第四十七話
……ん。
ふぁ~、まだ眠いな……何だか温かいし二度寝しちゃおうかな……
「美子ちゃん、おはよう♪」
チュッ♪
「きゃぁ~~!!」
バチン!
いきなりキスされた感覚に、思いっきり平手打ちっ!
「美子ちゃん……そろそろ馴れて欲しいんだけど……」
「そ、颯!」
目の前には片側で私を腕枕して、片側で頬を押さえている颯がいる。
「あれ?何で?……確か神社で仮眠してたような……何で私、お城に戻ってんの?」
「右京が連れて帰ってくれたんだよ。美子ちゃんには充分手伝ってもらったからって。」
「そうだったんだ……」
私は大晦日の昨夜から人間界の神社で、参拝者のピークが過ぎる元旦の明け方まで初詣の手伝いをしていたのだ。
「美子ちゃん、明けましておめでとう!そろそろお昼になるけど、どうする?もうちょっと寝る?」
「ん……あけおめ……起きる……思いっきり寝正月になったかも……」
「城下町も三箇日は賑やかだから、後でお出かけしようね♪」
「へぇ~!そうなんだ♪」
それから遅めのお昼ご飯を頂いて、城下町へ出掛ける事になった。二人ともマフラーを巻いて、寒さ対策の準備万端だ。
「ふふ!このマフラー、温かいね♪美子ちゃんの愛情たっぷり詰まってるもんね♪」
「べ、別に!そんなもの詰めた覚え無いしっ!マフラーだから温かくて当たり前じゃん!」
「ぷっ!やっぱり美子ちゃんは雪妖族の血を引いてるね!」
「……どういう意味だよ……」
城下町へ向かって歩いている時、前から気になっていた事を聞いてみた。
「そう言えば鬼ヶ島にいる時、雪女の雰囲気が強くなってるって言ってたけど、どんな感じなの?」
「う~ん……何となく惹き付ける感じかな?妖力があれば自分で隠す事が出来るんだけど、美子ちゃんには無理だもんね……」
「そっか……」
って事は、また鬼の大王みたいな変な輩に絡まれやすいって事か……
「大丈夫!手付けをすれば、僕の気配の方が強くなるよ♪」
「ば、馬鹿言わないでよっ!」
「ふふ!今は手を繋ぐだけで我慢しとくよ♪」
「そうしておいて……」
私の右手を握って、嬉しそうに微笑みかけてくる。
やっぱ颯の温もりは安心するな……
「見つけた~!俺の仲間だ!」
ほっこりとしている時、いきなり二人の前に小さなおっさんが叫びながら飛び出してきた!
「えっ?仲間って?君は天邪鬼だよね?」
颯も不思議そうに尋ねている。
「お前じゃぁ無い!そっちの女だ!」
へっ?わ、私の事?!って、明らかに私を指差してるじゃん!
「な、何でよ!私は人間だから!」
「嘘つけ!お前、俺と同じ天邪鬼だろ!」
「はぁ?!ち、違うもん!」
颯は肩を震わせながら笑っている。
「美子ちゃんは天邪鬼じゃぁ無くて、可愛いツンデレだよ♪」
「誰がツンデレよっ!」
天邪鬼はどや顔している。
「ほら、やっぱり天邪鬼だ!」
「だから、天邪鬼でもツンデレでも無いっ!」
「ふ~ん……なら、心の声が駄々漏れでも構わないな!」
天邪鬼はいきなり飛び上がって、私の頭をポン!と叩いた。
「ちょっと!何すんのよ!」
「はは!性格の悪さはそのままか!今からお前は本音を勝手に喋るようになるからな!」
「はぁ?!何言ってんのよ!」
「そこの犬、試しに何か女に聞いてみろ!」
颯はちょっと半信半疑な顔をしなから、私に向き直った。
「美子ちゃん、僕の事、好き?」
『好きだよ。』
はっ!な、何で?!私、勝手に喋ってるっ!
急いで両手で口を塞ぐ!
「美子ちゃんが初めて好きって言ってくれた……」
颯は目をうるうるさせて、感動に浸っている。
じ、冗談じゃぁ無いっ!恥ずかし過ぎだってば!
「ちょっ、ちょっと!元に戻しなさいよ!」
天邪鬼に掴みかかろうとすると、サッ!とかわされた!
「心配しなくても、一晩寝れば元通りさ!それまでたっぷりと反省しろよ!」
そして、スキップでもしそうな軽い足取りで、去っていった。
「もうっ!一体何なのよ!」
憤慨しながら天邪鬼の後ろ姿を見送っていると、肩に颯の手が乗せられた。
「まぁまぁ、美子ちゃん、そんなに怒らないで。聞きたい事は沢山あるしね♪」
うっ!満面の笑みだ!嫌な予感……
「美子ちゃん、僕と手を繋ぐのは?」
『安心する。』
うわっ!急いで口を押さえたけど、時すでに遅し……
「へぇ~!安心するんだ♪」
「も、もう恥ずかしいから何も聞かないで!」
「嫌だよ~!こんな機会、逃す訳無いじゃん♪」
ま、マズい……颯から一歩後退る……
「美子ちゃん、僕にギュッ!とされるのは?」
『落ち着く。』
「ふ~ん、落ち着くんだ♪」
だ、誰か助けて~!
