第二十八話
ある日、颯が急にクイズを出してきた。
「美子ちゃん!九月二日って何の日でしょ~か♪」
「う~ん……関東大震災は一日だよね……」
「違う!違う!もっと身近だよ!ヒントは去年かな♪」
そう言われても、夏休み明けた頃だよね……夏休みの間に颯の背が高くなってて、びっくりしたくらいだよな……その後すぐに颯は事故にあったし……
「颯の命日は五日だよね……」
「……美子ちゃん、僕、生きてるから……」
「ごめん、ごめん!人間界の話だからさ♪ってか、さっぱりわからないや……」
「み、美子ちゃん、酷い……僕達が付き合い始めた記念日なのに……」
颯はいじいじとし始めた。
って、アニバーサリー男かよっ!
「あのさぁ、付き合うって言ってもお試しだったよね!それに三日目で颯は事故ったし、覚えてる訳無いじゃん!」
「だったら来年は忘れないでよ!再来年もその先もずっと一緒にお祝いするんだからっ!」
はは……頬を膨らまして、ぷうっ!となってる顔が可愛いって言ったら怒るだろうな♪
「んでも、まだ一ヶ月以上先の話じゃん。急にどうしたの?」
「うん!何処か一緒に旅行へ行きたいな!って思ってね♪」
「じゃぁ、ペット可の宿を探さなきゃ!」
「……美子ちゃん、出来れば人間界は避けたいんだけど……」
「でも、こっちの世界の事は全くわからないしねぇ。」
「そっか……なら、僕に任せてくれる?」
「んじゃ、よろしく!」
そうだ!翔と鈴ちゃんも誘ってみようかな~♪
そんな事を考えている時、鈴ちゃんから手紙が来た。内容はお茶会のお誘いだ。
「鈴ちゃんがお茶を立てるみたいだよ♪」
「ふ~ん。こんな時期に珍しいね。」
「そうなの?でも嬉しいな♪」
みんなで花火を見ている時、何となくよそよそしく感じたのは気のせいだったみたいだ。
抹茶と粒餡を入れたマドレーヌでも焼いて持って行こうかな♪
「颯、領地の見回りの後、食料品店に寄ってもいい?」
「いいよ!美子ちゃんからのデートのお誘いなんて嬉しいっ♪」
「……そろそろ勘違いを止めようね……颯♪」
「わ、わかった……お願いだから笑顔で殴るのは止めてね……」
この時の私は鈴ちゃんのお誘いに他の意図があるなんて、知る由も無かった。
城下町で買い物をしている時、通りすがりの人達の話し声が聞こえてきた。
『また鬼の子が来ているらしいわよ。』
『ホント?さっさと島へ帰ればいいのに……』
『悪戯されても困るわねぇ。』
え?もしかしてこの前虐められていた子?
思わず颯と顔を見合わせた。同じ事を考えているみたいだ。
「ご主人、鬼の子ってこの辺りによく来るのですか?」
買った小豆を包んでくれている食料品店の店主に、尋ねてみる。
「ここ最近、必ずこの先の角に立ってるんだ。気味悪くて仕方ないよ。」
この先の角って、前もいた所だよね!
包みを受け取ると、急いで店を飛び出した。
走って行くと、数人の子供達が輪になって何かを囲んで蹴っているのが見える。
「そこで何してるの!」
「マズイ!逃げろっ!」
あっという間に子供達が居なくなって、蹲ってる鬼の子が見えた。
「ちょっと、大丈夫?」
急いで駆け寄って、鬼の子を起こしてあげる。頭に付いた砂埃を払ってあげると、サッ!と避けられた。
「ごめん!頭触られるの嫌だったよね。」
「……」
「でもその角、可愛いよ♪」
鬼の子は一瞬びっくりした顔をしたけど、すぐに真っ赤になって目の前に小さな花束を差し出してきた。
「ほら……この前のまじないのお礼だ!受けとれ!」
差し出された花束をよく見ると、野原で摘んだ草花のようだ。
ふふ。お礼の為に摘んで来てくれたのかな?蹲っていたのは、お花を守ってたんだ!真っ赤になって可愛い~♪
「ありがとう♪お花を守るなんて優しいんだね!」
「べ、別に……」
「ふふ。大事にするね!」
「それと……」
鬼の子はチラッと颯を見て、また言葉を続けた。
「あ、後、46年待ってろよ!その時は俺の嫁にしてやる!」
そう言ったかと思うと、ダッシュで去って行った。
「……今、もしかしてプロポーズされた?!」
「もしかしなくてもね……ああ、またライバルが増えちゃったよ!」
「はは……ライバルね……」
っていうか、46年も待ってたら還暦過ぎてるじゃん!それまでに鬼の子がいいお嫁さんに巡り合う事を、祈っておこう……
そしてお茶会の日になり、焼いたマドレーヌを持って白蛇族の村へ遊びに行った。護衛はいつもどおり颯で、鈴ちゃんにはナイショで翔も誘ったのだ。
鈴ちゃん、喜んでくれるかな~♪
「美子様いらっしゃい……って、翔様と颯様ではないですか!」
屋敷に着いて出迎えてくれた鈴ちゃんは、案の定驚いている。
やった!サプライズ成功~♪
「ふふ。びっくりした?誘ってみたんだ♪」
「そ、そうですか……」
「もしかしていきなり連れてきたら駄目だった?」
「い、いえ、そんな事ありません……ではお二人のお茶碗も準備してきますね。」
鈴ちゃんはそそくさと屋敷の中へ入っていった。
そっか、準備あるよね……次からは確認した方がいいかもな……
それから暫く経ってお茶室へ呼ばれた。鈴ちゃんは一人ずつ丁寧にお茶を立てて、お茶碗がみんなの前に運ばれる。慣れていない私にだけ、飲みやすいお茶にしてくれたようだ。
「ごめんね。お茶の作法を全く知らないんだ……」
「堅苦しい事は考えないで気楽にお召し上がり下さい。」
「ありがとう♪では頂きます!」
お茶を口に含んだ時だった。
「待って!」
「飲むな!」
急に颯と翔が同時に叫んだ!
