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もののけの嫁として売り飛ばされました!  作者: 元々猫舌
もののけの彼女になりました!
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第三十八話

 ……ん。


何処かの道場っぽい広い部屋で目が覚めた。部屋には神棚みたいな祭壇が置いてあり、その前にある囲炉裏のような所では火が焚いてある。外はすでに暗くなったみたいだ。


そ、そうだ!!颯は?!


意識を手放しても、颯だけはしっかりと抱えていたみたいだ。だけど腕の中の颯はぐったりとしている。


「颯!しっかりして!」

「……み、美子ちゃん……気付いたんだ……」

「この紙さえ無ければ!!」


まだ器が赤ちゃんの颯に、抵抗する妖力は無い。必死になって式神を一枚ずつ剥がしてくしゃっ!と潰していくけど、すぐに元通りになってまた颯に纏わりついてくる。


「目が覚めましたか。」


気付けばすぐ側に狩衣を着た陰陽師が立っている。サッ!と颯を抱き締めて陰陽師から庇った。


「私達をどうするつもりよ!」

「あなたを無事に人間界へ戻れるようにしますね。」

「はぁ?!誰も頼んでないしっ!」

「その子供も、二度とあなたに害が及ばないよう消しておきますから、安心して下さい。」


や、やっぱ颯を殺すつもりなんだ……


「何が楽しくてこんな事をするのよ!」

「この世界にも沢山のもののけが存在していますが、私達陰陽師は害を及ぼすもののけだけを退治しています。」

「この子には何の害も無いじゃない!」

「実際、あなたを惑わせているではありませんか。そのうち神隠しに会ってご両親とも二度と会えなくなりますよ。それでは手遅れなのです。」

「神隠しなんて無いからっ!颯を解放して!!」


私がそう叫ぶと、陰陽師がピクッ!と反応した。


「颯……確か現在の、もののけの総大将の名前が颯でしたね……」


し、しまった!!


陰陽師はニヤッと嫌な笑いをして、言葉を強めた。


「今すぐにその子供を渡せ!今渡せばお前は助けてやる!」

「そんな言葉に騙されないからっ!」

「ではまず、お前に憑いているもののけを引き出してやろう!」


陰陽師はそう言って、私に手をかざして何か呪文のような言葉を唱え始める。


あ、頭が痛い……気持ち悪い……吐きそう……


急に気分が悪くなり、颯を抱き締めたままガクッ!と項垂れてしまった。


「うぅ……」

「……美子ちゃん……僕を離して……」

「大丈夫だから……」

「……大丈夫じゃぁ……無いじゃん……」


腕の中の小さな颯が、最期の力を振り絞るように腕の中から離れようと抵抗する。


こっちだって負けてられない!


颯の動きを封じ込めるように、思いっきり腕に力を入れた!


「……み、美子ちゃん……」

「大丈夫って言ったでしょ……こんな……ヤツに……殺されてたまるかぁ~~~!!!」


ビュ~~!!


力の限り叫んだ時、突然部屋の中に吹雪が起こった!!


「な、何で雪が?!」

「貴様、雪女だったのか!!」


えっ?!まさか私、ママと同じ雪女になったの?!


「このまま生かす訳にはいかない!貴様も……うわっ!」


陰陽師は抵抗しているけど、吹雪に巻かれて身動きが取れないみたいだ。


逃げるなら今だ!


必死になって立ち上がろうとした時だった。


「ここか!」


バン!と部屋の扉が開いたと思ったら、翔と右京さん、左京さんが飛び込んできた!


三人は一瞬吹雪に驚いた表情を浮かべたけど、すぐに駆け寄ってくる。


「颯様、美子様、大丈夫ですか!」


右京さんが私の肩を抱えるように立ち上がらせる。


「わ、私より颯が!」

「颯様をこちらへ!」


抱き締めていた颯を左京さんに受け渡すと、左京さんは手に炎を出して颯に纏わりついている式神を燃やし始めた。

そして翔は、陰陽師と向き合っている。


「き、貴様ら、みんなもののけか……」

「それをあなたに答える義務はありません。」

「何故あの人間からこのような力が……」

「……あなたは何も見ていない。全て忘れるのです。」


翔が陰陽師の頭に手をかざすと、バタン!と陰陽師が床に倒れ込んだ。それと同時に私の吐き気がす~っと収まって、吹雪も止んでいく。


「翔……」

「美子さん、大丈夫ですか?」

「私はもう大丈夫だけど、颯が……」

「すぐに戻りましょう!」


颯は左京さんの腕の中で、ぐったりしたままだ。急いでお城へ戻り、颯を布団に寝かせてみんなに経緯を話した。


「……という訳なの。」

「そんな事が……恐らくあの陰陽師は、颯が美子さんに悪さをしていると勘違いしたのでしょう。基本的には、人間界で悪さをするもののけのみを退治する事を生業としていますから。」

「翔、あの陰陽師は……」

「大丈夫です。今日一日の記憶を奪っただけです。」

「そっか…」


記憶を奪うとか、本当に出来るんだ……


って、そ!そう言えば!


