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もののけの嫁として売り飛ばされました!  作者: 元々猫舌
もののけの彼女になりました!
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第三十一話

 暑い……残暑厳しいとはこ~ゆ~事だ。だけど、鈴ちゃんの事での感傷に浸る暇も無い程、残暑とは違う暑さの原因……


「颯……」

「ん?なぁに♪」

「さっきから何をしてる……」

「わからない?美子ちゃんに抱きついてるんだよ~♪」

「暑いから離れろ!!」

「だって……僕の胸で震えて泣いていた美子ちゃんが、可愛かったんだもん♪」

「全く理由になってないわ~~~!!」


ガバッ!と颯を跳ねつけて、やっと暑さから解放♪パタパタと団扇を振りながら風を起こした。


「ふう……死ぬかと思った……」

「せっかく美子ちゃんが、僕を見れるようになったのに……」


いじいじ……

って、そんなにいじけられても、暑さで相手にする気になれないんだよね……


「わかったから、抱きつくのはやめてよね……」

「りょ~かいっ♪」


ピトッ!

今度は、身体を隙間なく寄せてくる。


「颯……何をしてる……」

「抱きつくと怒られるから、くっついてるの♪」

「だ~か~ら……暑いって言ってんだろ~がっ!!」


ガシッ!と颯の胸倉を掴んで拳を振り上げた!


「お、お取り込み中でしたか……」


その時、誰かの声が聞こえて、そのまま動きを止めてしまった。

恐る恐る声のした方へ振り向くと、倭と白蛇族の当主で倭のお父さん、案内してきたと思われる左京さんの姿が見える。


「あはは……これはちょっとした運動で……」


さり気無く振り上げた拳を下ろして、部屋の中へみんなを案内する。


倭達と私達が向き合って座ると、倭と白蛇族の当主がいきなり、ガバッ!と頭を畳に付くくらい頭を下げてきた。


「お詫びが遅くなりまして、大変申し訳ございません。本来でしたら愚娘の首を持参するところでありますが、この度は寛大なご配慮を頂きまして、誠にありがとうございます。」


