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もののけの嫁として売り飛ばされました!  作者: 元々猫舌
もののけの彼女になりました!
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第四十話

 ママにコツを教えて貰ってから順調に編み物は進み、やっと一つ完成した。


「ふふ!魁くんのマフラー完成~♪」


余った毛糸はどうしようかな……

そんな事を考えている時、颯が領地の見回りから帰ってきた。


「美子ちゃん、ただいま~♪今日は一段と寒いよぉ~!」

「部屋に居ても冷えるもんね……って、見てみて!魁くんのマフラー完成したよ♪」


じゃ~ん!と、広げながら颯に見せる。


「お?凄く長くなったね~♪魁、きっと喜ぶよ!」

「この事は魁くんには……」

「もちろん言って無いよ♪」

「ありがと!後はケーキかな♪」


あっ!そうだ!余った毛糸で、颯のマフラーを作ろうかな!魁くんと兄弟お揃いっていいかも♪クリスマスまでに作れたらプレゼントにもなるもんね!


「どしたの?美子ちゃん。何か楽しい事でも思い出したの?」

「え?な、何で?」

「だって、急に笑ったから。」

「ふふ!やっと自分のマフラーに取り掛かれるなって思っただけ♪」


まずい、まずい……思いっきり顔に出ちゃったか……颯にはバレないようにしなきゃ……




 気が付けば、魁くんの誕生日まであと二週間だ。自分のマフラーよりも先にケーキの材料を揃える為、久しぶりに領地の見回りに付き合った。


「美子ちゃんと出掛けるの、久しぶりだね♪」

「ずっと編み物してたしね~。」


久しぶりに外の空気を堪能して城下町へ戻ってきた時、川辺で鶴がバタバタしているのが見えた。


「颯、あの鶴、様子がおかしいよ!」

「本当だ!怪我してるかも!」


急いで橋を渡り、鶴がもがいている川辺に走った。颯が鶴を持ち上げると、身体に傷が見える。


「あちゃ……これは怪鳥に襲われたかな……とりあえず城へ連れて帰ろう!」

「うん!」


鶴を連れてお城へ戻り、右京さんが怪我の手当てを器用にしてくれた。


「これで大丈夫です。傷も深くないし、二~三日で飛べるようになりますよ。」

「流石は右京だね!ありがと~♪」

「颯様のお褒めに預かり光栄です。」


いつでも飛んで行けるよう、鶴は中庭に藁を敷いてそこで世話をされる事になった。

そして三日後、いつの間にか鶴は居なくなっていた。まさか恩を仇で返されるとは露知らず……




 それからは忙しく過ごした。颯が領地の見回りへ行っている間に、颯のマフラーを編んでいる。帰って来た後は、私のマフラーでカモフラージュだ。


そんな中、颯に一人の女性が訪ねてきたと、左京さんが部屋まで案内してきた。


「颯さまぁ~!お逢いしたかったですぅ~♪」


その女性は部屋へ案内されるや否や、いきなり颯に抱きついた!!


えっ?えっ?ど~ゆ~事?!


これには左京さんも颯も目がテンだ!


「え?ちょっと!君は誰?!」


抱きついてきた女性を引き剥がして、颯が尋ねる。


「嫌ですわ~、颯さまぁ!先日もお逢いしたではありませんか!お忘れになったのですか?」

「えっと……全然覚えが……」

「そんなぁ~!お約束どおり颯さまのお嫁さんになるべく馳せ参じましたのにぃ……」


そう言って、女性は再びピトッ!と大きな胸をわざとあてるように颯に抱きついている。


よ、嫁?!

ピキッ!久しぶりに青筋が……


「ほう……嫁ね……そんな約束がありながら、私をこの世界へ連れて来たと……」

「ご、誤解だよ!美子ちゃん!」


私に近寄ろうとした颯の腕にしがみついて、私を睨みながら女性は怪訝な顔をした。


「まだこの人間がいるの?お付きの人は男性に限定して下さらないかしら……」


つ、付き人っすか?!


「そ、そうね……あなたがいるのなら、私は必要無いわね……左京さん、もう一つ部屋を用意して下さい。私が寝る部屋をね……」


颯は女性にしがみつかれながらも、私の引き留めに必死だ。


「美子ちゃん!落ち着いて!話せばわかるって!」

「あら……私は充分落ち着いているけど♪」


とりあえず我に返った左京さんがその場を取りなし、その女性に素性を尋ねている。その間も女性は颯の腕にしがみついているままだ。


「えっと……あなたのお名前は?」

もえと申します♪以後お見知りおきを~♪」

「どちらの種族ですか?」

「萌は鶴です♪颯さまに助けて頂いたご恩返しとして、一生涯尽くさせて頂きますぅ♪」


鶴の恩返しかよ……ってか、その甘ったるい話し方、何とかしろ……


「颯様の奥方様は、美子様と決まっております。」

「えっ?!この人間?何のご冗談を……」


うわっ!物凄く睨まれてるしっ!見事なまでの人格切り替え!鳥系の種族って、みんな腹黒かよっ!!


「とりあえず今日のところはお帰り下さい。」

「えぇ~?!無理なんですぅ……仲間はみんな越冬地に行ってしまいましたし、萌、一人ぼっちで身寄りも無くて……シクシク……」


完全に嘘泣きだろ……誰も騙されないから……


「……仕方がないですね。」


左京さん、騙されてるっ!!


「では使用人部屋を用意しますので、そちらへ移動して下さい。」


萌さんは私をチラッと見て、手で追い出す仕草をしている。


「ほら、そこの人間、さっさと使用人部屋へ行きなさいよ!シッ!シッ!」


ムカッ!

