第四十二話
魁くんお誕生日会の当日は、朝から私も手伝った。
「美子様、大皿の料理はまとめて置くのですか?」
「そうだよ!みんなが好きなおかずを取れるようにまとめて下さい♪あと、菜箸も一皿ずつ置いておいて下さいね!」
「かしこまりました。」
あと、生クリームを泡だてれば私のやる事は終わりだったよね……
そんな事を考えながら、テレビで見たことのあるバイキングってのを思い出していた。
「いつかは行ってみたいな……ホテルバイキング……」
「私ならいつでもお付き合いしますよ。」
ボソッと呟いたつもりだったけど、誰かに聞こえていたみたいだ。振り向くと翔が立っている。
「翔、来てたんだ!お誕生日会の始まりまでまだ時間があるよ♪颯の部屋へ行く?」
「あそこへ行っても……」
昨日の光景を思い出したのか、翔は苦笑いを浮かべている。
「颯は、魁くんと一緒にいる筈だよ♪朝からここへ入らないように、引き留め役なんだ!」
「それよりも何かお手伝いしましょうか?」
「そ、そんな!ゲストに手伝わせれないよ~!」
翔と和やかに話をしていると、後ろから怒鳴り声が聞こえてきた。
「あら、そこの使用人!無駄口を叩いてないで、さっさと動きなさいよ!」
この声は萌さんだな……
溜め息をつきながら振り向いた。
「あのさ、これだけみんなが忙しくしてるの。あなたも手伝ったらどう?」
「萌、か弱いから重たい物が持てないの~♪」
嘘付け……あれだけのロリータルームを短時間で仕上げるのは、重労働だろ……
「わかったから、邪魔にならないように部屋で大人しくしていてよ。」
「あら、何で人間なんかに指示されないといけないのかしら。萌には、誰かさんみたいにみんながサボらないよう見張っておく、奥方としての仕事があるのよ!わかったらさっさと動きなさいよ!」
うわっ!鶴になってたらくちばしで突かれそうな勢いだな!
その時、サッ!と翔の背中が視界を遮った。
「これ以上、美子さんを侮辱するようでしたら、私が相手になりましょう。」
「あらやだ♪人間って烏天狗の当主さんといい感じだったのね~♪颯様にご報告しなきゃ!では失礼♪」
スキップでもしそうな軽い足取りで、萌さんは会場から出ていった。
はぁ……会話するだけでも疲れるな……
翔は心配そうに、私の顔を覗き込んでくる。
「美子さん、大丈夫ですか?」
「まぁ、萌さんの言動にもだいぶ慣れてきたよ……んじゃ私、そろそろケーキを仕上げてくるね。」
「混ぜるだけであれば、お手伝いいたしますよ。」
「んじゃ、お願いしようかな!大量の生クリームを泡立てないといけないんで、女中さん達に手伝って貰おうと思ってたんだ♪」
「ふふ。力仕事なら私の方が役に立つと思いますよ。」
という訳で、料理を作り終わって一息ついている台所へ、翔と足を運んだ。
「本当に今回は多いですね……」
「前に手伝って貰った時は1パックだったけど、今回は4パックだよ!気合い入れて泡立ててね♪」
「わかりました。魁くんの為に一肌脱ぎましょう。」
「ありがとう、翔♪」
翔に生クリームのパックを開けてもらい、その間に砂糖の分量を量っておく。
「美子さん、全部容器に入れましたよ。」
「ありがとう!んじゃ砂糖を入れるね♪」
その時、ふと、入口に人影が見えた。
「あれ?颯、そこで何をやってるの?」
「い、いや……何でもない……」
「何でも無いって怪しいんだけど……」
颯に近づいてみると、後ろ側に魁くんの姿が見える。
ふふ!もしかしたら楽しみになって覗きに来ちゃったのかな~♪
「魁くん、まだ見たら駄目だよ~!大きいケーキ作ってるから、楽しみにしててね♪」
「な、何だ……ケーキ作ってただけか…」
何故だか颯が、ホッと安心した笑顔を浮かべている。
「ん?何かあったの?」
「萌さんが……い、いや!別に!ほら、魁!後のお楽しみにしておこうな♪」
そそくさとその場を立ち去っていく、変な兄弟……
そして、翔と女中さんの手伝いもあって、無事に大きなケーキが完成した。
乾杯~♪
魁くんのお誕生日会が始まった。魁くんは真っ先に大皿が並ぶ机に向かって、好きな料理を取っていく。それから招待されている翔や瞬、颯やお城のみんなが料理に群がった。
「美子様、ばいきんぐとは面白いですね。」
みんなが料理を取っている様子を見ていると、女中頭さんが話し掛けてきた。
「ふふ。好きな料理を選んで食べれるっていいよね~♪バイキングなら小食の人も大食いの人も楽しめるし!」」
「配膳も楽ですし、女中達からも好評でしたよ。」
みんなからも好評のようで良かった♪ってか、本物のバイキングって知らないんだけどね……
