……』

  『人間が来てるぞ……』


お客さんか誰かわからないけど、何処からかヒソヒソ話が聞こえてきた。何となく茶店のご主人の態度も悪い気がする。


はぁ……やっぱし人間が珍しいんだ……でも翔は、もののけと結婚する人間もいるって言ってたし、他にもいるんじゃぁないかなぁ……


そんな人の気も知らないで、颯はモゾモゾと動いて心ここに有らずだ。


「どうかしたの?」

「美子ちゃん、ここのお団子は美味しいんだよ♪あっ!ちょっと厠に入ってくるから、ここを動かないでね♪」

「はいはい……いってらっしゃい……」


呆れ顔で手を振ると、颯は、ぴゅ~ん!と茶店の裏側へ走っていく。颯と入れ違いに、お団子が運ばれてきた。


「おまちどうさま……」


ん?お店のご主人が、私の顔をじ~っと見てる……?


「そんなに人間が珍しいんですか?」


不審に思いながらも尋ねてみると、いきなり茶店のご主人が平伏した!


「そ、颯様の奥方様とはつゆ知らず、大変失礼いたしました!」

「へ?い、いきなり何?奥方じゃぁないしっ!」

「いえ!微かですが颯様の気配を感じます!ご無礼をご容赦下さい!」


厠から戻ってきた颯が、私に頭を下げるご主人を見て、不思議そうに尋ねてくる。


「あれ?どうしたの?」

「い、いや……私にも何が何だかさっぱり……」


颯は、あっ!と何かを理解したみたいで、にこやかに茶店の主人に話しかけた。


「まだ紹介してなかったね!祝言はまだだけど、僕の奥さんになる人だよ~♪時々ここにも寄ると思うから、よろしくね~♪」

「はい!かしこまりました!」


茶店の主人はやっと身体を起こして、店の奥に引っ込んでいった。


「颯……何で奥さんって紹介すんの?結婚する気無いって言ってんじゃん!」

「城下町では奥方ってことにしておけば、不審な目で見られないからね♪そのうち一人でも歩けるようになるよ!」


そっか……自由に動けるように考えてくれてたんだ……


「って、違うだろっ!人間界に返せ!」

「美子ちゃん、そろそろ諦めようよ♪」

「諦められるかっ!」


やっぱこいつ最低だ……



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