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もののけの嫁として売り飛ばされました!  作者: 元々猫舌
もののけの彼女になりました!
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第四話

 翔の部屋へ入って思わず後ずさりをすると、翔が笑っている。


「ふふ!もののけの世界では、私に抱かれたいと女性が寄ってくるのですが、美子さんは違うのですね。」

「い、いや……確かに翔はイケメンだと思うけど、顔だけの男は懲り懲りなので……」

「ん?何か経験がおありですか?」

「父親という身近な存在が、最悪な例というか……」

「なるほど……何となく颯が惚れてしまうのも理解できる気がしますね。」

「……今、褒めるところあった?」

「充分にありましたよ。貴女は外見ではなく、中身を見る人のようです。」


ま、まぁ、そう褒められると悪い気はしないか……


そこへ家臣の人がお茶を持って来てくれたので、座布団に座ってお茶を飲みながら翔に色々と聞いてみる事にした。


「えっと……色々この世界にはいるみたいだけど、翔は天狗なの?」

「私の一族は烏天狗族です。ご存知かと思いますが、颯は犬神族で、瞬は妖孤族ですね。」

「もののけの人達って、何で惚れっぽいの?」

「ふふ!二人に取り合いをされていましたね。」

「まぁ、イケメン二人に取り合いされるっていうのも悪い気はしないけど、私の事を何も知らないのに嫁になれって言われてもねぇ……」


そう漏らした私の言葉に、翔は納得したように微笑んでいる。


「もののけは種族にもよりますが、大体500歳が寿命なので、人間のお嫁さんを貰ったら4~5回は結婚出来ますからね。」

「え?そうなの?」

「私達は100歳を超えたら成人になって結婚できますが、人間の寿命は短いですから。」

「へぇ~。ってか、人間と結婚したら子供は半妖ってこと?」

「いいえ、男の血を受け継ぎます。男がもののけで女が人間の場合は、もののけが産まれ、逆に男が人間で女がもののけの場合は、人間が産まれます。」

「そうなんだ……」


ん?って事は、何回も結婚できるから私を選んだって事?うわっ!めっちゃ失礼!!


「ふふ!急に不機嫌になりましたね。」

「べ、別に……ただ失礼だなぁって思って……」

「何回も結婚出来ますが、やはり一人目というのは思い出深いものですよ。私もそうでしたから……」

「へぇ~、翔さんは人間と結婚した事あるんだ!」

「ええ。もう90年前になりますが……」


それから翔の思い出話しを聞いた。

奥さんの両親に反対され、神隠し同然でもののけの世界へ連れて来たこと、子供は出来なくて一族から離縁を迫られたけど愛し続けたこと、おばあさんになっても翔さんは若いままだったので奥さんが気にしていたこと、亡くなる最期まで看取ったこと……


「それで今は……」

「まだ二人目は考えていないですね。私は彼女を愛した事を後悔していませんが、やはり颯や瞬には同じ寿命のもののけ同士で結婚して貰いたいと思っています。二人には大事な人を失った期間が長い人生を送って欲しくありませんから……」

「そうなんだ…」


それを言いたくて、私を連れて来たんだろうな……


そんな事を考えながら、再びお茶を口に運んだ。




 「今晩はこちらに泊まりますか?」


翔に尋ねられ、ふと現状を思い出す。


「えっと……出来れば颯のお城に戻りたいなって……」

「犬神族に輿入れする覚悟が決まってしまいましたか?」

「ち、違うって!ただ、今日は私の誕生日で食べ物を用意してくれているって言ってたし、それが無駄になったらもったいないなって思ってね……」


どうも、その辺りは貧乏性が抜けないんだよな……


尻すぼみに言葉が小さくなっていくと、いきなりガシッ!と翔が私の手を握ってきた!


「美子さん、何て素晴らしい考えを持った女性なのでしょうか!颯をやめて私にしませんか?」

「……はぁ?」


やっぱ翔も頭がおかしいぞ!ってか、もののけって貧乏性好き?!


「あのさ~!さっき前の奥さんの話を聞かされたばっかしだよ!私のこと馬鹿にしてんの?」

「いえ、まったく馬鹿になどしていません。」


翔は更に微笑みながら、指を絡ませてくる。


「いやいや……」


言いかけたところで、外からの叫び声に言葉が遮られた。


「犬神族だ!妖孤族もいるぞ!戦闘体制を組め!」


えっ?もしかして、颯と瞬?


「やっと来ましたか……」


そう言って、翔はゆっくりと立ち上がった。


「美子さんも一緒に行きましょうか。少し乱暴なお迎えのようです。」


促されて立ち上がり、翔と一緒に庭へ行ってみることにした。




 「邪魔するな!翔はどこだ!」

「美子を返せ!!」


庭では颯と瞬が、次々と襲いかかる者をなぎ倒している。


「あぁ~、派手に暴れていますね。」

「そ、そうだね……」


颯はいつものヘラッとした雰囲気とは違って、必死な形相で私を助けようとしている。


ちょ、ちょっと……かっこいいじゃん!


