表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もののけの嫁として売り飛ばされました!  作者: 元々猫舌
もののけの彼女になりました!
27/75

第二十七話

 人魚族の島からお城へ戻ると、城内のみんながいつもよりあわただしく行き来していた。不思議に思って、颯に尋ねてみる。


「何かあったのかなぁ~。」

「そっか!美子ちゃんは初めてだよね。今度、城下町でお祭りがあるんだ♪その準備だと思うよ!」

「へぇ~。夏祭りみたいなもの?」

「そうそう♪本来は千年戦争勝利のお祝いなんだけど、最近はみんなで騒ごうって感じのお祭りになってるよ!大きい花火も上がるんだ♪」

「ホント?!花火なんて音しか聞いたことが無いよ~!生で見れるなんて嬉しい♪」


話をしながら部屋へ戻るとすぐに、左京さんが颯を呼びに来た。


「颯様、お帰りになってすぐ申し訳ありませんが、今年の出店の件でご相談が……」

「わかった。美子ちゃん、寂しいだろうけど待っててね♪すぐ戻るよ!」

「寂しくないし、羽伸ばしておくからゆっくりどうぞ♪」

「そんな……」


左京さんが苦笑いしながら、いじける颯を引っ張って部屋を出ていく。だけど、それから暫くすると、今度は右京さんが私を呼びに来て、執務室へ連れて行かれた。

執務室へ入ってすぐ、何故だか颯が手を合わせて頭を下げてくる。


「美子ちゃん!お願い♪」

「えっと……いきなり頭を下げられても意味わからないし……」

「だよね!ちょっと座って話を聞いて♪」

「わかった。」


用意されていた座布団の上に腰を下ろして、そこにいるメンバーを見渡した。


右京さんや左京さん、中京さん他、幹部の方が勢ぞろいで……何があるんだろう……


その中で、颯が口を開いた。


「さっきお祭りがあるって言ってたでしょ?」

「うん。」

「で、各族が交代で城下町の人達に何かを振舞うんだ。それで今年は犬神になっちゃってさ……」

「それで?」

「城下町のみんなに配るお菓子を、美子ちゃんに作ってもらいたいんだ♪」

「そのくらいならいいよ。いくつ必要なの?」

「それが……二千人分……」

「に、二千人?!それは無理だよ!!」


速効で断ったけど、颯を援護するように右京さんが懇願する目を向けてきた。


「美子様がお作りになるお菓子は、みんなを笑顔にするという不思議な力を持っておりますので、是非とも城下町の皆にも配りたいと意見が一致いたしまして……」


不思議な力って……単に、もののけの世界に無いお菓子だからだと思うのですが……


「お願いします。私達もお手伝いいたします。」


女中頭さんからも頭を下げられてしまった。勢揃いしている人達を見て、ふと思った。


犬神の人達ってみんなクリクリっとした目をしてるんだな……

っていうか、全員揃ってクリクリお目々で、期待に満ち溢れた目を向けられてるじゃん!!絶対に断れないじゃん!!


「そ、颯……去年はどうだったの?」

「去年は雪妖族が担当で、かき氷だったよ♪」


いいな……妖力使えるって羨ましい……


「わかった……作るよ……」

「ありがとう!美子ちゃん、愛してる~♪」

「はいはい……」




 って事で、日持ちするクッキーを作ることが決まり、もののけの世界でも揃えれる材料を買う為、城下町へ出掛けた。城下町を歩いていると、突然、路地裏から一人の子供が転がってきた。


「鬼の子のくせに!生意気だ!」

「自分達の島へ帰れ!!」


転がってきた子供を狙って、数人の子供が追いかけている。


「こら~~!!!何やってんの!!」


怒鳴り声を上げると、数人の子供は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。


「うわっ!美子様だ!」

「逃げろっ!」


颯は追いかけようとしたけど、私の護衛があるせいか、途中で止めて戻ってきた。


「君、大丈夫?」


転んだ子供は、膝に怪我をしているようだ。持っていた水で傷口を洗って、ハートの絆創膏を貼ってあげていた時、遠巻きに見ている人達の噂話が聞こえてきた。


  『見て!巫女様、鬼の子にも幸運の御守りを授けているわ!』

  『本当ね!何て慈悲深い方なのでしょう!』


御守りって……100均で買った絆創膏ですが……それと名前の漢字が違いますから……

お城に戻ったら、絆創膏を倭の抜け殻の下敷きにしておこうかな。少しは幸運の効果があるかも……


鬼の子は不思議そうに絆創膏を見ている。


「これは……」

「ふふ。すぐに怪我が治るおまじないだよ♪」


鬼の子の頭をなでなでしてあげると、サッ!と手を払われてしまった。


「あっ!角が出てしまうと……」


ふと子供の頭を見てみると、髪の毛の間から小さい角が出ている。


「ごめんごめん。でも何で隠してるの?」

「それは……そこの犬に聞けばいいじゃん!」


鬼の子は、サッ!と走り去ってしまった。


「颯、何かあったの?」

「うん……昔、千年戦争ってのがあって、主に烏天狗と鬼が戦ってたんだ。両方とも好戦的な種族だからね。」

「何となく想像つくかも……」

「ある時、鬼がもののけの世界を支配しようとお城を建てて町の娘を拐った事があったらしく、犬神の当主の奥方様が抵抗して殺されたらしいんだ。それで当時の当主が鬼退治して、一つの島に鬼を追いやったんだってさ。」

