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もののけの嫁として売り飛ばされました!  作者: 元々猫舌
もののけの彼女になりました!
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第四十六話

 颯が帰ってきた事で、もののけの世界には日常が戻ってきた。日常とは言っても年末年始が控えている為か、いつも以上に城内はバタバタしている。


師走ってどの世界も忙しいんだな……


せっかく覚えてきた仕事だからって事で、私は外出予定が無い日の昼間には神社へ初詣の準備のお手伝いに行き、夜はもののけの世界へ帰るという生活になった。

そして、お城の部屋へ戻ると、両手を広げた颯の熱烈な歓迎が待っている。


「美子ちゃん、お帰り~♪寂しかったよ~♪」


チュッ♪


「きゃぁ~~!!」


バチン!!


「み、美子ちゃん……毎回ぶたなくても……」


颯は平手打ちされた頬を押さえながら、うるうる目で抗議をしてくる。


「毎度毎度、颯は飽きないね……」

「だって、美子ちゃんとやっと気持ちが通じたんだもん……」


イジイジ……


「って、誰の気持ちが通じたって?!いい加減に嫁にするのを諦めてよね!」

「美子ちゃん……本当にそれでいいの?」


くりくり目で私の顔を覗き込み、寂しそうに尋ねてくる。


うっ!痛いところを突いてくるな……

だけど、相思相愛を自覚しても、やっぱりもののけの嫁になるのは抵抗あるって……




 そんな中、ママからクリスマス会のお誘いの手紙を貰い、颯と一緒にクリスマスイブの24日、雪妖族の村へ出掛けた。この時期の雪妖族の村はかなり寒いって聞いたので、編んだばかりの生成り色のマフラーを早速首に巻いて歩いている。


「クリスマスって、この世界では馴染みが無いよね?」

「そうだね!でも、玲さんは人間界で美子ちゃんを産んでるし、人間界の行事に詳しいでしょ♪」


今回、右京さんと左京さんは年末年始の準備が多忙って事で、同行出来なかった。


って事は、夜も颯と二人きりだ……私の心臓、大丈夫かな……


そんな私の不安を余所に、颯は上機嫌で鼻歌を歌いながら歩いている。


はぁ……

颯にはバレないようこっそり溜め息をつき、別荘へ荷物を置いてすぐにママの屋敷へと向かっていった。




 「美子~♪久しぶりね!颯も今回は大変だったみたいね!」

「玲さんお久しぶりです。もう完全復活しましたよ♪」

「ふふ。翔から美子の元気が無いって聞いてたけど、もう大丈夫みたいね♪」


翔ってば、そんな事まで報告を……


「べ、別に元気が無いって訳じゃぁ無かったよ!颯がいなくてもやる事はいっぱいあったしっ!」

「もう、美子ったらツンデレさんね♪」


ママにだけは言われたく無いんだけど……


そしてクリスマスツリーが飾ってあるリビングを通ってダイニングへ行くと、涼さんが席に着いているのが見えた。


やっぱ恋人は必需なんだね……


涼さんと軽く挨拶を交わし、チキンやスープ、ピザやケーキが運ばれてきて、クリスマス会が始められた。


「メリークリスマス!」


チン!とみんなでグラスを合わせる。


「ママとクリスマスを過ごすなんて、本当に久しぶりだね♪」

「そうね!今日はむさくるしい男が一緒でごめんね!」


そんなママの言葉に、涼さんが反応する。


「こんな西洋かぶれの行事など、興味は無いがな……」


涼さんがボソッと呟くと同時に、ピキッ!と涼さんのグラスに入っていたシャンパンが凍った!


ま、ママから冷たい空気が……


「あら、私は大事な家族と過ごしたいだけよ。興味無いなら今すぐ帰れば!」


この二人って、恋人なんだよね!何も変わって無いじゃん!