思わずぼ~っとその姿を見つめていると、翔が私の顔を覗き込んできた。


「美子さん?」

「……は、はいっ!」

「ふふ、今、颯に見惚れていましたね。」

「き、気のせい!だと思うよ!」

「そういう事にしておきましょうか。先程の話を覚えていますか?」

「さっきの話?」

「二人にはもののけの奥さんを探して欲しいという事です。」

「あぁ。覚えてるけど……」

「なら良いです。」


翔は軽く頷きながら庭へ下りて、二人の元へ歩いていった。


「私ならここですよ。」

「翔!美子ちゃんを返せ!」


詰め寄る颯を、翔は余裕の笑みであしらっている。


「それは出来ない相談です。」

「何でだよっ!」

「私の二人目の奥さんになるからです。だからあなた達は大人しくもののけの奥さんを探して下さいね。」


そう言って、翔は私を見た。颯と瞬も目線を辿って、やっと私に気付いたらしい。


「美子ちゃん!」


私を見るなり颯が駆け寄ってきて、ガバッ!と私を抱き締めてきた!


「ちょ、ちょっと!」

「くんくん……まだ翔の匂いがしない!手付けはされてないね!」

「そんなのされる訳無いだろっ!ってか、離れろ!!」


必死に押し返して抵抗したけど、思いの外颯の力が強くて、びくともしない。


「嫌だ、離れない!本当に心配したんだからね……」


えっ?颯の声が震えてる……?


何となく抵抗するのを止めてしまった。


「颯……」

「ん?なぁに?」

「颯にはもののけの奥さんの方がお似合いだよ……」

「……へっ?」


颯は私の肩を掴んで、ガバッ!と身体を離した。


「な、何でそんな事を言うの?僕は美子ちゃんがいいって言ってるじゃん!」

「だって……」


うっ……大人になっても、うるうるの目は変わらないんだな……


何となく寿命の違いの事を言い淀んでいると、翔がゆっくりと歩み寄ってきた。


「美子さん、どうしますか?このまま私の屋敷に留まりますか?それとも颯のお城へ帰りますか?」

「今日はお城へ帰ろうかと……」

「わかりました。私の言った事だけは覚えておいて下さいね。」

「……はい。」




 翔の屋敷からの帰り道、何となく交わす言葉も少なかった。


「美子ちゃん、歩き疲れてない?」

「大丈夫。」

「疲れたらすぐに言ってね!」

「わかった……」


途中の城下町で瞬と別れて、颯と二人でお城へと歩いた。


颯を傷つけちゃったかなぁ……でも翔が言ってた事が本当なら、颯とは結婚しない方がいい気がするし、今なら颯も後戻りできると思うんだけどなぁ……




 お城に戻ってすぐ右京さんに案内されて広間へ行くと、ご馳走が並んでいた。


「うわっ!何これ?!凄いご馳走♪」

「言ったでしょ?今日は美子ちゃんのお誕生日のお祝いだって♪」

「本当に用意してくれていたんだね!ありがと~♪」

「どういたしまして♪」


颯は嬉しそうに、私を颯の隣の上座へ案内した。


「私こんな場所に座っていいの?」

「もちろん!だって主役じゃん♪」

「それにこんなご馳走、ママがいた頃にファミレスへ行った時以来だよ!」

「喜んでもらえて良かった♪」


その時、ふと見掛けた小さい子供に目が留まった。


「あれ?」


あの子が腕に巻いているのって、私のハンカチだよね?


颯が人間界で事故にあった時、助けた仔犬が前足に怪我をしていたから、持っていたハンカチで手当てしてあげた記憶が蘇ってくる。

その子をじ~っと見ていたら、私の目線に気付いたその子が駆け寄ってきた。


「美子さま!その節はありがとうございました♪」

「やっぱりあの時の仔犬ちゃんなんだね!怪我はどう?」

「はい、すっかりよくなりました♪」


にこっ!と笑った顔がめちゃめちゃ可愛い~!天使の微笑みだ♪でも、何処となく小さい頃の颯に似ているような……


かい、僕のお嫁さんだからね♪」

「颯兄さん、わかっています!」


お、お兄さん?


「この子、颯の弟なの?」

「そそ♪今はまだ56歳なんだ!あの時、両親の危篤を知らせに僕の所へ来たんだ。そうしたら車に轢かれそうになっちゃってね。」

「え?両親の危篤って?」

「ん~、残念ながらもう亡くなっちゃったんだ。鉄鼠族の襲撃に遭っちゃってさ……」

「そうだったんだ……」


って、鉄鼠って何だっけ?ねずみのお化けだったかな?


「美子ちゃん、眉間に皺が寄ってるよ!今日は難しい事は考えないで楽しもうよ♪」

「わかった!ありがとう♪」


颯も色々と苦労してるんだな……


そんな事を思いながら、案内された上座の颯の隣に座って、ご馳走を堪能する。お腹も満足に膨れてきた頃、何処からともなくケーキが運ばれてきた。


「うわっ!凄い!三段重ねのケーキだ♪」

「喜んでもらえて良かった♪ささ、蝋燭を吹き消してね!」


誕生日にケーキなんて、いつ以来だろう♪


テンション上がりっぱなしの私を見て嬉しそうに微笑む颯に促され、ロウソクを吹き消す為に顔をケーキに近付ける。


「では……」


思いっきり息を吸い込んだ時、ケーキに書かれてある文字が目に飛び込んできた。


  《Happy Wedding》


……け、結婚?!


ロウソクを消すのをやめて、颯にジト目を向ける。


「美子ちゃんどうしたの?早く消さないと食べれないよ♪」

「……颯……」

「何?」

「ここに書かれている文字は何だ?」

「えっ?……い、いや……予定は祝言だったからさ♪修正が間に合わなかったというか……そのままの意味でもいいかな~なんて♪」

「ば、馬鹿野郎~~!!こんなもの食えるかぁ~!!」


やっぱこいつ、最低だ……




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