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もののけの嫁として売り飛ばされました!  作者: 元々猫舌
もののけの嫁になりました!
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第四十八話

 お正月の三箇日が過ぎて、犬神のお城には各種族の当主達が、新年の挨拶に訪れている。嫁候補っていうか、城下町では公認の仲になっているので、私も同席を余儀なくされた。


「颯様、美子様、明けましておめでとうございます。」


一番乗りで深々と手をついて挨拶をする仁に、思わず苦笑いだ。


「仁、そんなにかしこまらなくても……」

「はは!美子は相変わらずだな。年始の挨拶こういうものであるぞ。」

「いつも通りの仁に戻った!堅苦しいのは、つい慣れなくてね♪」


仁が帰った後も、足長手長、百々目鬼、ぬっぺらぼう……新年早々、オバケ祭だな……


そして、最後に白蛇族の挨拶でその日を締めくくった。


「ふう……挨拶疲れって初めてだよ……」

「ごめんね……これが七日まで続くんだ……犬神と妖狐は神社を持ってて、三箇日は初詣で忙しいからみんな避けて来てくれてるしね。」

「……頑張るわ……」




 挨拶の客人が落ち着いた頃を見計らったように、夕方になって翔や瞬、蒼井くん達が顔を出してきた。


「颯、美子さん、明けましておめでとうございます。」

「翔!それに瞬と蒼井くんじゃん!あけおめ!見知った顔って安心するわ~♪」


ちょっと疲れた顔をした私を、蒼井くんがからかってくる。


「はは!このくらいで疲れてたら、犬神の嫁なんて務まらないぞ!」

「それはまだ決定してないし……」

「だけど、颯様と雪沢の雰囲気って、何か変わった気がするけどな。」

「へっ?そ、そんな事は無いと思うけど……」

「そうか?空気感というか……距離が……」


ってか、ちゃんとした彼氏と彼女にはなったけど、それ以外進展も無いし……


「美子さんの雰囲気も柔らかい気がしますね。」

「翔まで……」


あっ!そう言えば、翔から告白されてたんだった!鬼騒動ですっかり忘れてた!


「翔……あの……この前の事なんだけど……」

「ご心配なく。また颯が美子さんを悲しませる事があれば、遠慮なく我が屋敷へお誘いしますね。」


翔は安心させるように、微笑んでくれた。


やっぱ、萌さんとの事を心配してくれただけだったんだ♪


「ふふ!その時は遠慮なく♪」

「承知しました。」


その言葉に、颯がすかさず割り込んでくる。


「大丈夫!一生寂しい思いはさせないって、約束したから♪」


颯は私の肩を抱き寄せたかと思うや否や、顔を近づけて、チュッ♪


「きゃぁ~!」


バチン!

間髪入れずに平手打ち!


「美子ちゃん……まだ慣れてくれないの……」

「颯!ば、馬鹿だろっ!みんながいる前なんて一生慣れないからっ!」


いつもの二人を見ている瞬と翔は、納得したように頷いている。


「雰囲気が変わっても、いつも通りであるな……」

「流石は美子さんです……」


な、何よっ!私がいつも殴ってるみたいじゃん!


「そこの二人!納得しないでよっ!」


その時、左京さんが相談があると言って、颯を呼びに来た。


「颯様、ちょっとお話が……」

「わかった。すぐ行く。」


それから颯は私達に向き直った。


「みんなは食事と酒を用意するから、ここで待っててね!」


そう言って颯が部屋を出て行った後、エロ狐がニヤニヤししながら私を見ているのに気付いた。


「美子、今宵は早めに帰った方が良いか?」

「ん?何で?」

「やっと手付けされる気になったのであろう。」

「はぁ?!な、何で、そ~ゆ~事になるんだよ!!颯は、私の覚悟が出来るまで待つって言ってくれてるもん!」

「もしかして、それまで手付けされぬつもりか?同じ部屋に好いた女がいても手付け出来ぬのは、地獄であるぞ!」

「じ、地獄って大袈裟な……」


蒼井くんまでが瞬に同意し始めている。


「雪沢はその雪女の妖艶な雰囲気が、駄々漏れだろ?それで手を出せないのは男としてなぁ……」

「蒼井くんまで……」


ってか、駄々漏れって……


「美子さん、焦らなくても大丈夫ですよ。」

「うぅ……やっぱ私の味方は翔だけだよ……」

「その方が、付け入る隙が出来やすいですからね。」


前言撤回……翔も男だった……


「まぁ、颯は常に自分の感情を抑えるよう教育されていますから、美子さんの嫌がる事はしないでしょう。」

「そうなの?」

「私や瞬でさえ、颯の本音や泣き言を聞いた事はありませんよ。まぁ、あの強い妖力で感情が駄々漏れだと、怖くて誰も近寄らないでしょうけどね。」

「あはは……確かにそれは怖いかもね……」


それにしても颯は、この面子でも本音を出せないんだ……そう言えば本気で怒ったのを見たのは、鬼騒動の前に一度だけだな……


……うわっ!あの時の強引なキス、お、思い出しちゃった!


