第五十ニ話
「ママ!結婚おめでとう♪」
ママの結婚式前日、雪妖族の村に着いてすぐにママのお屋敷へ行った。結婚式当日は話があまり出来ないからと思ったからだ。
「美子、ありがとう♪一緒に結婚式をあげられなくて残念だわ♪」
「ん?誰と?」
「もちろん美子と颯に決まってるじゃない♪」
「あ……」
気まずそうに颯と顔を見合わせる。
「どうしたの?何かあったの?」
すると、右京さんと左京さんがガバッ!と、ママに頭を下げた。
「大変申し訳ございません!我々の不徳の致すところであります!」
「え?どういう事?」
ママはみんなを屋敷の中へ促し、右京さんと左京さんが詳しい説明をした。
「なるほどね……では美子は、颯の事をまったく覚えていないと……」
「左様にございます……」
「まったく……あなた達がついていながら、何をやっているの!下手すれば美子が殺される事だってあるのよ!」
ママの怒鳴り声に、右京さんと左京さんはビクッ!として俯いている。
「もう、犬神に美子をまかせておけないわ!美子、雪妖族へ来なさい!」
「え?いや、人間界に帰ろうかと思ってるんだけど……」
「だけど、住む家も無いでしょう……」
「神社に住み込みで働かせてもらえるから、大丈夫だよ♪」
「そう……でも、美子とあまり会えなくなるわね……」
「ママに会いたくなったら誰かにお願いして、こっちの世界へ遊びにくるよ♪」
「わかったわ……颯も納得している事だろうし……」
ママはチラッと颯に目線を向けた。颯は寂しそうに俯いている。
「僕は……美子ちゃんと離れたくない……でも、美子ちゃんが決めたんなら……」
お、重い……空気が重い……
「と、ところで、こっちの結婚式ってどんな感じなの?」
重たい空気を打ち破るように、明るくママへ尋ねてみる。
「種族ごとに違うけど、基本的には人間界で言う人前式みたいなものよ。」
「人前式?」
「出席者が結婚したっていう証人になる感じね♪それと種族の力を見せつけるパフォーマンスもあるわよ!」
ママの後ろで控えていた藍さんが、付け加えて説明してくれる。
「今回は長同士の結婚式ですから、それはそれは壮大なスケールで行われる予定でございます。是非、楽しみになさって下さいませ。」
「へぇ~!楽しみ♪」
それから今度はママがお城へ遊びに来る約束をして、別荘へ戻った。
翌日は、いつもより豪華な着物を着て、結婚式に出掛けた。
「うわっ!凄い♪何で外なの?って思ってたけど。こ~ゆ~事なんだ!」
会場となる湖に行って目を見張った!
一面が氷で覆われてるし、椅子やテーブルまでが全部氷で出来てるじゃん!
「流石は雪妖族だね!」
颯も目を見開いて驚いている。
「颯は結婚式に出席した事が無いの?」
「身内以外は成人していないと呼ばれ無いからね!」
「そっか。私って身内だもんね。」
犬神の席は、氷で出来たステージの目の前に用意されていた。
「雪妖族の結婚式では、ダイヤモンドダストが降りそそぐって聞いた事があるよ!とってもロマンチックなんだってさ♪」
「へぇ~♪初めて見るかも!楽しみ♪」
「僕達の時にも、ダイヤモンドダストをお願いしてみよっか♪」
「あ……」
私達って、そこまで話が進んでたんだ……
言ってしまった後で、颯もしまった……って顔をしている。
「ご、ごめん……覚えてないのに……」
「いや……こっちこそごめんね……」
あれ?でも颯って、悠さんと親しげにしてたよね?悠さんと恋人なんじゃぁ無いのかな?益々、颯って人がわからないや……
それから暫くして、結婚式が始まった。会場にはキラキラとダイヤモンドダストが降り注いでいる。
そして、ママと涼さんがステージに上がって、結婚する事を宣言した。
パチパチ……
会場から結婚承認の拍手を貰うと、二人は手を繋ぎ合い、高らかにもう片方の手を天に向かって上げた。その瞬間、ゴゴ……と地震のような揺れが起こった!
バキバキッ!!
う、うわっ!湖に氷の柱が出てきた!!
氷の柱は、あっという間に氷のお城へ変わっていき、湖畔にも次々と氷の城壁が現れ始め、いつの間にか湖は氷の城壁で囲まれている!
「す、凄い!!アニメ映画がリアルで再現されてるみたいっ!!」
出席者からも、おお~~!!っと、どよめきが湧きあがっている。
「流石は長同士だね!妖力もハンパ無いくらい強いよ!」
「そうなんだ!」
種族の力を見せつけるってこういう事なんだ!
