表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もののけの嫁として売り飛ばされました!  作者: 元々猫舌
もののけの嫁になりました!
54/75

第五十三話

 お城へ戻ってから、颯が領地の見回りへ行っている間に少しずつ荷造りをした。


「ふう……意外と荷物が増えてるな……」


着物類は全部こっちで貰ったものだから置いていくとして、洋服類か……


ふと、荷物の中でまだ開けて無いショッピングバッグに気がついた。


「そういえば、颯の事を忘れたっていう日の記憶も曖昧なんだよな……何を買ったんだっけ……」


袋を閉じてあるテープを剥いで、中を覗いてみる。


「……えっ?えぇ~~~!?!ちょ、ちょっと、何これ?!」


ぱ、パンツが紐になってるっ!!わ、私……こんなものを買ったの?!何の為に?!


側に置いてあったファッション誌の特集記事の見出しに、目が止まった。


「も、もしかしてこれに感化されて、買っちゃったの?!」


嘘!……って事は、やっぱり颯と、そ~ゆ~関係なの?!


「ただいま~!」


ガラッ!

や、ヤバいっ!颯が戻ってきたっ!!


「お、おかえり~!早かったね♪」


下着の入ったショッピングバッグと雑誌を後ろ手に持って、急いで大きなスポーツバッグの中に投げ入れる!


「ん?そんなに焦ってどうしたの?」

「い、いや!何でも無いよ!あはは……」

「そうそう!今日は美子ちゃんに嬉しい知らせを持って来たよ♪」


そう言った颯の後ろから、ひょこっと一人の美少女が顔を覗かせてきた。


「す、鈴ちゃん!」

「美子様!お久しぶりです♪」


サッ!と鈴ちゃんの元へ駆け寄って、手を取り合う。


「ど、どうしたの?一生会えないと思ってたよ♪」

「颯様から恩赦を頂いたのです!」

「恩赦?」


颯がにこにこしながら説明してくれた。


「鬼ヶ島の時に美子ちゃんがばら蒔いた薬のお蔭で、僕たち助かったでしょ!だからその功績って事でね♪」

「そうなんだ!って、その時も颯はいたんだね……」


何処かへ行った事や出会った人は全部覚えている。だけど、そこに颯だけが居ない……


何となく、寂しさを覚えるな……


そんな私を見て、鈴ちゃんが気遣うように、ニコッと笑い掛けてきた。


「そう言えば美子様、妖艶な雰囲気が一層強くなりましたね!」

「やっぱそうなの?自分ではわからないけど……」

「はい、女の私でも惚れ惚れするくらいですよ!」

「はっ?!鈴ちゃん……まさかそっちの道に走ったとか……」


鈴ちゃんから、一歩後退さる……


「ふふ!大丈夫ですよ!それはありませんから♪」

「そ、そう……なら安心かな……あはは……」

「そうそう!美子様、これからよろしくお願いいたします♪」

「……って?」

「私は付き人兼お友達としてお城へ呼ばれたのです!」

「本当?嬉しい~♪あ……でも……」


私、人間界へ帰るし……


しゅん……としてると、颯が安心させるような笑顔を向けてきた。


「大丈夫だよ!鈴さんは人間界では妖力がまだ使えないけど、薬を扱えるから護衛も出来るしね♪」

「へっ?人間界へ帰っても護衛や付き人が必要なの?」

「念の為ね!鈴さんの方が美子ちゃんも気が楽でしょ♪」

「うん!颯、ありがとう♪」


正直、悠さんには距離を感じるし、鈴ちゃんなら嬉しいかも♪


「鈴ちゃん!人間界に行ったら、女子トークしようね♪」

「ふふ!お付き合いさせて頂きます♪」




 そして、その夜から城内で異変が起こり始めた。颯が焦った様子で何かを探している。


「あれ?無い……ここにも無い……」

「ん?何を探してるの?」

「美子ちゃんがくれたマフラーが何処にも無くて……」

「あれ?領地の見回りから戻った時は、巻いてたよね?」

「うん……」


颯は泣きそうな顔をしながら、必死にマフラーを探している。


「私の荷物に紛れてるかも……ちょっと見てみるね。」

「うん……お願い……」


紛れるんなら、荷造りの中だよね……


スポーツバッグの中に詰めていた荷物を一つずつ外へ出していってみる。


「あれ?美子ちゃん、まだ買ったまま開けてない袋があるよ。」


颯が何気なく袋へ手を伸ばした。


はっ!そ、そのショッピングバッグは!!