へっ?ゴクッ!って、の、飲んじゃった……
「美子さん、もしかして……」
「……うん。飲んじゃった……」
サッ!と翔が立ち上がって、鈴ちゃんの喉元に扇子を突きつけた!
「どういうつもりなのか、説明して頂きましょうか。事の次第に寄っては、この場で……」
「ちょ、ちょっと翔!何してるの?!」
急いで鈴ちゃんと翔の間に割って入る!だけど驚いたのは、何故か鈴ちゃんだ。
「え?美子様、翔様のお姿が見えるのですか?」
「もちろん見えるよ。ね?颯!って、あれ?颯は何処かへ行った?」
今度は翔が驚いている。
「美子さん、もしかして颯が見えないのですか?」
「……へ?何言ってんの?」
「今、美子さんの前にいますよ。」
「いや、そんな冗談は通じないから……」
私と翔のやり取りを聞いていた鈴ちゃんが、いきなり土下座してきた。
「も、申し訳ありません!!」
な、何で土下座?!
そんな鈴ちゃんに、翔は厳しい目線を送っている。
「あなたが不自然な行動をされていましたから、警戒していました。理由は何ですか?」
「……翔様と美子様が恋仲かと疑ってしまって……」
え?まだ疑ってたの?
「大体どんな薬物か把握出来ました。ですが犬神族の次期奥方様とされている美子さんに対して薬を盛るなど言語道断、ただで済まされるとは思って無いでしょうね。」
鈴ちゃんは土下座して頭を下げたまま、全く動かない。
「颯、そんなに心配しなくても大丈夫です。恐らく一週間位で抜けるでしょう。そうですよね?鈴さん……」
「……はい……翔様の仰るとおりでございます……」
「ですがそれはもののけの場合であり、人間である美子さんには当てはまらない可能性が─────ええ、颯の声も届いていないようです。」
えっと……何だか状況が全く把握出来ないのですが……翔は颯と話をしてるって事?
「翔、みんなの言っている事が意味不明なんだけど……」
「……とりあえず、ここを出ましょう。」
そう言って翔は立ち上がった。鈴ちゃんは土下座したままだ。
「鈴ちゃん……」
「……」
「お菓子を作ってきたから、後で倭と一緒に食べてね……」
「……うっ……うぅっ……美子様……」
鈴ちゃんは土下座したまま、震えて泣きだしてしまった。
屋敷の外へ出ると、倭と鉢合わせになった。
「美子様、いらっしゃってたのですね♪姉上の所ですか?」
にこやかに話し掛けてきた倭だったけど、一瞬で翔の怒りオーラを悟ったようだ。
「す、すみません……話し掛けてしまって……」
「いや、倭は何も悪くないよ。私にもあまり理解出来て無いんだ。」
「そうですか……また今度ゆっくりいらして下さいね。」
微笑む倭に、翔が凍りつくような目線を向ける。
「もう二度と貴方達と関わる事は無いでしょう。追って沙汰を知らせると鈴さんに伝えて下さい。」
「え?何かあっ……」
何か言い掛けた倭に翔が一睨み効かせて、そのまま白蛇族の村を後にした。
帰り道、翔と二人で言葉少なに歩いている時、恐る恐る尋ねてみた。
「翔、颯って一緒に帰っているんだよね?」
「……美子さんの隣にいますよ。」
隣に目を向けたけど、誰も居ない……少しずつ自分の身に起きた状況が把握出来てきたな……
「私、鈴ちゃんを傷つける事、しちゃったのかな……」
一週間で抜けるとはいえ、初めて出来た友達に疑われて薬を盛られたという事実が、私に重くのし掛かってくる。
「美子さんは何も悪くありませんよ。」
「でも……」
「いっそのこと、私を見えなくなってくれたら良かったのですが……」
「え?何で?翔は、何で私が颯だけ見えなくなったのか理由がわかってるの?」
「それは……私にもわかりません。大体一週間位で元に戻るという事だけは聞いた事があります。」
嘘だ……さっきの間は絶対何か知ってる筈だ……
思わず俯いて立ち止まった。
「ん?美子さん、どうしました?」
翔も立ち止まって私を振り向く。
「お願い……嘘を付かないで……翔にまで嘘をつかれたら、誰を信用すればいいの……?」
「……不安にさせて申し訳ありません。理由は恐らくという想像の範囲を出ませんので、言わない方が良いと思ったのです。仮にそれが正解だとすれば、私からは言いたくありません。─────ええ、颯にも言えません。」
どうやら颯も理由を問い正したようだ。
って事は颯も知らないのか……言いたく無いって事は、あまり良くない事なのかな……
深い溜め息をついて、再び歩き出した。