顔の火照りを冷ますようパタパタと扇いでいると、蒼井くんが顔を覗き込んでくる。


「ん?雪沢、どうした?顔が赤いぞ。」

「あ、蒼井くん!ちょっと暑いだけ!」

「……そうか?今日は冷えるぞ?」

「人間界で暖かインナーを買ったからさっ!」


苦しい言い訳をしながら、笑ってその場をしのいだ。




 それから颯が部屋へ戻り、暫くして食事と樽のお酒が運ばれてきた。私以外のみんなは升を片手に酒盛りだ。


「っていうか、蒼井くんは飲んだら駄目じゃん!」

「雪沢、何言ってんだ?俺は116歳でちゃんと成人してるぞ!まぁ、こっちの世界でしか飲めないけどな!」

「そうだった……」


同級生だからついつい未成年だって思ってたけど、こっちでは成人してるんだよね……

ってか、次から次へと樽が運ばれて来るんだけど……みんな飲み過ぎでしょ……


そして結局四人で樽を六つ空っぽにした後、城門まで見送って、みんなは帰っていった。


「みんな凄いね……樽を六つも空けちゃって……」

「もののけは人間よりお酒に強いからね♪でも今日は飲み過ぎたかな♪」

「飲み過ぎたってレベルとは違うような……」

「美子ちゃん♪やっと二人っきりだね~♪」


颯はかなり酔っぱらってるのか、満面の笑みで私の後ろから体重を掛けて抱きついてくる。


「うわっ!危ないじゃん!」

「ふふ♪だって美子ちゃんだも~ん♪」

「言ってる事が意味不明だから……」


仕方なく、後ろから抱きついている颯をズルズルと引きずるように部屋まで戻ることにした。


「颯、部屋に戻ったら、すぐに寝た方がいいよ。」

「美子ちゃんが一緒なら寝るぅ~♪」

「はい、はい……」


翔でさえフラフラで飛ぶと危ないって事で、歩いて帰ると言っていた。蒼井くんは瞬の屋敷に泊めて貰って、二人で飲み直すらしい。


ってか、みんな笊どころか底なし沼だな……


肩にのしかかる颯を引きずりながら、やっと部屋へ着くと、すでに女中さん達が酒宴を片付け終えて、布団が敷かれている状態だった。


相変わらず仕事が早いことで……


「颯、部屋に着いたよ。って、うわっ!」


颯の体重に耐えきれず、布団へダイブ!!ってか、押し倒されてる状態じゃん!!


むくっと身体を少し離した颯は、私の頭の両側に手を付いて、じ~っと私の顔を見ている。


「ふふ♪美子ちゃんだ♪」


ふにゃっと笑ったかと思うと、そのまま顔を近づけてきた。


「颯!酔っぱらってるでしょ!早く寝ないと!」

「ん~♪ちゅ~したい♪食べちゃいたい♪」

「はぁ?!な、何言ってんの!!」


颯を押し返そうとしたけど、重たくてどうにもならない!そのままキスをされてしまった!


「ん!んんっ!!」


触れるだけのキスは、次第に深いものへと変わっていく。


い、息が苦しい……


空気を求めるように顔を横へ背けると、そのまま首筋にキスが落とされていった。


「そ、颯……」


ちょ、ちょっと!!もしかして、今日このまま……

ま、待って!!ってか、まだ心の準備がぁ~~~!!!


「すぅ……」


……あれ?


「颯……?って、寝てるじゃん!!」


何だよ!もうっ!!ってか、別に期待してた訳じゃぁないんだけど、何だかムカつくっ!!


「風邪でもひいちまえっ!!」


酔っぱらって寝ている颯を、ゴロゴロと転がして布団の外へ追い出し、ガバッ!と広い布団に潜り込んだ。




 翌日はママと涼さんも新年の挨拶に来てくれて、二人の結婚式に招待して貰った。


「何だかママの結婚式なんて、実感湧かないな~!でも、楽しみ♪」

「ふふ!何なら颯と美子も一緒に結婚する?」

「……へっ?!な、何言ってんの!ママ!」

「そんなに照れなくてもいいじゃないの!手付けはまだみたいだけど、二人の雰囲気が違うのはわかるわよ♪」

「そ、それは…」


ってか、ちゃんとした彼氏と彼女って、そんなにわかりやすいかな……


「ふふ!颯にも我慢させて悪いわね♪」

「我慢って……」


颯の我慢って、みんなが口を揃えて言うレベルなんだね……

い、いや……このままって言う訳にもいかないのはわかってるけど、そ~ゆ~の初めてだし……でも、ど~すればいいのかもわからないし……


十六歳の冬……悩みは尽きません……



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