第三十六話
朝晩が冷え込むようになってきたある日、颯と一緒に部屋の窓から月を眺めていた。
「そろそろ中秋の名月だね……かぐやさん、元気かなぁ……」
「たぶん元気なんじゃないかな♪」
「だね……」
月を見ては何となく思い出す、私の中の常識を覆した宇宙人……
「美子ちゃん、中秋の名月の日なんだけどパレードがあるんだ♪」
「パレード?」
「そそ!百鬼夜行って言うんだけど、もののけの各種族が集まって行進するんだ♪」
覆される常識、アゲイン……
「賑やかで楽しいから、一緒に見に行こうね♪夜店もあるよ!」
「でも百鬼夜行って、人間が見たら死ぬって本に書いてあったような……」
「大丈夫!昔、百鬼夜行を見た人間が驚いて、高い所から落ちてしまった事件があっただけだよ♪」
そりゃフツ~は驚くだろ……
「そういう事なら、見に行ってみるよ。」
「やった!美子ちゃんとデートの約束できちゃった♪」
「私にとっては、季節外れの肝試しだけどね……」
そして、中秋の名月が夜空に輝く日となり、行進が行われる沿道に出掛けた。
「美子ちゃん!人が多くて迷子になったら困るから、手を繋いでもいい?」
「もう小人じゃぁ無いんだけど……」
「でも、美子ちゃんが怖がるかもしれないし♪」
「怖いってわかってて連れてきたのかよっ!」
「だから、しっかり繋いでおくね♪」
すっと右手を取られ、しっかりと握られた。
まぁ、想定外のもののけが出て来る可能性もあるし、仕方ないか……
半分諦めたように沿道へ着いたものの、そこにいる想像以上の人達に圧倒された!
「す、凄い……」
「賑やかでしょ♪」
「だね……」
顔に目が三つ……子泣き爺……頭にも口が……
圧倒されたのは、想像以上なお化けの多さなんだけど……
きょろきょろと色々な種族を見ている時、群衆の中からひょこっと出て来ている顔に気付いた。
あれってろくろ首だよね……便利な使い方だわ……
妙に感心しながらパレードならぬ百鬼夜行の見学の為、沿道の一番前を陣取ってしゃがむ。
「先頭は毎年、犬神なんだ♪今年は中京が出てるよ!」
「へぇ~。流石だね。」
ふふ、珍しく颯がちょっと誇らしげだな♪
そんな事を思っていると、二階建てくらいの大きな妖犬に変化した中京さんが、堂々とした足取りでゆっくりと歩く行進の先頭が見えてきた。その後ろは羽を出した烏天狗、耳としっぽを出した妖狐族、雪男……そして手には、提灯おばけ……
く、クオリティの高い仮装だ……違う……これぞまさにリアルハロウィン……
次々とやってくる、色々な種族を眺めてみる。
あっ!あれは狼男だ!あっちは火の玉が浮いてるじゃん!こっちは口裂け女じゃん!……って、都市伝説だと思ってた……
そこへ見覚えのある姿が見えた。
あの蜘蛛もしかして……
「颯!あの蜘蛛は土蜘蛛?!」
「あれは土蜘蛛じゃぁなくて、牛鬼だよ♪」
「そ、そうなの……」
う~ん……その違いがわからない……
「わぁっ!あの人美人だね♪」
「磯姫だね。美子ちゃんは大丈夫だけど、男性を惑わせるからみんな気を付けてるよ♪」
はは……雪女以外にも男を惑わす種族がいた……
その時、ドスン!ドスン!と規則的な地響きが起こった!
「な、何?」
「ああ、美子ちゃん安心して!だいだらぼっちだと思うよ♪」
だいだらぼっちって、あの巨人伝説ですか……
ドスン!ドスン!という音が段々と近づいてきて、目の前に沿道の幅いっぱいの足が現れた!
「うわっ!デカすぎっしょ!!」
咄嗟に颯の腕へしがみ付く!
「ふふ!美子ちゃん驚き過ぎだって♪だいだらぼっちは、もう一本の沿道も使って歩くんだ!だから毎年片足しか見えないんだよ♪」
「そ、そうなの……」
ってか、片方しか見えない足なのに沿道の見物客みんなが無反応って、ある意味凄いかも……
そうしてパレードを堪能(?)して一斉に見物客が動き出した時、人の波に流されて颯の手が離れてしまった!
「う、うわわっ!!」
「美子ちゃん!!」
「颯!!」
ど、ど~しよ~!!颯とはぐれちゃった!!こんなお化けだらけの所にぼっちなんて、嫌だぁ~~!!
一人あたふたしていると、ふっと左手に温もりを感じた。
あれ……?誰?