あわてて涼さんにクリスマスを説明する。


「あ、あの!人間界でのクリスマスは、家族や恋人とか大事な人と過す日なんだ!!」


それを聞いた涼さんの顔が、ポッと赤く染まってきている。


「そ、そういう事なら、居てもいいが……」


はは……ちょっとは進展してるみたいだな……


ママのご機嫌も治って、その後は和やかな雰囲気で食事を頂いた。


帰り際、玄関まで涼さんとママが送ってくれた時、涼さんがゴホン!と一つ咳払いをして、言い難くそうに私を見ながら口を開いた。


「そ、その……」

「ん?何ですか?」

「来月の雪まつりの日だが……」

「へぇ~!お祭りがあるんだ♪」

「その時に玲さんと……け……結婚しようかと……」

「………えぇ~~~!?!」


ってか、ママまで驚いてるじゃん!!


「ちょ、ちょっと!そんなの聞いてないわよ!」

「そ、そうだったかな……俺は最初からそのつもりでいたのだが……」

「急に言われても……」

「す、すまん……ちょっと焦り過ぎたか……」

「い、いや……驚いただけ……」


あの……ママ達に漂う甘酸っぱい雰囲気は一体何でしょう……こっちまで恥ずかしくなってくるんだけど……


「では、話がまとまったら教えて下さいね♪」


微妙な空気を颯が遮って、そそくさと屋敷を後にした。




 帰り道、颯が気遣うように話し掛けてきた。


「美子ちゃん、大丈夫?」

「ん?何が?」

「玲さんと涼さんを見て……」


そっか……前は複雑だって本音を漏らしちゃったもんね……


「うん、もう大丈夫!真っ赤になってる涼さんを見てたら、逆に応援したくなって来ちゃった♪」

「そっか、なら良かった♪」

「それにしても、もう結婚考えるとか早いね。」

「こっちの世界では当たり前だよ♪想い人が出来たらすぐに結婚を考えるからね。」

「そうなんだ……」


そう言えば涼さん、ママと付き合う前から私の父親にって言ってたし……颯がすぐに結婚って言ってるのも、こっちの世界の感覚かぁ……


それから、鞄の持ち手をギュッと握りしめた。実は颯のマフラーを入れてきている。


ラッピングなんて可愛い事は出来なかったし、この世界ではクリスマスを祝う習慣も無いけど、色々と護ってくれたお礼も兼ねてるしね……


いつ渡そうかな…って考えながら歩いているうちに、別荘近くの湖畔まで戻って来てしまった。


よし!ここで渡すぞ!!自然に、さりげなく……って、難しい~!!


ふう……と一息ついて、颯に向き直る。


「あ、あの……」

「美子ちゃん……」

「へっ?な、何?」


た、タイミングが……颯に遮られちゃった……


「ごめんね……」

「何の事?」

「海坊主さんが人間フリークで、色々と教えて貰ったんだ。人間界ではすぐに結婚しないって……」

「そうだね……」

「まずはお付き合いをしてから、結婚するかどうかを決めるんだってね。」

「まぁ、人によるとは思うけど……まだ結婚した知り合いも居ないし、よくわからないや……」

「それで……改めて言うね……」


颯は、スッと私の手を取って跪いた。まるで一緒に行った映画で見た、王子様の告白シーンのようだ。


「美子ちゃん……お試しじゃぁなくて、ちゃんと僕の彼女になって下さい。」

「……えっ?」

「人間界の事も知らずに、すぐにでも美子ちゃんと一緒になりたくて、ちょっと早まったね……だから、人間界と同じように、まずはちゃんとした彼氏と彼女になりたい……」

「……」


そんなの答えられる訳無いじゃん……その先には結婚の二文字が見えてるんだし……

結婚する覚悟は無い、かと言って、颯とさよならするのも嫌だ……私って相当我が儘だな……


「颯……私は……」

「美子ちゃんが、僕と結婚するのに抵抗を感じている事は、わかってるよ。寿命も違うしね……」

「うん……」

「だから、倭にお願いしたんだ。人間の寿命を伸ばす薬を作ってくれって。不老不死っていう訳にはいかないけど、老化を遅らせる薬なら作れるらしいんだ。」

「えっ?そんな事頼んでたの?」


ってか、本当にそんな事が出来るの……?