「僕と、ちゅ~♪するのは?」
『幸せ。』
「でも、ちゅ~♪すると殴るのはどうして?」
『不意打ちでびっくりするから。』
「そっか!これからは予告すればいいんだ♪」
「もう嫌だ~!お城に帰って寝るっ!!」
「あっ!美子ちゃん、待って!」
颯の引き留めも振り切り、ダッシュでお城の部屋に駆け込んで、急いで布団を敷いた。
「美子ちゃん、もう寝るの?」
追いかけてきた颯が寂しそうに尋ねてくる。
「だって、一晩寝たら元に戻るんでしょ!」
「まだデートの途中なのに……」
「違う意味でしか楽しんで無いじゃん!」
「ふふ!だって、美子ちゃんの本音が聞けて嬉しいんだもん♪」
「もうこれ以上は何も喋らないからっ!おやすみ!」
布団を身体に掛けて、目を閉じた。
「美子ちゃん、添い寝されるのは?」
ブルブル!っと頭を横に振って、拒否をアピール!
『温かい。』
も、もうっ!勝手に口が喋るのを止められ無いじゃん!
「ぷっ!言ってる事とやってる事が違うよ~♪」
そう言いながら、颯も布団に潜り込んでくる。
「ね、眠たいんだから、何も話し掛けないでよ!」
ガバッ!と布団を被って頭まですっぽりと潜り込んだ。
「美子ちゃん、最後に一つ聞かせて。」
「な、何よ!まだあるの?!」
「……僕に手付けされるの、嫌?」
『それは……』
あれ?勝手に言葉が出てこない……って事は、自分でもわからないんだ……
「やっぱ嫁になって貰えないの?」
颯のシュン……と落ち込んだ声に、おずおずと布団から顔を出した。
「それは……」
「それは?」
「私の中でも、まだ答えが出ていない……かも……」
「かも、なの?」
「だって勝手に言葉が出てこないんだもん……」
「そっか……」
颯はちょっとだけ微笑んで、ふんわりと抱きしめてきた。
「嫌な訳じゃぁ無くて、安心したよ♪覚悟がいる事だし、美子ちゃんの答えが出るまで待ってるね!」
「……うん。」
「ふふ!おやすみ♪」
背中を規則的にトントンされるうちに、段々と瞼が重くなってくる。
「おやすみ……」
そのまま眠りに入っていった。
翌朝には元に戻っていた。颯は残念がっていたけど、平穏な日常が過ごせるって、幸せだな~♪と実感。
だけどその日の夜、お風呂から上がって部屋へ戻ると、布団が一組しか敷いていなかった。しかも、広めの布団に枕が二つだ!
「颯!ちょ、ちょっとこれは何よ~~!!」
「うん……女中さんがこの布団を敷いていったんだ……」
「……まさか、そう指示したんじゃぁ……」
「ち、違うよ!誤解だよ!」
「じゃぁ、何でよっ!」
「昨日の夕方からご飯も食べずに寝てたでしょ?たぶん誰かが呼びに来た時、一緒の布団に寝てたのを見られたんだと思うよ。」
「そ~ゆ~事かぁ……」
ったく、厄介な事になったなぁ……
溜め息をつきながらもう一組布団を出そうとすると、颯に止められた。
「せっかくの好意を無駄にしたら駄目だよ♪」
「いや、そう言われても……」
「だって、僕にギュッ!とされると落ち着くんだよね♪今日もギュッ!として寝てあげるからさっ♪」
「何だか弱味を握られた気分……」
「ツンデレさんが彼女だと苦労するよ♪」
結局、腕を引っ張られるまま、また同じ布団で寝る事になった。そして腕枕をしながら、ギュッ!と抱きしめてくる。
うぅ……心臓がもたないかも……これが毎日かぁ……
「ふふ!美子ちゃん、ドキドキし過ぎ!」
「も、もう!いちいち言わなくてもいいってば!」
「美子ちゃんが中々口に出してくれない分、正直な心臓に聞くしか無いんだもん♪」
「はぁ……寝不足が続きそう……お肌の大敵なのに……」
その呟きに、颯はまた私の背中をトントンし始めた。
「僕、美子ちゃんを寝かしつけるの、上手いと思うよ♪」
「よろしく……」
そのうち心臓も落ち着いて、ウトウトとし始める。
「美子ちゃん、大好きだよ……」
眠りに入る前、颯の優しい声が聞こえてきた。