「……もしかして、鬼ヶ島?」

「美子ちゃん、良く知ってるね~♪」


も、もう……何でもアリだな……


「で、その時の城が今、僕達が住んでる城なんだ。鬼退治の功績って事で、犬神が住む事が決まったらしいよ。」

「へぇ~。最初から犬神のお城だった訳じゃぁ無かったんだね。」

「そうなんだ。でも、鬼達が島から出る事を許された今でも、鬼に対する差別が残ってるんだよね。」

「ふ~ん……もののけの世界にも、差別とかあるんだね……」


その時に退治されて、お城も奪われた相手って事で、未だに犬神を恨んでいるんだろうな……何だか複雑な関係だ……




 お祭りの日、浴衣を着て颯と一緒に出店へ向かった。クッキーを作るだけでは逃れる事が出来ず、『城下町の人達の期待が大きいから犬神の為に一肌脱いで下さい!』と配る係まで任命されてしまったのだ。


「美子ちゃん、花火の時間まで休んでていいのに……準備疲れたでしょ?」

「大丈夫。明日からはダラダラと過ごさせてもらうわ。」

「わかった。配り終わったら一緒に花火を見に行こうね♪」


出店について、突きつけられた現実に目を背けそうだった。


うっ……二千人分かぁ……配るだけでも疲れそう……


「はぁ……花火の為に頑張るわ……」


ため息を押し殺して出店に立つと、城下町の人達が私に気付いた。


「あっ!美子様だ!」


早速子供達が寄ってきたので、一人ずつ手渡していく。


「こらこら、ちゃんとあげるから一列に並んでね!」

「は~い!」


ふふ。やっぱり子供達って純粋で可愛いな♪


和やかに配っていた時、ふと、列に並んでいる一人の子供に目が釘付けになった。


次に渡す子って、一つ目小僧じゃん!!

ここは冷静に……他の子と同じように……


敢えて笑顔を作って一つ目小僧くんに、クッキーを渡した。


「美子さま!ありがとうございます♪」

「いいえ……どういたしまして……はは……」


が、頑張れ!美子!!笑顔を保つのよ!!


一つ目小僧くん以外にも、のっぺらぼう、河童……って、今日はおばけ祭りじゃん!!私の顔の筋肉、最後までもたないかも……


必死に笑顔を作ってもうちょっとで配り終わる時に、翔と瞬がやって来た。


「おう!美子がちゃんと働いておるかどうか見に来てやったぞ!」

「エロ狐、邪魔だから来るな!」

「何だよ!せっかく翔とお菓子を貰いに来てやったのに!」


そんな瞬を横目に、翔は余裕の笑みを浮かべている。


「私はお手紙を渡す時にいつも頂いておりますので、今は必要ありませんよ。」

「はぁ?!何だよそれ!ずるいぞ!」


浮気してるだ何だって、瞬がぎゃあぎゃあ騒ぎ始めた。翔は意味深な発言をしながら瞬をかわしている。


翔、明らかに瞬を挑発して遊んでるだろ……微かにブラックオーラが漏れてるぞ……


心行くまでからかった翔は満足したのか、まだ騒いでいる瞬を無視して私に向き直った。


「ところで美子さん、花火がよく見える特等席があるのですが、ご一緒しませんか?」

「え?いいの?嬉しい♪」


初めての花火が特等席で見られるなんて、幸せっ♪では、もう一踏ん張り頑張りますか!


気合いを入れて、残り少ないクッキーを手に取った時、遠巻きにこっちを見ている鈴ちゃんの姿を見つけた。


「お~い!鈴ちゃ~ん♪」


思いっきり手を振ると、鈴ちゃんはおずおずと歩み寄ってくる。


「美子様、お仕事のお邪魔をして申し訳ありません……」

「いいの!いいの!それよりこの後、時間ある?」

「え?はい……大丈夫です。」

「翔達と花火を見に行く約束をしているから、一緒に行こうよ♪」

「で、でも……」


鈴ちゃんは、チラッと翔に目線を向けたけど、すぐに俯いてしまった。


ふふ!照れちゃって可愛い~♪ここは約束どおり、協力しますか!


「翔、鈴ちゃんも一緒でいいよね?」

「私は構いませんよ。」


翔の返事を聞いた鈴ちゃんも、嬉しそうだ。


「やった♪一緒に楽しもうね!」

「はい!ありがとうございます♪」


全部のクッキーを配り終わって、翔がお勧めする観覧スポットへ行くために小高い丘へみんなで向かった。とはいえ、丸太で出来た階段をひたすら上る、完全に登山だ。


徹夜状態でクッキーを焼いたのに、更に下駄で山登りかぁ……


深いため息をついた時、手のひらに青い火を出して足元を照らしてくれていた颯が、もう片方の手を差し出してきた。


「美子ちゃん、疲れたでしょ!引っ張ろうか?それともおんぶしよっか?」

「……引っ張る方でよろしく……」

「りょ~かいっ♪」


颯の手を取ろうと丸太の階段を一歩踏みだした時だった。足に限界がきたのか、踏ん張る力が入らない!


ズルッ!!


「えっ?きゃぁ~~!」

「美子ちゃん!」


必死になって颯に手を伸ばしたけど、空を切ってしまった!


お、落ちる~~!


バサッ!

羽音が聞こえたかと思うと、いつの間にか翔に抱きかかえられていた。


「間一髪でしたね。」

「翔!助かったよ♪」


だけど、中々私を下ろす素振りが無い。


「では、お先に美子さんをお連れしますね!」

「……へ?って、きゃ~!また空高く飛んでるぅ~~!!」


そのまま丘の上まで飛び立った!


「翔~!美子ちゃんに手を出すなよ~!」


遠ざかる地上の階段では、颯の叫び声が響いている。


「翔様……」


鈴ちゃんの呟きは、誰の耳にも届かず闇夜に消えて行った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