「だ、駄目っ!!触るなっ!!」


ビクッ!として颯が手を引っ込めた。


「ご、ごめん……」

「い、いや、ちょっとした乙女の嗜みグッズだからさっ♪」


いそいそと荷物を元通りに片付け、その後、部屋中を一緒に探したけど、結局マフラーは見つからなかった。


「颯……そんなに落ち込まないで……」

「だってあれは美子ちゃんが僕を待ちながら編んでくれた、大事なものだったんだ……」

「そっか……」


ってか、そんなに大事にしてくれてたんだ……


何だか私まで申し訳無い気分になった。




 バタバタ!

翌朝、嫌な知らせが届いた。鈴ちゃんが、階段から突き落とされたというのだ。

急いで颯と一緒に鈴ちゃんの部屋へ走って向かう!


「鈴ちゃん!」


ガラッ!と勢い良く扉を開けると、右京さんが鈴ちゃんの足首に包帯を巻いているところだった。

私の姿を見た鈴ちゃんが、申し訳なさそうに頭を下げている。


「美子様、すみません。付き人としてのお役目が出来ず……」

「そんな事ど~でもいいよ!それより突き落とされたって、ど~ゆ~事?!」

「階段を下りる時、トン!と背中を押された気がしたのです。落ちた後には誰の姿も無かったので、勘違いかもしれないのですが……」

「いや……怪我はどうなの?」

「ちょっと足を捻っただけで済みました。」

「そう……重傷じゃぁ無くて安心したよ……」


ほっ!と一安心し、鈴ちゃんの手当ては引き続き右京さんに任せて、颯の領地の見回りに付き合った。


「領地の見回りに付き合ってくれるなんて、久しぶりだね♪」

「鈴ちゃんにお団子を買って帰ろうかと思ってね!」

「きっと鈴さんも喜ぶと思うよ♪」


終始上機嫌な颯とお城へ戻り、一人でお団子を持って鈴ちゃんの部屋へ向かった。


「美子様、何故人間界へ戻られていないのですか?」


後ろから声を掛けられ立ち止まって振り向くと、悠さんが立っている。


「美子様が居座るから、鈴さんが怪我をされたのではなくて?」

「ど、ど~ゆ~事よ!私のせいだって言いたいの?!」

「その通りです。一度犬神に牙を向けた事がある鈴さんを良く思っていない者は、沢山います。美子様がすぐに人間界へ戻られていれば、こんな事にならなかったのでは?」

「それは……」


確かにそうかもしれないけど……


「颯様の心も傷つけ、鈴さんにも怪我を負わせ……美子様が居座れば居座る程、不幸になる者が増え続けるのです。」

「そんな……」

「美子様がされるべき事は、颯様の優しさに甘えて居座る事ではありません。一刻も早く人間界へ戻って下さい。お城のみんながそう願っています。犬神を代表して、あえて苦言を呈させて頂きます。」


悠さんはそう言い残して、立ち去った。


私が居座れば不幸になる人が増える……


悠さんの言葉が重くのしかかってくる。

その時私の頭の中には、悲しそうに微笑む颯の顔が浮かんできた。


忘れる前の私って、颯の事を本当に好きだったんだろうな……でも私は何の思い出も持っていない……きっとそれが分かる度に颯は傷つく……


鈴ちゃんの部屋の前にこそっとお団子を置き、部屋へ戻った。


「おかえり~!鈴さんの具合どうだった?」


部屋では颯が寛いでいる。


「う、うん……話してない……」

「もしかして寝てた?」

「わからないから、置いて来ちゃったです」

「そうなんだ……早く良くなればいいね♪」

「そ、そうだね……」


颯の顔を見れない……


俯く私の顔を、颯が覗き込んでくる。


「美子ちゃん、何かあったの?」

「別に……」

「様子がおかしいよ……」


それには答えないで、黙ってスポーツバッグを手にした。


「ちょ、ちょっと!美子ちゃん、何処へ行くの?!」

「人間界……」

「何で急に?!」

「前から言ってたじゃん……」


颯がバッ!と両手を広げ、障子の前に立ち塞がった!


「美子ちゃん、お願いだからここにいて!」

「そこを退いてくれるかな……」

「嫌っ!絶対に退かないっ!」

「颯……お願い……」

「じゃぁ、何でそんなに傷ついた顔をしてるのか教えてよ!」

「別に……」


ガバッ!

温もりに身体が包み込まれると同時に、絞り出すような掠れた声が聞こえてきた。


「……僕の傍から離れないで……美子ちゃんが居なくなったら……僕……」


えっ?えっ!もしかして今、颯に抱きしめられてる?!

ってか、何だろう……この落ち着く感じ……初めてじゃぁ無いよね……


  『不幸になる者が増え続ける…』


はっ!駄目だ!


ドン!

悠さんに言われた言葉が頭を過って、颯を突き飛ばした!


「美子ちゃん……」

「颯……いっぱい傷付けてごめんね……」


スポーツバッグを握り締めて、ダッ!と部屋を駆け出ていった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