そして、萌さんは相変わらず颯の隣で世話を焼いている。
「颯さまぁ~♪お好きそうなおかずを取ってまいりましたわ♪」
「だ、大丈夫、自分でも取ってきたから……」
「そんな……萌は颯さまの為にと思って……」
適当なおかずを取ってきて食事を頂いている時、私の隣で食事をしている瞬がボソッと呟いた。
「あの萌ってのは、中々の巨乳だな……」
エロ狐……やっぱ見どころはそこか……
「美子、お前もうかうかしていたら颯を取られるぞ。」
「別に……もののけ同士でお似合いだし……」
「それは本気で言ってるのか?」
「本気だよ。」
はぁ……
って、何故だか盛大な溜め息をつかれた。
「あのなぁ、お前たちは相思……」
「ほら見て、颯さまぁ~♪今度は妖狐族と仲良しですわよ~!節操の無い人間ですこと♪」
離れたところで食事をしている萌さんの嫌味な声が聞こえてくると、何か言いかけていた瞬が黙ってしまった。
会場の微妙な空気を取り払うように、魁くんにプレゼントのマフラーを渡して、早々にケーキを運んでもらった。
お誕生日会も終わって瞬は帰ったけど、翔は何故だか残っている。
「翔、まだ帰らないの?」
「……美子さん、お話があります。」
「話って?」
「部屋へ行きましょうか……」
「……?わかった。」
翔と連れ立って最上階まで上がった時、回廊から空に月が見えた。
「わぁ!こんなに明るいうちから月が見えるなんて、珍しいね♪」
「月が綺麗ですね……」
「ん?そ、そうだね……」
はっきりと見えないし、綺麗って言う程の月では無いような……そう言えば、颯も意味深に同じ事を言ってたよな……
そんな事を思っていると、翔が私を振り向いた。
「今ので私の気持ちが伝わったでしょうか。」
「気持ちって?」
「……やはり、遠まわしでは駄目なようですね。」
「一体何の話?」
そう問いかけた時、ガバッ!と翔に抱き締められた!!
「ちょ、ちょっと!翔!」
「美子さん、私の屋敷へ来ませんか?」
「……は?ど~ゆ~意味?!」
「そのままの意味です。もののけに輿入れしたく無いのであれば、無理にする必要はありません。ですが、美子さんがおばあさんになって亡くなるまで大切にします。」
「……えっと……その……」
「これ以上は見ていられません……」
カタン……
何かを落とすような物音が聞こえて、ハッ!と翔から身体を離して振り向いた。そこには茫然とする颯と腕を絡めている萌さん……
「ほら!颯さまぁ~♪萌の言ったとおりでしょ♪」
「そ、颯!これは……」
咄嗟に言い訳をしようとしたけど、萌さんに遮られた。
「ちょっと、人間!言い訳なんてみっともないわよ!ほら、さっさとお城から出て行きなさいよ!」
その時、颯が声を荒げた!
「お前が出て行け!!」
えっ?そ、颯が初めて萌さんを怒鳴った……
「ひ、酷い!こんなにも颯様に尽くしたのにぃ~!!そんなに人間が大事なら、出て行ってやるわよ!フン!!」
萌さんは姿を鶴に変えて、あっという間に飛び立っていく。そして、残された三人の間に微妙な空気が流れた。
「美子ちゃん……」
颯がゆっくりと私に近づいてくる。酷く傷付いた、今にも泣きそうな顔をして……
バキッ!!
翔がいきなり颯を殴った!!殴られた颯は廊下に倒れ込んだ!
「あなたに美子さんを責める資格はありません!どれだけ傷付ければ気が済むのですか!美子さんは私が引き受けます!」
颯は俯いたまま、ゆっくりと立ち上がった。ふと顔を上げて翔を見たかと思ったら、速攻で反撃!!
ボコッ!!
「そっちこそ、いい加減に諦めろ!」
そして、ガシッ!と私の腕を掴んで部屋の中へ入り、バン!と勢いよく障子を閉めた。
「颯……うわっ!」
ドンッ!
いきなり肩を掴まれ、壁に押し付けられた!
か、顔が近いっ!
「……へ行くの?」
「えっ?何て言ったの?」
「翔のところへ行くの?」
颯が……怒ってる……
見た事も無い獲物を射抜くような鋭い目付きに、何も言えなくなってしまった。
「絶対に行かせない!!」
グッ!と肩を掴む力が強くなった瞬間、噛みつくような荒々しいキスで唇を塞がれる!
「ん!……んん!」
息が……苦しい……
漏れる吐息さえも絡み取られる苦しさに、思いっきり颯を突き離した!
ドンッ!
「やめて!」
優しさも無い……愛しさの欠片も無い……ただ、私を責め立てるだけのキス……
「こんなの……嫌!!」
自分のした事にやっと気付いたのか、颯はハッ!とした顔をしている。
「み、美子ちゃん……」
「颯なんて、大っ嫌いっ!!」
思いっきり叫んで、部屋を飛び出した!