駄目だ……ここで腹を立てたら負けだ……


敢えて笑顔を作って答える。


「そうね……では早速移動しましょう。」

「ちょ、ちょっと美子ちゃん!待って!」


私が立ち上がろうとすると、颯が焦って止めに入ってきた。


「颯、もののけ同士でお似合いですわよ。」

「美子ちゃん……笑顔が恐いよ……」

「あら……気のせいではなくて?おほほ!」


結局、左京さんに引っ張られる形で、萌さんが部屋を出て行かされた。

颯と二人っきりになった部屋には気まずい雰囲気が漂う。


「あの……美子ちゃん……」

「さてと!自分のマフラー編まないとっ!」


編みかけのマフラーを入れてある袋を手に持って部屋を出ようとすると、ガシッ!と颯に腕を掴まれた。


「美子ちゃん、何処に行くの?」

「女中さんの部屋へ行くだけだよ。」

「何で?ここで編めばいいじゃん!そんなに怒らないでよ!」

「怒ってなんか無い!」

「完全に怒ってるじゃん!」


左京さんに話を聞いたのか、右京さんが部屋へ入ってきて、二人の間へ割ってきた。


「お二人とも落ち着いて下さい!」


だけど、珍しく二人ともヒートアップしていく。


「落ち着いて無いのは颯だもん!ベタベタしちゃって、鼻の下思いっきり伸ばしてた癖に!」

「鼻の下なんて伸ばして無いじゃん!美子ちゃんこそただのヤキモチじゃん!」

「ヤキモチなんて妬いてない!そんなの必要ないしっ!」

「だったら何でそんなに怒ってるのか説明してよ!」

「だから怒って無いって言ってるでしょ!」


右京さんはおろおろとしながら、何とか取り持とうとしている。


「お二人とも……冷静になりましょう……」


「冷静だもん!」

「冷静じゃん!」




 夕食の時間はもっと凄まじい時間となった。萌さんは当然のように颯の隣の席をキープだ。そして一つ一つおかずを颯に差し出している。


「颯さまぁ~♪あ~ん♪」

「い、いや……自分で食べれるし……」

「そんなに照れないで下さいよぉ~♪あっ!お顔に米粒が……」


萌さんはサッ!と颯の口元に顔を寄せて、パクッ!と顔についている米粒を食べた。


はっ?!い、今のは何だ?!早業過ぎだろっ!!


颯も目を見開いて固まっている。


「ふふ♪口付けみたいですね~♪」


はっ!と我に返った颯が、やっと状況把握したみたいだ。


「ちょ、ちょっと!何するんだよ!」

「颯さまぁ~、そんなに照れないで下さいよぉ~♪」


お城のみんなの口が、ぽか~ん……と開いている。


そりゃ、そうだよね……

ってか、颯も颯だよ!嫌ならはっきりと断ればいいのにっ!何だかムカつくっ!!


「ごちそうさまっ!!」


わざと大きな声を出して席を立ちあがると、お城のみんなも我に返ったのか、恐る恐る話し掛けてきた。


「み、美子様、今日は召しあがるのがお早いですね……」

「編み物する時間が欲しいからね!ではお先に♪」


背中に颯の視線を感じたけど、敢えて振り向かないで広間を出ていった。




 その夜、部屋の端と端に布団を寄せて寝る事にした。今までで一番距離が開いた状態だ。黙って布団を離す私を、颯は何も言わずにじっと見てるだけだ。


「おやすみ!」

「……おやすみ。」


颯の顔も見ないで、ガバッ!と布団に潜り込む。


ふう……色々と疲れる一日だったな……早く寝よ……


そう思って目を閉じたものの、中々眠りにつけない。そのうち部屋の反対側からは規則的な寝息が聞こえてきた。


こんな時にぐっすり寝るとか、マジでムカつくっ!!


イラッとしながら布団の中でゴロゴロしていると、廊下から微かな音が聞こえてきた。


スーッ、パタン……

え?もしかして今、障子が開いた?ってか、誰かが部屋に入って来た!


うっすらと目を開けて様子を伺ってみる。白い着物を着た人だ。その人は足音も立てずに颯の枕元に座って、何かを呟いている。


萌さんだ……一体何やってんの?


萌さんが立ち上がったと思ったら、今度は颯に覆い被さった!


「ちょ、ちょっと!何やってんのよ!」


流石に見過ごす事が出来ず、ガバッ!と起き上がる!


「あら、外野は大人しく寝ていてくれない?」

「私は何をやってんのか聞いてるの!」

「既成事実を作るだけよ。ほら、颯さまも抵抗せずに私を受け入れてくれているわ。それとも私達の営みを見学なさるおつもり?」

「け、見学って!馬鹿じゃぁないの!」

「ふふ!手付けもされていない、何の魅力も無いあなたには刺激が強いかしら♪」

「あんたみたいなイカれた頭したヤツに、言われたく無いね!」


部屋を出ようと勢いよくバン!と障子を開けると、騒ぎが聞こえたのか右京さんと左京さんが焦った様子で駆けつけてきた。


「美子様!いかがされましたか!」

「部屋を見ればわかるよ!」


私の言葉に二人は部屋の中へ視線を向けた。そこには抵抗しない颯に、覆い被さる萌さんの姿……


「貴様!すぐにこの部屋から出ていけ!」

「あ~ん!暴力反対ぃ~!」


右京さんが萌さんの腕を引っ張って部屋から追い出し、左京さんが颯を起こしに行った。


「颯様、起きて下さい!」

「……」

「……颯様?……颯様!」


ん?何か様子がおかしい気が……


「左京さん、颯がどうかしたの?」

「颯様は何か術に掛かっておられるかもしれません。いつもならすぐに起きるのですが……」


さっき枕元で何か呟いていたのは、呪文だったんだ……こうやって強引に既成事実を作って嫁になるとは……


恐るべし、鶴女房……



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