く、首を持参って……貰っても嬉しく無いし……


「また、美子様には謝罪しきれない程のご迷惑をお掛けしたにも関わらず、愚娘に別れを惜しんで頂き、父として感謝申し上げます。」

「いえいえ、鈴ちゃんには仲良くして頂きましたから……」

「海よりも深いそのご慈悲、流石は犬神様の奥方様となられるお方、何とお礼を申し上げて良いのか……」


海よりも深いご慈悲って……さっき、颯の胸倉掴んでる姿を見てるよね……


「本日より、白蛇族は末代まで犬神族に忠誠を誓わせて頂きます。」


へ?これには颯が焦っている。


「ちょ、ちょっと!白蛇族は神の使いでしょ?何処か一つの族に肩入れしたら駄目じゃん!」

「これは、白蛇族の総意にございます。」

「そう……じゃぁ気持ちだけ受け取っておくよ。」

「いえ、何なりとお申し付け下さいませ。」


そのうち機会があったら何か頼むよ♪って事にして、何とかその場が収まったようだ。

そして、白蛇族の二人を城門まで見送った。


「美子様……」


帰り際、倭が私に向き直った。


「今後、お会いする機会が減るかと思います……」

「そうなんだ……また城下町に来たら声を掛けてね!」

「……何かありましたら、必ず美子様のお力になるべく馳せ参じます。」

「倭、ありがとう♪」

「どうか、颯様とお幸せに……」


もしかしたら次に会うのは当主同士のお堅い関わりだけで、倭と気軽に会う事は最後になるのかな……


「甘味処でご馳走してくれてありがとう!楽しかったよ♪」


にっこり笑って、手を差し出す。倭はおずおずと私の手に自分の手を重ねて、少し寂しそうに笑った。そして、白蛇族の当主と一緒に帰って行った。


「はぁ……これで美少年も見納めか……」


漏れてしまった心の声に、颯が焦って反応する。


「み、美子ちゃん!今のは聞き捨てならないんだけどっ!」

「ふふ!空耳じゃない?」

「最近、翔の腹黒が移ってない……?」

「それこそ気のせいでしょ♪」




 それから数日後、颯から旅行の話を持ち掛けられた。


そう言えば記念日に行こうって言われてたなぁ……でもあの時は、翔と鈴ちゃんも誘うつもりだったし、颯と二人ってのも……


「旅行なんだけどさぁ……」

「うん!楽しみだね♪ちゃんと美子ちゃんのお母さんにも、伝えてあるからね♪」

「へっ?ママも一緒に行けるの?」

「一緒っていうか、雪妖族の村にある別荘へ行こうと思ってね♪」


こ、これは嬉しいかも♪


「マジで?!颯、ありがとう♪」

「どういたしまして♪白蛇族の件で中々お母さんと会えなかったし、ゆっくり羽根を伸ばしてね!」

「もう、鈴ちゃんの事は内緒にしなくていいの?」

「うん。僕からも説明してあるよ!」

「わかった♪」


そうだ!お菓子でも作って行こうかな♪


久しぶりに台所へお邪魔して、シフォンケーキを焼いた。




 そしてまだ蝉の鳴き声が賑やかに残る頃、雪妖族の村へ行った。


「美子~♪会いたかったわ~♪」

「ママ~♪久しぶり!」


ママの屋敷へ着いて軽くハグした後、テーブルについて紅茶と持ってきたケーキを頂く。


「美子、お菓子の腕を上げたわね!」

「退屈しのぎにいつもお菓子を作ってるんだ♪」

「ふふ!それじゃぁ、今夜は久しぶりにご飯を一緒に作る?」

「ホント?!楽しみ~♪何にしようかな!颯、何か食べたいものある?」


颯は嬉しそうに、満面の笑みを浮かべている。


「美子ちゃんの手料理なんて幸せ♪辛いもの以外なら何でもいいよ!」

「了解!」


ここ最近は物騒な話ばかりだったし、たまにはこんなまったりした空気もいいな~♪


ママは控えていた藍さんに、別荘で待っている右京さんと左京さんのご飯を作りに行くように指示して、私と一緒に台所へ入った。


「この材料ならカレーかしら。」

「ん……でも颯は辛いもの苦手っぽいし、シチューはどう?」

「そうね!パンの用意は無いけど、パスタならあるわ♪」


そして、二人並んで野菜を切っている時、ママが話を振ってきた。


「美子、颯から色々聞いたわ。大変だったみたいね。」

「うん……でも、もう大丈夫だよ♪」

「今日はね、美子を思いっきり甘やかせて欲しいって頼まれたのよ。」

「へ?!誰から?」

「もちろん颯よ。」

「そうなんだ……」


なるべく顔に出さないようにしてたけど、気が滅入ってるのはバレてたか……だから最近やたらとベタベタしてきてたのかな……


「美子は昔から面倒見が良くてしっかりしてた分、甘えるのが下手だったわよね!どうせ颯にも甘えないんでしょ♪」

「あ、甘えるって、そんな……」

「ふふ!まぁ、お礼だけはちゃんと言いなさいよ♪」

「……うん。」


だから颯は、旅行先にママの所を選んでくれたんだ……


何となく温かい気持ちになって、シチューの鍋をかき混ぜた。

そして、シチューもパスタソースも作り終わって、麺を茹でている時、いきなり誰かが屋敷へ入ってくる音が聞こえてきた。


「邪魔するぞ!」


ピキッ!

一瞬でママの周りの空気が凍ったな……


「邪魔するなら帰りなさいよ!」

「えっと……ママは顔を見なくても誰かわかるの?」

「むさくるしい気配が漂ってるわよ!」

「そ、そうなんだ……」


って事は、雪男の長かな?確か涼って名前だったよね……


涼さんはリビングで颯と話を始めたようだ。


「まったく……居座るなんて、図々しいにも程があるわね!」

「はは……」


そう言いながらも、ママはお皿を一枚ずつ多目に用意し始めている。


くそ親父と結婚してたくらいだし、ママも面倒見がいいよね……って思ったのは内緒にしておこう……




 ダイニングへ料理を運んで、みんなでテーブルを囲んだ。


和やか……とは程遠い沈黙と冷たい空気が漂っているのは、気のせいだろうか……


パスタを口に運びながら、ママがボソッと呟いた。


「せっかく親子水入らずで過ごしてたのに……」

「俺は雪男の長として、犬神の当主に挨拶しに来ただけだ。」


パリッ!

一瞬で涼さんのシチューが凍った!


「挨拶が終わったのなら早く帰ったらどう?」

「俺の為にシチューを冷やしてくれたのか。ありがたい事だ。」


涼さんも強いな……絶対、心臓に毛が生えてるだろ……


恐る恐る涼さんに話し掛けてみる。


「あの……そのシチュー私が作ったんだけど、味はどうですか?」

「ほう、美子さんが……温かみのある優しい味で、とても美味しいですよ。」


涼さんはにこっと愛想の良い笑みを私に返してきたものの、ママは黙々と食べ続けている。


こ、この雰囲気は色々な意味で耐えられない……


食べ終わって、そそくさと別荘へ戻る事にした。




 帰り道、溜め息をつきながら颯にボソッと漏らした。


「ふう……あの二人はかなり仲が悪いみたいだね。」

「そっか。美子ちゃんには、そう見えたんだ。」

「え?どういう意味?」

「ん……何でも無い♪そうそう!この前来た時にはボートに乗れなかったし、今から行こうよ♪」


何だか話をはぐらかされたような……


それから颯に手を引っ張られて湖へ連れて行かれ、ボートに乗り込んだ。


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