「ねぇ!私って、雪女になったの?!」


みんながし~ん……としたかと思ったら、ぷっ!と吹き出して大爆笑し始めた!


「な、何で笑うの!右京さんに左京さんまで!」

「し、失礼!美子様があまりにもおもしろい事をおっしゃいますので……ぷっ!」

「も、もう!真剣に言ってるのに!」


翔までもが身体を折り畳む勢いで、笑っている。


「ふふ!美子さんは本当に面白いですね!あなたはれっきとした人間ですよ!」

「だったら翔も笑ってないで、吹雪の理由を教えてよ!」

「あれは私もびっくりしましたが、恐らく陰陽師の手によって一時的に引き出された玲さんの血が、美子さんに共鳴したのでしょう。今は全く妖力を感じませんよ。」

「そうなんだ……」

「もしかして我々の仲間になりたかったですか?」

「い、いや……ちょっとびっくりしただけだよ!」


それから寝ている颯に目を向けた。


「颯は、大丈夫なの?目を覚ますよね……」


これには左京さんが答えてくれる。


「颯様は非常に妖力が高いですから、式神程度で命を落とす事はありませんよ。生命の危機を感じれば、ご自身で仮死状態にする事が出来ます。」

「そうなんだ。」

「ですが今回は無抵抗でしたので、かなり体力を消耗されたようですね。次からは人間界へ出掛ける時も、必ず護衛を付けて下さい。颯様の器はまだ妖力が使えませんから。」

「はい……」




 颯の看病は私が引き受け、みんなが部屋を出ていった。


看病と言っても寝ている颯を見ているだけなんだけど……


「颯……ごめんね……」


買い忘れをしてしまった事、一人で動いてしまった事……

腕の中で小さな颯がぐったりしていく時、颯を巻き込んでしまい、私のせいで颯が死んでしまうかもしれない恐怖……


体力を奪われて、異常に体温が下がっている颯の頬にそっと触れてみる。


冷たい……まるで死んでいるみたい……


右京さんは仮死状態に近いだけで問題ないって言ってたけど、颯を失うかもしれない恐怖が甦って、颯が生きてるか確かめたくて、颯の胸に耳を当てて心臓の音を聞いた。


ドクッ……ドクッ……


「あっ!動いてる♪」


聞こえてくる規則的な鼓動にほっと胸を撫で下ろして、隣の布団で横になった。




 ……ん。

夜中に目が覚めた。


そうだ!颯は?


颯に掛けてある布団を少し捲って胸に耳を当てて、再び心臓の音を聞いた。


「良かった!ちゃんと聞こえる♪」


心なしか少し温かさが戻ってる気がする♪


安心して顔を離し、再び颯に布団を掛けた。安心したけど違う不安も押し寄せる。


「颯……寿命の長さ、違うままだね……」


吹雪が巻き起こった時、もののけになったかもってちょっと期待したのも事実だ。人間である以上、颯やママ達と一緒に歳をとっていく事は出来ない。ママよりも先に歳をとり、ママよりも先に死んでいくという事だ。


はぁ……

深い溜め息をついて、もう一度颯の胸元に凭れ掛かった。


「もし颯と結婚しても、私がお婆さんで颯が若いままっていうのは嫌だよ……それに子供が出来ても、魁くん位の幼い子供を残して死んでいくのは嫌だ……その先、何百年も生き続ける颯を残して死ぬのも嫌だ……」


この世界へ来た時に翔から言われた忠告が、やっと理解出来た気がする……私が颯を受け入れられない大きな原因……私には乗り越えられないや……


「やっぱり一緒にはなれないね……」


颯に凭れ掛かったまま、そっと目を閉じた。




  『美子ちゃん……今日は護ってくれてありがとう……』


……ん……

夢の中か、現実かわからないけど、颯の声が聞こえてくる……


 『美子ちゃんの不安、全部取り払えるよう頑張るね……』


その時、ふわっと優しい温もりに包まれた。


あ……温かい……安心する……


 『大好きだよ……ずっと傍にいてね……』


頭を微かに優しく撫でられている気が……


穏やかな気持ちのまま、再び深い眠りについた。




 チュン、チュン……


……ん。朝か……今朝はやけに温かいな……


って、颯に抱き締められてるじゃん!ち、違う!私が颯の上に凭れ掛かってるじゃん!誰がどう見ても、私が颯を襲ってるみたいじゃん!!


急いで離れようとしたけど、背中に颯の腕がガッチリ回っていて、起き上がれないっ!


誰かが来る前に、何とかして抜け出さなきゃっ!


一人あたふたしているうちに、左京さんが颯の様子を見にきてしまった!


「颯様、美子様、失礼します。」


スーッ、と部屋の障子が開いた瞬間、バッチリ左京さんと目が合った!


「そ、その……これは」

「……し、失礼しました……」

「ち、違うの!これには訳が!」


気まずそうに再び障子を閉める左京さん……


パタン…


「左京さん!待って~~~!!!」


私の叫びも虚しく、障子に映り込んだ左京さんの影が立ち去っていった……


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