「それと、玲さんにもお願いをしてあるんだ。一万年前の氷河水は流石に貴重だから難しいけど、一千年前の氷河水なら定期的に分けてくれるって。人間の病気程度なら、その氷河水で治るってさ。」

「ママにまで……」

「だから、可能な限り長生き出来ると思うよ。」

「……やっぱし彼女じゃぁなくて、結婚前提じゃん……」

「ふふ。そりゃぁね♪で、答えは?」


私と一緒になる為に、そこまで考えて動いてくれてたんだ……薬や水の効果は別として、今の気持ちを素直に打ち明けよう……


「颯……」

「何?」

「私……結婚を決める覚悟は無い……でも……」

「うん……」

「ちょっと手を離してくれるかな……」


颯には完全に断られたと感じたのだろう。とても悲しそうな顔をしてそっと手を離していく。

マフラーを取り出して、まだ跪いて俯いている颯の首にくるくるっと巻きつけた。


「えっ?こ、これって……魁の……?」

「魁くんとお揃いだよ。」

「もしかして僕の為に編んでくれたの?」

「……それを作ってる時って、すごく寂しかったんだよ。行方不明の颯を待ちながら作ったんだから……」

「ご、ごめん……」

「もう、二度とあんな思いをさせないって約束してくれる?」


颯は、すぐには私が言っている事が理解出来なかったみたいだ。


「……え?え?そ、それってもしかして……」

「結婚する覚悟は無いけど、颯とはさよならしたくない……それが今の正直な気持ちなんだ……」


今度はサッ!と勢いよく立ち上がって、満面の笑みを浮かべている。


「する!約束する♪一生寂しい思いをさせないって約束する♪」

「一生って……だから結婚するとは限らないからね!」

「傍にいてくれるんなら、それでもいい!美子ちゃん、ありがとぉ~♪」


チュッ♪

き、キスされたっ!!


「きゃぁ~~!!」


バチン!!

咄嗟に颯の頬に平手打ちっ!!


「み、美子ちゃん、酷い……」


あちゃ……またやっちまった……


「ごめん、ごめん……つい条件反射で……」

「条件反射って……」


苦笑いしている颯は私の腕の動きを封じ込めるよう、ギュッ!と抱き締めて、今にもキス出来そうな近くまで顔を近づけてきた。


「次は殴らないでね♪」

「ぜ、善処します……」


し、心臓が……勝手に暴れてきたっ!この距離、近すぎっ!


「ふふ!美子ちゃんのドキドキが伝わってきた♪」

「そ、そんなもの、受信するな~!」

「するも~ん!だって僕の事を好きって言ってくれてるみたいで、嬉しいもん♪」

「そ、そりゃぁね……」


颯はふわっと笑って、顔を傾けてきた。


あ……このふわっと笑った顔、好きだな……


「美子ちゃん……大好きだよ……」


その囁き声に促されるようそっと目を閉じると、颯の唇が優しく重なってきた。


そっと唇が離れた後、颯の胸に手を当てて、少し身体を離す。


何だか恥ずかしくて颯の顔が見れない……


俯いていると、私の顔を覗き込むように颯が顔を近づけてきた。


「ふふ!美子ちゃん、可愛い♪」

「な、何を……ん!」


反論は再び重なってきた颯の唇によって遮られた。促されるように顔を上向きにすると、さっきとは違う、愛おしむような深いキスに変わっていく……


颯……私も好きだよ……


長く深いキスの後、颯は静かに唇を離して嬉しそうに微笑んでいる。


「もう……幸せ過ぎて死んじゃいそう……」

「……早速私を不幸にする気かよ……」

「それくらい嬉しいって事だよ♪一生大事にするね!」

「うん……」


颯の身体に凭れ、目を閉じた。颯は抱きしめながら、ずっと私の頭を撫でてくれている。背中に回された腕が、心まで温めてくれるようだ。


やっぱ、颯の腕の中は落ち着くな……


聖夜の星空の下、ふたりの影をいつまでも重ね続けた。



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