ママはキラキラ輝く雪の女王のように、この世のものとは思えない程の美しさを放っていた。
ママ、今度こそ幸せになってね……
式の後はそのまま別荘へ戻り、明日は雪まつりを楽しむ予定だ。そして、お城へ帰った後は私がお城を出ていく時となる。
食事を頂きながら、颯がうるうるとした目を私に向けてきた。
「美子ちゃん……本当に出ていくの?」
「うん。悠さんと仲良くね!」
「へっ……?何で悠さんなの?」
「だって、二人は思い合ってるんじゃぁないの?」
颯は焦ったように立ち上がった。
「ち、違う!絶対に違うからっ!悠さんとは何も無いからっ!」
「いや……そこまで力説しなくても……」
それから颯は何かを堪えるように、グッ!と拳を握りしめ、そのまま居間を出ていってしまった。
「美子様、流石に今のは酷かと……」
恐る恐る話し掛けてきた左京さんが、私をたしなめてきている。
「だって、本当の事でしょ?親密そうにしていたのを見たよ。」
「え?どういう事ですか?」
「う~ん……悠さんが颯に手を添えて、私が出ていく事を納得させるように励ましてるって感じだったかな?颯もそれに答えてるように見えたけど……」
それを聞いた右京さんと左京さんが、顔をしかめて目を合わせている。そして左京さんがまた私に向き直った。
「美子様、大変恐れ入りますが、今の話は口外しないで頂けますか?ちょっと調べたい事が……」
「……?別に構わないけど……でも颯と悠さんはもののけ同士だし、お似合いなんじゃぁないのかな?そもそも、何で人間の私に拘るんだろう?」
「美子様はお忘れかもしれませんが、人間界の小さな颯様を美子様がお助けされた事が、お二人の出会いでした。その後も小さい颯様の手を引っ張って一緒に学校へ通ったりと、よく面倒を見て下さっておりました。」
「そんな事があったんだ……」
「颯様は誰からも恐れられる妖力の持ち主ということもありますし、颯様をお産みになられた前奥方様もすぐに死去されましたので、誰にも甘える事が出来ずに成人まで過されました。」
颯って、お母さんがいなかったんだ……そういえば誰かと一緒にお墓参りへ行ったような……
「ですから美子様だけは、地位や妖力など関係なく弱い部分も含めて、自分のすべてを受け入れて貰えると思ったのでしょう。颯様にとって美子様は、やっと見つけた心の拠り所なのです。」
「そうなんだ……」
そんな色々があって、付き合って、結婚の約束をしてたんだね……さっきは悪い事言っちゃったな……
「美子様……人間界へお帰りになるのは、考え直して頂けないでしょうか…」
「でも私は、知らない人と結婚って言われても……」
「美子様のお気持ちもわかります。ですから颯様も美子様のご決断を受け入れる覚悟をされたのかと思いますが、颯様に何て言葉を掛けて良いのか……」
そう言われても、やっぱり知らない人と結婚なんて考えられない……しかも、もののけだし……
「……ごめんなさい……やっぱり……」
結局、人間界へ帰るという決断を覆すことはしなかった。
翌日、雪まつりの会場へ向かった。とは言うものの、足場が踏み固められた雪だらけで、よちよち歩きの状態だ。
「美子ちゃん、歩ける?」
「何とか歩けてるよ……」
人間界でスノーブーツを買っておけば良かった……かなり不安定じゃん……
ツルッ!
「うわっ!」
思った側から転ぶっ!
ドサッ!
あれ?痛くない……
「びっくりした!やっぱ危ないね!」
振り返ると、後ろから颯が抱きかかえてくれている。
「ご、ごめん!重たかったでしょ!」
「大丈夫!そのくらいの力はあるって♪」
ってか、めちゃ恥ずかしい体制じゃん!
急いで颯の身体から飛び退いた!
「美子ちゃん……手を繋いでいい?」
「……へっ?」
「いや、その方が歩きやすいかと思って……」
颯が差し出してきた手に、おずおずと自分の手を重ねる。
「ありがとう……」
あれっ?この手の感覚……何だか安心する感じ…颯の事を忘れていても、感覚って覚えてるんだ……
思わず、じぃ~っと、颯の顔を見てしまった。
「ん?美子ちゃん、どうしたの?」
「あっ!いや、何でも無い!」
危ない、危ない……もう少しでもののけに見惚れるところだった……
「そう言えば、そのマフラーいつもしてるね。魁くんとお揃いだね!」
言った後に、ふと思い出した。
違う……私がもう一つ作った筈……それって誰かにあげたよね……
「これは美子ちゃんが僕に作ってくれたんだ……」
「ご、ごめん……作った事は覚えてるんだけど、誰にあげたかわからなくて……」
やっぱ颯にあげてたんだ……見事に颯の事だけ覚えて無いな……
「それより早く会場へ行こうよ!雪まつりなんて初めてだし、楽しみだもん!」
「だね♪」
それから手を繋いだまま、会場を回って雪のオブジェや氷の彫刻を見て回った。
「颯、見てみて!氷のホテルだって!」
「本当だ!でもこの寒さに耐えきれるのは、雪妖族だけのような……」
「はは……確か……」
昨日氷の城壁で囲まれた湖は、氷の遊園地のようになっている。
「きゃぁ~♪」
「ひゃっほ~♪」
巨大な氷の滑り台を何度も満喫♪
「美子ちゃん、どうぞ♪」
「ありがと~♪」
颯は滑り台から下りる度に手を差し出してくれる。
何だか颯といると、楽しいかも♪
私が人間界へ帰ったら、颯はどうするんだろう……私が心の拠り所なんだよね……
って、駄目だ!駄目だ!
情に流されそうになった気持ちを、強引に引き戻した。




