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もののけの嫁として売り飛ばされました!  作者: 元々猫舌
もののけの彼女になりました!
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第三十二話

 今夜は満月らしい。颯がゆっくりとオールを動かしてボートを進める。周りに建物は無く、月明かりだけが輝く濃紺で描かれた美しい絵画のような風景だ。

ボートは湖の真ん中で、ゆっくりと止まった。


「美子ちゃん、月が綺麗だね……」

「そうだね……」

「今の、意味がわかった?」

「満月だからでしょ。」

「そ、そうだよね……はぁ……」


颯は何故か、溜め息を漏らしている。


……?まぁ、いっか……


綺麗な満月が湖面に映り、微かに揺れている。顔を上げれば甘いマスクのイケメンが優しく微笑む二人だけの静かな世界……誰もが羨む甘いシチュエーション……


残念ながら、こいつはもののけ……


「はぁ……」

「ん?美子ちゃん、どうしたの?」

「いや、ちょっと現実と夢の狭間で葛藤してただけ……」

「……?そう……」


そう言えば、お礼を言うの忘れてたな……


「颯……」

「なぁに?」

「今日は連れてきてくれてありがとうね♪」


颯は何を勘違いしたのか、感動に震え始めている。


「美子ちゃんが……にっこり笑ってお礼を言ってくれた……」

「そんなに感動する事?!」

「だってそんなに優しい顔をして、微笑みかけられると我慢が……」


な、何だか嫌な予感……ってか、ここって、逃げ場が無いじゃん!!


「美子ちゃん……ちゅ~♪していい?」

「はぁ?!何言ってんだ!!」

「抱き締めてもいい?」


颯が私の所へ移動しようとすると、ボートがグラッと揺れた!


「て、てめぇ!こんな所で盛ってんじゃね~よ!」

「無理!月夜に映える美子ちゃんが綺麗過ぎて……」

「ちょっと待った!颯、落ち着けって!!」


バシャーン!!


その時、空から一筋の光が湖面に落下!ボートがグラグラッ!と揺れ始めた!!


「うわっ!!」

「美子ちゃん!大丈夫?!」

「な、何とか……って、一体何事?!」


光が落ちて来た所に目を向けた。


って、何かがバシャバシャ暴れてるじゃん!


「颯!何か生き物が溺れてるみたいだよ!」

「本当だ!行ってみよう!」


颯が急いでボートを漕ぎ、何かが溺れてる所まで行って、オールを差し出した。


「これに掴まって!」


だけど、バシャバシャ暴れて掴めないようで、颯が掬い上げるようにして助け上げた。


えっ?!

オールに乗っかった生き物を見て、びっくりだ!!


「う、ウサギ?!何で空から!?」


すぐにオールを手繰り寄せて、ウサギを抱き上げた!


「プルプル震えてるよ!」

「すぐに別荘へ戻ろう!」


急いで船着き場へ戻って、別荘へ走り出した!


「右京さん!すぐにタオルを下さい!」


バタバタと別荘へ駆け込み、持って来て貰ったタオルで、颯と一緒にウサギの体を拭いてあげる。


「でも、何で空からウサギが降ってきたんだろうね。」

「ひょっとしたら、こいつは月兎じゃぁないかな。」

「月兎?」

「そそ!僕も初めて見るけどね。」

「……もしかしてお餅をついているとか……」

「美子ちゃん、よく知ってるね♪まぁ実際のところは誰も見た事が無いけどね!」


颯……月兎って、月の模様がそう見えるだけだと思うよ……


「私も初めて見ますね。」


左京さんまで同意してるし……


「じゃぁ、そのウサギは月から落ちて来たって事?」

「はっきりとはわかりませんが、その可能性もあるかと……」


普通、月からなら地球へ落ちて来る前に、大気圏で確実に燃え尽きるよね……常識人と思っている私が、ここではマイノリティらしい……


ウサギをそっと床に降ろすと、ひょこひょこ前足を庇うように歩いていることに気付いた。


「あれ?もしかして怪我してる?」

「本当だね。血は出て無いけど、骨が折れてるかも……」


別荘にあった木の棒を添え木にして、右京さんが器用に手当てしている。その間に水と、ウサギが食べれそうな人参やキャベツを千切ってお皿に用意した。


手当てが終わったウサギは、美味しそうに野菜を食べ始めている。


「颯、見てみて!鼻がピクピク動いてる!可愛い~♪」

「……美子ちゃんが普段、どんな目で僕を見ているかがわかるかも……」

「ヤキモチ妬かないの♪」

「妬いて無いし……」


月兎らしいウサギはお城で飼う事にして、月に因んで"ルナ"と名付けた。




 旅行から戻って三日後の九月五日、その日は前当主である颯のお父さんとお母さんが、亡くなって一年が経つ日だ。


この日ばかりは兄弟が揃って、お墓参りに行くようだ。お城から程近い小高い山に登ったところに、犬神族の墓地がある。その中でも一際大きく、お城が見渡せる場所に建てられているお墓が代々当主が入るお墓だそうだ。