若干違和感があったものの、握っている人を見てほっと一安心だ♪
「颯、脅かさないでよ~!」
「ごめんごめん♪おろおろしていた美子ちゃんが可愛くてさ♪」
その時、遠くから私の名前を呼びながら近づいてくる颯の姿が目に飛び込んできた。
「美子ちゃ~ん!!あっ!いたいた♪やっと追い付いたよ~!」
近づいてきた颯は、安心したように私の右手を握った。
「え?そ、颯なの?!」
「そうだよ♪って、もう一人僕が!!」
「もう一人僕が!!」
二人の颯が同時に叫んだ!
「お前誰だよ!」
「お前誰だよ!」
え?え?この状況は、一体何?!ど~ゆ~事?!
「美子ちゃん、僕が本物ってわかるよね!」
「美子ちゃん、僕が本物ってわかるよね!」
「ちょ、ちょっと待って!!まさかドッペルゲンガー?!」
「こいつが偽物なんだ!」
「こいつが偽物なんだ!」
二人の颯が同時にお互いを指さして叫んでいる。
って、またしても理解不能な現象が……
「ちょ、ちょっとまぎらわしいから、左手の颯が一号、右手の颯が二号でいい?」
「いいよ♪」
「え~?!二号なんて妾さんみたいで嫌だ……」
二号の颯がいじいじと、いじけ始めた。
はは……どっちが本物かわからないけど、いじける所までそっくりだな……
そして手を離して二人に並んで立って貰い、じっくりと見比べてみる。
「う~ん……何処から見てもそっくりなんだけど……」
「だから、こっちが化け狸なんだって!」
「だから、こっちが化け狸なんだって!」
化け狸かぁ……流石というか何というか……前なら仔犬になって貰えればお腹の禿げで分かったんだけど、今は毛が生えちゃったしね……
「そうだ!颯の命日はいつ?」
「僕、生きてるし……」
「僕、生きてるし……」
「だよね~、はは……」
この質問は駄目か……
「じゃぁ、私のママは何処に住んでいるでしょうか!」
「雪妖族の村!」
「雪妖族の村!」
どっちも知ってるって、私の個人情報ダダ漏れじゃん……
「だったら、人間界にいた時の私はどうだった?」
「貧乏……」
「貧乏……」
確かに間違っては無いけど、もっと他にあるよね……
質問を諦めてすぐ側の岩の上に座り、何か無いか必死で考えてみる。
「そうだ!来る時に見たりんご飴が食べたいな!先に買ってきてくれた方が本物だったりして♪」
「わかった!すぐに行ってくるね♪」
「わかった!すぐに行ってくるね♪」
二人の颯は、ピュ~ン!と走り去っていく。
百鬼夜行を見に行く途中で見つけた夜店、本物ならすぐに場所がわかるよね♪あっ!実はいちご飴の方が気になってたんだよな……いちご飴って言えば良かった……
そして、一番に帰って来たのは颯一号だった。
「美子ちゃん!りんご飴買ってきたよ~♪」
「ありがとう!って、どっちの颯?」
「一号だよ♪」
「そっか!流石は一号だね♪」
手を差し出して、ガシッ!と握手……
ん?やっぱ違和感……こっちは狸だな……
「ふふ!美子ちゃんの為だしね♪これで僕が本物だってわかってくれた?」
「それはどうかな~♪」
それから暫くして颯二号が帰ってきた。
「美子ちゃん!いちご飴が気になってたでしょ♪って、一号ずるいぞ!お前並んで買ってないだろっ!」
「ちゃんと並んで買ったよ~!僕が早かったから僕が本物だってわかって貰えたもん♪」
「み、美子ちゃん……そうなの?!」
颯二号がうるうるした目で私を見始めている。
「まだわからないかな~♪いちご飴ありがと!」
いちご飴を手渡して貰って、二号ともガシッ!と握手……
ふふ、やっぱりこっちが本物だ♪
手を繋いだまま、にっこり笑って颯一号に向き直った。
「二号が本物だよ♪」
「美子ちゃん♪やっぱわかってくれたんだね!」
「まぁね♪」
すると颯一号が、ポン!と白い煙を立てて、メタボなおっさんに変化!
さ、流石は狸というべきか……お腹まで簡単に引っ込める事が出来るんだ……ある意味羨ましいかも……
「な、何でバレたんだ……完璧な変化だった筈なのに……」
そして諦めたように、メタボ狸はとぼとぼと歩いて去っていった。
帰り道、颯が嬉しそうに尋ねてきた。
「美子ちゃん、狸の匂いもわからないのに、どうやって僕だって見分けたの?」
「それは内緒♪」
「う~ん……わかった!決め手はいちご飴でしょ!美子ちゃん、欲しそうに見てたもんね♪」
「まぁ、そんなところかな♪」
本当は握った手の感触でわかったけど、それを言ったら颯が有頂天になりそうだから黙っておこっと♪
その後りんご飴を一口かじって、あまりの不味さに吐き出した!
「うわっ!これって葉っぱじゃん!!ぺっ!ぺっ!」
「ぷっ!狸のお家芸だもんね♪」
「やっぱし……」
たかだ狸……されど狸……最後まで侮れないな……