山を登り、大きなお墓が見えたところで、誰かが拝んでいる姿があった。


「颯、あれって仁じゃぁない?」

「本当だ。」


仁は目を閉じて、じっと拝み続けている。ふと目を開けた仁が私達に気付いた。


「颯に美子……」

「仁、久しぶりだね。」


仁に近づこうと一歩踏み出した時、小さな影が、サッ!と私の横をすり抜けた。


「何しに来たんだよ!」


中京さんが、魁くんを羽交い締めにして、仁に喰ってかかるのを止めている。


「魁、止めないか。」


颯も嗜めるように声を掛けている。


「でも、こいつが母上を殺し……」

「魁!止めろ!」


颯が……魁くんに言葉を荒げたところ、初めて見た……


「颯兄さんは悔しくないのですか?」

「……」

「こんな奴を許すなんて、兄さんは甘過ぎるよ!」


魁くんはそう叫んだ後、ダッ!と走り去り、その後ろを中京さんが追い掛けていった。


「すまぬ……日をずらせば良かったな……」


仁が目を伏せて、颯に謝った。


「仁が謝る事は無いよ。仁だって、愛する奥さんを殺されてるんだし……」

「……また何か情報を掴んだら、連絡する。」


そう言い残して、仁は帰っていった。そして颯は、無理した笑顔を私に向けてきた。


「兄弟喧嘩なんて初めてかも♪びっくりしたでしょ!」

「……」

「美子ちゃん?」

「颯……無理に笑わなくてもいいよ……」


私の言葉を聞いて、颯の無理した笑顔が泣くのを堪えるように歪んできた。それからポツリと語り始めた。


「このお墓には、僕の母上も眠ってるんだ。」

「どういう意味?」

「僕と魁の母上は違うんだ。」

「そうだったんだ……颯のお母さんも殺されちゃったの?」

「……かもね。僕が生まれつき妖力が強かったばかりに、体に負担がかかって、産んだ時に亡くなったって……だから……」


颯は……もしかしてその事まで……


「だから、僕が父上も、母上も、魁の母上も殺したようなもんなんだ……」


この、もののけの世界をも滅ぼす程の強大な力を持った颯は、どれ程大きな哀しみを背負って生きて来たんだろう……

生まれた時からお母さんの温もりを知らず、自分の感情を抑えるよう教えられ、甘える事も弱音を吐く事も出来ずに……


「颯……」


少し目を伏せた時、突然、颯に抱き締められた!


「ちょ、ちょっと颯!こんな所いきなり……」

「……」


私の肩に顔を埋めて、身動き一つしない。


「颯?」

「……今だけは……離れないで……」


その時、颯の心に共鳴するように、天気雨が降ってきた。


「颯……」

「……」

「今なら泣いても、誰にもバレないよ。」

「……うん……」


颯は、微かに震えていた。雨の中、私は子供をあやすように、背中を軽くトントンした。


少しでも颯の心が癒えますように……




 夜になって颯が部屋にいない時、恐る恐る魁くんが部屋を覗いているのに気付いた。


「魁くん、どうしたの?」

「……その……颯兄さんは?」

「今はお風呂だよ。」

「そうですか……」


魁くんはもじもじして、部屋に入ってくる様子が無い。


もしかしてお昼の事を気にしてるのかな!ふふ、可愛い~♪


「魁くん、ルナを抱っこしてみない?」

「そのウサギですか?」

「そうだよ!とっても可愛いよ~♪」


おずおずと私の側に来た魁くんの膝にルナを乗せてあげると、魁くんはルナをゆっくりと撫で始めた。


「ふわふわで気持ちいい~♪可愛いですね!」

「でしょ♪」


天使の微笑みを浮かべる魁くんの膝に、ふわふわのルナ……

ん~♪最強の癒しコラボ♪


ほっこりする最強のコラボを堪能しながら目を細めていると、魁くんがボソッと呟いた。


「颯兄さんは、何故みんなに甘いのでしょうか……」


そっか……お母さんが亡くなってまだ一年だし、納得するのは難しいよね……


ゆっくりと魁くんに語りかけるように、言葉を選んでみる。


「颯が誰よりも強い事は知ってるよね?」

「はい……美子さまが水妖族に囚われた時、伝説の炎の神になったと聞きました。」

「強いからこそ、弱い人の立場に立って物事を考える事が出来るようになるの。そして守りたいって思うようになるんだよ。だから甘いっていうのとは、ちょっと違うかな?」


魁くんは、う~ん……と、考え込んでいる。


ちょっとわかり難かったかな……


「例えば私や魁くんよりもルナの方が弱いでしょ?だから私達が、ルナを可愛がるのと同じ感じかな♪」

「ルナを……なるほど!何となくわかった気がします♪」

「ふふ♪魁くんは賢いね!」


魁くんの頭を撫でてあげている時、颯が部屋に戻って来た。颯の姿を見た魁くんがサッ!と立ち上がって、頭を下げる。


「颯兄さん!今日はごめんなさい!」


そして脱兎のごとく、ピューン!と部屋から出て行った。


「ふふ、照れ臭いお年頃かね♪」


それには答えず私の前にしゃがんできた颯が、ふんわりと抱き締めてきた。


「美子ちゃん、ありがとう……」

「ん?何が?」

「魁の心を溶かしてくれて……僕の心を救ってくれて……」

「ふふ、どういたしまして♪」


兄弟喧嘩が収まったようで良かった♪

ってか、最近、颯に抱き付かれる事に慣れてきた自分が怖いわ……



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